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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.92 (2007/03/02 13:12) title:ONEDAY IN B.W ─ The Addition of Colors─
Name:しおみ (softbank126113104026.bbtec.net)

Welcome to The Black Wings!

 冥界航空オーナーの一日は、髪の毛ふたつ結びから始まる。
 日々百回ブラッシング、天使の輪もくっきりの金髪はふたつに高く結った形がビューティフル。鏡の前、真剣な顔で
シンメトリーめざすオーナーの面は鳥肌立つよな美男。
 だけにそのアイラインくっきりグロスばっちり、ふたつ結びゆらす、黒ラメスーツに赤いシャツ、ネクタイサイケ玉虫調、
のぞくつま先パープルグラデの仕上がりはデンジャラス。
 その金張りぎらつくファザードが通行車両の視界奪って事故多発なモダンゴシックロココ調の自宅同様──常識を逸した発想で
業績を伸ばしている人の朝は、世の常識を覆すところからはじまるのが、常だ。

 業界有数の切れ者にして、ご近所では『ギラギラ御殿のご主人よっ』と遠巻きの冥界航空オーナー(ふたつ結び)。
 朝食の席に現れた使用人たちはどれも例外なく美形。『美しくない者に人生はない』──某ラテン国家国民のようなその言い草が、
冥界航空オーナー宅の採用基準だ。
 光さわやかな食卓は、カーキのクロスに黒の皿、銀のカトラリー目に刺さる光沢の食用減退色構成。わが道行く美のオタクに
色彩とは組み合わせの妙であるとの常識はもちろんない。
 そんな食卓で卵食べたオーナーが次に向かうのは豪華絢爛ホームシアターのある地下室。出社前と寝る前の時間をここで過ごすのが
冥界オーナーの数多い習慣のひとつであるのだ。
 
 薄いピンクのあやしい照明。桁外れな大画面に映し出されるのは、漆黒の翼を持った優雅なジェット。天井のサウンドシステム
から響く低いうねりとともに、美しい機体がかげろうゆらめく滑走路に滑り込む。
 ため息ついたオーナーは、自社機のナイス・ランディングに感動か? と思いきや、編集済みの画面はすぐさま、機体を取り囲む
エンジニアたちのひとりと話しているパイロットの姿をキャッチだ。黒い制服、すらりとした四肢、帽子から流れる白い長い髪。
 そもそもどこに隠しカメラあったか、その映像。落ち着いた声で、
『第三エンジンの音が普段より高い気がしたので、チェックをお願いできますか。計器上では問題はなかったのですが』
 告げる、刃物のような美しい面のアップに、オーナーの金黒色の瞳に涙が盛り上がる。
「桂花ぁぁぁぁっ、美しいなぁぁぁぁっ」
 以降、延々、その白い髪の美形キャプテンのムービーとオーナーの叫びが続くアンダーグランド。

                            *

 冥界航空オーナーが会社に向かうリムジンは極彩色。走るだけで対向車が事故る危険物。パイロットたちからは総スカン
食らっている代物だ。
 が、美にこだわるマニアは他人の思惑など気にしない。
 運転手の呼吸の確保と精神安定のため、運転席とはガラスで仕切られた後部座席で、酸素マスク降りてきそうな香水濃度も
モノともせずに切ないため息だ。
 先月のリゾートでの騒ぎで、微笑みながら切れた奥方に『今後桂花のことで天界航空にご迷惑はおかけしません。また桂花の
半径1km以内にも接近しません』と実印入りの念書取られた冥界航空オーナー(婿養子)。
「桂花…戻ってこないかなぁ〜…」
 うるうると念飛ばすその上空──
 たまたま通過中の黄金の翼のジェットのコクピットで、黒い髪の機長が悪寒を覚えたのはただの偶然だ。

                            *

 国際空港対岸にある冥界航空の本社ビルは、トレードマークの漆黒の外装に鳥が翼を広げたような造りの、斬新で、耐震強度に
疑惑のある建物だ。両翼に当たる部分には重いもの置いてはなりませんと屋内に張り紙してある。
 着飾ったオーナーが玄関ホールに姿を現すや否や、居合わせた社員たちがいっせいに頭を下げて道を開ける。それはまるで
海を開いた預言者のよう。
 が、たまにあぜんと立ち尽くすパイロットの姿もある。その表情は前方から迫る一万羽の鳥の大群でも見たかのよう──あれは何?
なにっ? ぬぁにぃぃぃぃっ???
 そんな後輩を先輩たちが即座に取り囲み、
「見るな見るなっ、見ても忘れろっ、あれはオーロラか蜃気楼だ!!」
 と、暗示かけるのが、冥界航空パイロット教育の一環であるらしい。

 窒息したくない重役たちが競って道開けるエレベーターで、オーナーは最上階にたどり着く。
 モダンな黒の室内には美しく有能な秘書たちと、美しく策略家な筆頭株主。オーナーの妄想パワーを遮る超難問書類をドンと
デスクに山積みにして、
「今日もお願いね、あなた」
 嫣然、微笑む奥方に、自信満々な笑顔で、
「任せておきなさい、李々」
 答えるオーナーは、美人の奥方も大好きだが、小ざかしげなことが大得意なキレ者。ただでさえ複雑なこの世をさらに複雑に
する頭脳の持ち主だ。
 が、なんとかは紙一重。そしてなんとかは使いよう。
 完全主義の美のマニアがそのよくキレた頭脳で片付けてゆく書類の量は常人なら絶対に処理できないもの。慣れた奥方はもちろん、
日々見ないフィルターダウンロードの秘書たちもテキパキ協力。 すさまじい速さで仕事の進んでいく冥界航空最上階は、ある意味、どこかの航空会社の最上階より能率的だとの噂。

 そんなオーナーは会議の席でも容赦なくキレた頭脳をフル回転。腰低く常識的な議論を繰り返す重役たちに、無常識な人の
大胆さでビシバシ切り込む。
 その斬新なアイデアと鋭さに一同は心から感嘆するのではあるが──なにせそれ言う人は髪の毛ふたつ結びのグロスてらてら
サイケ玉虫。
 とある街頭インタビューで「あなたが仕事を辞めたくなる時は?」と聞かれて、
『ものすごくまともでない人がものすごく画期的な意見を連発するときです!』
 と、泣きながら答えていたモザイクのサラリーマンは冥界航空重役だという話だ。

                            *

 美のもとに生き、美とともに働く冥界航空オーナー(美のコレクター)。
 金襴緞子のクロスに金箔貼った皿でディナーを済ませた後、意気揚々と寝る前の大画面を楽しんでいたオーナーが、ふいに、
あっと叫んで椅子から立ち上がったのは真夜中のことだ。かぶったナイトキャップはサンタ式ネオンピンクのマーブル。
『思い出の桂花DVD幼少篇』を見ていたオーナーの面は驚愕に引きつっている。
「あの若造……桂花の恋人だと言ったな? ということは、あの男、うちの桂花と一緒に寝ている…と、言うことかーっ!」
 叫んだオーナーはふたつ結びの代わりにキャップのぼんぼんふりまわして錯乱。
「なんてことだっ、うかつだったぞっ! 一緒に寝るなど! うちの桂花と一緒に寝るなどっ! あの男っ──あの男ーっっっ」
 あああああーっと、悲鳴のような絶叫。
「桂花の寝顔写真撮ってくれないかなーーーーーっ!」

 コレクターにとって一番大事なのは、コレクションの完成だ──

                            *

 数日後──
 天界航空たぶん唯一のパイロット・カップルが同居し始めたばかりの家に、冥界航空オーナーから念書の写しと菓子折りつき
詫び状のほかに桂花DVDコレクション全十巻が届いたのはたぶん他意はない。
 一緒に箱に入っていた最新のデジカメに首をかしげた待機の機長が、
「菓子は食べていいですが、DVDは明日の不燃物に出してください」
 前の夜、そういい置いてフライトに出た白い髪の恋人のいいつけを守らずに、菓子をゴミ箱、DVDに食いついたのは、
まあ当然のことだろう。
 画面に現れる恋人の幼少時のあどけなさから次第に成長していく姿に時を忘れて食いついた黒髪の機長が、次に我に返ったのは
とっぷり日の暮れきった時刻。突然ついた部屋の明かりにはっと顔を上げた機長は、戻ってきた恋人が戸口に立ったまま腕組みして、
「吾はそれを捨ててくれと言ったはずですが──?」
 と、静かな笑みを見せるのに、体細胞から凍結。次の日の可燃物と一緒に追い出されそうになったと言うのは、あくまで、
天界航空の問題だ──

 そして、今日もまたふたつ結びシンメトリーにゆらす冥界航空オーナーは、届くかもしれない『桂花寝顔写真』への期待を
過剰なエネルギーにして、バリバリ業績を伸ばしていくので、あった── 


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