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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.202 (2008/05/19 21:16) title:
Name:ぽち (softbank220002050189.bbtec.net)

 夕飯の支度をしている最中に勝手口からノックの音。
「ちわー、三河屋でーす。遅くなってすいません、ご注文の品もってきました」
 どすんとビールケースに一升瓶が3本土間に置かれる。
 きざみものをしていたアシュレイは声の主に目を向ける。かぶっているヘルメットから雫がぽたぽたと垂れているのを見て、雨が降り出したことを知った。
「ご苦労さん、アラン。えっ?雨降ってきたのか」
「はい、配達中に急に」
「ちょっと待ってろ」
 パタパタとスリッパの音を立ててアシュレイは奥に入っていった。ガス台からは美味しそうな煮物の匂いがただよってくる。
 1日に一回はこの家へ来ている。自分がこの町で働き出してからずっと親切にしてくれているお宅で、アランが密かに憧れている人が住んでいる家。
「ちゃんと拭け! 風邪ひくだろ」
 ヘルメットの上からバスタオルをかぶせ、きゅっきゅっとアシュレイは拭き出す。
 アランは、慌ててアシュレイの目前で手を振り、その勢いのまま拭いてくれている手首を握った。
「ありがとうございます。でもアシュレイさん、ヘルメットかぶってますから頭は濡れませんって」
「そっか?」
 アランはアシュレイからバスタオルを受け取り、軽く上着に付いた雨雫を拭き取った。
 アシュレイはじっとその様子を見ていたが、拭き終わったのが判るとアランからバスタオルを受け取り、肩越しに見える外の様子を伺う。
「結構降ってきたな、気をつけろよ、お前バイクなんだから」
「今日は、アシュレイさんのところで終わりなんです。あと、店に帰るだけだから」
「バーカ、降りはじめはすべるだろ。も少しで終わるんなら尚更気をつけねぇとな」
「そうですね」
 自分の事を心配してくれるアシュレイににっこりと笑って「気をつけます」と言うと、アシュレイもニコッと笑ってくれた。
 
「じゃあまた、お願いします」
 パタンと勝手口を閉め、雨の中急ぎ足でバイクへ向かう。
(今日は手首を握ってしまった)
 雨の中、つい両手を広げ先ほどのアシュレイの感触を思い出す。
(あーあ、人妻じゃなきゃなぁ。田舎につれてって自分のお嫁さんにしてしまうのに)
 出会ったのがちょっと遅かっただけ…。アランはぷるぷるっと頭を振りスーパーカブに跨った。
(毎日会えるだけ上等と思わないと…)
 明日もうまくすれば御用聞きと配達で2度会えるかもしれないと、頭を切り替え店までの道を安全運転で戻っていった。
 
 
 本日のメニューは肉じゃがと、アジの開き。ご飯を炊いて味噌汁作って… 後何にしようか思案していた。
 横で李々が、夫:冥界教主の為の酒のつまみを作っている。
 雨音はだんだん強くなり、台所に立っている2人の耳にもその音が聞こえるほどに激しく降ってきた。
「かぁさん、とぉさんたち傘持ってったかなぁ」
 アシュレイは過去、ずぶぬれで帰ってきて家の中をびしょびしょにしたことがある父親の事を思い出し、心配そうな顔を母親に向けた。
「お父さんは持っていったはずですよ、私が強く言いましたからね」
「ふぅーん」
 じゃあ、平気だなと夕飯の支度を続けたが、おもむろに台所においてある子機を持ち、悩むことなくピピピッと慣れた手つきで番号を押し出した。
 数回コールすると、相手の声が。
『アシュレイ、どうしたの?』
「あのさー、雨降ってきたから、お前傘持ってたか聞こうと思って」
『えっ、雨?』
 社内にいると気づかないのだろう、慌てて外を確認しているようだ。
「もし、持ってってないんなら、駅まで傘届けてやるよ」
『ホントに? 嬉しいなぁ。でも遅くなるかもよ』
「別にいい、駅に着く頃電話くれれば」
『ありがとう、じゃあ電話するね』
「うん」
 プチっと電話を切り、母親にティアの迎えに行く事を報告。
 何時に電話をもらってもいいようにアシュレイは夕飯の支度を急ピッチですすめた。
 母も横で支度をしながら、自分も若い頃は……と、クスクス笑いながら思い出していた。
 
 
「いいですね、家の方 迎えに来てくれるんですか?」
 横の席の山凍が、電話の対応を見てボソッと言った。
「ええ、雨が降ってきたので心配してくれたようです」
「新婚さんですねぇ」
 ティアは軽くテレ笑いを浮かべ、さくさくと今日の分の報告書と次の見積もりなどの書類を片付けだす。いつもより進みがいいのは、さっきの電話のせいに違いない。
 天気予報は微妙な状態だったが、会社のロッカーに置き傘をしているから何とかなるだろうと思って、家から出る時は傘を持ってこなかった。
 こんな風にアシュレイが気遣ってくれるとは思いもよらず、ティアは嬉しくて頬の肉が緩みっぱなしだ。
 気分を引き締めようと、喫煙ルームに向かう。吸うわけではない、コーヒーでも飲んで落ち着こうと思ったのだ。
 仕事中にこんなデレデレしていてはいけないと、軽く頬を叩いて気合を入れるが、先ほどの電話の声が耳に残っている。
 誰もいない事をいい事に携帯電話をパカッと開く。待ち受け画面には結婚式直前のウェディングドレス姿のアシュレイの写真。 
「愛してるよ、奥さん」
 早く仕事終わらせるから迎えに来てね と、小さな声で囁いた。


No.201 (2008/05/18 23:54) title:出会い☆過去編 その4
Name:砂夜 (p4251-ipbf1407funabasi.chiba.ocn.ne.jp)

  柢王 『迎えに来た 桂花。』
後ろでは柢王に倒されたSP達。うめきながら身動きをとれずにいる。一体何人のSPを倒したのか?
ステージの真正面に向かい 桂花に向け手を差し出す。まるで王のごとく輝くオーラを身にまとい桂花だけを見て。。

協力者がまさか柢王本人だとは思っていなかった桂花は呆然とステージ中央に立ちつくす。
  桂花  (まさか?本当に?)でも嬉しくて、信じられなくて。。
       『何故 ここに来たんです?』それでも出てくるのは憎まれ口。可愛くない。嫌われたくなどないのに。。
  柢王  『自分のものを奪り返しに来て何が悪い?』近づいて来るのは愛しい男(ひと)。
一歩。もう一歩。見えるのはお互いだけ・・周りの事など分からない。
まるで映画のワンシーン。誰も口を開かない、聞こえるのは観客の息継ぎの音。それすら分からない無音の世界。
  桂花   『私は物扱いですか?』震える声。期待なんかしてないしちゃいけない。
        (顔をあわせる度に冗談しか言わなくて。。本心を見せたりしなかったくせに!)
  柢王   『俺では嫌か?それとも他の優しい男がいいのか?』(自信などあるわけがない。。)
  桂花   『ふざけないで!誰が嫌だといいましたか!!』(ずるい男!)
        この数日会えない日々がどれだけ辛かったかこの男には分からないのに違いない。
  柢王   『なら 俺を選べ!』(頼むから!)
  桂花   『〜っ!』どこまで不遜な男!こらえた涙。もう止まらない。心は彼に捕らわれたまま吾の元に戻らない。
  柢王   『桂花?。。俺と一緒に年を重ねていってくれないか?』もう遅かったのだろうか?初めて見せる不安げな声。
とうとう重なる手と手。。伝わる温もり。
  桂花   『喜んで。。』 (やっと言える。。) すべての答えをこの言葉に込めて。。
その瞬間周りが音を取り戻す。誰もがこれを演出としか思っていない。まさか本当にプロポーズしているなど誰が思うだろうか?
  柢王   『やっと 捕まえた。。』ささやくように言われた言葉。
  桂花   『。。ばか。。。』  俯いて顔をあげられない。もうどんな顔になっているんだろう?
後ろから1組のペアが近づいてくる。中央2人に花嫁役が両手に抱えてきた花びらを振りまくと中心に桂花の笑顔。
すれ違いざま花婿役が2人に声をかける。
  ティア   『逃げるよっ!』 笑顔のアシュレイとティア。楽しげに手を取り合って走りぬけていく。
また1組のペアが近づいてくる。まだ見詰め合う2人。
  桂花   『私は走れません』笑いながら自分の足を見せる。なぜか花嫁衣装には不似合いなかかとの低いパンプス?
  柢王   『ん?』なぜそれを今言うのだろう。。『は!!』マジか?嬉しさに驚きながら
        『定番っちゃぁ、定番だがな!』(世の中の野郎ども!こいつは俺の花嫁だ。ざまぁみろ!)
花嫁役を抱き上げて堂々と退場していく。。なんて大胆なステージか。
誰も花嫁を奪いに来たとは思わない。イベントは好評のうちに幕を降ろすのである。

  
  ネフィ   『やってくれるじゃない。』観客席で見ていたけれどまさかここまで面白い事になるとは。はっ!バカばかしい。
ひとめ見て気に入っていたのに。これならティアのも断らないだろうと思っていれば予想に反してあの小猿?そういえば昔から
あの弟の好みは自分と正反対だった。でも、諦めたわけじゃない。。どうにか次の作戦を練ろうかな。。
  ネフィ    『小猿にはとっくに手を打ってるしぃ。ティア?お前には不利だよ♪』
        (誤解を解かない限りお前はあの小猿に好かれないだろうねぇ。)クスクス。。
しかし役に立たないSP達。これらが付いていたから小猿がそばにいるのを黙認してきたのに。。考えが甘かったね。。
あの時真っ直ぐに怒鳴り返してきた小猿。もしもティア?もしもお前があの娘を捕えることができたなら今度はちゃんと認めてあげる。
その日がちゃんときたらだけれど?。。


No.200 (2008/05/18 22:05) title:どんな薬よりも
Name:きなこもち (zaqd37c4ae2.zaq.ne.jp)

コトコトコト…
なんだか体がフワフワ飛んでいるみたい。
パタ…パタパタ…
雲の上?それとも波に漂ってるのかな。
もう少し・・・・・このまま・・・・・

スー…
ふわっ。
(あ、いい匂い)
「アシュレイ」
「ティア、起きてたか。めし食うか?お粥持ってきたぞ。」
「うん…そうだね…食べるよ。」そう言いながらティアが布団に肘をついて起き上がろうとする。
アシュレイは慌ててティアの背中を支える為に右手を添えグイッと押し上げると、今度は左手をティアの額に当てた。
「ああ、熱だいぶ下がったな。」アシュレイの厳しい顔つきが、くるっと柔らかい表情に変わる。
だがすぐにまた睨むようにティアを見ながら、「まだ今日は休めよ。会社には連絡しとくから。」と言った。
ティアはなぜか嬉しそうに「わかった、そうする。」後はよろしくね、とアシュレイに微笑みかけるのだった。

ガラガラ…
「・・・・−」「・・・・・・・」
深い海の底から体が浮上するように、ティアの意識は覚醒していった。
(いつの間にか眠っていたのか。)
「?」誰かの気配を感じたような気がしてティアが目を開けると、ちょうど部屋の入口が閉まったところだった。
すると廊下の先からアシュレイの声が聞こえてきた。
「こらアラン、シャーウド、勝手に部屋開けるな!ティアが目覚ますだろ!」
どうやらアシュレイの弟妹が学校から帰ってきて、この部屋の襖戸を開けたらしい。
「ごめんなさい、姉さん。ティア兄さんの風邪どう?良くなった?」
「ああ、熱も下がったし、もう大丈夫だ。お前らは早く手洗え。母さんがホットケーキ焼いたぞ。」
わーという嬉しそうな声が遠ざかっていく。
やがてティアもまた静かに眠りについていった。

しばらくしてまたティアが目を覚ますと、今度は視界いっぱいにストロベリーカラーが拡がっていた。
「…どうしたの?」
「ん?母さんが様子見て来いって。」
「じゃなくて、なんで笑ってるの?」
「それはこっちのセリフだ。お前なんかいい夢でも見てたのか?俺来たときスゲェ口の端上がってたぞ。」
「ああそれはね、見てたんじゃなくて感じてたんだよ・・・・・」
「何を?」きょとんとした顔でアシュレイが聞くと、
「君たち。それにこの家。」そう言うとまたティアは笑う。
「…ふーん?」なんだかよくわからなかったけど、ティアが楽しそうだったので、つられてアシュレイも微笑み返した。
「明日は会社に行くよ。もう大丈夫。でも」そう言うとティアはアシュレイの手をぎゅっと握って目を瞑る。
アシュレイは黙って手を握り返し、もう片方の手でティアの髪の毛をずっと撫で続けた。
その手があんまり優しくて、髪を撫でられながらティアはうとうとし出す。
なんだか柔らかいものが唇に触れたような気がしたが、これも夢なのかな、そう思いながらティアは意識を手放した。


No.199 (2008/05/16 22:57) title:おうちでごはん
Name:えり (wknfb-05p1-122.ppp11.odn.ad.jp)

「ティア、今帰りか?」
 仕事を終え最寄り駅で電車を降り、愛しい妻の笑顔を思い浮かべながら足取りも軽く家路を急いでいた背後から、聞き慣れた声に呼び止められた。
 振り返るとそこにいたのはアシュレイのいとこ・柢王。
「柢王か。駅で会うのは久しぶりだな」
「このところ残業続きでな」
 今日からしばらくは太陽の出てるうちに帰れそうだ、と笑う男につられティアもほほえむ。
「そういえば、最近どうだ」
「どうって何が?」
「アシュレイだよ。うまくやってんのか?」
「もちろん。アシュレイはいい奥さんだよ」
 朝食用の味噌汁を吹きこぼれるほど沸騰させたり、あじの開きがぼりぼりとスナック菓子のような音が出るほどこんがり焼いたりという、まだまだ家事に不慣れなところもティアにはいとおしくてたまらない。それらすべてが自分のための努力であるところも。
 ティアがプレゼントした、レースのたくさんついたエプロンをつけて家事に奮闘するアシュレイの姿を思い出だけでくすぐったいほど嬉しい気持ちと、夫婦になれたのだという実感がこみ上げてくる。
「でも、いろいろあるだろーが。同居じゃなかなかイチャイチャできねーとか」
 ネフィーさんはともかくチビどもの前じゃな、と豪快に笑う柢王は妻の桂花と一人息子の冰玉の三人暮らし。
 冰玉が生まれる前は二人暮らしだったが、最近は桂花がどうしても冰玉を優先するし「教育上よくない!」と怒られるので結局柢王も以前のようにはイチャイチャできないのが実情なのだが。
「どうだ、久しぶりに一杯」
「そうだね……軽くなら」
 よっしゃ! と嬉しそうに笑った柢王は行きつけの駅前にある赤ちょうちんに足を向けた。

 まずはビールを軽くあおりながら落ち着いた二人。
 お通しの枝豆をつまみながら柢王がふと思い出したかのように口を開いた。
「そういや、こないだチビに小遣い借りたんだけど、桂花には秘密な」
「……って、小学生に!? 何を考えてるんだおまえは」
 チビからお前辺りにバレそうだから先に言っとくわ、と言う柢王にティアは唖然。
 チビとはアシュレイの弟。
 利発な少年で柢王とは仲がいいのは知っているが、よりにもよって。
 このところつきあいが多くてさ〜とあっけらかんと笑う柢王に呆れつつ、察しのいい桂花のことだからもう気付かれているかもしれないぞ、とは思うが敢えて口には出さない。
「千円貸してくれー、給料が入ったら利息つけて返すから、って言ったら快く貸してくれたぞ」
「子供に変な知恵つけるんじゃないよ……」
 呆れかえりながらもこの気のいい男は初対面から印象は悪くなく、親戚というよりは自分の友人としてのように付き合えている。
 アシュレイにもその家族にもなんら不満はないが、親戚という内側の存在ながら外でこんな風に何気なく話せる存在がいるのは実にありがたい。
「ところでティア、おまえ会社に弁当持って行ってるんだって?」
「よく知ってるね」
 桂花が言ってたぜ、アシュレイが毎日頑張って作ってるらしいって、と柢王が笑う。
「愛妻弁当かー、いいよな。俺は外に出てることも多いし弁当は持って行けないからな〜。やっぱり海苔や桜でんぶでハートマークとかなんだろ?」
「いや、さすがにそれは……」
 からかうように言ってきた言葉を苦笑しながら否定する。
 義父の山凍の分も一緒に作っているのでハートマークはないが、出来合いの弁当を買ってきたり、外に出て食べていた頃と比べれば昼食が楽しみなのは事実。
(……早く会いたいな)
 最近はさすがに慣れてきたものの、結婚前や結婚当初は料理のたびに傷を作っていた妻の顔が思い出されてたまらなくなる。柢王には悪いが、今日はもうこれくらいで帰ろう。すぐに帰れば皆と一緒に食事がとれる時間には帰宅できるだろうし。
「柢王、悪いけどそろそろ……」
 ティアが言うと同時に、携帯の着信音がピピピピピピ、と鳴った。
「ん? メールだ。なんだ?」
 柢王が胸元のポケットから携帯をとりだしてメール画面を開く。
「えーと……『帰りにスーパーで冰玉のミルクを買ってきてください。あと、忘れているでしょうけど今日の夕飯はあなたの好きな茶碗蒸しです。片付かないからできたら早く帰ってきて』?」
 妻からのメールを読みあげながら柢王の頬がゆるんでいる。
 仕事中、無性に茶碗蒸しが食べたくなってメールでリクエストしておいたのだ。冰玉のミルクは日曜日家族で出かけた際に買ったばかりだから、まだ買わなくても間に合うはず。ということは。
「素直じゃねーな」
 言えばいいのに。寂しいから早く帰ってきて、って。
「……帰ろうか」
 ほほえましさにつられて笑顔になったティアが、携帯を見つめる柢王に声を掛ける。
「そうすっか。よし、帰りにケーキでも買っていってやろ」
「それじゃうちも買っていこう」
 きっと久しぶりのケーキをアシュレイも喜ぶに違いない。
「おやっさん、わりぃけど月末までツケといてくれ」
「またか〜? しょうがねえなおまえは。ケーキ買う前にうちのツケを精算してくれよ」
 立ち上がり、椅子の背に掛けておいた背広に再び腕を通しながら店主と豪快に笑い合う柢王に、思わずティアは目を見張る。こんなことばかりしているから桂花に金遣いが荒いだのなんだのと怒られてしまうのだ。まったく。
「……今日は私が払うよ」
「そっか? わりいな、ティア」
 ごちそーさん、とあっけらかんと笑う柢王に、苦笑するしかないティアだった。

「……これは?」
「土産のケーキ。好きだろ?」
 差し出された箱を受け取りながら、桂花は思わずため息をつく。
 全くこの男は。
 冰玉をあやす背中を見やりながらとりあえずケーキを冷蔵庫へ。
「小学生にお金を借りるような人が、よく買えましたね」
「あ〜……ありゃでもすぐに返したぞ。つか、なんで知ってんだ?」
「知りません。食事にしますよ」
「怒るなよ」
「怒ってません」
「じゃあ、あとで一緒にケーキ食おうぜ♪」
「…………今度やったら、お小遣い減額ですからね」
 左腕に冰玉を抱きかかえ、右手で桂花の左手をきゅっと握ってきた男を見上げながら、再度ため息をついた桂花であった。


No.198 (2008/05/16 00:14) title:出会い☆過去編 その3
Name:砂夜 (p1205-ipbf404funabasi.chiba.ocn.ne.jp)

再び新婦控え室。
 
コンコンコン。。。ガチャ。
入り口にいるスタッフと着替えを終わらせているのか入っても良いのかどうかを確認し入室するティア。
スタッフに何か頼み事を指示して出て貰っている。

  ティア 『用意はできましたか?会場に行く前にお願いがあるので聞いて頂きたいのですが。
     それとご一緒におられるアシュレイさんにも。。っ!?』
突然名前がでてびっくりしているアシュレイ。だけど見覚えのある顔?というより忘れられる顔なんかじゃない!
  桂花・アー 『あっ!』
  ティア 『いちごちゃん!?』
  アー  『お前〜っ!この前の痴漢野郎!!って何が いちごちゃんだ!』
真っ赤になるアシュレイ。思わず出た言葉が間違っているのは気が付いていたが思いあたる(いちご)に過剰反応気味。。
  桂花 『アシュレイ、痴漢は違いますよ。あの時は吾も側にいたでしょう?もしかして今日の新郎役の方ですか?
       お願いとは何でしょうか?って何2人とも赤くなっているんですか!?』
      (そういえばあの時も『いちご』に反応していた。。何故?)
桂花が分からないのも無理はない。側にいたと言えど本当はたまたま通りかかっただけだし騒ぎがほぼ終息してからだから
知っているのは結果だけなのだ。。

電車の中で痴漢にあっている女の子を見るに見かねたアシュレイは止まった駅のホームで犯人らしき人を引きずりおろし
駅員に引き渡そうとした。しかしその隙をみて犯人は逃げ出した。逃がしてたまるかっ!と追いかけるアシュレイ。
ホームから階段を駆け上がり追いついた犯人と乱闘騒ぎに発展。犯人に蹴りでとどめを入れようとしたらやはり場所が場所。。
自分が足を踏み外し数段下にいたティアを巻き込みながらころげ落ちていった。
     アー −−−ごめんっ!大丈夫か!?ってなにすんだよ!!
偶然とは恐ろしい。下敷きになったティアの上。。よりによって可愛い小柄のイチゴパンツが彼の正面に丸見えだったのである。
一方ティアといえば軽いとはいえ成人女性1人を受け止めつつそのまま階段下まで落ちれば無事でいる訳がない。
アシュレイがティアになにかしら言っているのだが思考が働かずただ真っ赤に表情を変えるアシュレイが可愛く見える。
そしてしっかりイチゴ模様が目の裏に焼きついたティアはその顔に間抜けにも一筋の鼻血。誤解するなというのも無理というもの。。
     アー −−こんの変態!!(。。バチン!!)
真っ赤になりつつ反応するが彼がまったく関係ない事に思い出すも時すでに遅し。誤解されたまま張り倒され気を失ったのである。
しかしよほどイチゴが強烈だったのだろう。気を失っても何度か小さく『イチゴ』とつぶやいていた。
それを聞いたアシュレイ。相手は怪我人にもかまわずにまた拳骨で一撃。。いくらなんでもやりすぎである。
今度こそ撃沈状態のティアにしまった!と首根っこ掴んで前後に揺らすが気を失った人間に何をしても無駄というもの。。
これでは一体どちらが被害者でどちらが加害者なのだか。(いやこの場合加害者はどちらでもないのだが)
アシュレイの頭の中は真っ白になってしまったのでる。。

遠くから階段をころがり落ちる様子を見かけた桂花は、アシュレイがすぐ下の人を巻き込んで落ちていったのも見えていた。
夕方のラッシュの人だかりをかき分けなんとか側にたどりつけば顔面蒼白で放心状態のアシュレイと横たわった見知らぬ男が1人。
騒ぎを聞き駆けつけた駅員と警察に分かるだけの事情を説明しその時の騒ぎは落ち着いたのだが。。
どう考えても無関係の人間を巻き込んでいるはずなのに何度この真相を聞き出そうにもアシュレイは絶対言おうとしないのだった。
  
 ティア  『痴漢は誤解だと思うけど?。ええと。。いちごは可愛くて君にお似合いだった。。から。』
 桂花  (何も律儀に答えなくても)。。なんとも。。ため息。。
ますます赤くなるアシュレイ。。
 アー   『似合いって言うな〜っ!!!』(こいつには2度と会いたくなんかなかったのに!)
涙目になりながら怒鳴り返すもだんだん声が小さくなる。。表情がころころ変るアシュレイを見ていて飽きないのはなぜなのか。。 
 ティア− (やっぱり、あの時思った通り。。この娘、表情が良く変わる。。この娘なら。。この娘だったら私の願いが叶うかも
       知れない!あの兄が相手では普通の神経ではもたないだろう。。)
 桂花   『本当に2人とも!?時間がないのではありませんか?』いい加減急いで欲しいと思いながら桂花が言う。
はっと思い出しティアがアシュレイに向かい
 ティア   『あらためて言います。私と結婚してくれませんか?』
 アー・桂花 『は!?』(何をいいだすんだ!?)
 ティア   『あ。もちろん振りで構わないのです。このままでは桂花さん?貴方と婚約発表になりかねなくて。。
        会場に行けば協力者がいますからタイミングを見計らってその方と一緒に逃げて下さい』
 桂花   『アシュレイはどうなるんです?そのまま置いては行けないですよ?』
 ティア   『こちらも時期を見計らって会場から逃げ出します。どうも実家が絡んでいるようですから花嫁役が違うなら
        イベントの発表はしても婚約発表にはならないはずです』
 アー    『本当に?絶対大丈夫だな!?』
 ティア   『はい。もし婚約発表になっても実家がもみ消すと思います。というより普通のイベントで終わるでしょうね。』
絶対に大丈夫だと言い切るティアにこの数日柢王と桂花の事をなんとかしてやりたくて、でも出来ずにいたアシュレイは
 アー   (一体こいつは何者なんだ?これだけ大掛かりな事をする程の。。ああ、する奴だな。。)
信用できると思えないのにその手に乗っていいのか悩むアシュレイ。しかし時間が迫っているからもたもたしている場合ではない。
しぶしぶ承諾したアシュレイは予備にあった花嫁衣裳に着替えるのである。。
予備とはいえさすがにこれは純白ではない。どちらかというと代役用に用意してあった丈の短いワンピース?のような赤いドレス。
なぜか最初からアシュレイにあしらえた様にサイズもぴったり。桂花用に用意されていたらまず着れなかっただろう。
なりゆきとはいえ、ウェディングドレスを着れたアシュレイはほのかに微笑み照れながらどうかな?とティアに向き合う。。
でもやはりティアの顔を見ると何かを言いたげに顔を曇らすのだがあまりの可愛さに見とれていたティアはまだ気づかない。
 ティア (かっ。可愛い!!やっぱりこの娘をお嫁さんにしたい!)決定的瞬間というべきなのだろうか?
顔を合わせるのも2度目、相手の人柄も知らないのに自分の人生設計にアシュレイの存在が組み込まれたのである。


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