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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.43 (2006/11/17 14:02) title:店主等物語3 〜レッツ バスタイム!〜 (後)
Name:モリヤマ (i220-221-230-83.s02.a018.ap.plala.or.jp)

 
 
「で?」
「で、って言われても…」
 アシュレイは、自店はもちろん、商店街と自治会両方の会長までを若くして務める幼馴染の気苦労を思い、毎日とはいかないが仕事の合間を縫ってたびたび『天主塔ベッド』に顔を出す。と言っても、アシュレイの父、つまり鮮魚店『阿修羅』の店主である炎帝も現在商店街壮年部ツアー参加中のため、そう長居はできない。
 たいてい隣の『ペットショップ・自由人』のレースガフト・パフレヴィーに店番を頼んで出てくる。少しくらい遅くなっても文句を言う奴じゃないのは分かっているが、それに甘えるわけにはいかない。ふたつの店を見るのはなかなかに神経を使うし、魚はやっぱり自分が直接見てさばいて焼いたものを、お客さんに買ってもらいたいのだ。
 その日も、すぐに戻るからとレースに頼み込み、ティアの顔を見て二言三言言葉を交わし、じゃあな、と帰り際。
 離れ難い思いに何の気なしにティアがもらした、そういえばこの前初めて湯屋に行ったよ、という一言にアシュレイの足が止まった。
 振り向いたアシュレイに、ティアが喜んだのも束の間だった。
「水晶宮貸し切って、おまえはなにしてたんだ」
「なにって…。普通に湯船に浸かったりサウナに入ったりしてただけだよ。皆には申し訳なかったけど、一回だけのことだし」
「一回だけのこと…?」
「アシュレイ? 君ももしかして入りたかった?」
 アシュレイの家には、炎帝ご自慢の五右衛門風呂がある。
 死ぬほど熱くないと風呂ではない、という持論(極論とも言う)から、家族以外は隣のレースくらいしか入る者はないという。
「…裏のじぃちゃんは、足が悪いからそうちょくちょくは湯屋に通えねぇ。週に一回通うのがやっとだ。それでもすげぇ楽しみにして、リハビリにもなるからって言って一生懸命自分の足で歩いて湯屋へ行く。それが、この前行ったときはなんでか臨時休業で入れなかったって…っ。おまえがっ…」
 そこまで言われて、ティアも気づいた。
 自分のために、風呂を追い出された者たちばかりでなく、湯屋の前まで来たにも関わらず風呂に入れず無駄足を踏んだ者もいるのだ。しかも、その無駄足は、一言で済ませられるものではない。ゆっくりと、一歩一歩を懸命に踏みしめて湯屋へとやってきた老人の楽しみを、自分は奪った。
「…アシュレイのとこの裏なら、『水晶宮』よりうちのほうが近いね」
 そうして、ティアはすぐに裏の爺様の家に使い羽をやった。
 もちろんそういったご老人は、なにもアシュレイの家の裏の爺様だけではない。ティアもアシュレイもわかっている。だからこれは特別。一回だけのお詫びの気持ち。
 鮮魚店『阿修羅』の定休日、送り迎えはアシュレイが背負い、湯殿ではティアが背中を流し、使い女に風呂上りのコーヒー牛乳を差し入れられ、爺様は涙を流し、何度も何度もふたりに手を合わせた。

 だが、爺様思いのアシュレイとティアの行動は、ふたりの知らぬところで思わぬ噂の種をまいた。
 噂とは、雨の日のナメクジのようにどこからともなく湧いて出るものらしい。
 なぜかその『爺様が天主塔で風呂をもらった話』が尾ひれつきで商店街界隈に回った。
 
 
 まずご近所では、使い女経由か、商店街で買い物途中の主婦連を中心に、妙にリアルな脚色つきで。
「天主塔ベッドの大浴場で、酒池肉林!?」
「なんでも混浴らしいよ」
「若様自ら、三助になって背中を流してくれるんだって!」
「それっていつでも入れんの!?」
「私が聞いた話じゃ、特別ご招待だとかなんとか…? たぶん、ベッドとか買ったらいいんじゃないかしら」
「枕じゃ駄目かねぇ…」
「ベッドカバーはっ!? 一応『ベッド』って言葉入ってんだけど!」
「九分九厘ダメだと思うよ」
「…ああ、入ってみたいねぇ」
――――はぁぁぁぁ…………。
 尾をひく大きなため息が、しばらくの間あちらこちらから聞かれたと言う。
 
 
 そして『水晶宮』でも。
「混浴!? 三助…って、湯を沸かしたり背中を洗ったりを? 兄様がっ!?」
「なんと…。守天殿が先日見えられたのは湯屋業界進出のための敵情視察だったか…っ! 冥界センターの泥風呂『ブラック・バス』などより、守天殿のセクシー三助のほうがよっぽど手ごわいですぞ、坊ちゃん!」
「せせせくしーーっっ…………」
「鼻血出してる場合ではありませぬぞ! …旦那様はこんなときに限って親父ツアー中だし。…ああ、なにかいい策はないものかッ!」
 そうして、『守天三助絶対反対派』の跡取り息子と『水晶宮第一』の番頭、その他『水晶宮』で働く者達全員で、入浴客奪取のため(実際は奪われてないのだが)案を出し合い、手始めにお年寄り優先の日時を設け、その日は予約さえあれば送迎も行うことにした。
 
「いらっしゃいませ」
「おう坊ちゃん、今日もたのまぁ!」
「ありがとうございます。今日は冷えるから、ゆっくり温まっていって下さいね」
 番台のカルミアも店主代理が板についてきたようだ。
 先日も、たまに湯船にオモチャを持ち込んだり泳いだりする子供がいることに着目したカルミアから、『水晶宮 DE こどもの日』を新たに設け、思いっきり子供達に湯船で遊んで、その中から湯屋の楽しさを見い出だし『水晶宮』を好きになってもらおうという案が出された。
 まだ採用は検討中だが、カルミアのその姿勢がトロイゼンにはなによりも嬉しかった。
 水帝もツアーから戻れば、可愛い息子の成長ぶりに驚き、そして喜ぶだろう。
 男湯の脱衣所の隅から、盛り上がった筋肉をぴくぴくさせ、二つに割れた顎の間を撫でながら、トロイゼンは満足げに笑んだ。
 結局は、湯屋にも客にもよりよい方へと転がった。
 そしてそれはつまり、商店街全体にとっても間違いなくよいことなのだった。
 
 
 
 ちなみに、先日オープンした冥界センターの『ブラック・バス』は、特製の黒い泥風呂で美白効果があり、別料金で全身エステの予約も取っているとか。
 もちろん「髪と地肌」のマッサージの取り扱いについては言うまでもない。
 
 
終。 
 
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(余談ですが。)
 
 
 『天主塔ベッド』では――――。

【噂のプライベート大浴場も見学できます。〜天主塔ベッド〜】

柢王 「おまえんとこのあのチラシ。なんなんだ、いったい」
ティア 「私にもよくわからないんだけど、八紫仙達に今はお風呂場がブームだから、
    うちの湯殿も是非お客様に見学させてほしい、って言われて」
アー 「ブーム〜〜〜!?」
柢王 「ボケたか、八紫仙。(八人一緒に)」
桂花 「突っ込むところは、そこじゃないでしょう……。(噂、ってとこなんじゃ……)」
ティア 「中には記念写真まで撮っていく人もいてね。…ときどき一緒にって頼まれるんだ。(照れ笑い)」
桂花 「でも確かにこちらの大浴場は気持ちがいいですし」
柢王 「おまえ、入ったことあんのかっ!?」
ティア 「桂花には商店街の仕事も手伝ってもらってるからね。お礼に」
桂花 「カイシャン様が広いお風呂が好きなので、一緒に」
柢王 「なんで俺じゃなくてあのガキなんだーーーーーっっ」
アー 「…つか、突っ込むとこは、そこじゃねぇだろ。(様づけ、ってとこなんじゃ……)」

 珍しく(?)、冷静なアシュレイでした。(その分、柢王が熱い)
 
 
 


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