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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.32 (2006/10/27 14:39) title:秘め事(前) 
Name: (j018107.ppp.dion.ne.jp)

 水滴を含み、しっとり濡れた髪が首や頬にまといつく。
「くそっ、うざったい!またティアに切ってもらわね―と」
 人界にいた頃、部下にカットを頼んだが、どいつもこいつもバカみたいに緊張して手をふるわせるものだから、結局自分でハサミをいれた事が一度だけある。
 その直後、定期報告で天界に戻ったときアシュレイを見たティアが絶句し、理容師を呼びつけ大騒ぎとなったのだ。以来、決して自分で切らないと約束をさせられた。
「あのときのティア・・・おかしかったな」
 クク、と声を殺して笑いアシュレイは前に立ちはだかる草をなぎ払った。
 払うたび水滴が散り、既にアシュレイの服は上から下まで濡れてピッタリと体に張り付いていた。
「しかし柢王の奴・・・人を呼び出しといて何してやがる」
 せっかくの休日なのに頼みごとがあるからと、一方的に待ち合わせ場所を指定してきた。滅多にない親友の頼みに、何だかんだ言ってもアシュレイは張り切っていたのだ。
 いつも世話になってばかりの自分が役に立てるのなら何だってしてやりたいし、いくらでも相談に乗るつもりだったのに・・・・・。
 既に三十分は待っている。短気なアシュレイにしては大変なことだ。
 もう待てない!と思ったところで、すぐ後ろの繁みから悲鳴が聞こえた。
 男とも女とも区別がつかないような悲鳴は気味が悪かったが、放っておくわけにも行かずアシュレイは飛んだ。
 しかし、上から見ても鬱蒼と生い茂る草ばかりでなにも見えない。
 空耳か?と下りたところで二度目の悲鳴。
「チッ、何なんだよ、ったく」
 正体不明の悲鳴にどこだ!?と声をかけるが全く応答がない。
「はぁ〜・・・くそっ」
 こんなことに朱光剣を使うなんて・・・とアシュレイは嘆息しながら草を次々なぎ払うこととなったのだ。
「燃やしちまった方が早いけど・・・奥に誰かいるのにヤバイよな」
 人を焼き殺す趣味はない。
 ブツブツ文句をたれながら突き進んでいく間、アシュレイは自分の体がだんだん重くなってきている事に気づいた。
「何だ・・・・?」
 手も足も、思うように動かない。
 よく見てみると、全身に蜘蛛の糸のようなものがいくつも絡んでいて、それを取ろうと動くたび、体の自由をうばわれていった。
「な、何だよこれっ!?」
 声をあげたとたん四方からいっせいに糸が体に巻きついてきた為、アシュレイは体を浮かし発火した。
 ボッと炎が全身を包み、糸が熔けて体の自由が戻る。
「どーなってんだ・・・」
 訝しむアシュレイの耳に三度目の悲鳴。
 しかしそれは誰かに助けを求めている人のものでも、恐怖にかられた人のものでもなかった。
「―――――なんだよ気味悪ぃ・・・この植物・・・・悲鳴あげてやがる・・・・・」

「アイツ怒ってんだろうなァ」
 柢王はアシュレイとの待ち合わせ場所へと急いでいた。
 ムリヤリ約束をさせたのは自分のほうだったのに、寝過ごしてしまった。
 桂花が天守塔に行くとき声をかけてもらったのだが、二度寝をしてしまったらしい。
「せっかく貴重な時間もらったのにな。このチャンス逃したら次はいつになるんだ?それまでアレを放っておくわけにもいかねぇし・・・・やべぇぞコリャ」
 柢王はため息をつきながら頭をガシガシかいて、速度をあげた。
 やっと約束の場所の上空まで来ると、地上の方でボッと火の手が上がった。
 急降下すると、そこにちょうどアシュレイが草むらから転がり出てくる。
「アシュレイ!」
「〜〜〜〜柢・・王・・・貴様ぁ・・・・何なん・・・だ、コレ・・・・霊力が・・」
 力が抜けた状態のアシュレイが、ヨロヨロと柢王の胸に倒れこんできた。
「おい、しっかりしろアシュレイ!・・・・・・・」
 抱え込んだアシュレイの体から甘い香りが漂う。彼の好物だった、マシュマロのような匂いだ。
「なんだ?お前の体、甘いにおいするぞ・・・それにこんなベタついて・・・・いったい何が・・・・・お前・・・・こんなに可愛かったっけ・・・・アシュレイ、かわいい・・・・・」
「は!?」
 柢王の語尾にギョッとして、肩で息をしていたアシュレイが顔をあげると、ふらふらぁ〜と柢王の顔がアシュレイの唇を求めて急接近してくる。
「やめ・・・ろっ!・・・バカ野郎・・・・なに血迷って・・・」
 力の入らない手で迫る頬をグイグイと押し戻すが、すっかり目がとろけている柢王はへこたれない。
「アシュレイ・・・なんで今まで気づかなかったんだ・・・・・」
「や・・・・・桂花!あそこに桂花がっ!!」
 ピク。と一瞬柢王の動きが止まったが、すぐにヘロヘロ〜と迫ってきた。
「アシュレイ、食べちゃいたい」
「よさ・・・・ないかっ!」
 ブワッと炎が柢王の体を包む。
「ぅわっちち―――っっ!あ、あちっ、あちいっ、アシュレイッ!消してくれっ正気に戻った!戻ったから!!」
 疑わしい目を向けたままアシュレイがまやかしの火を消してやると、柢王は風上に立ってアシュレイから距離をおく。
「なんて恐ろしい・・・」
「どっちがだ!」
「いや、お前の事じゃねぇよ。その植物」
 言いながら柢王はアシュレイの後ろの繁みを指さす。
「これ?お前が言ってたのって、この植物なのか?こいつ、悲鳴あげたぞ。気味悪ぃ」
「だろ?俺も昨日聞いた。多分これ・・・俺のせいなんだよなぁ。実はサ、桂花の持ってた媚薬のもとになる草の苗をこっそりここで栽培してみようとしたら、別の奴と混合しちまったらしくてサ」
「別の?」
「う〜ん、推測だけどな?苗を植えた日、俺、魔風屈に行ってたんだよ。その時なんかの種が服にくっついたんだと思う――――で、それくっつけたまま苗を植えて・・・・その時種が落ちたんじゃねーかと。あっちには声あげて獲物をおびき寄せる植物とかあるからな、そいつが苗に寄生したっつーか共生したっつーか」
「全く、何でそんなもの・・び、媚薬なんて、テメーには必要ねーだろ」
「だってあれ結構いい値で売れるんだぜ?種類によって程度が違うんだ。俺の勘ではこいつが一番効くと見た。何しろ桂花の管理が厳重だったからな」
「ンなもん育てたところであいつの手ぇ借りなきゃ媚薬なんて作れねーだろ」
「そりゃそーだ。だから、大量生産できるように協力したってコト、作っちゃったもんは怒ったってしょーがねーだろ?」
「・・・・・・確信犯か、あきれた野郎だ。だいたいこっそり盗んできといてなにが協力だ。いつもの事ながら適当なこと言いやがって―――――で?俺になに頼むってンだ」
「魔界のもんが混じってるしここで育てるのはヤベェだろ。それに繁殖力が強すぎる。ここまで育つのにたった七日だぜ?最初はこんな広範囲じゃなかった」
「なんだと?じゃあ・・・上に伸びるだけじゃなく、範囲を広げてるってことか」
「そ。も〜いくら切ってもキリがない。あっという間に蘇生するからよ、お前の火で焼き払ってもらおうと思ったわけ。こいつ、昨日より確実にパワーアップしてる。俺が昨日切ったときはこんな症状は出なかったし、甘い匂いもなかった」
「・・・・・くだらねぇ。しかも結局失敗してんじゃねーか」
 アシュレイはガックリと肩を落とす。
 せっかく柢王の相談にのろうと、力を貸そうと思っていたのに・・・・こんな草を燃やすだけだなんて・・・・。
「じゃ、早速焼いちまってくれっか?」
「・・・・・」
「よろしくっ」
 人懐こい笑顔でアシュレイの背中を軽くたたく。
「ったく、あ――っ、バカバカしいっ!てめぇ、さっさと土の下から根こそぎこいつらを掘り起こせ!」
「了解〜♪」
 柢王が次々と小さな旋風をおこし根元を切らないよう気をつけながら掘り起こすと、アシュレイがそこに業火を放つ。
 キェェ〜〜、ギャ〜〜と断末魔の叫びが響きわたり、その気味悪さに我慢できずアシュレイは柢王の脛を蹴っ飛ばした。
 流れ作業の要領で次々とこなしていき、最後の一角に火を放った直後アシュレイが柢王を突き飛ばす。
「―――っだよ!?そこまで腹立てること・・・アシュレイ!」
 とっさに受身をとった柢王の目の前でアシュレイの体が宙に舞う。
 その光景は、シュラムにアシュレイが振り飛ばされた時を髣髴とさせるものだった。
 細い糸がいっせいにその体を包み込み、白繭が宙に浮いている。
「アシュレイッ」
 首に下がっていた鎌鼬の剣を構え、葉の切断面から伸びた蔓のような糸を切り離した柢王はアシュレイの体を受け止めて、すぐに空へ逃げた。
 息を止めて体を包み込んでいる糸をむしり取っていく。
 ほとんどが、千切れて下へと落ちていったが、アシュレイの体にはまだ蜘蛛の糸のような細いものが絡み付いていて、それが甘く香っているようだった。恐らく、この糸が霊力を吸いとっているのだろう。
 地上ではアシュレイが最後に放った炎がメラメラと手を広げていき、さっきまで彼の体を拘束していた糸を吐き出した葉も、一つ残らず飲みこまれていった。これで落着だろう。
 昨日まではここまでの威力は無かった。異常なほどの急成長・・・このまま放っておいたらどうなっていたか分からない。
 柢王は改めて己の迂闊さに舌打ちした。
 命の危険を感じるほど霊力の消耗はないが、アシュレイは完全に気を失っている。ティアの所へ連れて行ったほうが良さそうだ。
「・・・・・参ったな、天守塔には桂花も居るってのに・・・・・・にしても、こいつの睫、長ぇな・・・あどけない顔しやがって・・・かわいい」
 口をついた台詞にギョッとして、柢王は頭を振る。気をつけたはずなのに、少し媚薬にやられているようだ。
「体中ベタベタだし、早いとこアシュレイのこの匂い落とさねぇと」
 飛んでいる間、息つぎをしたり風上に自分の身をおいたりと工夫をしながら柢王はどうしても可愛く見えてしまうアシュレイを抱いて泉を探した。

 


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