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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.319 (2013/02/14 22:51) title:返歌
Name:桐加 由貴 (110-133-226-232.rev.home.ne.jp)

 こんなことを思ったのは初めてで、どう言えばいいものか吾には判りません。
 吾が、あなたが思っているよりもよほど満ち足りているということを。
 それが多分、幸せと呼ばれるものなのだろうと。

 幸せというものがなんなのか、吾は考えたこともなかった。
 それをあなたならどう表すでしょうか。心を通わせた相手といること。望まれる喜び。力を尽くし、何かを成し遂げた後の達成感。それともほかの何かでしょうか。
 あなたのことだから、美味な食事と心地よい寝台があれば、それで良いと言うのかもしれませんが。

 あなたが吾を天界に繋ぎ留めたことを、あなたは忘れていない。ただそれは吾にとっては、それほど意味をなさないものです。
 吾にとっては、天界だろうと、魔界だろうと人界だろうとたいして変わりがない。どこでも同じです。
 だから、どこにいようと構わない。
 李々が姿を消してから、人界にあったのは刹那の快楽ですらない――終わることのない暇つぶしの積み重ねだけだった。
 吾はいつも退屈していた。
 死んでないから生きているだけだった。
 だからと言って、魔界を懐かしむほど酔狂でもありません。そもそも、それほど覚えていませんし。
 ――ね? だから、あなたが何かを背負う必要はない。
 あなたはとても手がかかる。吾に甘えて、我侭を言って、こき使ったり置き去りにしたり、吾は落ち着く暇がありません。あなたの不足を補おうと思えばこそ書庫に入り浸って知識の海に浸ることもしたし、あなたのお務めのために策略を練ったり部外秘の資料を片っ端から読み込んだり、計画を立てたりするのは結構楽しいものです。知略を尽くしてぎりぎりの綱渡りをすることは、人界では望むべくもないことでした。

 あなたといると退屈しない。それが魔族にとっては、一番の褒め言葉なのだと覚えてください。
 あなたといると、生きているという気がするので。

 吾はあなたといるから生きている。
 心も体も、満たされていて――しあわせ、です。多分。


No.318 (2013/01/30 22:17) title:宛先
Name:桐加 雪 (110-133-249-31.rev.home.ne.jp)

 手紙って苦手でさ。
 なんかこう、まだるっこしいっていうか。面倒だろ。
 改まって書くことなんかない。俺はいつだって、伝えたいことは口に出して言ってるつもりだ。
 ――伝わってほしいこと、って言ってもいい。
 おまえは馬鹿にするけど、一応これでも、俺って王子様だからさ。確実に伝わってほしいことや誤解されたらまずいことははっきり言うし、言っちゃまずいことは言っていないつもりだ。
 だからこれは、絶対におまえに伝えるつもりはないこと。
 それでも形にせずにはいられないってあたり、俺もまだまだだよな。

 おまえのこと愛してる。それは本当だよ。
 ずっとほしかった、俺と一緒に走れる奴。俺に全てをくれる奴。
 ようやく見つけたんだ、それが魔族でも構わないと俺は思っていた。
 だけど――だけどさ、ほんの少しだけ。おまえが魔族でなかったら、俺はこんなにも自由ではいられなかったんだろうと思う。だからおまえにしたんだろうかと、思う。

 天界人だったら、家族がいる。例え天涯孤独だったとしても、友達がいて、知り合いがいて立場があってしがらみがある。
 だけどおまえには何もない。
 会ったときのおまえは、本当に一人だったよな。養い親とはぐれて、飼っていた鳥は死んで。人界に心とらわれるものなんて何一つなかった。
 まして天界に、おまえが気を惹かれるものなんてあるはずがない。
 おまえの世界は俺だけだった。
 俺は、おまえ一人だけを背負えばそれで済んだ。

 一目惚れしたのは本当なんだぜ。初めて見た本当の姿のおまえは、信じられないくらい美人だった。きついところもゾクゾクした。
 死なせたくなんかなかったし、俺に惚れてほしかった。どんな美人にだって、こんなことを思ったことなんかないんだぜ。いや、本当に。
 おまえにはなんだってしてやりたいし、そうしてきたつもりだけど。
 天界で一人だけの魔族で、おまえの周りは敵しかいなかったから、唯一の味方だった俺におまえがすがって転んで、惚れちまうのは、当然だったのかもしれない。

 俺の我侭につきあってくれて、俺に振り回されてくれるおまえが、どうしようもなく愛しくて、時々少しだけ可哀想になる。自分を曲げるつもりはない俺のせいで傷つくおまえが。
 足手まといになる奴がほしいわけじゃない。枷になる奴がほしいわけでもない。
 俺はそういう男だからさ。
 おまえは誰よりも頭が良くて、腕も結構立って、ものすごく俺の力になってくれた。
 おまえに会えてなかったら、俺はあのまま猫を被って兄貴達をやり過ごすだけの男だったかもしれないな。おまえに会えたから、おまえが、おまえを守る力がほしくて、そのためなら誰を敵に回してもいいって思った。
 誰に好かれなくてもいい。おまえがそばにいてくれれば。
 おまえのおかげで俺は自由になれたんだ。

 最後の最後でおまえを置いてってごめんな。
 おまえ、どれだけ泣くんだろうな。
 ただ、ひとつだけ。絶対に聞かないから、言うだけ言わせてくれ。
 俺がそうだったくらい、おまえは俺といて幸せだったか?
 俺がおまえから奪ったもの、おまえに背負わせたもの。それと引き換えになるくらい。
 なあ。俺は、おまえを幸せにしてやれてただろうか。


No.317 (2012/04/10 12:56) title:Boy's lobe
Name:まりゅ (sndr3.bisnormaljl.securewg.jp)

Boy's lobe

 暖かいそよ風が、軟らかい草に覆われた地面に寝転ぶ、燃えるような赤毛の少年の上を優しく通り過ぎていく。
 こどもから少年には羽化済みだが、大人にはなっていないしなやかな肢体。
無防備に放り投げられた褐色の手足に余分な肉はないが、思わず突いてみたくなる様な弾力のありそうなぷくぷくした肌。
 そんな少年――アシュレイの隣で、光り輝くような美貌の少年――ティアが厚い本を広げている。
 だが、先ほどから1頁も進んではいない。なぜなら、そのトルマリンの瞳は文字ではなく、アシュレイの寝顔ばかりをちらちらと盗み見ているからだ。
 やがてかすかな寝息が聞こえてくると、ティアは静かに本を置き、膝でアシュレイの元までにじり寄った。
「アシュレイ?」
 小声でそっと呼びかけてみる。寝息のリズムは変わらず、いらえはない。
 神々しいまでに美しい少年は、しばらく、あどけない寝顔をうっとりと眺めていたが、やがて引き寄せられるように顔を近づける。
 ここは守護主天の結界に囲まれている空間。彼の邪魔するものは何もない。時々柔らかな風がふうわりと髪を揺らすだけ。
 たっぷりと苺味(ティア基準)の柔らかな唇を堪能すると、そのまま頬を温かな胸に摺り寄せる。
 ――意識のある時にできたらいいのに……。
 でも、そんなことをしたら、きっと100mくらい飛び退り、理解の範疇を超えた行為に怯えて、離れた柱の影から自分を窺うくらいで側に寄ってくれなくなってしまうに違いない。それより、今は寝てるときだけで我慢してた方がいい。
 とくん、とくん……規則正しい鼓動が頬を打つ。
 アシュレイは元々体温が高い。が、それとは別に、幼い頃人の温もりというものをアシュレイで知ったようなものだ。
『母に抱かれる』ってこういうものなのかな……。
 穏やかな空気に包まれティアの目は自然に閉じて行った。

 はっと気づくと、いつの間にかティアは寝込んでいた。
「よう」
 アシュレイの顔がすぐ側にあり、ドキリとする。慌てて体を起こすが、隣に座ってたはずの自分がアシュレイの胸で寝込んでいたことを、彼はどう思っているのか。
「ご、ごめんね、重かったでしょ」
「いいって。また、徹夜したんだろ? 守天サマが地べたで寝るなんてありえねえもんな」
 とりあえず、地面に直接寝られない軟弱守天が親友を枕代わりにしたと思われても、疚しい想いがばれるよりはナンボかマシだった。
「でも、肉が薄くてあんまりクッションにはならないか。あーあ、早く筋肉ムキムキになりてえなあ」
 アシュレイが腕を曲げて一生懸命力瘤を盛り上げようと努力しているのを見て、
「……ならなくて、いいんじゃないかな?」
 と、ティアが遠慮がちに意見する。
「なんでだ? おまえだって安心だろ? そういうのが護衛に付いてるほうがさ」
「ううん! 君は今だって十分強いじゃないか! それに、私の体型もこのままだろうし、あんまり立派な体格が傍らにいると、よけい弱弱しく見えて威厳がなくなりそうだし。ね? 無理に鍛えなくて良いから!」
 父親である炎王みたいにごつく成長されるのは、今は余り想像したくなかった。こんなに可愛いのにっ……!
「そっか。おまえがそれでいいなら、俺もいい」
 にっこりと微笑むアシュレイに、ティアもうっとりと微笑み返す。
「あ、授業! 私はどれだけ寝込んでたんだろう」
 ティアが急に思い出して焦り始める。
「あー、もう午後一はそろそろ終わるな。次の授業は体術だから、俺行ってくる。おまえはもう少し休んでるか?」
「いや、私も奏器の指導を頼まれてるから行くよ」
 アシュレイが一瞬眉を顰める。アシュレイはティアが下級生たちに体を密着させて指導しているのが気に入らないのだ。
(言わなきゃ良かった)という顔をしていたが、溜息をつき諦めて立ち上がる。ティアも一緒に立ち上がった。
 同じ目の高さになった時、アシュレイがじっと自分の顔を見つめているのにティアは気づいた。
「ん? 何?」
「おまえって……、睫毛長いのな」
 すぐ近くでティアの寝顔をずっと見て気づいたのだろう、アシュレイがポロリと口にする。
「え?」
「何でもねえっ!!」
 慌ててアシュレイが顔を逸らすが、朱に染まった耳朶がティアの目に入る。
(少しは、親友以上の感情も持ってくれてるのかな)
 嬉しくなって、彼の首に抱きついた。
「うわ! な、なんだ?!」
「私達は親友だよね?」
「お、おうっ」
「だから肩を組んだりするよね?」
「お、おう?」
 肩を組むというより抱きつかれてると思うのだが、自分より百倍は頭の良いティアが言うのだから最近ではそう言うのかもしれない、とアシュレイは自分を納得させる。
「飛ぶぞ」
 アシュレイは、それ以上考えなくていいように、ティアをぶら下げたまま地を蹴った。
 ティアは、少し体をずらすフリをして、更に紅くなった耳朶に唇を押し付けた。
 赤ん坊の頃から他人が一緒にいると眠れないアシュレイが、自分と一緒の時はスウスウ寝てしまうのも、ナニをしても目を覚まさないのも、こうやって抱きついても不審に思われないのも、彼の信頼を得られるようずっと自分に課してきた努力の賜物。親友以上になれるよう、少しずつ指導教育していくのがこれからの課題。
 紅くなった耳朶に、それはそんなに難しいことではないかもと、仄かな期待を抱くティアであった。

(おわり)

翻訳ソフトによると
BOY'S LOBE→少年耳朶
少年の耳朶→A BOY'S EARLOBE まいっか...
(loveじゃないのよ〜)


No.316 (2012/02/17 11:54) title:夢幻寓話 / 下
Name: (p4155-ipbf2801marunouchi.tokyo.ocn.ne.jp)

(c114.142.131.098.c3-net.ne.jp)

「麒麟・・・」

 呪縛がとけた冰玉がヘタリと腰を落としたままつぶやいたのを耳にし、氷暉も復唱するかのようにつぶやく。
「麒麟・・・?」
 顔色を失った氷暉の声に
「脅えなくていい。私はアシュレイが悲しむことはしない」
 麒麟はこちらを見もせずに言い捨てる。
「・・・脅え、だと?」
 奥歯をかみしめた氷暉を無視し、彼はアシュレイの足元に腰を下ろした。
「アシュレイ、大丈夫?私だよ、孔明だよ」
「そいつに触るな」
 アシュレイの髪に触れた孔明を、思わず制してしまった氷暉。
「私はこの子が幼い頃からの友人だ。おまえに指図される謂れはない」
 深海のような底の知れぬ瞳で氷暉を見返すと、アシュレイをひょいと抱き上げ、長椅子に座らせた。
 頼みもしないのに、桂花のことも同じように運ぶ孔明。その間、冰玉はハラハラしっぱなしだった。麒麟がどんなにおそろしい生き物か。それも桂花から嫌と言うほど聞かされていた。
 いくらあの麒麟が、じぶん達を見過ごすと言っても、過信してはいけないと。
「何があったか分かるか?」
 孔明の問いに首を振る冰玉と、黙したままの氷暉。
「これは・・」
 孔明が落ちていた紙切れを拾い、つなぎ合わせたところで「なるほど」とつぶやいた。
「正確には分からないが、それほど面倒なことでもなさそうだな」
 アシュレイを座らせた長椅子の中心に腰をかけ、赤い髪を自分のほうへ寄せる。
 その様子を、不服そうな顔で見つめる氷暉はやっと立ち上がることができたようだ。
 冰玉は、なるべく孔明から距離を置きながら、桂花の元へと移動した。
「桂花・・・大丈夫かな」
 白いなめらかな髪をなでながら、孔明にそれとなく問うてみる。
「何事もないだろう。ちょっとした実験に巻き込まれたようだ」
「実験?誰の仕業さ!承知しないよ、こんな風に桂花を眠らせるなんて」
「おまえの、質の悪いイタズラに比べたらかわいいものさ」
 鼻で笑われて、冰玉はムッとした。
 なぜ知っているのだろう?アシュレイが告げ口したのだろうか。
「告げ口するなんて、男らしくない奴」
 ボソッと口にすると、孔明が冰玉を見た。その瞳には、龍鳥の冰玉が映っている。
「アシュレイがそんなことをするか。ティアランディアとアシュレイが、おまえの身を心配して話していたのをたまたま聞いただけだ」
「僕の心配?」
「おまえ、この天主塔で自由に暮らせるのは誰のおかげか分かっているのか。私達には、なわばりというものがあるだろう。それを無視して自由奔放に生活できるのは何故か考えたことがあるか」
 ないわけではない。でも、そんな なわばり は、冰玉の力があれば簡単に奪えるものだった。だから、端から争わずに譲られているものだと、思っていた。
「確かにおまえとこのあたりの野生動物とでは、力の差は歴然としている。だが、もしお前が なわばり争いで他のものを傷つけたりしてみろ、お前の主はアシュレイに頭を下げここから出て行くことになるだろう」
「なんでさ!なんで桂花がアシュレイなんかに頭を下げなくちゃいけなくなるの?強いものが力で奪い取ったって、それは自然のことじゃないか!僕らはそうやって、生きていくんだから!」
「外では、な。でも、ここは天主塔だ。それを忘れてはいけない」
 あ・・・・と冰玉が口をつぐむ。
「アシュレイはそれが分かっているから、おまえを大目に見てやってくれと頭を下げて頼んだ。『動物相手に』だ」
 桂花が、自分のせいでアシュレイに頭を下げるだなんて、絶対に嫌だ。
 アシュレイだけじゃない。優秀な桂花が頭を下げるなんてあってはいけないことだと思う。
 でも・・・・・。
 アシュレイは自分のために。自分の主の桂花のために。魔界で共生を終え帰ってくる柢王のために頭を下げてくれた・・・動物相手に・・。
「い、いいんだ、だってアシュレイは桂花みたいに優秀じゃないもの」
 目を逸らしながら冰玉が言うと、それまで黙っていた氷暉が口を開く。
「俺は違う。他の動物なんかと一緒に考えるな。アシュレイが頼もうが喚こうが泣こうが、関係ない。気分次第でおまえを殺れる」
 本気ですよこの人・・・と震えた冰玉の隣で、アハハと笑う孔明。
「私もだよ。おまえ(氷暉)がアシュレイに危害を加えるようなことが少しでもあったら全力でおまえを消す。覚えておけ」
 どうやってだ?などと、軽口を返せるような状態ではなかった。
 氷暉はその場でひざが折れるのをこらえるだけで精一杯。二度も、跪いたりするものかと必死だった。
 孔明は、ティア以上に氷暉の存在を許せないのだ。麒麟である彼は、良い者であろうと嫌な者であろうと、本能的に魔族を許せない生き物なのだ。
 そんな許せない対象が、幼いころから自分の素性を思い悩んでいたアシュレイの体に入り込み、さらに彼を悩ませていたなんて・・・。
 彼の中に息づく魔族に気づいたときは、ひどい衝撃を受けた。
アシュレイの手前、平静を装ったが、彼の体から魔族を抜き出し、切り刻みたい衝動に駆られたのは事実。
 もっとも、今ではアシュレイがこの氷暉という魔族を認め、頼りにすらしていることを知っているため、感情を抑えてはいるが。
 三人の周りに異様な空気が流れ、冰玉は桂花の体に抱きついてぎゅっと目をつぶった。
 こわいこわいこわい。早く起きて桂花。それで、今の僕を見てよ、抱きしめてよ。
 いつも、柢王にぎゅっとされている桂花を見て、あんなふうに自分も桂花をぎゅっとしてみたい、してもらいたいと思ってた。
 せっかくのチャンスなのにこんなのってあんまりだよ。
 でも・・・・桂花の体からいつもの草の香りがする。安心する。
 冰玉は、桂花にしがみついたまま、いつしか寝入ってしまった。

「あれ?孔明?来てたのか、ごめん寝てたみたいだ・・・桂花?」
 孔明の向こう側で座位のまま寝ている桂花を見て、声をかけると、すぐに彼も目覚めた。
「失礼しました・・・・吾、寝てました?あれ、冰玉?どうした、もう帰ってきたのかい」
 肩の上でしきりに桂花の頬に嘴をすべらせる冰玉をなでて、微笑む桂花だったが、麒麟の存在に注意を払っているらしく、少しぎこちない。
「蔵書室、頼めるか?」
 さっきの続き、と言う感じでアシュレイが促し、桂花も頷くと冰玉とともにすぐに執務室から出て行った。
「なんだったんだ・・・。やっぱり、またあいつのせいか」
 破れた紙切れがつなぎ合わせてあることに気づいて、アシュレイが嘆息する。
 宛先名に自分の名。送り主名に、インチキ?発明家の店主名。
「変なもんばっか送りつけやがって。大体今回のはなんだったんだよ?眠らせるだけか?」
 ぶつぶつ言いながら、机の上にある箱を手に取る。
「孔明、待たせてわるかったな。ほら、これ手に入れたんだぜ、珍しい岩石。うまいかどうか分からないけど食ってみろよ。不味かったらやめとけ?」
 孔明が持ってきた、山凍からの届けものを確認しながら、アシュレイは「うまいか?」と彼の背を撫でる。
 岩石は好みの味だったので、孔明はアシュレイに頬ずりをし、応えた。
 彼の柔らかなほほの感触を楽しみながら、アシュレイは忘れているな・・・と、思う。

『二度と、変なもん送りつけんな!どうせなら動物と会話できるものとか発明してみろよ、そしたら、使ってやる。な、孔明。お前が人語をしゃべるの、聞いてみたいし』

 以前、発明家の店に品物を返しに行く途中のアシュレイとばったり会って、一緒に店内へ訪れたときの会話。
 店主は、それに応じたのだろうが、微妙な結果となったようだ。
 喋れるどころか人型になってしまうなんて、麒麟の孔明でも、この先二度とないような貴重な経験をさせてもらった。
 この腕で、アシュレイを抱き上げたり、髪をなでたりすることができる日がくるとは・・・。
 しかし、肝心なアシュレイとは会話できず、寝ているだけとあっては今回の発明品は失敗の部類だろう。孔明にとっては、すばらしい品であったが・・・。

 いい経験をさせてもらった・・・・と、満足しているのは孔明のみで、冰玉は「せっかく人型になれたのに、桂花に見てもらえなかった!ぎゅってしてもらえなかったと、悲しむばかり。
 さらに氷暉にいたっては、プライドを甚く傷つけられたようで、しばらくアシュレイの呼びかけにも応えられなかったらしい。


No.315 (2012/02/17 11:48) title:夢幻寓話 / 上
Name: (p4155-ipbf2801marunouchi.tokyo.ocn.ne.jp)

(c114.142.131.098.c3-net.ne.jp)

「いらない、適当に捨ててくれ」
 アシュレイは手渡された袋の、送り主名を見たとたん、桂花に突き返した。
「封も開けずに捨てるんですか?」
「いいんだ。ロクなもんじゃねーよ」
「はぁ」
 桂花は頷いてアシュレイから受け取った袋を改めて見る。
 送り主は東にある店の、店主名であった。執務室の前で鉢合わせた使い女から預かったのだが、これは確認してから受けとるべきだった。
「なぁ・・蔵書室で、なんか面白そうなやつがあったら適当に何冊か借りてきてくんねーか」
「好みの本などわかりませんよ」
「テキトーだよ、テキトー。あと、ティアの会議が終わるまで蔵書室にいていいぞ。どうせ、ティアがこっちの書類片付けなきゃ、お前の仕事、進まないだろ」
 ヒラヒラと手を振るアシュレイに、背を向けてから微笑する。最近、ようやく分かってきた。彼のこういった気の遣い方を。
 今日、これからあの麒麟が、主からの届け物を持って、ここに来るらしいのだ。
 せっかくの気遣い――とアシュレイの申し出にのることにした桂花が扉に手をかけた時、とつぜん手にしていた袋が動き出した。
「!?」
 中で何かが暴れているように、袋がバタバタと動いている。
「なんだっ?何が入ってんだ?!」
 アシュレイが桂花から袋を取ろうとした瞬間、パンッと破裂音がひびき、二人はその場で重なるように倒れてしまった。

 外で遊んでいた冰玉が、窓から執務室へ入ると、扉の前で桂花とアシュレイが倒れているのが目に入った。
「どうしたの桂花っ?!」
 驚いて近づこうとしたとき、自分の姿が龍鳥ではなくなっていることに気づく。
「あれっ?なんでっ?」
 手が、足が、生えている。
「えーっ?!人型になってる!なんで?すごーい」
 自分の掌や足元を交互に見て、更に鏡の前へ行って顔を確認する。
「自分で言うのもなんだけど・・・・かなりイケてるよね。これなら桂花だって・・・」
 自分がこのまま成長し、柢王と、桂花を奪い合う・・・もしくは二人で桂花を愛する妄想をしながら、鮮やかな碧い髪をかきあげ満悦していた冰玉だったが、ハッと我に返る。
「違う!桂花っ」
 駆け寄ってアシュレイを無造作に転がすと、桂花の体を抱き起こしてやる。
「桂花?どうしたの、大丈夫?」
 軽く頬をたたくが小さな寝息をたてるばかりで反応はない。
「寝てるだけ?・・・なんでこんなところで、しかもコイツなんかと」
 隣で同じように寝息をたてているアシュレイの頭を、足の先でつついた冰玉の耳に聞き覚えのある魔族の声が突き刺さった。
「足癖のわるい小僧だ。もう一度やったら、付け根から切り落としてやる」
 とても恐ろしく、屈辱的な記憶がよみがえる。
 心拍数が跳ねあがるのを感じながら声の主を見やると、背のある魔族の男がじぶんを見下ろしていた。
 冷酷そうな顔に走る傷痕が、得体の知れなさを、より強調している。
 姿を見るのは初めてだが、間違いない。以前寝ているアシュレイに毛虫を落としてやろうとイタズラを仕掛けたときに、それを阻止した上、水鞭で襲ってきた奴だ。
 本気で殺されると思った、危険な相手。
「お、お前、なんで魔族のくせにコイツを庇うんだ」
 震える声で、反論する。
「庇う?ふん、とんだ見当違いだ。俺が俺の体でもあるそいつの体を守ろうとするのは当然のことだろう。別にそいつを庇っているわけじゃない」
 そうか。以前、この魔族に自分がやられたとき、桂花が守天と話していたのは、この魔族のことだったんだ。
 ようやく冰玉は合点がいった。
「魔族のくせにと言えば、お前の主も魔族のくせに天界にいるじゃないか。魔族が天界人に望んで飼われている。世も末だな」
「飼われてなんかない!桂花は、柢王が好きだからここにいるんだ!僕だって、桂花と柢王がいるからここにいるだけだ。桂花を侮辱するな!お前なんか天界人に寄生した魔族崩れのくせに!」
 カッとして口走った言葉は、じぶんの寿命を今日、この時まで。と決定づけるほど望ましくないものだったことを、氷暉の目を見た冰玉は知る。
「どうやら口のききかたを教えてやる必要があるようだな。幸い俺の宿主の意識もないことだ、特別に後悔の意味も教えてやろう」
 物騒な瞳に、冰玉の体は固まったまま動けない。氷漬けにでもされたようだ。
「どうした。達者な、減らず口はしまいか」
 長い腕の先でみるみるうちに鋭く尖った氷刃が育つのを、固唾をのんで見つめる冰玉は、瞬きすら許されない。
『敵と対峙したら、いち早く相手の技量を推し量るんだよ。もし見た目が自分よりも小さく、弱そうでも、油断してはいけない。それが命取りになるからね』
 桂花の言葉を思い出す。相手は小さくも弱そうでもなかった。それどころか、冷たく残忍な魔族だ。負けん気の強さが、仇となってしまった。
 でも、桂花のことを侮辱する奴は許せなかったのだ。
 氷刃が完全に仕上がり、的を絞るしぐさで冰玉に向けられると、その目は恐怖にあおられ更に見開く。
 二度と関わってはいけない相手だったと痛感する冰玉。両目に涙をためた彼に、うすく笑った氷暉が口を開く。
「その気持ちが『後悔』だ」
 言い終えた瞬間、氷刃が飛んでくる。
「っ!!」
 失神寸前の冰玉の目の前に、氷刃を止めた手。

「やり過ぎだ。アシュレイが許さない」

 突如、冰玉の前に現れた男の手の中で、早くも滴りはじめる氷刃。
「貴様・・・・」
 ただ見られているだけ。それだけなのに体中を刺すような刺激を受け氷暉はひざまずいてしまう。
 少年・・・いや、青年というべきか?どちらともとれるような微妙な容姿の男は、銀の髪の天辺にアシュレイのものより更に鋭く尖る角を持っていた。鱗鱗とした黒曜石のような装束は、重そうにも軽そうにも見える。
 天界人ではないが、魔族でもない。

(こいつは――――)


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