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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.263 (2009/09/05 23:05) title:宝石旋律 〜嵐の雫〜(21)
Name:花稀藍生 (p2041-ipbfp601kobeminato.hyogo.ocn.ne.jp)

    
      
 ―――『それ』は、長い間 ただ 漂っていた。

 ・・・・・眠りを享受し、 ただ 押し流されるままに 出口のない あたたかな場所を
 ただ 循環していた。

 ・・・ただ、廻りつづけていた。 死のようにどろりとした まどろみは 『それ』を
包み込み、心地よい一定の振動を 繰り返しながら 循環する。 

 ・・・ただ、ときおり訪れる 数瞬の意識の目覚めの中で『それ』は 少しだけ 世界を
          認識 する。
   はるか先に 水面が見える。 波打つ光の中に 何かがあるのだが 『それ』には
  わからない。  
 何かが聞こえるような 気がするのだが、 水に阻まれて、ぼんやりとしか 聞こえない。  
ひどく 深いところに いるのだと 認識する。
    そして それもまた、 眠りの流れに 押し流される。
 循環を繰り返す うちに この閉じられた 海の 中(なめると塩辛い味がしたから)に
は規則正しく律動する いくつもの道筋が あることを知る。
   幾度も通り抜ける  脈打つ道を 束ねる 太陽の中が  結構気に入っていた。 
道は多岐にわたっていた そしてどんな 細い道筋 でも      『それ』は 難なく
通り抜けた。
 何千回、何万回、何億回  繰り返し 循環する うちに 『それ』は、すべての道筋 を 
覚えてしまった。

 ―――ときおり、海は ひどく 熱を 孕むことがあった。
  そんな時、『それ』の眠りの ヴェールは薄くなる。 そんな時 何かが見える気がし、 
ほとんど感じることの できない 体の感覚が、 ・・・どこかに、手や足が ある気がした。
 手を伸ばせば、そこにある脈打つ太陽や、海の水に 触れることが できる と思うの
だが、『それ』 には手も足も ない。  その感覚すら『それ』は忘れている。
 そのことに いら立つこともあったが、 それすらもまた、 眠りの流れに 押し流さ
れる。

 ―――ときおり、閉じられた 海を こじ開けて 外から注ぎ込まれる 甘い 香りの
する 苦い 水や、 白い 水は 『それ』の眠りを深くし、動きを鈍く させた。

 ・・・巡り 巡るうちに、少しずつ 何かを思い出す。 そしてまた眠り 忘れ去る―――
 己の名を 忘れ なぜこんなところに 自分がいるのかということさえ 忘れ果て――

 ・・・眠りの流れが 砕かれることは ない。永遠に。
 ただ巡り、巡るだけ。・・・この海が 死に 絶える その時まで―――

 ・・・そのはずだった。
 ―――このときまでは。
   
     
 『それ』は   唐突に   目覚めた。
   
     
 ―――黒い 水。
 わずかな ほんのわずかな ひと しずく。

 ・・・冥き、生命の 水―――

 それが、この海に 落ちてきた 瞬間 ―――『それ』は 目覚めた。
     
      
        
 ―――境界。
 ――― 額から頬を伝って流れおちるものが、汗なのか、血なのか、柢王にはわからない。 
全身から叩き込まれる痛みに、視界がかすむ。
 両側の巨虫が暴れるたび、稲妻が食い込んだ外甲殻が ギギギと音を立ててきしむ。 一
瞬たりとも気を抜く事の出来ない力の拮抗を繰り返しながら、柢王はさらに霊力を送り込む。
途端、視界が揺れた。いや、揺れたのは意識のほうだった。
(・・・・・まずい。限界が近い・・・)
 肉体の損傷度合いが、自分自身で手当てができるか、あるいは手当をしてくれる者の所ま
で意識を保ってたどり着けるギリギリのところまでが、柢王の認識する限界だ。(ただし、
万能の癒し手を友にもつ彼の限界は、常人よりもはるか高みに設定されている)
 柢王は武人だ。
 武人と称される者として、戦いが好きなことを隠すつもりはない。
 だが、戦いを続けるためには、生きていなくては意味がない。
どんなに戦果をあげたところで、生きて帰らなければ意味がないのだ。
 文殊塾時代より、魔風窟にて自分の力を試し続け、何度も死地に身を投じ、何度も限界を
超え、生命を危険にさらし続けた結果として。 ―――そういう意味で、柢王は己の限界を
わきまえている。
 ・・・肉体の損傷は限界を超えている。しかしそれは、いつものことだ。限界を認識してい
たところで、戦闘のさなかに限界を超えたからと、戦いをやめるわけにはいかない。
 自分の思い通りの戦いができたことなど、片手の指に満たない。
 戦闘は生き物であり、それゆえに生半可な力では自分の意志など通用しない。・・・だから
こそ、面白いのだ。
 戦闘が思い通りにならず 肉体的に限界に追い込まれた時―――そこで重要になってく
るのが、自分の意志であり、意識だ。 たとえ四肢が折れていても、意識さえ保っていれば、
霊力を使って飛んで帰ることができるのだ。
 ―――つまり、意識さえ保つことができれば、霊力の使いようで限界を引き延ばすことは
可能だ。
 だが、その意識が途切れようとしている。
「・・・・・!!!」
 今、このギリギリの拮抗状態で意識を手放したらどうなるのか。
 縛雷で地につなぎとめた巨虫達はゆるんだ拘束を即座に引きちぎって柢王に襲い掛かる
だろう。
 アシュレイの性質からして、彼は自身の危険も顧みず、柢王を守って戦おうとするだろう。
 ―――巨虫 五頭を相手にして。
( だめだ )
 いくらアシュレイでも無理だ。
 アシュレイ一人ならば、大技を放って一掃することはできるかもしれない。しかし大技を
放つには、極度の精神の集中が必要になってくる。意識を失った自分をかばいつつ闘いぬけ
るほど、戦局は甘くない。
 アシュレイの重荷になれない。
 アシュレイの為だけでなく、自分のプライドにかけて断じて出来ない。
 だから何としてでも、この二頭だけは潰してしまいたかった。
 なのに。
 両腕に絡む縛雷にさらに霊力を送り込む。その途端。
「・・・・・っ!!!!」
 頭が割れるように痛む。
 額が熱を持っている。
 意識をよこせと。
 言っている。
「・・・っ!」
 額の内側を ざらりと熱い狂喜の舌がなめあげる。
 霊力を上げれば上げようとするほど、内部のモノの力が増す。
 ―――柢王になす術はなかった。
  
   
  ・・・・・ ピシャン・・ ――――――

  冥界のしじまに響き渡る水音。
地上の騒動など届かないこの場所を覆い尽くすのは 薄暮の闇と、幾多の命をその奥底に
納めて さざめく黒き水。
 湖の中央に結跏趺坐の形で浮かぶ教主は長い腕を伸ばして その黒き水に両手をひたし
ていた。ひたされた所から、黒水は金へと色を転じ、波紋ではなく小さな渦となり、教主を
中心にゆるりと弧を描き出す。
 伏せられていた教主のまぶたがぴくりと動いた。 
「・・・・・誰ぞ 介入したか?」
 黒い水の存在するところ総てに繋がっている教主の感覚に、何かが触れた。
 両手を水から抜き出さないまま、教主はちらりと視線を流す。
 黒い水面に映し出される境界の光景に、変化はない。
 氷暉たちの動向にも、変わったところはない。
 教主は冥い色の瞳をゆっくりと閉じた。
「・・・どうなろうと 興味はない」
 彼らは捨て駒にすぎない。
 教主にとって重要なのは、境界で繰り広げられる力の拮抗の行方ではなく、天界の中央で
この騒動に心を痛めているであろう貴人のことだった。
      
    
     
 ―――ぷつり と 何かが途切れたような感覚があった。

「?!」
 境界で、三頭の巨虫を相手に、スピードを上げて旋回しながら一頭の巨虫の外甲殻のつぎ
目に斬妖槍を突き入れざま、身をひるがえす。今までアシュレイが居た場所を、一頭の巨虫
の大顎がかすめた。槍を抜き取り、上昇する。
 頭部を炎に包まれた巨虫がそれを追ってくるのを目の端に確認しながら、アシュレイは先
ほどの違和感の根源をつきとめるべく、周囲を見回した。
 地上の柢王は、2頭の巨虫を抑え込んでいる。アシュレイはそれにほっとする。だが、急
がねば。柢王の傷は深い。手遅れになれば、さしもの彼も危ない。早くこの三頭の巨虫を倒
して、彼の加勢をし、一刻も早く天主塔に連れ帰らねば。
 そう思い、さらに上昇する。追ってくる三頭の巨虫に正面から激突しようと身をひるがえ
した その瞬間。
 視界に広がっていた、炎の結界を支える旋風が突然消滅した。炎の壁が がくんと下がる。
 それが 意味するものは―――
「・・・柢王!?」
 地上では縛雷が消滅し、解き放たれた瞬間、巨虫達はその長大な身を起し、土埃を巻き上
げながら空高く伸びあがった。
「柢王!」
 地上を見下ろしたアシュレイが、柢王の姿を認める。そして、背筋を凍らせた。
 ―――土埃にさえぎられ、遠く離れているため、見えないはずだった。
 なのに、ありありと分かった。
 彼は、こちらを見上げていた。―――口角をつりあげて、白い犬歯をさらして。
 ―――鉛色の瞳で。

 息をのむアシュレイの背後から 黒々と立ち上がった幾本もの巨大な竜巻が 怒涛の勢
いでなだれ込んできたのは、次の瞬間だった。


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