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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.256 (2009/06/18 21:02) title:Je t‘aime,moi non plus──The addition of Colors──
Name:しおみ (l198059.ppp.asahi-net.or.jp)


「…なあ、おまえ、柢王のどこが好きなんだ?」
 一面の窓の向こうに離着陸の機体が望める社内のカフェテリア。
 窓の外を見たままの赤毛の機長が、口にストローをくわえたままで、隣りの白い髪の機長にふいに尋ねたのは、春間近のおぼろな光が窓の外に薄れていこうとする時刻。
 クリスタル・アイランドから戻って以来、なにやら考え事しているらしい赤毛の機長のいきなりの問いに、クールな機長は軽く考えるような顔をして、
「どこが…ですか?」
 落ちついたまなざし向けるのに、赤毛機長は慌てて言い直した。
「いや、俺はあいつのいいとこはわかってるぞっ、あいつ昔から女にはだらしないけど芯はすごくきちっとしてるし、優しいし、言わなきゃいけないことはちゃんと言ってくれる奴だしッ…あっ」
 慌てすぎたせいで前提によけいすぎることつけ加えた機長は狼狽するが、クールな機長はいつものごとく冷静な顔で頷いて、
「そうかもしれませんね」
 まるで「女にはだらしない」の項目までも肯定したような落ちつきぶりだ。その態度に、赤毛の機長は、驚いたように瞳を瞬かせる。
 
 
 国際空港間近にある老舗航空会社・天界航空。
 幼馴染であるティアランディアが若くしてオーナーを努めるその会社に、アシュレイと、同じく幼馴染の柢王とがパイロットとして入社したのはもうだいぶ前のことだった。
『大きくなったら、俺が絶対おまえを乗せて飛んでやるからな!』
 子供のときに大好きな親友に誓った言葉どおり、勝気で一途な赤毛小僧が機長になってからでも気がつけば一年はとっくにすぎて、米なら新米が新古米になったくらい。食えないところまではまだいかないが、そこそこに、こなれはじめてはきた感じ。
 もちろんまだまだ発展途上の身ではあるし、経験値も低い。
 夢中で飛んで楽しくて楽しくて──責任感はもちろんあったけれど、機長を頼りに飛んでいたコー・パイ時代のそんな気持ちとはまた違う、シビアな重みと、だからこその充実感を実感する日々だ。
 運送業とサービス業、そして命を預かる現場責任者。空の上ではパイロットだけが、その場を救う唯一の存在となりうると、腹の底から実感するのがコクピットの右に座った者の運命だ。
 だからこそ、もっとうまく、もっと完全に、どんなことに揺るがないようにと──この赤毛機長も、心から望んでいるのだが……。
「でも、なぜそんなことを聞くんですか」
「えっ」
 我知らず、ため息をついていたアシュレイは、桂花の問いに、一瞬目を見張り、そして、我に返ってあああっと叫んだ。そうだった、質問したのは自分の方で、しかも最大関心事項は人の恋愛のことではなかった!
 
                      *
 
 
「オーナー、今日はずいぶんと嬉しそうですね」
資料を持って部屋に入ってきた広報部長の言葉に、天界航空オーナー、ティアランディアはきれいな顔をうなずかせて、微笑んだ。
「今日はひさしぶりにみんなで食事をするんですよ」
「ああ、それは楽しみですね。みんな、今日は休みですか」
「いえ、みんなフライトで明日が休みなんですけれど──柢王はまだ飛んでいるはずだけど、アシュレイと桂花はもう着いている時刻だと思うんだけど……ふたりとも、遠慮しないでここで待っていたらいいのに」
 それとも、遅延か何かでまだ本社に戻らないのかな。
 呟いた、オーナーの机の上の書類の山は普段のこの時刻の三分の一以下。なかなか一緒に会えない親友たちとの会食のため、一生懸命仕事を片付けようとするオーナーの姿に、このオーナーたちのことは子供のときから知っている広報部長は微笑んで、
「もしふたりに下で会ったら、こちらへ来るようにいいましょう。それと、こちらに、昨年に引き続いてクリスタル・アイランドへの旅行部門の特別ツアーの企画書も一緒に持って参りました。まだ原案ではありますが、お客様からの問い合わせも多く、今年も集客が見込まれると思いますので」
 とティアの前に封筒を置く。
 と、
「ああ、クリスタル・アイランド……」
 オーナーの瞳はなぜだか、とたんにうっとりとした色を浮かべた。
 クリスタル・アイランドは西の方にあるリゾート地で、天界航空としてもかなりの熱意をもって新規乗り入れしたところだ。むろん、ティアも山凍部長も何度も行ったことがあるし、先般のニア・ミス事件のときなど、ティアは文字通りすっ飛んでいった。
 だけに色々な感慨があるのか──とも思われるが、ティアのそのなにか幸せなことを思い出すような微笑は、そうと解釈するにはなにかが違うような気配がある。
 とはいえ、そこにいるのは、オーナーの幸せがなによりで、基本、鈍い広報部長だ。
「また時間のあるときに目を通していただいたら結構です。今日は楽しんでください」
 何も気にせぬ笑顔でそう言うと、一礼して部屋を出て行った。
 残されたティアは、そのきれいな瞳を宙に向ける。
 ふだんなら、温厚だけれど明敏で仕事のできる業界最若手のそのオーナーは、しかし、書類の向こうにイリュージョンでも見るかのような顔で深いため息をついた。
「クリスタル・アイランド──アシュレイが私のために世界一のパイロットになってくれるって、抱きしめてくれた島だよねぇ……」
 幸せそうに、微笑みながらのその呟きの文節的なアクセントは『私のために』と『抱きしめて』がフォルティシモ無限大、だ。
 
                     *

 
「あ…あのな、おまえ、口堅いよな……?」
言葉を選んで選んで、ためらった挙句の赤毛機長が相談する方なのに失礼なことを口走ったのはカフェテリア。が、何事にも動じないと定評のあるクールな機長は、かすかに面白そうな顔をして、
「場合によりますが……誰かに告白でもされましたか」
ズバリ、核心を突かれて、赤毛機長は一瞬、椅子の上でほんとに15センチばかり飛び上がった。
「なななななななんでっっっ」
叫んだアシュレイに、
「なんとなくそんな気がしたのですが──」
微笑むクールな機長は、相手が誰かと聞きもしないが、
「テ…ティアがな……アッ! 言っとくけど告白とかじゃないからなっ! たっただ最近接近度が激しいだけだからなッ!!」
先越されたようでうろたえ叫んでしまった機長に、周りの好奇の目が突き刺さる。
ひぃぃと、墓穴続きのアシュレイは真っ赤になったが、クールな機長は静かな顔で、
「それで、どこが好きか、ですか?」
尋ねた。
なんとなく、周囲に薄いフィルターを貼るようなその静けさのおかげなのか、こちらを食い入るように見ているCAたちの興味津々なまなざしは感じても、誰も近づいて来ない。アシュレイはホッとしたと同時に、感謝する。
以前の桂花はいつもそんなフィルターを身にまとっていて、それを突き破って接近したのはたぶん柢王が最初だろう。
誰かを好きになると、傷つくことなど考えずに接近したくなる、そういうものかも知れないと、この機長を恋人にしてしまった親友のことを思うと思えてきてしまうのだが、それが自分のこととなると話は別だ。

子供のときからの親友であるティアのことを、好きか嫌いかといえばもちろん好きで──それも相当かなり大好きなのは間違いないが、ベタベタされるのはちょっと……というかなんだか接近のし方がちょっと……・。好きは好きでもちょっと、違う感じの好きではないかと、赤毛機長が思い始めたのは今日この頃。
(そ、それはクリスタル・アイランドでは人目はばからずに抱き合ったりしたけど──)
 でもあれは、なんていうか感激のハグ? というより憚る以前に誰もいなかったし? とにかく、よこしまな気持ちじゃなくて純粋なものだったのに……。
 あれ以来、ティアの様子がなにかおかしい。
(いや、べたべたするのは前からだよな。それにいっつもメールも来るし、ステイ先にも電話してくるし……)
 それは当たり前のようなことだからいまさらとしても、どうも、
『ねぇ、クリスタル・アイランドって縁結び効果もあるところなのかな? 柢王たちもあそこから同居に踏み切ったわけだし』
 そんな効果あったらCAたちが黙っているとは思えないが?
『私たちも柢王たちにあやかってあの島からスタートするって言うのもいいよねぇ?』
 うっとりと、微笑んでいたあれはなにを意味していたかを、なにか聞いてはいけない気がして聞かなかったのは、この前の近距離フライトの時。サテライトで、日帰り便に乗ってきたティアとお茶を飲んでいたときのことだ。
(いや、あいつが変なのは前からだけど……季節柄かな? 季節の変わり目って変なやつ増えるんだよな?)
 あの目が──なにかティアのあの瞳が──……。
(俺の勘違いかな? それともひょっとして、浜辺で抱き合ったからかな? いや、だけどあれはなんていうか感激のハグ? というより……)
 以下同文。赤毛機長の頭の中を同じことが繰り返されるようになったのは、その、オーナーの自分を見る目がなにか以前と違う気がするから。
 それがなぜかなど、人に聞いても仕方ないのだが、自分を見るティアのハートマークのまなざしに、どんな態度を返していいかわからないアシュレイとしては、なんでもいいから話を聞いてくれる人が欲しかったわけで……
「……おまえと柢王のこととはわけが違うのはわかってるんだ。俺とティアとはずっと幼馴染だし、俺だってティアのことは好きだし、でも、なんか、その……」
「恋人としては好きではない、のですか」
「こっ、恋ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーっ!!!」
 叫んだアシュレイは、ざっと周囲からすごい勢いで突き刺さった視線にウッッと身震いをした。慌てて声を押し殺して、
「おまえなっ、恋人とかって、俺とティアとは違うからなっ! 俺たちはただ親友でっ…」
と、思わず桂花の腕を掴むと、桂花は冷静に、
「人を好きになる規準は人それぞれですし、境界線も一定のものではないとは思いますが──この話は後日の方がいいかも知れませんよ」
 ちらと横目を使ったのに、
「だけど俺たちは違うからっ、俺たちの好きはっ……」
 言いかけたアシュレイは目を見張る。
 なんだか背後から迫ってくるこの気配はなんですか? 例えて言うなら西高東低冬型の気圧配置、頭の後ろの毛がちりちり逆立つような、雲で言うならまっグレイの雷雲なんですけど?

 


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