投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3
その横で無事に返してもらった水城と手をつないだ氷暉が、誰から指輪の事を聞いたのかと冥界教主に尋ねていた。
『君の編集者のおじさんが、担当作家に美談として話して聞かせたのだそうだ』
柢王おじさんの所為か。水城にこんな危ない奴を近付けるとは!氷暉は舌打ちをして、とっておきの情報をテレビカメラに向かって言った。
『柢王おじさんは、桂花おばさん特製の風邪薬を飲まずに会社の机の引き出しに隠しているぞ』
桂花の髪をもてあそびながらなんだこの番組はと笑って見ていた柢王は、ぎくりと手を止めておそるおそる桂花を見た。…桂花の目が笑っていない…
「悪かった」
ごめんなさいと先手必勝で謝る。
先日、柢王はひどい風邪をひいて、それでも仕事は休めなかったので、桂花特製風邪薬を作ってもらったのだ。
効き目は10倍、味は100倍苦い(当社比)
始めはちゃんと飲んでいたのだが、治り始めると飲みたくなくなるのだ。
忙しかった事もあって会社の引き出しに入れていたのを、先日同僚に見つかったが、まさか氷暉に知られていたとは…とんだとばっちりだ。
「…薬は最後まで飲み続けないと、変な耐性がつく事があると吾は言いましたよね?」
「忙しかったから、つい」
「つい?なんです?」
「…終わりよければすべてよし?」
「何が終わったんですか?」
桂花の鋭い突っ込みに柢王はたじたじとなる。
体調の悪いまま働く柢王を桂花が心配して、食欲がなくても食べやすく栄養価の高い料理や特製風邪薬を作ってくれた事は嬉しかったし、感謝もしているのだ。
後で渡そうと思っていたのだけれど。
「なんですか?…これは!」
綺麗にラッピングされた包みを開けると、桂花が欲しいと思っていたスカーフカチューシャだった。値段が高いそれを欲しいと柢王に言った事はなかったのに。
「桂花に絶対似合うと思ったんだ…うん、すっげー美人だ」
桂花にスカーフカチューシャをつけて柢王はにっと笑った。
「柢王…」
「心配かけたからな」
結婚しても感謝の気持ちを忘れないで伝えてくれる、自分が欲しいと思ってた物を柢王もいいと思ってくれる。ささやかな幸せに柢王を魅了してやまない素敵な笑みを桂花は浮かべていた。
「ありがとうございます。ですが、次から薬は最後まで飲んでくださいね」
「うっ…たぶん…」
「たぶんとは何です」
「すっげー苦いんだぜ」
「仕方ありませんね。味に関しては、改良しましょう。それに、風邪などひかないように、体調管理も任せてください」
やっぱり、うちの奥さんは世界一だと柢王は思いながら、点けっぱなしになっていたテレビを横目で見ると、番組はエンドテロップになっていた。
『この番組に出演する新婚さんを募集している。
真実を見つめ夫婦の絆を深めてみないか?
だが、その事が原因で別れても我らは知らぬ。
切れない絆を我らに示してみよ』
なんて恐ろしい番組なのだと脱力して、柢王は桂花の髪に顔をうずめた。
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