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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.228 (2008/06/13 13:58) title:黒海も笑ってる1
Name:薫夜 (51.143.138.210.bf.2iij.net)

「桂花、こっち来て一緒にテレビ見ようぜ」
居間から聞こえた柢王の声に台所で昼食の片付けをしていた桂花は、最後の皿を洗いながら時計を見た。いつの間にかティアとアシュレイが出演する番組の始まる時間になっていたようだ。
「新婚さんを呼んで話を聞く番組でしたか?」
桂花はエプロンを外しながら柢王の隣に座ろうとすると、下から伸びてきた腕に腰を抱きよせられて、柢王の足の間に座らされる。
「そう。アシュレイがこんな幸せそうな新婚さんは他にはいないから是非にって頼まれて、ティアには事後報告で引き受けたらしいぜ」
俺たちだって負けてないけどなと柢王は桂花の腰を抱いたまま笑う。
「ティアさんも私達のラブラブ度をアピールしてくるから、是非見て欲しいとおっしゃってましたね」
「張り切ってたな、どうなる事か楽しみだ」
 
テレビからオープニングテーマが聞こえて、黒髪の二人の男性が優雅にソファーに座っている姿が映る。
『こんにちは。「新婚さん、よく来たね」の司会アウスレーゼと』
ダークグレーのダブルのスーツを見事に着こなした方が、いたずらっぽい微笑を浮かべて言った。
『冥界教主だ。早速、今日の新婚さんに登場してもらおうか』
細身のストライプのスーツを身にまとった方が流し目で登場する場所を示した。
 
「…なあ、桂花。この番組であってるのか?」
「ええ、間違いありませんが…」
笑いながら椅子から転げ落ちる新婚さん番組ではなさそうだし、この二人と新婚さんは似合わない。
 
疑問に思っていると、結婚式を思わせるような曲で、真っ白のタキシードのティアと真っ赤なウェディングドレスのアシュレイが手をつないで登場した。
意外と普通に自己紹介や出会いの話が続いていく。聞き上手な司会者にティアが余計な事まで話しすぎて、照れたアシュレイに怒られる姿が笑いを誘っている。 
『夫婦の間に隠し事があるのではないか?』
アウスレーゼが面白そうに問いかけた。
『ありません』
胸を張って言うティアに、冥界教主が鼻で笑う。
『嘘だな』
『な、何を…』
実はいろいろありますとは言えないティアが焦るのをアシュレイは不思議そうな顔をして見ている。
『証人に登場してもらおうか』
 
優雅に笑った冥界教主の後ろから水城が登場して、冥界教主の膝の上にちょこんと座った。
少し遅れて氷暉がアシュレイ達の後ろから出てきて冥界教主をにらみつける。
『水城を返せ』
『人聞きの悪い事を言うでない。彼女は自分で選んだのだからな』
くくくと笑う冥界教主にアウスレーゼは『お主も悪よのう』と笑って傍観者の構えだ。
ティアとアシュレイは困惑してお互いの顔を見合せた。
『お前の知っている奴らの秘密を話せ』
『くそっ。何も知らん!』
『強情な事よの。これでも白をきるか?』
冥界教主が合図すると後ろにスクリーンが現われて、映像が流れ始める。
 
今より少し幼い水城が「綺麗」とガラスの指輪をうっとり見ている。
氷暉がその値札を見ると「1000円」と。とてもお小遣いで買えるものではないが、毎日のようにガラスの指輪を見に行く妹。
氷暉がティアに何事か囁いて、焦ったティアから「内緒だよ」とお小遣いを貰うところで映像が終わる。
 
冥界教主の指が水城の小さな手にはめられたガラスの指輪をなぞる。
『綺麗な指輪だな。よく似合っている』
『兄さんからのプレゼントなんだ!』
『いい兄さんだな』
自慢する水城に向けた冥界教主の優しい笑顔が氷暉に向けられた瞬間に恐ろしい笑みにかわる。
『…ティア義兄さんは、アルバムの中に壱万円のへそくりを隠している』
観念した氷暉は早口に言った。帰ったら水城に知らない奴についていってはいけない事を教えなければと思いながら。
 
『今日はその金で焼き肉食べ放題だ!』
その言葉を聞いたアシュレイはウキウキとガッツポーズをして、アシュレイの誕生日プレゼントを買おうと思ってたのにとティアは涙目だ。
『あんまりだよ…』
『なんか言ったか?』
『…なんでもありません』
 
弱った顔のティアを見てくつくつ笑う冥界教主にアウスレーゼも笑う。
『なかなか、やるではないか』
『あなたほどではありませんよ』
妖艶で挑発的な冥界教主にこちらは余裕ある大人の微笑みを浮かべるアウスレーゼだ。
『ふふっ…ならば、アシュレイの秘密を教えてあげよう。アシュレイは弟の氷暉とこの間まで一緒にお風呂に入っていたのだよ』
 
何を言われるのかびくびくしていたアシュレイだったが、なんだそんな事かと安心してティアを見ると。
『ずるい!私だって、アシュレイと一緒に入りた…むぐっ…』
慌てたアシュレイの手でティアは口を押さえられた。妻の実家に来てからずっと遠慮してたのに…そうか、みんなが寝たあとならいいのだとその天才的な頭脳でひらめいて、口の前にあるアシュレイの手をペロッと舐めて笑った。
アシュレイが、怒りと羞恥心でドレスと同じくらい真っ赤になって言葉をなくすのをアウスレーゼは楽しそうに見ていた。


No.227 (2008/06/13 13:57) title:夕日も笑ってる
Name:薫夜 (51.143.138.210.bf.2iij.net)

数人の少年に囲まれて、今にも泣き出しそうな少女がいた。
そこに少女の兄が通りかかって「俺の妹に何をする」と少年達に殴りかかった。
けれど、自分より大きな少年達に次第に押され妹を守る事しか出来なくなる。唇が切れ血が流れ始めても少年の戦意は失われない。
殴られても殴られても立ち上がる少年に、少年達も引っ込みがつかなくなっていた。
「俺の兄弟をいじめるなっ!!」
燃えるような赤い髪がそのまま怒りを表しているかのような勢いで走ってきた少女達の姉に、少年達はあわてて逃げ出していった。
 
残されたのは傷ついてぼろぼろの氷暉と、安心して泣き出した水城と憤慨するアシュレイだけ。
「今度見つけたら、ぼこぼこにしてやるっ」
「ありがとう、姉さん」
涙を拭きながら水城が言った。
氷暉は自分の力で妹を助けられなかった悔しさに唇を噛みしめ、泣きだしそうな顔を見られたくなくてその場から逃げ出した。
 
人気のない夕暮れの公園に一人で座っていると、堪えきれない悔し涙が溢れてくる。絶対に強くなってみせると爪が食い込んで血がでるほど拳を握りしめた。
 
どれくらいそうしていたのか、人の気配に顔を上げると水城が隣に座った。
「ありがとう、兄さん」
「…助けたのは、アシュレイ姉さんだ」
「兄さんが来てくれて、嬉しかった」
水城が腕にしがみついて、そこから伝わってくるぬくもりと優しさが、氷暉の荒んだ心を慰めてくれる。
「兄さん、怪我は大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ…っ」
心配そうな水城に平然と答えようとして、忘れていた痛みに呻いてしまう。
「…かっこわる」
「全然、かっこ悪くないよ。兄さんは、あたしの自慢の兄さんなんだから」
胸を張って言い切ってくれる水城に、守りたいものは彼女の笑顔なのだと改めて心に刻みこむと自然と笑みがこぼれた。
「そうだな、水城は俺の大切な妹だ。誰がなんと言おうと、水城の髪は綺麗で俺は好きだからな」
水城が少年達に囲まれていた理由は聞かなくてもわかっていた。珍しい色の髪を触らせろだろう。水城が、髪の色について言われるたびに密かに落ち込んでいるのを知っている。
それなのに、氷暉が落ち込んでいれば慰めてくれるのだ。
へへっと照れたように笑う水城に兄としてまだまだだなと思う氷暉だった。
「そろそろ、夕飯だな。帰るか」
うんと頷いた水城と手をつないで氷暉は歩きだした。「帰ったら傷の手当てしてあげる」
「自分でできる」
「ダメっ!あたしの所為なんだから、やらせて!!痛くて泣いちゃっても気付かないふりするからねっ」
「誰が泣くか」
笑いあう氷暉と水城の影が夕日に長く伸びて重なった。


No.226 (2008/06/13 02:01) title:「邪! サザ○さん」 投稿日延長のお知らせ
Name:ローザリウムスタッフ (211-9-40-190.cust.bit-drive.ne.jp)

投稿作家の皆様、楽しい投稿作を続々とありがとうございます。
「邪! サザ○さん」 投稿日延長のお知らせです。

◆投稿受付期間◆5月1日〜6月15日まで(ここまでで一旦締切ります)となっておりましたが、
6月末まで延長します。明日にでも、投稿ルールのページは改定されますが、一応こちらに書いておきますね。

なお、ご投稿くださった方は、本部までメールをいただけると幸いです。
メールの仕方は、●期間限定『邪!サザ○さん』投稿規約● をご覧ください。
*『投稿小説』の最初の投稿規約ページにあります。


No.225 (2008/06/12 00:12) title:担当編集者殿の憂鬱
Name:えり (wknfb-05p1-122.ppp11.odn.ad.jp)

 日曜日の午後。せっかく晴れなんだしどっか行こうぜ〜とだだをこねる夫にはかまわず、桂花は黙々と書類の整理をしていた。
 もうすぐお中元の時期。
 新婚夫婦には初めてのお中元、桂花の事前準備のおかげで慌てるほどのことはなかったが、礼を失することがないよう慎重に確認はしておかねば。
 住所の書かれたお中元の送り先リストを手に、桂花は柢王を振り返った。
「冥界教主さんって、あなたが担当している作家さんですよね。『配送』に○が付いてますけど、いいんですか?」
「ああ……いや、いいんだ」
 そうですか、と答えながらも桂花は何となく釈然としない。
 叔父夫妻には二人揃って手渡しで届けることになるだろうから、そのときに先方の都合次第では挨拶がてら直接届けることも出来るのに。
 だが、まあいい。柢王にも都合があるのだろう。
 とりあえずリストは整理できたし、あとは品物の手配だけだ。早期割引の適用されるうちに行ってこなくては。
「それじゃ、吾は来週にでもデパートへ行ってきますね」
「んだよ、一人で行く気か?」
 告げると、柢王は不満げにダイニングテーブルで住所録を整理していた桂花を後ろから抱きしめてくる。
「せっかくなんだから、ついでに二人でゆっくりデートしようぜ」
「……今月はもう無駄遣いできませんからね」
 一緒に出かけると『似合うから』と桂花の物をあれこれ買いたがる夫にクギを刺しつつ、甘えるように力を抜いてもたれ掛かる。柢王の指が優しく髪に絡むのを感じながら、桂花はその心地よさに目を閉じた。

「それでさ、お隣の奥さんってうちの母さんと女学校時代の同級生なんだけど綺麗な人なんだよな〜」
 まあ母さんも相当美人だけどな! と照れたように笑うアシュレイ。
 翌日、ご近所さんから頂いたお菓子をおすそわけするため、桂花は磯○家を訪れていた。
 アシュレイの母・ネフィーは確かに美人だが、そのネフィーを見慣れているアシュレイが褒めるのだから綺麗な人なのだろう。だからどうということでもない。それなのにどこか心の中で引っかかったのは……。
「……確か、お隣さんは柢王の担当する……」
「そう、冥界教主さんち。あいつ、しょっちゅう原稿が上がらないからってうちで昼寝していくんだよな。ったく、だらしねえ!」
 桂花のお裾分けしたどら焼きにかじりつきながらアシュレイがぼやく。
「……そんなに綺麗な方なんですか?」
「ああ、李々さん? お前は会ったことなかったっけ?」
 綺麗だし強いしすごい人だぞ〜と笑うアシュレイの言葉の後半は意味がよくわからないが、ますます引っかかる。
 そんなわけがないとはわかってはいても。
(柢王が渋っていたのはもしかしてその人と関係があるのかも、だなんて)
 邪推だとはわかっていても、どうしてもその李々さんとやらに会ってみたいという気持ちが抑えられなくなっていた。

(吾は一体何をやっているんだろう)
 我ながら馬鹿らしい。
 そうは思いながらも足が止まらなかった。
 磯○家を辞したあと、桂花は一人公園にいた。それとなくアシュレイに聞いてみたところ、李々さんは買い物帰りのネフィーさんと公園近くで立ち話をすることがあるらしい。
 今日会えるかどうかはわからない。でも、ひと目顔を見れば気が済む。多分。
 植え込みと木々に身を隠すように公園内を伺っていると、
「桂花さん、そんなとこで何やってるんですか?」
 呆れ気味に声を掛けてきたのは、小脇にテニスラケットを抱えた美少女高校生・水城。冥界教主さんご自慢の一人娘だ。
「……ちょっとね」
 一瞬言葉につまった桂花だが、すぐに冷静さを取り戻す。
 彼女とは磯○家を訪れた際に近所で何度か遭遇しており、既知の間柄。
 犬の散歩中の兄・氷暉にも会ったことがあるのだが、冥界教主さんご夫妻にはまだお目にかかったことがない。
 ふーんと不思議そうに答えた水城だが、砂場の辺りを氷暉とお隣のアシュレイさんが仲良く歩いているのを見つけて唇を引き結ぶ。
「兄さん、またアシュレイさんと……!」
 どうやら浪人生の氷暉は気分転換に犬の散歩に出てきたらしい。そこに買い物途中のアシュレイが遭遇し、一緒にやってきたというところか。
 アシュレイにはお互いベタ惚れの夫・ティアがいるのだから氷暉との間に問題など起ころうはずもないのだが、超ブラコンの水城には耐え難いらしい。桂花の目から見てもアシュレイと氷暉は気が合うらしく仲が良さそうだと見えるのだから、嫉妬するのも仕方のないことかもしれないが。
(……そうか)
 人の振り見て我が振り直せ、ということか。
 いくら柢王が女好きでも、まさか担当作家の奥さんに熱を上げるなんて事はあるはずもないし、何より桂花には彼に心底惚れられているという自負がある。
 ただの邪推で最愛の夫を疑うなんて、我ながらどうかしている。
 自嘲気味に薄く笑った桂花にかまわず水城が大声を上げる。
「あっ、母さん、ちょうどいいところに! 兄さんがまた勉強せずにアシュレイさんと遊んでるっ!」
「まあ水城。そんな大声を出して、はしたないわよ」
 困ったように涼やかに笑う声。
 桂花が顔を上げると、そこには見事な赤毛の美女が婉然と微笑んでいた。

 その夜、柢王が仕事を終えて帰ると、自宅には夕食のいい香りが充満していた。
「おかえりなさい」
「今日は魚の煮付けか〜、美味そうだな」
 ネクタイをゆるめながら鍋の蓋を開けた柢王は、漬け物を切っている桂花に近づくとつまみ食いをしようと手をのばす。と、ぺちんと手の甲をはたかれた。
「駄目です。先に手洗いとうがい」
 ぴしゃりと言いながらも、桂花は笑顔でご機嫌だ。
「なんだ? なんかいいことでもあったのか?」
 妻が笑顔でいるのは夫にも嬉しいこと。思わず柢王も笑顔で訪ねる。
「ええ。ねえ、李々さんっていい方ですね」
「会ったのか?」
「公園で偶然。ご挨拶したらぜひと誘ってくださって、お宅でお茶をごちそうになりました」
「……それだけか?」
「ああ、旦那様にもご挨拶してきましたよ。お似合いのご夫婦ですよね」
「……なんか言われなかったか?」
「別に何も?」
「あのな。あの人と二人きりはぜーったいにやめとけよ!」
 眉間に皺を寄せ、両手で桂花の肩をつかんで真面目くさった顔で柢王が言う。
 いきなりどうしたんです、なんか変ですよと訳のわからない柢王の言葉に不思議そうに訪ね返す桂花だった。一体、李々さんと二人きりになることになんの問題があると?

「そなたの嫁は噂通りの美人だな」
 優美な指先で原稿用紙をめくりながら、着流しを着崩した冥界教主は柢王に流し目をくれる。その凄絶な色気に惑わされる編集者が跡を絶たないという噂の作家だが、作家と編集者としての信頼関係を確立している柢王にはその色香も通用しない。
 そもそも、桂花に出会ったあとではどんな美女だろうが美形だろうが、自分には色あせて見えてしまうというもの。
「先生、ありゃ俺の嫁ですから」
 手出しは無用ですよ、と笑う柢王だが、目は真剣そのもの。
「ほう。原稿がいらんとみえる」
「ご冗談を。脅しても駄目です」
 からかいの色をにじませる笑みにきっぱりとクギを刺す。この程度の煽りに乗っては冥界教主を増長させてしまうだけだ。
(我慢だ、我慢……)
 彼は作家としては尊敬に値する人物なのだが、男女問わず美しい者に目がないのが玉に瑕。
 付き合いが長いだけに好みのタイプも把握している柢王が、桂花をなるべく冥界教主に会わせないよう裏であれこれ画策していた事など当の桂花は知るよしもない。
「ふん、まあよい。今月分の原稿だ、持って行け」
「ありがとうございます。…………確かに」
 丁重に原稿を受け取り、確認をすませた柢王は社に戻るため冥界教主宅を辞した。
 やっぱり、帰ったらもう一度妻に念を押さなくては。
(桂花は俺のもんだ、手ェだされてたまるかっ!)

「あなた、お茶が入りましたよ」
 柢王と入れ替わりに書斎に入ってきた李々。
 温めの玉露を机に置き、にこりと微笑む。
「あまりお若い方をいじめるものではありませんわ。それに……」
 見事な赤毛の美女は、夫をちらりと見やった。
「桂花殿は私の友人でもあります」
 この意味がおわかりよね、と微笑んだ妻に冥界教主も笑む。
 今日もこのあと李々を訪ねて桂花がやってくる予定になっている。自家製の梅酒と梅干しの作り方を教える約束をしているのだ。
「だが、妻の客人に夫の私が挨拶しないわけにもいくまい?」
「あら、お忙しいのだから無理はなさらないで」
 お互い満面の笑みを浮かべる夫婦。
 しかしその笑顔とは対照的に、二人の間には目に見えない火花が飛び散っている。

「……懲りない夫婦だな」
「わかっててやってるもん、ただのコミュニケーションだよ」
 開けっ放しの書斎のドアから見える光景に呆れ気味の兄妹。
「ねえ、父さんたちのことは放っておいておやつ食べようよ。兄さんのためにシフォンケーキ焼いたんだ」
 腕に抱きついて笑顔で見上げてくる妹に優しい目を向け、氷暉は水城を促しリビングに向かった。犬の散歩も、お隣のアシュレイさんにちょっかいを出すのも、勉強の合間の気分転換にはもってこい。しかし氷暉にとっては、妹の明るい笑顔が何よりの気分転換なのだった。


No.224 (2008/06/09 23:38) title:「甘えた」
Name:きなこもち (zaqd37c493c.zaq.ne.jp)

「困ったもんだな。」
「困ったもんですね。」
           やつらだよな。」」
「「ほんとに困った          ・・・・・・・・・・同時に溜息をつく二人だった。
           人たちですよね。」」

うららかな午後、磯○家に集う若妻のおしゃべりタイム。
なぜか表情には陰りが見える。
顔を合わせているのは磯○アシュレイと入○桂花。
アシュレイの従兄の奥さんである桂花は、今ではすっかりアシュレイとその母李々と仲良しだ。
今日も李々お手製のちらし寿司の作り方を教わりにやってきていた。
レシピも教わり一段落ついたのでアシュレイとおしゃべりをし始めたのだが、互いの夫の話になり、話の雲行きが怪しくなっていった。
「ママ、冰玉と公園に行って来てもいい?」その時アシュレイの子供が桂花の子供の手をつないでやって来た。
「おう、いいぞ。でももうすくおやつだからな、すぐ帰って来るんだぞ。」
「冰玉、ジュニアの言うことをちゃんと聞くんですよ。」
母親たちがそれぞれ子供に声をかける。
「「はーい♪」」
子供たちは嬉しそうにかけて行った。そして母親たちの話は続く。
「最近チビティアのやつ物語に興味持っててさ、毎晩寝る前に読んであげてるんだけど。」
「へえー。さすがですね。見かけだけでなく中身までそっくりなんですね。」
桂花に他意はなく、思ったことを口にしただけ。面白くはないがその通りなので、アシュレイも反論はしない。
「まあな。俺は本読むの苦手だし…。それで昨日も読んでたんだけど、そしたらティアのやつが部屋に入ってきてさ。『私にも読んで』って言うんだぜ。」
「家もそうです。子供の足の爪を切ってあげていたら、夜、『俺にも〜』とか言ってきて。しかたないから膝の上で耳掻きしてあげましたよ。」
その時の旦那のしつこさを思い出し、桂花は苦虫を噛み潰したような顔になる。
「俺もさ疲れてたんだけど、『昔は二人で一緒に読んだりしたよね』とか言われてさ。しゃーねーから読んでやってたら、イタズラしてきやがんだぜ!」
「イタズラ―?」その言葉に桂花は片眉をピクリと吊り上げる。
「ああ!やめろって言ってもきかなくて、け、結局、その、読めずに終っちゃたし。」怒ったり赤くなったり、目まぐるしく表情が変わるアシュレイ。
「ガ、ガキみたいだよな。まったく!」
それはガキというより○○○○と言うのでは・・・と心の中で桂花はツッコんだ。
「お前んちはそういうのないのか?柢王はしないか?昔は俺と一緒に色々悪さしてたんだぜー。」ニヤッとしながらアシュレイは聞いた。
無表情を装いながら桂花が答える。
「確かに柢王もよくイタズラしてきますよ。時々付き合ってあげてますけど。」
そう、桂花の夫もアシュレイの夫と似たようなことをする。ただしそれはお互い合意の上のお遊びだ。
「だろー?」やっぱりな、とアシュレイは笑った。
(私は知っていて遊べますけど、貴女は違うでしょう?)無垢というより無知過ぎる義従妹を心配しながらも、この夫婦に若干引き気味の桂花である。
それからしばらくは柢王の下宿時代の思い出話になり、桂花の知らなかった、まだやんちゃで子供な柢王の話で盛り上がったりした。
「あれ?そういえばチビ共遅いな。」ふと、アシュレイがつぶやく。
「そうですね。もうとっくにお腹を空かせて帰って来てもいい頃なのに…。」顔を曇らせて桂花が答える。
にわかに不安が心に広がっていく。母親たちは、急いで公園に向かった。
玄関を出てすぐにジュニアのお友達のリ○ちゃんが、アシュレイたちの来た方に走ってくるのにぶつかった。
「リ○?どうしたんだ!?」自分の名前を呼んだ人に気がついて、リ○ちゃんはアシュレイたちのほうへやって来た。
「あ、おばちゃん!大変なの、公園に大きい犬がいるの!」リ○ちゃんは、必死にアシュレイと桂花に伝えた。
「何ですって!?」それを聞いて真っ青になっている桂花に、「桂花、俺先に行ってる!」それだけ言うと、アシュレイは二人を置いてどんどん走って行った。
あっという間にアシュレイが公園に着いた時、小さな公園の中には二人と一匹しかいなかった。
小さい子がもっと小さい子を必死で背中に庇っている。その子供とほぼ同じ大きさの黒い犬が、向かい合わせに立っていた。
「冰玉、大丈夫だからね。」一生懸命後ろの子供に声をかけるジュニアだが、よく見ると腕や足が震えているのがわかる。
その姿を見たアシュレイは頭の中が真っ白になった。
ようやく桂花が公園に着くと捕物はすでに終っていて、アシュレイの足元には、大きな黒い犬が四足をダランと伸ばし転がっていた。
「ばぶう!」「冰玉!」涙を浮かべて母親の元へ駆け寄ってきた子供を、しっかりと抱きしめる桂花だった。
「桂花、安心しろ。チビ共は無事だぜ。」かかかっと笑うアシュレイに桂花が尋ねる。
「これは貴女が?」と、いつの間にか雑草のツタやそこら辺にあるヒモを使って、縛られている犬を指す。
「ああ、まあな。」
「ありがとうございます、アシュレイ殿。」心の底から感謝の意を述べる桂花だった。
「立派だったぜ、冰玉。よく泣かずに我慢したな。」アシュレイは冰玉の頭を撫でる。そしてくるっと振り返ると、傍に立っていた自分の息子の頭も撫でてやった。
「チビティア、お前もよく頑張ったな。頑張って小さい冰玉守ったんだろ、偉いぞ!」そう誉めてやると、ジュニアは「ふぇーん。」と咳を切ったように泣き出し、母親の膝に抱きつく。
「よしよし。」そんな我が子をアシュレイは優しく抱きとめ、ずっと背中をさすってあげてやるのだった。

その後。
あまりに緊張し過ぎた反動か、チビティアはいつも以上に母親にべったりとくっついていた。
夕食の支度をしていても、母親のエプロンの裾をつかんで離さない。
食事をしていても食べさせてとアーンする。
もちろんお風呂も一緒。最近は弟妹かお祖父ちゃんと入ってくれていたのに、しかたなくアシュレイは順番を早めて入ることになった。
とにかく早く寝かそうとチビティアに絵本を読んでいると、仕事から帰って来たティアが部屋に入って来た。
「あ、パパ!」
「おかえり、ティア。」
「ただいま。」
にこにこと笑っている我が子と、今朝よりもやつれたように見える愛妻が布団に寝そべっていた。
「ティア、ちょっとチビ寝かしつけといてくれよ。俺、母さんの手伝いしてくっから。」
「え〜、私も今帰ってきたところなのに?」
今日は玄関に出迎えてもくれないと、内心ティアはご機嫌斜め。
「頼む。ずっと任せっきりなんだ。お前のご飯の支度もしてきたいし。」両手で顔の前に拝まれ上目遣いをされると、ティアは何も言えなくなる。
「わかったよ。」
「サンキュ。」そそくさとアシュレイは部屋を出て行った。
「さ、ジュニア。ママは用事があるから、今日は私が読んであげるよ。」
ジュニアの隣に寝転びながら、ティアは絵本を開いて読み聞かせをしようとすると、子供がぐいぐいとティアのワイシャツの袖を引っ張る。
「ん、何?」
「あのね、パパ。今日ママ凄かったの!」チビティアは目をキラキラさせながら、父親に今日あった出来事を話し始めた。
「僕が冰玉と遊んでたら大きな犬が現れたんです。ビックリしてどうしようと思ってたら、ママがやって来てその大きい犬をガツンって殴ってやっつけたんですよ!!」
「ママ、とってもカッコ良かったなー。」
うっとりと話す子供に、アシュレイらしいと嬉しく思いながら、ティアはさすがママだよね、と同意した。
「僕決めました!」
「何を?」まだ微笑みを浮かべているティア。
「将来ママを僕のお嫁さんにします!!」高らかに宣言するジュニアだった。
ティアの表情がすーっと無くなる。
「…コホン。あのね、ジュニア。ママはパパのお嫁さんだから、君のお嫁さんにはなれないんだよ。」
ティアはわざとらしく咳払いした。
落ち着け相手は子供だ、しかも自分の子だ。そう言い聞かせて動揺を隠そうとする。
「どうしてですか?ママは僕のこと好きですよ。」きょとんとしてジュニアは言った。
「好きには色々な種類があるんだよ。君を好きという気持ちと、パパを好きという気持ちは別なんだ。」
子供相手にあしらうことも出来ずに、真面目に答えてしまうティアだった。
「そんなの、僕が大きくなったら変わるかもしれないでしょう。」ジュニアもなかなか負けていない。
ティアの頬がひくっと引き攣る。
「それじゃ理由を言ってあげよう。一番の理由は君とママは血が繋がってるから、結婚出来ないということなんだよ。」
「血が繋がってるから?僕はママと結婚できないんですか?」ジュニアはショックを受け、ぽろぽろと泣き出してしまう。
「えっと、ジュニア。つまりそれはね・・・・・」ティアがどう宥めようか迷っていると、ガラッと襖戸が開く。
「どうした、チビティア!」血相変えてアシュレイが部屋に入って来た。
「ママぁ。」ふぇ、ぐすっと泣きじゃくる息子を抱きしめると、ティアをキッと睨みつけた。
「もう何やってんだよ!寝かしつけてくれって言ったろ!?」
「わ、悪かった、アシュレイ。」降参のポーズをとる旦那はもう放っといて、アシュレイはさっさとジュニアを布団にくるむ。
ティアはすごすごとお風呂場に向かうのだった…。

結局李々に給仕をしてもらい部屋に戻ると、ちょうど眠い目を擦りながらアシュレイが布団から起き上がったところだった。
「あ、悪いティア。お前のご飯・・・」
「それはもうお義母さんにして貰ったよ。ねえ、それより――」
ティアの影がアシュレイの顔にかかる。
「な、何だよ。」焦ってアシュレイは尋ねた。
「それより、君は私の恋人だよね?」
「は?ま、まあそうだな。お前の奥さんだよな。」訳がわからずアシュレイは答えた。
「違うよ、恋人だよ!こ・い・び・と。プロポーズした時言ったじゃない。」
まさか忘れてないよね?とティアが四つん這いのまま近寄ってくるのに、アシュレイは腰を引いて思わず後擦さってしまった。
「あ、ああ。言った。確かに言った。」
ティアの目が座っていて口調があまりにも真剣だったので、俺何か悪いことしたかな、と本気で心配してしまうアシュレイだった。
「じゃあ、もっと私のこともかまって。」
「は!?」今度こそ訳がわからない。
「君さ、ジュニアが生まれてから、私のことなんてどうでもいいと思ってない?」
ようやく夫の不機嫌の原因が明らかになり、アシュレイの気持ちも落ち着いてきた。
つまり自分の夫は自分の子供に焼きもちを焼いているのだ。
「ったく、お前は〜〜〜。」
結婚するまで、なんて冷静沈着な男性(ひと)なんだろうと、外見の美しさだけでなく自分と正反対の中身に惚れたと思っていたのに、結婚してから実はとんでもなく甘えん坊だということに気がついた。
「アシュレイ…。」
どんどん顔を近づけてくるティアの顎をぐいっと押す。
「うざい!」
「えっ!!」
「お前は昼間会社に行ってるからいいけどさ、俺1日中チビティアと一緒にいるんだぜ。しかも今日なんて俺にべーったりくっついてくるしさ。ようやくチビを寝かしつけたのに、今度はお前のお守りなんて出来るか!」
「24時間朝も夜も同じ顔で見飽きた!!」アシュレイはそう言うと、ティアを押しのけてさっさと布団に潜った。
あっという間に寝息を立てている愛妻に、外では眉目秀麗で通っている夫はまだ固まったままだ。
「ア、アシュレイ、そんなあ〜〜〜・・・。」
アシュレイに言われた言葉が頭の中を駆け巡り、いつまでも離れないティアだった。
そして翌日決意する。今度はアシュレイそっくりな女の子を作ろうと。


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