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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.192 (2008/05/02 23:21) title:あしたもいい天気(下)
Name: (200.141.150.220.ap.yournet.ne.jp)

 アシュレイを帰したちょうど一時間後に帰宅した柢王を、桂花は嬉しそうに出迎えた。
「今日はずいぶん早いですね」
「雹が降るかもな。四海先生が珍しく〆切前に原稿を書き上げてたんだ」
「それは珍しいですね。降りますよ、雹」
 何気に失礼な発言をしつつ桂花は夫のカバンと書店の袋を受ける。
「今日、アシュレイ殿がいらしたんですよ。一時間ほど前に帰られましたが」
「なんだ、あいつまた来てたのか」
「えぇ。例のごとく、どら猫を追ってました」
「プッ、それでまた保護してくれたんだな?サンキュ」
 柢王は外したネクタイを桂花に渡し、靴下を脱いだ。
「でも、あんまアシュレイを甘やかすなよ。迷子になったって大人なんだからほっといても平気だって」
 う〜ん、と伸びをしてシャツを脱ぎながら柢王は風呂場へと向かう。
「ほっといたら何があるかわかりませんよ?今日だって・・・」
 言いかけて桂花は口をつぐむ。あの妙な夫婦のことを話して、わざわざ柢王に心配をかけることはないだろう。それに、きっかけを作ってしまったのは自分で、アシュレイのせいではない。
「今日だって?」
「今日だって・・・吾が居合わせなければ、今ごろまだ迷ってましたよ。迷子になったって認める人じゃありませんから、意地になってドツボにはまり続けるのがオチです」
「ハハッ言えてる。で、ティアが必死に探しまわって、それでも見つからないと半べそで俺たちに捜索願い出すんだろ」
「そうです。だから見かけたら即、保護です」
「保護だな」
 クスクス笑う妻の肩を抱いて、柢王は自分が風呂に入っているあいだに書店で買ってきた本を見ておくよう、告げた。
「なんの本だか」
 先日など、『新妻も喜ぶアノ手コノ手』などというタダレた本を買ってきた夫だ、ろくな物ではないだろう。
 しかも、「こんなヌルイのぜんっぜんダメだ!」とかなんとか喚いていたくせに懲りてないらしい。
 ため息をついて袋から本を取りだした桂花の動きがとまる。

『二人のカワイイ赤ちゃんのために、最強!幸運!の名付け本』

「・・・なんて・・無駄に長いタイトル」
 苦笑しながら桂花はどこかホッとしていた。
 もしかしたら、多忙な夫は子供のことなど頭にないのかもしれない、と思っていたから。
「吾との間に子供を望んでくれている・・」
 苦笑が微笑に変わり、胸がいっぱいになる。
 さっそく読み始めると、画数によって吉凶があるとか漢字の意味だとかが細かく説明されていて、なかなか興味深い。
 桂花はいつのまにか夢中になってあちこちのページをめくっていた。
「いい名前つけような」
 気づけば柢王が風呂から上がって、冷蔵庫のビールをとっている。
「けっこう面白いですね、この本」
 桂花は栞をはさむと柢王のいるダイニングへ向かった。
「俺、いくつか候補にあげてるのがあるんだ」
「吾も・・・実は考えていたのがあるんです。調べてみたら総合で見てもなかなかいいみたい」
 桂花は柢王から缶をとりあげると、ひとくち含んですぐに返した。
「吾も子供は欲しいけど・・・でも、もうしばらくはあなたと二人きりの生活を楽しみたい」
 甘えたようにもたれかかって来た桂花の体を、柢王はそのまま軽々抱きあげた。
「おまえ逆効果。今すぐにでも懐妊させちまいそー」
「ばか・・」
 時計の針が日付を変えるにはまだまだ時間がある。
 柢王は久しぶりにたっっっぷりと妻を可愛がることに決めた。
                                

「そう。奥さん、見ちゃったんだ・・驚いたでしょ」
 夕食のあとかたづけを早々に済ませ、部屋に引きあげたアシュレイは、今日のできごとをティアに話していた。
 氷暉とのことは「聞かなかったこと」決定のため、報告の必要はない。
「あれは大変そうだ。今日だって家にいたってことは欠勤したってことだろ?」
「ふふ、でもサボリじゃないよ?有休。大事な記念日なんだって。あの夫婦はね、大変そうに見えるけどうまくいってるんだ。傍目から見たらそうは思えなくてもね」
 夫婦って面白いね。とつぶやいてティアはごろんと横になった。
「私は君と一緒になれて本当に幸せだよ」
 にっこりと笑うティアにつられて、「俺も」と素直にアシュレイも頷く。
「結婚してすぐに借りた家のころも、二人きりの幸せはあったけど、大家族の良さを知らなかったもの」
「ごめん・・・あの時、俺のせいで・・・」
「あやまらないで。あの時、君がリス(タマ)を拾ってきて大家さんとケンカしなければこの家には来ていなかっただろう?ここに来て、初めて私は本当の家族にしてもらえた気がする」
「あの大家は頭きたよなー。リス飼うなら出てけって頭ごなしに怒鳴りやがって」
「でもそのおかげで今がある。私は満足だよ」
――――嬉しい。
 自分の実家に入ってくれただけでもありがたいというのに、嫌がるどころか幸せだと言ってもらえるなんて。
「ティア、俺ぜったいお前を大事にする」
「アシュレイ・・・私も。君と君の家族を・・今では私の家族でもあるこの家のみんなを護ると誓うよ」
 座っているアシュレイの手を握りしめ、心の中でティアはため息をつく。
(早く日曜日にならないかな)
 しかし、いざ日曜日になると、今度はだんだん気分が重くなっていくのだ。
 子供の頃でさえ、日曜日を特別なものだとは思っていなかった。
 同級生たちが口を揃えて「日曜日の夕方は憂鬱になる」と言っていたが、自分にはまったくその気持ちがわからなかった。
 なのに今ごろ・・・結婚してから、身にしみてそれがわかるのだ。
 明日からまた会社だと思うと憂鬱になる。
 アシュレイとずっと家にいたい。それが無理ならポケットかカバンにアシュレイを忍ばせて出勤したい。
 四六時中アシュレイといたい。
 こんな風に、ティアは結婚してからというもの毎週日曜日の夕方から憂鬱な気分になるのだった。
「?」
 横になったまま物思いにふけっていたティアは、手のひらをくすぐられているような感覚を覚え我にかえる。
「なにしてるの?」
 声をかけるとアシュレイはパッとその手を離した。
「どうかした?」
「今日さ、桂花に借りた雑誌に手相占いが載ってたんだ。生命線って知ってるか?」
「うん」
「そこが途切れてると・・・・短命だったりするんだって・・」
「うん?」
 アシュレイがなにを謂わんとしているのか察することができずにティアは首をかしげた。
「お前の線、途切れてるみたいに見える」
 不安そうな瞳を向けるアシュレイに慌てて起き上がったティアは、そっと妻を抱きしめた。
「やだな、大丈夫だよ。私は君を置いていなくなったりしないよ」
「うん・・・」
「それで君、私の生命線を延ばしてくれてたの?」
「こうすれば線が長くなって、長生きできそうだろ?」
 再びティアの手をとり、アシュレイはそこをなぞった。
「〜〜〜〜アシュレイ・・・」
 感動して涙ぐんだティアが視線を落とすと、アシュレイの指先は見当ちがいな線をなぞっている。
「まいったな・・・・ほんとに君は――――かわいすぎるっ!」
「ぅわっ?!」
 後ろにひっくり返ったアシュレイは、それでも後頭部をティアの手に包まれていたので痛くはない。
「ねぇ・・・そろそろ欲しくない?」
「なにを」
「私たちの赤ちゃん」
「赤っ・・」
 顔をまっかに染めた妻をひときわ強く抱きしめたティアは、これまたまっかになった耳元で優しくささやいた。
「生まれてくる赤ちゃんは、君似のかわいくて元気いっぱいな子がいいな」

 ずっといっしょ。ずっと愛してる。

 きっと―――――あしたもいい天気。


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