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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.124 (2007/06/12 12:52) title:ALL ABOUT MY LOVER ? ─The Addition of Colors─
Name:しおみ (softbank126113104026.bbtec.net)


「ねぇ、アシュレイ、覚えてる? 私たちの幼稚園の卒園アルバムに『オール・アバウト・マイ・フレンド』って、みんなの
寄せ書きがあったじゃない? みんなで一言ずつその子について知ってることを書いたページだけど」
 最上階のオーナー・ルームで、幼馴染で雇用主のティアランディアにそういわれて、天界航空新米機長アシュレイ・ロー・ラ・ダイは
あああと頷いた。今日は夜間のフライトだが、株主総会前で『ちょっとあの世に片足突っ込んだようなイッちゃってる状態』で、
働いていると聞いたティアの様子を見るために早めに来たのだ。
「なんかあったな。皆の知ってること集めたら、そいつの情報できますよ、みたいな」
 思い出して見るが、なにせ幼稚園の頃。しかも子供の時からぶっきらぼうで、感情をうまく表現できなかったアシュレイは、
『こわい』とか『よく怒る』とかあんまりいいコメントを書かれた記憶がなかった。
 そこへ行くと物腰が優しくてきれいなティアはみんなの人気者だった。あまりにみんながいいことを書くので、アシュレイはただ
『俺の友達』としか書けなかった気がする。本当は『とても大事な友達』と書きたかったのに。
 が、幸いティアはその不器用な昔話にはこだわっていないらしい。数日で少しやつれて心なしか遠い目をしながらも、アシュレイの
側に腰かけて、
「昨夜、アルバム見て懐かしくて。いまの君のことだったらどのくらい書けるかなーと思って」
 書いてみた、と微笑むティアにアシュレイは目を見張る。
 もうひとりの親友である柢王なら、
『こんなことしてっからノイローゼ寸前まで慌てて仕事すんだろーがよっ、家帰ったら早く寝ろっつーの!』
と、つっこむところだが、アシュレイはすなおに驚いた。忙しいのにそんなことを? 差し出されたレポート状のものをめくってみる。
『オール・アバウト・マイ・アシュレイ』──ちょっと気になるタイトルだが、もじっているからだろう。
 ピンクの用紙に手書きのリストは、
  『ストロベリー・ブロンド。ルビー色の瞳……』
などアシュレイの外見から始まって、性格は、
  『正義感が強い。頑張りやさん。不言実行型』
など、ふつうの人なら『頑固・負けず嫌い・不器用』と書くところを優しい言葉で誉めてくれている。
 フライト暦や経歴はもちろん、個人的なこともあり、ティアにしてくれたことのリストも長くて、なかでも一番大きく書かれているのは、
  『機長になってくれたこと』『私を乗せて飛んでくれたこ と』。
本当に嬉しかったとピンクの文字で書き添えられている。
 アシュレイはジーンとした。子供の時からティアはアシュレイのことを優しく見守ってくれた。それはわかっているけれど、
そうして改めて書かれていると、本当にずっと側にいて大事だと思う気持ちが一方通行なものではないと証明されているようで、
胸の中があたたかくなる。
 が、それを表立って表すのは照れくさい。傍らで疲れているのか少し遠い目をしながらも、にこにこ微笑んでいるティアにわざと、
「おまえな、こんな細かいこと書いてるとストーカーだと思われるぞ」
 言いながらページをめくる。
  『アシュレイの好きなもの。フライト。飛行機。B社の模型飛行機。航空図鑑(しばらく航空関係続く)…。
   小動物(リスとかウサギとか続く)…お餅。激辛料理(しばらくエスニック系続く)』
 ほんとに何でも知っていてくれる友達だ。
  『ネルのパジャマ(ウサギつき)。抱き枕(グラインダーズ主任からの誕生祝い)。マジックボール(柢王のお土産)』
 そんなことまで──…・いつ、話したっけ? 下着は綿とかそんなこと、話した記憶全くないけど? 
 首を傾げたアシュレイは、リストの最後に燦然と輝く金色のマジックで書かれた言葉に目を見張る。
 『それにもちろん、わ・た・し?』
 でっかいハートマークの下に署名欄があるのは何かの契約書なのかーっ。
「ねぇ、間違ってないよね?」
 うっとりしたような顔で微笑むティアに、アシュレイはああぁと頷いた。頷きながら、こういう危険な匂いのするオーナーの
ことは誰かに相談した方がいいと言う予感が強くした──

「つーか、ティアがあぶない奴だってことくらいアシュレイだってわかってるはずだろーに」
 荷物を引きずって車まで歩きながら、柢王は隣りの桂花に笑みを見せた。
「オーナーもきっと株主総会前で煮詰まって妄想に逃亡なさったんでしょう。気にしなくていいと答えてはおきましたが、あなたも
会う機会があったら気にかけてあげてください」
 スーツケース片手に隣りを歩く桂花も笑みを返す。
 星の出る時刻──ふたりは同じ日数のロング・フライトで家をあけて、戻ってきたところだ。到着時間が三十分ほどずれるだけだから、
本社で待ち合わせて一緒に帰ろうといったのは柢王で、会うのは四日ぶり。連休前だし、食事もすませて帰る予定だった。
 それで先についた桂花は手続きを終えた後、ティールームにいたのだが──
 深刻な顔で入って来たアシュレイが、桂花を見つけると、あっと叫んで駆け寄ってきて、
「なあ、聞いていーかっ、あのなあのなっっ」
 変な人の変さはどこからが変でどこまでは熱烈な友情だと思うか、と相談されたことからティアのことが明らかになったというわけだった。
「でも、オーナーはアシュレイ機長が本当に大事なんでしょうね。以前にもあなたから聞きましたが」
 駐車場に止まった柢王の車の前で、桂花はそう言って微笑んだ。柢王はトランクに桂花のスーツケースを軽々と押し込みながら、
「必要以上に好きだよな。けど、まあそんなリストとか作られたらこいつもヤバイかって疑いたくもなるのはわかるわ。企業の
オーナーって結構自分に面と向って意見してくれる奴もないし、宗教とかそーゆーこの世から外れた路線に走りたがるって聞いたこと
あるけど、ティアの場合は物心ついたときからアシュレイ教だかんなぁ」
 自分のスーツケースも押し込んでバンっとトランクを閉める。
「仲がいいのはいいことですね。それに、そういう何でも知っている友達がいるというのもいいことだと思いますよ」
 微笑むクールな機長は他人の家で育ってきた人物だ。母親代わりの人物は愛情深く常識的だったが、その亭主は名うての変態。
かれの場合は、宗教には走らず、万事突き放した冷静な大人になったのだが。
 柢王は瞳を優しくした。人前でいちゃつくと怒られるが、幸い、いまは他に人影はない。長い髪のきれいな恋人の腕を掴まえると
自分の方に引き寄せて、
「リストがほしいなら俺が作ってやるよ。おまえのこと全部書き出したラバーズ・リスト」
 囁くのに、クールな恋人はくすりと笑う。おなじく囁く声で、
「全部…って、そんなに書くことありますか」
 尋ねるのに、柢王は笑って、
「まだ教えて欲しいこともいっぱいあるけどな。とりあえず好きなものはベジタリアン料理とか、服なら白が似合うとか」
 囁きながら、恋人の耳元に唇を寄せて、
「アノ時は向い合わせが一番イイとか、結構玄関先でのチューも好き、とか、さ……」
 低くそう吹き込んで、にやりとその瞳を覗き込むのに、クールな美人も瞳を細め、
「それは、あなたの好きなこと、ですよ?」
「へぇ? そんなら確かめてみようぜ?」
 黒髪の恋人は恋人の顎を持ち上げる。
 とりあえず、さわりだけ確かめてみた恋人たちは、食事の予定もキャンセルで家に直行した。
 それ以降の時間は『オール・アダルト・マイ・ラバー』、R18・覗き見厳禁だ。

 そんなカップルのアダルトぶりなど知らない上空の機長は、クールな機長が冥界航空では定番だと教えてくれたおまじないを
心で必死に唱えながらフライトしていた。
(今日見たのはオーロラか蜃気楼、忘れろ忘れろ、俺はなにも見なかった──)

 そんな機長と、地上で、煮詰まっていた時に書いたリストの最終項目にいまさら気づいて蒼白になったオーナーとがラバーズになる予定は、
いまのところ、ない──


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