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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.109 (2007/05/09 22:35) title:蒼天の伝言
Name:モリヤマ (i220-221-231-207.s02.a018.ap.plala.or.jp)

 
(↓以下は、NO.98〜NO.99「蒼天の行方」とここの前後の「統一地方選挙」のミックス(?)になってます。軽く…深く追求せずに、軽く読んでいただければ…幸いです)
 
 
 
 後戻りはできない。
 自分の意志でここまで来たのだ。
 ……掌に、爪が食い込むほど強く拳を握り締める。
 懐かしい空に背を向けて、声にならない痛みに堪えるように、桂花は強く目を閉じた。
 
 
 そうして、次に目を開けたとき。
「…………っっ」
 桂花は目の前に立つ物体に、思わず息を呑み、部屋の隅まで一気に後退った。
『つんつん、久シブリ。』
「…ど、どうして、あなたがここに」
『遊ビニ 来テミタ。』
「来なくていいです」
『つんつん、冷タイ…』
「冷たくて結構。さようなら」
『ダッテ、我、ココデ あしゅれい ト 待チ合ワセ中』
「ここでって…」
 なんて傍迷惑な……。
 そう思い、桂花が懐かしい(?)デンゴン君を追い返そうとしたとき、扉が開いた。
 
「桂花! 大丈夫…か…? なっ…なんだ、それはっ!?」
 桂花を心配して急いで戻ってきたカイシャンの目が、奇天烈な銀人形に釘付けになる。
『ソレ、ッテ……。失礼ナ 子供ダナ』
「うわっ、なっ……こいつ、喋ったぞ! 桂花、聞いたか!?」
『コイツ、ッテ。つんつん、言ッテヤッテ。モウ。……我ハ 神ナリ。オマエ、チョット失礼スギルゾ。つんつん2号』
「2号…って。なんですか、それは」
『ダッテ、ソイツノ髪ノ毛 少シダケド つんつん 立ッテル。』
「…………」
 前はもっとツンツクツンで、やっとでここまで収まってきたところなんだとは、カイシャンの前ではいえない桂花だった。
 
「桂花、桂花、凄いぞ!! おまえ、ゲルでこんなもの作ってたのか!? 陛下もこれを見たらきっと驚くだろうな。…桂花、これ陛下に見せてきてもいいかっ!?」
 だが当のカイシャンは、人形の言葉を聴いているのかいないのか(たぶん聴いてない)、おおはしゃぎだ。
 桂花もそんなにキラキラした期待の瞳で尋ねられては、嫌とはいえない。
「…吾も行きます」
 そういうと、桂花はデンゴン君をひょいと持ち上げ、カイシャンとともに部屋を後にした。
『チョット待ッテ。つんつん、ドコ行クツモリ? つんつん! つんつん ッテバ!!』
 
 そうして、フビライの御前。
『ナルホド、ソナタガ ふびらい カ。』
 ときに甘えん坊なデンゴン君だが、腐っても三界主天様・作。締めるときは締める人形だ。
「おおっ…。なんと見事なからくり人形じゃ!」
「いえ、まあ…その…」
「桂花、この人形、儂に譲ってはくれぬか!」
 そう言って、桂花の手の中のデンゴン君を奪い、自分の目の前まで持ち上げ見とれるフビライ。
「見れば見るほど、なんと面妖な…」
『……子供バカリカ ジジイ マデ 失礼ダナ』
「はっ! なんとおもしろい! このフビライをジジイとは!」
 楽しげに笑うフビライに、桂花は冷や汗タラタラだ。
「陛下、それは吾が作ったのではなく…」
「なんと! ではどこの誰が!?」
「………」
 桂花にしては歯切れの悪い物言いに、フビライも気にかかる。
「陛下」
 そこへカイシャンが声をかけた。
「陛下、それは、神なのだそうです」
「神、とな?」
「はい、それが自分でそういいました」
「ほぉ…。ますますおもしろい!」
『オモシロクナイヤイ。つんつん、あしゅれい ハ? 我ハ、あしゅれい ト 遊ビタイ』
「神は、あしゅれい、とやらを所望か!?」
『ウン』
「で、あしゅれい、とは神のなんなのだ?」
『あしゅれい ハ… 』
 
と、デンゴン君がうっとりとアシュレイについて語ろうとすると…
 
「残念ですが、ここまでです」
『ナニガ?』
 デンゴン君のあどけない質問など気にもとめず、桂花は声をひそめて続けた。
「陛下、この人形は吾が作ったものではありませんが、実はこの人形には呪いが…」
「なんと!?」
「ほら、ここに…」
と、桂花はフビライから人形を受け取り、デンゴン君の額を指差す。
「なんじゃ、それは…」
「陛下…。これこそが、呪いの『選管マーク』なのです」
「…だから。なんじゃ、それは」
「これは、国や領地を治める王のところに突然現れ、その地位から引き摺り下ろしたり、治世を混乱に陥れる人形であり、この印はその混乱を見守り管理する、邪悪な印なのでございます」
「…よくわからんが、よくないものだということか…?」
「はい」
 桂花の答えに、フビライはいまだ意味不明ながらも、さきほどの桂花の歯切れの悪さにもようやく得心がいった。
「普段はお茶目な人形なのですが」
「ふぅむ…」
 ふたりが声を潜めて話し出してから、カイシャンは少し下がっていた。
 そのカイシャンに、人形が不思議そうに話しかけた。
『…オマエ、確カ つんつん ノ 相方 ダロ? ナンデ チッチャク ナッタンダ?』
 …は?とカイシャンが聞き返そうとした瞬間、
「ああっ…!!」
 桂花が盛大にうめき声をあげてその場にうずくまった。全力でデンゴン君の口を封じながら。
「どうした、桂花!」
「桂花殿!」
 フビライや周りに控えていた者たちの声があちこちであがる。
「桂花っ、まだ具合が悪かったのか!? 陛下っ…!」
「うむ。ひとりで大丈夫か?」
「はい!」
 カイシャンは、すぐに陛下に退出の許しを得、桂花を抱き起こしてその場をあとにした。
 
 
「…ごめん。俺がその人形を陛下に見せに行くって言ったから…。だから、おまえまだ具合よくなかったのに…」
 桂花を支えてゆっくり歩きながら、カイシャンは桂花に謝った。
「吾は、いつでも自分の意志で動きます。あなたのせいじゃありませんよ」
「…桂花」
『・・・ク、苦シイッテバ、つんつん…!』
「…あ、ああ。すみません」
 桂花は、塞ぎっぱなしだった人形の口から自分の手を外した。
『モウ、死ヌカト 思ッタジャナイカ!』
 
(死ぬんですか? というか、息してるんですか?)
 
と心で疑問がスパークしたが、桂花はそこらへんを一切スルーした。それは桂花が長く生きる中で自然と身につけた処世術のひとつだった。
 
「おまえ、呼吸してるのか!?」
 驚いたようにカイシャンが叫ぶ。
『生キテンダカラ、当然ダロ!』
「おまえ、生きてるのか!?」
『我ガ 死ンデルヨウニ 見エンノカ!』
 
 ……たとえ柢王の転生とはいえ、この目の前の子供はまだこの世に生を受けてたった10年…もうすぐ11年にしかならないのだ。
 スルー、などという高級テクがあろうはずもない。
 だが、この馴れた感じのボケとツッコミはなんなんだ一体…。
 桂花は、真剣に頭痛を覚えた。
「桂花、桂花っ! この人形、すごく可愛いなっ!」
『…ナンダ、オマエ、イイ奴ジャナイカ。』
 
「…………カイシャン様。大変申し訳ございませんが。」
「なんだ?」
「この人形のことはお忘れになって下さい」
「…なんでだ?」
「この人形は…」
 
 そのとき、ふたりを閃光が包んだ。
 
 
 
『あしゅれい ガ 来タカラ 行ク。つんつん、マタナ』
「…ったく、なんでこんなとこ待ち合わせ場所にしたんだよ」
『ダッテ、つんつん ト 相方 、人間界デ ドウシテルカナッテ思ッテ。あうすれーぜ、教エテクレナインダモン。…デモ、一緒デ ヨカッタ。』
「…全く、おまえは可愛い奴だよな」
 
 
 
 まばゆい光りの中で、桂花の目に、赤い光が銀の光を愛しそうに腕に抱いて空に上っていくのが見えた。
 
「…い、今の、なんだったんだ、いったい」
 カイシャンの問いに、桂花もしばし言葉が見つからない。
「でも…空耳かもしれないけど、俺、なにか聴こえた気がする」
「え…?」
「桂花は聴こえなかったか?」
「…なんて?」
「たぶん、あの人形の声だと思うんだけど……安心した、って」
(安心した……?)
 それは…いったいどういうことなのか…。
 桂花には、言葉の意味がつかめない。
 ましてや人形の心など……。
 
 それでも桂花は、なぜか、とても泣きたい気持ちに襲われていた。
 
 
(終)
 
 
 


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