投稿(妄想)小説の部屋

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No.47 (2000/06/14 08:56) 投稿者:綾乃

媚薬

「媚薬、ですか?」
 綺麗な眉を吊り上げて、桂花は柢王をまじまじと見つめ返した。
「勿論作れますけど、そんなもの、どうするつもりですか?あなたにそれ以上元気になられたら、吾の身体が持たないんですが。それとも、」
 そこでゆっくりと腕組みをする。
「何か別の用途をお考えですか?」
「いや、ええとだな。単なる好奇心というか。ほら、よく聞くけど、実際どんなものなのかなあっと・・」
 桂花の機嫌をとるような笑顔をうかべながら、柢王は意味もなく手をパタパタと振ってみせる。
「まったく、これで王子とはね。一体どこからそういう知識を仕入れるんだか。どうせ、市中で使ってみようという魂胆でしょう? 大した効果はないですよ。どっちにしろ、一時的な作用なんですから。」
「お前も使ったことあるのか?」
桂花の眉が、さらに吊り上る。
「自作のはありません。でも、これでもあなたより長生きしてるんです。いろんな事をしたがる輩は多いんですよ。」
 柢王のニヤニヤ笑いが消える。桂花の過去に、どういうことがあったのか、自分は全て知っているわけではない。しかし、決して幸福な思い出だったのではないことは、何となく察している。そんな過去の傷に触れてしまった気がして、思わず柢王は黙ってしまった。
「それに、天界人の血中成分と魔族や人間の血中成分は違うんです。ですから、市中で使っても効果はないと思いますが。」
「あ、そっか・・・」
「残念でした。」
 この話題は終わり、とばかりに、桂花は広げていた薬草の調合道具を片付け始める。
「いや、市中で使うっていうんじゃないんだ。」
 桂花の手元をぼんやり見ながら、柢王がつぶやく。桂花の手が止まる。
「え?」
「いや・・・何となく、いつも思っていたんだが・・俺、あんまり我慢がきかないタチだから・・一方的に受け止めるお前が、俺と同じだけ楽しんでいるのか気になって・・・。」
 桂花の目が丸くなる。
「そんなことを気にしていたんですか?」
「そんなことって・・・気になるさ・・、もちろん・・・」
 そういうことか。
 桂花は思わず笑ってしまう。
 湧きあがってくる愛しさに耐え兼ねて、うつむいてしまった柢王を、そっと抱きしめる。この人は、わからないのだろうか、彼に抱かれている時、自分がどんなに幸せか、どんなに満たされているのか・・・
「桂花?」
「媚薬なんかいりませんよ。そんなものいらない。」
「・・・・・・。」
「わかっていますか? 私にとっては、あなた自身が媚薬なんです。」
「桂花・・・」
「抱き返してくる強い腕にもたれながら、桂花はそっとつぶやいた。
「あなたしか、いらない。」


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