投稿(妄想)小説の部屋

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No.6 (2000/04/05 14:58) 投稿者:錏ー爺と堕魔。

アイドル伝説 クール・ざ・トリオ(番外編)VOL.3

「小沼、良く頑張ったね! 優勝は逃したけど、今回誰よりも頑張ったのは小沼だってこと、俺達が分かってるよ!」
「ああ。ったく、なんだよアレ。プリシラなんて、桔梗ほど酷くないけど、へたくそに泳いでゴールしただけじゃん。勝てばなんでもイイのかよ」
 二葉は腹立たしそうに椅子を蹴飛ばす。
「しょうがないよ。この世界って、目立ったもん勝ちみたいなところがあるから」
 慎吾が慰めるように言うと、正道が首を傾げる。
「一時間延々25メートルを泳ぎつづけてた小沼もかなり注目浴びてたと思うけど…」
 一瞬シンと静まったあと、忍が慌てて「カッコ良かったよ!」という。
「いいんだ!どうせ、どうせ、皆おれの事笑ってたんだろっ。でもすっごく疲れたんだからねっ。絶対もうやめようって何回も思ったのに頑張ったんだよっ」
「どうせ完泳したらダンスの芳賀先生になんか褒美でももらえるんだろ」
「うっ。…そうだけどっ、でも、でも、…ふえっ、えっ、…えっ…」
「二葉!」
 泣き出した桔梗をよしよししながら睨む忍に、二葉が首をすくめる。
「ご褒美目当てだろうと、桔梗ホントに頑張ったよ。芳賀先生、いいものをくれるとイイね」
 にこにこと慎吾が言うと、他の3人はこっそり「物じゃないんじゃないの…」と思った。
「そろそろ閉会式だな。キョウも行けるか?」
「行く。ファンの子に心配させたくないもん。忍、肩貸して」
「んだよ。俺が運んでやるって」
「二葉はヤダ」
 ぷいと顔を背けられ、二葉はちぇっと言いながら先に出ていった。
「じゃあ俺が運ぶよ」
 正道が背中を差し出すが、桔梗は忍にはりついた。
「この上おんぶしてもらって出てったら、俺よっぽど情けないみたいじゃん。肩貸してもらう」
 正道からも顔をそむけた桔梗を、苦笑した忍がよいしょとささえる。
「じゃあ、背も合うから俺も手伝うね」

 こうして忍と慎吾に支えられて閉会式へと向う桔梗の姿は充分に哀れっぽく、「桔梗ちゃん、ファイトー」というファンの声があちこちから飛んだ。
 指一本動かすのもだるいくらい疲れているくせに、いちいちそれに応えて手を振る桔梗は根っからのプロのアイドルであった。
「みんなー、大丈夫だよ!ありがとー!」
 そう言ってガッツポーズを決めようと忍の肩から腕を外そうとしたその時、よろけた桔梗は忍と慎吾を巻き込んでプールに落ちてしまった。

 冷たい水の中を延々泳ぎ続けた桔梗は勿論、何をするわけでもなく、水着に薄いパーカー姿でずっと座っていて、時々彼らのいる応援席にカメラが来る度に、その薄物も脱いでは水着姿を披露していたため、忍も慎吾も身体の芯まで冷え切っていた。
 3人とも水中でてきめんに足がつり、一気におぼれる。
 真っ先に異常に気付いたのは彼らの動向を常に見守るファン達で、観客席から悲鳴が上がる。
 少し先に行っていた二葉はすぐに気付き、驚異的な反射神経で即ダッシュし、華麗な飛びこみを披露して忍を救いあげた。
「忍!! 無事か?! 良かった!!」
「二葉、ありがと…ごほっ」
 ひしと抱き合う二人。
 ちょっと遅れた正道も慌てて飛びこみ、一番近くにいた桔梗を助けるべく腕を掴もうとすると、どこからか現れた芳賀にタッチの差で奪われた。
「卓也、来てくれたんだね…げほっ」
「しっかりしろ!水は飲んでないな?」
「うん!卓也が助けてくれて嬉しい♪」
 卓也にコアラのように抱きつく桔梗。
 そして方向転換した正道は手前の慎吾の方へと向かい、今度こそはっしと掴もうとすると、またもやするりと誰かに奪われた。
「け、健さん?」
 正道に手を伸ばしていた慎吾は目を見張って健にしがみつき、またも手が水中を掻いた正道はバランスを崩してごぼごぼと沈む。
「おう。すぐプールサイドまで連れてってやっからじっとしてろ」
 慎吾はくったりと健に身を預け、健が大事そうに引っ張っていこうとすると、その腕を、誰かがぴしぃっと弾いた。
「なんだ、てめぇっ!」
「その腕を離してもらおうか。慎吾は俺が助ける」
 相変わらず純白の翼を閃かせながら、貴奨が優雅に慎吾を奪い取った。
「ふざけんじゃねえぞっ。最初に掴んだのは俺だぞ」
「そんな事を言っている場合じゃないだろう。今は一刻も早く慎吾を助けるべきだ」
「それを言いたいのはこっちなんだよ!」
 勢い健が猛然と貴奨に掴みかかると、突然水中から、がばぁっと現れたモノが健を羽交い締めにし、もがく健を水中に沈めた。
 その正体を見て取った貴奨は、ふっと笑うと何事もなかったかのように慎吾を抱え、プールサイドへとそよそよと泳いでいった。
 しばらくした後、そこから「ぷはぁっ!!」と現れたヨウコウも、ぐったりした健を抱えて上がってきた。
「助かったよ」
 慎吾を介抱していた貴奨は、目を細めてヨウコウをねぎらった。
「いや。すぐにシンを助けるには健を何とかした方がいいだろうと思っただけだ」
そうして、おもむろにマウス・トゥー・マウスの人工呼吸を施そうと膝をついたヨウコウの前で、健は自力で息を吹き返した。
「てめぇ!死んだらどうしてくれんだよっ」
「水中で人を救助するには、相手が意識を無くしているほうがより容易だからだ。おまえを相手に格闘しながら運ぶのは難しい」
「俺は溺れてたわけじゃねえんだよっ。くそ〜〜!先にシンを掴んだのは俺だぞ!」

 それぞれの愛がうずまくこの一幕に、乙女達のハートは鷲掴みだった。
 無事閉会式も終えたあと、観客に配られたアンケートでの「一番印象に残った出来事」の項目のトップは、貴奨の白鳥、プリシラのゴールを大きく引き離し、ダントツで最後の慎吾達の救出劇であった。

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「クール・ざ・トリオにキッス・エフエム、か。やはり面白いな。それに…演歌の向井健と、ヨウコウか。彼らをユニットにしてみるのも実験的でいいかもしれない。今度事務所に打診を入れてみてもいいな…」
 電源を切った一樹は、ほどよく回ったワインの酔いとともにベッドに入り、気持ち良さそうに寝息を立て始めた。
 ペットの助けでもって姑息なマネまでした慧嫻の努力は、報われなかった。

おわり。


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