投稿(妄想)小説の部屋

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No.1 (2000/04/01 01:44) 投稿者:櫻樹

失えない声

 春の柔らかい空の青に、満開の桜がよく映える。
 桜を振り仰いで、深く息をつく。
 彼との出会いも、桜の咲く季節だった。
 もう、何度その季節が巡っただろうか。
 季節が一巡するたびに、ゆっくりと、しかし確実に思い出は増えていく。
 最初の年は、あまり彼の存在を気にかけることはなかった。
 2年目は、少しだけ、彼の事を知った。
 3年、4年と経つごとに、彼についての知識は増え、それに比例するように、彼に対する思いは深くなっていった。
 いつのまにか、その存在なくしては自分が生きられないと思うほどに。
 その声が自分を呼ぶたびに、指が肌に触れるたびに、唇が自分を求めるたびに。
 自分がどれほど狂おしい思いを抱くか、彼は知っているのだろうか。
 どれほど救われているかを。
 いつのまにか、赤い夢はみなくなった。

「絹一!」

 名を呼ぶ声に、振り返る。
 その姿を認めると、自然と頬が緩む。うれしさがこみ上げる。
 こんなやさしい気持ちで、微笑むことができるのは彼のおかげだろう。
 その声がそばにあれば、もう、あの夢は見ない。


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