投稿(妄想)小説の部屋

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No.185 (2001/02/13 07:40) 投稿者:まい

St.Valentine’s Day*2nd stage・2

 小沼の家に戻ったらもう10時を過ぎていたんだけど、誰もいないはずの家に、明かりが点いていた。
「ねえ、あれ卓也さんかな? でも今日帰らないんじゃなかったっけ?」
「んー、ロー・パーに泊るって言ってたけど。あ、もしかしてっ、俺に会いたくて帰って来てくれたとかーっ!?」
 はいはい…それはいいけど、俺はお邪魔虫なんじゃないか? 帰った方がいいかもしれないけど…もうこんな時間だしな。
 俺が色々考えている間に小沼はさっさと家の中に入ってしまい、>続いて俺が玄関に入ると、リビングから小沼の悲鳴が響いた。
「小沼っ、どうしたの!」
 もしかして、強盗? と慌ててリビングに駆け込むと、そこには顔面蒼白の小沼と、ソファでくつろいでいる卓也さんが。
「なに? どしたの小沼。びっくりするじゃないか」
「だってぇ…アレ…」
 半泣き顔の小沼は、俺同様にびっくり眼の卓也さんを指差す。
 その指をゆっくり辿っていくと…卓也さんの顔があって…目があって鼻があって口があって何か食べてて何を食べてるかっていうと…
「うわあああぁっ!」
「なんだよ、二人とも。ひとの顔見ていきなり奇声発しやがって」
 俺達の奇行に眉をしかめた卓也さん…あなたの持っているのはもしかして…
「たた卓也っ。それ、そそそれ、なに食べてるのかなーっ?」
「ん? なにって。お前が作ったんだろ? 冷蔵庫に入ってた」
 口の周りについたチョコレートを唇で舐め取り、結構イケるな、と誉めて下さるのはいいんですけどね?
「あれ、バレンタインのなのに!」
「あ? …あ、そうか。そんなのがあったな、そいうえば」
「2月で、チョコレートで、気付いてよっ! で、どっち!?」
「は?」
「どっち食べたの!」
 凄い剣幕で迫る小沼。思わず引いてしまう卓也さん。
 滅多に見られない光景なんだけど…これを楽しんでいる余裕は、流石に今の俺にはない!
 確かに、小沼にせかされて作ったものではあるけども、でも作った以上、愛着ってものはあるんだ。
「ふたつあったでしょ! どっち食べたの! まさか…ふたつとも…」
「うんにゃ。左側のだけ」

 俺のじゃないですか。
 それは俺のじゃないですか、卓也さん。

 ケーキは、チョコレートのプレートにチョコペンシルで『二葉へv』って書いたのを乗せて出来上がりなんだけど、ケーキを冷やす時点ではまだそのプレートは乗せてなくって、見た目は俺のも小沼のも同じだから、冷蔵庫の左側に俺のを、右側に小沼のを置いたんだ。
「ひっどぉ〜い、卓也! それっ、忍のなのにぃ!」
「忍の?」
「小沼っ!」
 思わず俺の名前を出してしまった小沼に、それでもバラすな! と諌めるだけの理性はまだあるようだ。
 卓也さん、もう知ってるんだろうけど、オープンにはしたくないって俺の気持ちは小沼も分かってくれてる。
「しし、忍にあげようかな、って」
 分かってくれてるんだけど…ああ、もう…。
「そ…っか…。悪いことしたな」
 当然、誰が何のために作ったかなんてことは、卓也さんにはすっかりバレていて。
 だからこそ、『もう1回作ればいいじゃないか』なんてことも言えるはずもなく。
 ああ…あの卓也さんの表情。真綿で首を絞められているみたいだ。
「小沼っ、いいから、部屋行こ、部屋に」
 半泣きどころか本格的に泣きの入った小沼はまだグズグズ言ってたけど、俺は今すぐにこの場を離れたい!
「桔梗…すまなかった」
 リビングのドアを閉める時に聞こえた、あの悲痛な卓也さんの声。
 あれは間違いなく、俺に向けられたものだった。

「卓也のばかばかばかばかばかーっ! うわーんっ!」
「小沼…もういいから、落ち着いて。ね?」
「だって、忍のっ、し、忍の食べちゃったんだよーっ!」
 小沼の部屋に行っても、小沼はまだ泣き喚いていて、俺のためにそんなに泣いてくれるのかって
思うととてもとても嬉しいんだけど、でも俺の方は、泣いてる小沼を見てたらもう諦めついちゃったし、うーん、どう言って宥めればいいんだろ。
「もういいっ、卓也にはチョコあげないーっ!」
「小沼、もういいから。俺はもういいからさ、せっかくのバレンタインなんだし、それはやめようよ」
「だって! 卓也がっ!」
「いいんだって。俺はもともと、バレンタイン興味なかったんだし。ほら、ビタミン剤買ったじゃないか。あれでいいって」
「でも!」
「ホント言うと、チョコレートあげるのに抵抗まだあるんだ。今日、小沼と一緒にケーキ作れて楽しかったよ。俺はそれで十分」
「二葉は…十分じゃないと思う」
 泣くのは止まったけど、まだしゃくり上げたまま、小沼は顔を埋めていたタオルから真っ赤になった目を覗かせる。
「うーんと…今日のことは二葉には内緒。ね?」
 せっかく作ったのにダメになっちゃったって知れば二葉悲しむかもしれないけど、でも初めからなかったことにしちゃえばいい。
 二葉、ごめん!
 でも俺、二葉の悲しそうな顔も苦手だけど、小沼のもすっごい苦手なんだ!
 まだ『でも』を連発する小沼の背中を優しく叩いて、一緒にベッドの上に移動する。
 スプリングのよく利いたベッドの上でちいさく弾けた小沼は、もうとっくに俺の身長を越したとはいえ、どこか儚げで。
「いいの、ホントに?」
「いいの。小沼の方がバレンタイン楽しみにしてたんだろ? 小沼に楽しんで欲しいよ、俺は」
「ううっ、忍って、ホントいい奴ーっ!」
 そう言って抱き付いてきた小沼にそのまま押し倒される。
 綺麗に筋肉のついた体は非常に抱き心地がいいんだけども。
「小沼、重いって!」
「そだ。今日は一緒にベッドで寝ようよv お風呂も一緒に入る?」
「風呂は…勘弁して」

 そうして、俺達はふたりぶんの体重でギシギシ言うベッドで、久々に色んな話をたっぷりしながら眠りに就いた。


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