投稿(妄想)小説の部屋

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No.132 (2000/10/10 14:12) 投稿者:皐月

麗なる君よ、彼の空を翔けよ 3

「忍、俺が好き?」
 意識を飛ばしてた俺に、一樹さんはさらっとすごいことを聞いてきた。
 そんなこともう知ってるくせに。
「………はい」
 じっと見つめてくる瞳に耐えられなくなって、答えてしまった。
「俺が風邪引いたら困る?」
 いつもにまして、今日の一樹さんは訳が分からない。
「え…。あ、はい」
 でもとりあえず、風邪は引かれたら困るからそう答える。
 「じゃあ忍、あっためて?」
 かっ、一樹さん!?
「ちょっと前、出てくれる?」
 そう言って、一樹さんはまだ訳が分からないでいる俺の肩を押した。
 それでできたソファと俺の間に一樹さんが入ってきた。つまり俺は、後ろから一樹さんに抱きしめられる格好に…。
 さっき感じた体温はちっとも気にならなかったのに、ここまで近づくとやっぱり緊張する。
 心臓は跳ねっぱなしだ。
「こ、これじゃ、俺があっためてもらってるんじゃ…」
 頭が回らなくて、俺は思ったことを素直に質問してしまった。
「いいの。忍があったかかったら俺もあったかいから」
 ああ、もう。どうしてこう歯の浮くようなセリフを…。恥ずかしくないのかな。
 でも抵抗したらきっともっと恥ずかしくなるから、こうしてるしかない。
 と急に、背中から体温が遠くなった。…一樹さんがソファに寄りかかったからかな。
 俺は何となく体育座りだし。後ろに隙間ができたんだ。
「忍、寒くない?」
 まるで寒いでしょって断定してるみたいな聞き方だ。
 寒いって言うより遠くなった背中の体温が淋しかったけど、そんなこと言ったらきっともっとくっついてくる。それはちょっと困る。
「だ、大丈夫です」
 答えると、俺の怯えた様子が伝わったのか、ふっと背中の空気が凍った気がした。
「………。そう。でも俺が寒いから、忍、俺に寄りかかって」
 あああ。声が怒ってる…。素直に寒いって言った方がよかったかな。
 言葉に従うより先に一樹さんの腕が伸びて来て、俺はあっけなく一樹さんの腕の中に収まってしまった。
 肩の上に、一樹さんの顔が乗ってる。うう。完全に楽しんでるよ…。
「忍、体が硬いね。もっとリラックスして」
 この状態でそんなことできる訳ない。
 耳に息が吹きかけられる。
「か、一樹さん…!」
 少しだけ暴れてみたけど、もちろん逃がしてくれる訳がなくて。
「一樹さん!」
 俺はほとんどもう泣き声だった。
 だって、一樹さんの右手が、俺のニットの中に潜り込んできたんだ。体温の低い手が、
俺の腹から胸を撫でていく。熱が一気に上がって、早く腕の中から逃げ出したい。
 「なにもしないから」
 もう十分してるよ! ほんとに泣きそうだ。
 でも言葉は嘘じゃなくて、一樹さんは手を俺の左胸の上で止めて、それ以上何もしようとしなかった。


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