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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.82 (2007/02/08 15:40) title:Colors 2nd.  Moonstruck
Name:しおみ (l198059.ppp.asahi-net.or.jp)

『天災は忘れた頃にやって来る──(寺田寅彦)』

 薔薇色だった空がオレンジ混じりの濃い紫に包まれる時刻。
 中庭にぽっこりとした証明が点り、プールサイドのレストランにざわめきが宿る。満天の星空の下のそのレストランの
席で、ティアとアシュレイは柢王たちが戻るのを待っていた。
 緑豊かなホテルは、桟橋を渡って突き出した小島のような敷地全てを使った高級リゾート。花咲き群れる中庭をクロスする
回廊で白い翼を広げたような客室の棟にたどり着く。部屋の広さは異なってもどこからでも海に行ける。水着のまま気楽に
寄れるレストランや乗馬コースやマリンスポーツの施設の他にも民族的な小博物館もすぐ側にあって、ホテルだけでも
十分に楽しめる造りだ。
 旅行部門の兼ね合いもあって、ティアが視察がてらに選んだホテルだ。ハネムーナーなら絶対喜ぶ天蓋つき花びらを
散らしたベッドのスィートもある。もっとも天界航空のハネムーナーたちはティアが電話した時には街から戻る途中だった。
ずっと遊んでいたらしい。
(意外だったなぁ。柢王絶対桂花のこと押し倒してると思ってたのに)
 禁欲生活強いられているくせに、電話の声は楽しげで、それが恋に落ちた人の姿かと思う。それに比べていくらか
わかりにくくはあるものの、桂花の薄紙を剥がすようにその内側の優しさや誠実さを現してきた変化も。
 いままで一人で立ってきた人が背中合わせに立つような何がしか。機内で話す二人を見ていてティアはそう感じた。
その『何がしか』がはっきりとわかる『何か』になったら、柢王も愚痴は言わなくなるだろう。
(そのためにもおまえの席を用意したんだから、しっかりやってよね)
 心の中で親友にエールを送ったティアは、もうひとりの大事な親友に目を向けた。
 ホテルに戻ってすぐアシュレイのフライトの話を聞いた。頬を高潮させて話す姿に嬉しさと同時に責任も感じたのは
当然のことかもしれない。パイロットたちは常に客席にはわからせない困難を背負って誇らしげに飛ぶ。
 いいわけなし、結果が全て。その重さはティアには共有できないものだけれど。
(君たちがいるから、私もがんばれるんだからね)
 夢をわかちあうことは、同じキャンバスを彩ることだとティアにはわかる。同じカラーは持てないし、誰かの輝きを
真似することもできないけれど、ともに描くそのキャンバスを広げ、刺激しあい、今までに見たことのないひとつの絵を
作り上げていくのだと。
 アシュレイの桂花へもフライトの話をしたいと言う気持ちも同じことだ。礼も言いたいのだ、ちゃんと。なのに
口には出さず、テーブルの下でつま先だけがそわそわしているのがとんでもなく可愛いっ。
(もー君ったら意地っ張りの癖してそういう一途なことが君なんだからーっっ)
 奥歯かみ締め、頬染める天界オーナーは友達だけにどこの機長と同類。盲目ではないが、極めて近視的。
 と、
「わりぃ、待たせたなっ」
「すみません、遅くなって」
 柢王と桂花が連れ立ってやって来た。
「なに、どうしたの、柢王そんなに日焼けして」
 驚いて尋ねたティアに、
「いや、街がすげー面白いのな。屋台とかあってさ。ぶらついて、海出て水上飛行機で島渡ってさぁ……」
 答える柢王の横に腰を下ろした桂花が、アシュレイの顔を見て尋ねた。
「どうでした?」
 水を向けられたアシュレイは嬉しそうに瞳を輝かせて答えた。
「ああ、おまえが言った通りだった。街が近くてすげぇ迫力あったしどきどきした。あんなの初めてだ」
「いい着陸でしたよ。天気がよくてよかったですね」
「ああ、ほんっと楽しいフライトだった。監査も受かったし。おまえのおかげだ──サンキュ」
「あなたの実力です」
 ティアが柢王に笑顔を向ける。柢王も微笑んで頷く。と、礼が言えてほっとしたらしいアシュレイがふたりの顔に
気づいて頬を赤くした。
「なんだよ、おまえらっ。さっさと注文するぞっ」
 メニューを取り上げるのに、柢王も笑って、
「そーそー、腹減ったし、乾杯して、たらふく食おうぜ。アシュレイの奢りでな」
「な、なんでおまえのまでっ。俺はこいつに世話になったからその礼には喜んで奢るけど、おまえただの旅行じゃないか!」
 叫んだアシュレイに柢王も眉を上げ、
「おまえな、俺がどんだけあれこれ我慢したと思ってんだ? 桂花がおまえのために時間費やしてっから俺なんかメールの
返事だって貰えなかったんだぞ?」
「そんなことは俺が知るかっ。大体、大の男がメールなんかでやり取りしてるなんて情けないぞ、柢王っ」
「おまえだってティアとしてんだろーがよっ!」
「俺とティアはたた゜親友としてだなあっ」
「あーもーいーから二人ともっ! 桂花、好きに注文しちゃって」
 放っておいたら遠慮なしバトルになりそうなふたりにティアが叫んで、桂花に頼む。桂花は冷静に、
「はい、オーナー」
 メニューを取り上げかけた。と、ふいにその瞳がはっと見開かれる。虚を突かれたようなその表情に、
「メールだって電話だってこいつバカみたいにしてんじゃねーかっ」
「こいつがバカなのは俺のせいじゃないだろっ!」
 言い争っていたふたりも、私のことっ、と憤慨しかけたティアも桂花の方を見た。
「どうした、桂花」
 尋ねた柢王に、桂花がはっと瞳を動かした。
「桂花、どうしたの」
「なんか珍しいモンでもいたのか」
 首をかしげたティアとアシュレイに、ああと呟く。その頬に苦笑いが浮かんだ。
「すみません、いま幻を見た気がしたので」
「幻?」
「ええ、すぐに消えましたから見間違いでしょう。それで、皆さん、何を召し上がられるんですか」
 落ち着き払ったいつもの顔になって尋ねた桂花に、一同は怪訝な顔はしたものの、
「俺、フカヒレな、アシュレイ」
「だからおまえには奢らねーって」
「わかったよ、経費で出すから決めようよっ」
 それぞれがオーダーを決め始める。

「あなた、ものすごく眠いんでしょう」
 回廊を手を引かれて歩きながら桂花が尋ねた。濃い花の匂いが潮風に乗ってただよっている。
 夕食の間はアシュレイのフライトの話やティアの王宮での歓待、柢王と桂花の見てきて街の様子など、話は盛り上がり
楽しい時間が過ぎた。が、さすがに柢王は眠くなったらしい。かくんとテーブルに突っ伏しそうになったのを見て、お開きに
なった。
 ティアは更にアシュレイのフライト談義を聞くようだ。二人してラウンジに去って行った。
 会社の用意した部屋でなく、自分のスィートに桂花を導く柢王は笑って、
「すげぇ眠い。昼間遊びすぎたからよけいな。でもアシュレイの監査も受かったし、ティアの仕事も順調そうだし、
街も面白かったし、いい一日だったから盛大に盛り上がって終了するべきだろ、おまえとふたりで」
「そんなに眠くて、ですか」
 桂花が苦笑いする。柢王は笑って、
「フライト中に寝たこたないから心配すんなって。それにおまえだってよく眠れるから。保証する」
「本当に大丈夫ですか」
 はかるように、聞かれて柢王も足を止める。月光にきらめく紫の瞳を見つめ、
「無理すんなって言ってくれる気なら頼むから拒むなよ。拒まれたらぜってー眠れないから。それに朝起きる寝方だったら、
絶対リカバーできるから、信用しろよ」
 落ち着いた、優しい声でそう言った後、柢王はふと口調を変えた。
「つか、俺のことより自分のこと心配しろよ?起きらんねぇのおまえだぜ?」
 挑むように笑ってみれば、苦笑い見せていた美人の瞳が真っ向見上げ、
「それは、どうかと?」
 ダイナマイト級の笑みに心臓破裂の柢王は、四の五の言わずにショート・カットで部屋へ直行だ。

                      *

 山凍に明日の予定を確認に行くティアと別れて、アシュレイは部屋と向かっていた。
 アルコールの酔いとわくわくしたフライトの名残か気分が高揚して雲の上を行くようだ。桂花にも礼ができたし、ティアも
喜んでくれたし、柢王も褒めてくれたし、アシュレイとしては最高の夜だ。
 あとは帰りも無事にしめくくるだけ。自分へのご褒美として明日は市内を見に行こうかな。そんなことを考えながら
歩いていると、ふと、前方にあやしい人影を発見した。
(なんだ、あれ)
 客室に向かう中庭の回廊あたりに、男がうろうろしていた。長い金髪、目深にかぶった黒い帽子。こんな時刻に
真っ黒なサングラス。しかも、回廊の柱に擦り寄るようにして身を隠し、辺りをきょろきょろ伺っている。
(酔っ払い? 夢遊病? ジャンキー?)
 もしもしどうしましたと声をかけるべきか、もしもし警察ですかと電話すべきか。呼ぶなら救急車かパトカーどちら
だろう。頭でピカつくオレンジライトに、そっと男の背後に近づいた。
 と、気配でか、男が振り向いた。
 お互いに、びっくりして立ち尽くすこと三秒。アシュレイの見張った瞳に映る豪華絢爛刺繍入り赤シャツに黒パンツ、
持っているのは紫の上着!
 と、いきなり男がダッと走って逃げた。思わずビクっとしたアシュレイは、そのブーゲンビリアの残像かという後姿を
あぜんと見送るしかない。
「な、なんだ、あれ……色盲か?」
 夜風に乗ってただよう残り香まで、ねっとりと暑苦しい──

「眠れねぇ?」
 かすかに身を起こす気配に、柢王が眠たげな瞳を上げる。
「起こしましたか」
 桂花が静かな声で尋ねる。柢王は枕に頭をつけたまま、
「なんか、おまえが起きた気がしたから。つか目覚められるとちょっとショック。絶対目が覚めないようにがんばった
つもりだったのに」
 かすれた声を出す。桂花はそれに落ち着いた声で、
「目が覚めるのはいつもですよ。それに潮の音もするし。あなたこそ、ちゃんと寝たらどうです?ふざけてないで」
 差し込む月光に淡い金を刷いたようなシーツの中、腰にかかる柢王の手を外そうとする。
「眠れないならいくらでもつきあうって意思表示だろ……」
「これ以上つきあうことはありませんよ。目が覚めなくなるから。さあ、目を閉じて」
「おまえ…さっきどっか行こうとしたろ? 俺が目開ける前」
 柢王の腕が桂花の腰をしっかりと囲う。どこにも行かせないように。見上げる瞳はいまにも眠りに引き込まれそうなのに、
聞き出す意思だけ機能している、
「なあ…気になることとかあるなら、何でも言えよ。大したことじゃなくても……俺は知りたいから、おまえのことなら
どんなことでも」
 桂花がそれに苦笑いする。意識が後ろに引き込まれそうな眠りの中で目を開けていようとする柢王の瞳を覗き込む
ようにして、
「水がほしかっただけですよ。暑かったから。いいからもう眠って」
「うそ、つけ。おまえ、いまだって体温……低い、のに」
 不服そうに呟いた柢王は、だが、桂花が頭を落ち着けると安心したように目を閉じた。すぐに規則的な寝息が
聞こえる。その肩に頬をのせた桂花は、しばらく、金色の闇が踊る室内を眺めていたが……。
「おまえのことならどんなことでも知りたい…か」
 その面にふしぎな表情が浮かぶ。
 そして、かれはそのまま瞳を閉じた──


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