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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.8 (2006/09/06 00:22) title:ふたりきりのhideaways
Name:阿久津理紗 (p4117-ipbf205aobadori.miyagi.ocn.ne.jp)

「絹一。おまえ、長期の休暇って取れるか?」

鷲尾の部屋で、持ち帰った仕事を片付けていた絹一に声が掛かった。

「長期って、どのくらいですか?」

キーボードを叩いていた手を休め、後方のソファへと振り返る。
視線の先では、ソファに体を伸ばした鷲尾が雑誌を捲っていた。

「そうだな……二週間くらい」
「そんなには流石に無理ですよ。一週間が精々かな」

何故?と瞳で問えば、起き上がった鷲尾が、開いた雑誌のページを差し出した。

「行ってみないか?」
「……ここへ?」

誌面を飾るのは、二色の青に塗り分けられた海と、いくつも浮かんだ小さな島々。
鮮やかなカラー写真の上には、『インド洋の真珠の首飾り』との一文が添えられていた。

海岸を吹き抜ける風に、木陰で眠る絹一の髪が靡いた。
頬を擽るその感触に目を覚まし、ゆっくりと深く息をする。
聞こえてくるのは、波の音、鳥の声、葉擦れの囁き。
都会では聴く事の出来ない極上の音楽に、自然と唇が綻んでくる。
「鷲尾さんと、ギルに感謝だな」
呟くと、絹一は腹の上に伏せられた本を取り上げ、揺れるハンモックから足を下ろした。

二ヶ月前の夜、鷲尾が言い出した楽園への旅。
折角の誘いだし、とギルバートに休暇の相談をすると、彼は諸手を挙げんばかりに賛同を示した。
「こんな時でもないと、絹一は有給を消化しないだろう!」
そう言われ、十日間の休みを押し付けるように許可されてしまった。
間際まで、一週間で良いと言い張っていたけれど、今では十日でも足りないと感じている自分が居る。
我ながら現金だと思いつつも、滞在二日目にしてすっかりこの島に魅了されている絹一だった。

踏み出した足の下で、白い砂がさくりと音を立てる。
素足で直に触れる砂が心地良い。
『No News - No Shoes』それが、この島のフィロソフィー。
木陰を出て波打ち際まで歩くと、沖の方で銀色の光が跳ね上がった。

「あ、イルカだ」

目を凝らさずとも、踊るように跳ぶ二頭のイルカが見える。
仲睦まじいその姿をしばらく眺めた後、絹一はそっと溜息を吐いた。

「一緒に……」

見たかったな、と続く言葉を飲み込んだ瞬間、背中がふわりと温かくなる。

「やっぱりここに居たな、絹一」
「鷲尾さん……?」

驚いて振り仰ぐと、柔らかく微笑んだ瞳と出逢った。
腰に回された両腕に抱き締められれば、密着した体から強い潮の香りが漂う。

「ダイビングは……」
「とっくに終わった。ヴィラに戻ったらおまえの自転車が無かったから、多分ここだと思ったんだ」

当たったな、と口角を上げた鷲尾に絹一は目を細める。
海面に反射した陽光が、鷲尾の髪を金色に輝かせていた。

「ここのハンモックが気持ち良いと、夕べ知り合ったイタリア人ゲストが教えてくれたので」
「……知ってる。さっきのボートダイビングで会ったぜ」

昨夜のディナー時、絹一を女性だと思い込み声を掛けてきた陽気な男が居た。
一緒に来るはずだった彼女に振られたとかで、『一人のディナーは寂しい』と纏わり付いてきたのだ。
横に居る鷲尾を邪魔だと言わんばかりの様相で。

「彼、モルディブにはもう何度も来てるそうですね。ここは初めてだって言ってましたけど」
「恋人連れだからって、奮発したんだろ? ダイビングだけが目的なら、もっと安い島があるからな」
「そうなんですか?」
「本人がそう言ってた。最悪な事に、今日の俺のバディがあいつだったんだ」

言いながら、鷲尾は絹一の首筋に顔を埋めた。湿り気を帯びた硬い髪が、ちくちくと絹一の頬を刺す。
それに指を伸ばして掻き混ぜると、潮の香りが一層濃くなった。

「じゃあ、楽しくなかった?」

囁けば、寄せられたままの頭が「否」と振られる。

「ダイビング自体は、最高だった。ポイントに向かうドーニをイルカの群れが追いかけて来てな。潜り始めても逃げやしない」
「一緒に泳いだんですか?」
「ああ。けどヤツらの会話は、やたらと神経に障るんで参った」
「ヒーリング効果は?」
「あんだけお喋りなイルカには、んなモン期待出来ねえだろ」

くくっと喉の奥で笑い、鷲尾は頭を上げる。

「マンタも八枚見れた。初回のエントリーでこれだけ見れれば、大したもんだろう」
「マンタかあ。……俺も見てみたいな」
「ならおまえも潜ってみろよ。体験ダイブがあっただろう?」

尤も体験はハウスリーフでだから、マンタに会える確率はゼロに近いがな。
そう言って抱擁を解き、鷲尾は大きく体を伸ばした。

「そろそろ戻らないか? ランチの前にシャワーだ」
「ダイビングセンターで浴びなかったんですか?」

海の匂いをさせた鷲尾の腕に促され、木陰に停めた自転車の元へ向かう。

「ざっとは流したがな。ヴィラにはプライベートガーデンのオープンエア・バスルームがあるんだ。
折角バスタブもデカイんだし、おまえと一緒の方が楽しいだろ?」
「海水を流すのに、楽しいも何も無いでしょう」

呆れたように呟いた絹一の唇が、柔らかく塞がれる。一瞬だけ触れたそれに、絹一の頬が赤く染まった。

「鷲尾さん! 誰かに見られたらっ」
「だから早く戻ろうぜ。俺達のhideawaysに、さ」

ニヤリと笑った鷲尾の前髪が、海風に舞い上がる。
同じように攫われる自分の髪を片手で抑えながら、絹一は止まった足を再び動かし始めた。


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