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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.78 (2007/01/29 21:19) title:三分小説 〜君之面影〜
Name:花稀藍生 (p1012-dng31awa.osaka.ocn.ne.jp)


 過去モノを見つけました、と蔵書室に足を踏み入れるなりティアはナセルにすれ違い様にささやか
れた。ティアは目線を交わさないまま頷き、蔵書を見回る振りをして本棚を回り込むと蔵書室の一角
に設けられた個人用の小さな閲覧室に入り、腰を下ろした。ほどなくしてナセルが小冊子を持って現
れた。
「ありがとう、ナセル。いつもすまない。君のおかげで本当に助かっているよ」
 小冊子を受け取ったティアが、その表紙に刻印された守護主天の御印を確認し、ほっとため息をつ
いた。・・・時々、蔵書室には歴代の守護主天が書いた覚え書きや、その私生活に関する事が他人の筆致
で書き連ねられたものが出土するのだ。守護主天の私室にあるべきそれらが何故蔵書室の蔵書の中に
埋もれているのかは謎なのだが、内容が内容なだけに他人の目に触れ、それが白日の下にさらされる
ことを考えると怖い。非常に怖い。
 今までは十メートル歩くのに何分かかっているのだ?というヨイヨイの爺さま司書がほとんどで蔵
書の整理がはかどらない分、出土も少なかったのだが、ナセルという若い才気煥発型の天才司書が蔵
書室に配備されて以来、蔵書の整理が日を追うごとに改善されてゆく分、出土件数も増えた。
 ティアはナセルにそれらのモノが出てきたら、自分に渡してくれるよう頼んでいたのだ。
「いえ、これも仕事の一環と思っていますから」
 過去に自分にかけられた冤罪をはらしてくれたティアに恩義があるナセルは謙虚に応え、何事もな
かったように仕事に戻っていった。
 一応コレはティアとナセルの間に交わされた秘密なのだ。だからナセルはそれらの本を見つけても
執務室に連絡をしてきたり持っていったりはしない。ティアが蔵書室に現れるとそれとなく耳打ちし、
人目の少ない閲覧室でティアが待っていると、仕事で回ってきた振りをしたナセルがそっとそれらを
置いて去ってゆく。何事もなかったように。
 アシュレイのことに関しては一切譲るつもりはないけれど、ティアは彼の仕事に関する情熱は認め
ているし、信頼している。
「・・・・・」
 ティアは気むずかしい顔で小冊子を見おろし、それから意を決したようにパラパラッとめくってみ
た。それは本型のスケッチブックのようで中の白い紙の上にはさまざまな人物が素描で描かれていた。
「・・・・・?」一旦閉じて一番最初のページをめくってみる。
 そこに描かれた胡桃色の長い髪と宝石じゃらじゃら&レースびらびらのゴージャスな服をまとって
こちらに色気と情欲ムンムンの淫蕩なまなざしを送ってくる人物を目にした途端、ティアは顔を背け
て音高くスケッチブックを閉じた。
「・・・・・・・・ まさか、『愛人大全』の草稿 とかじゃないよね?」
 先代ならやりかねない。
 意を決してもう一度ページをめくり、素描の人物のあちこちに走り書きされた文字を慎重に追って
みて、やがてティアは安堵のため息をついた。
 何のことはない。『生誕祭』の出席者のスケッチだったのだ。
 服装の感じからして、おそらく何十年か前のものだろう。
 先代の愛人の一人が描いたのだろうが、なかなかリアルに描けている。シンプルな線の中にその人
物の特徴をうまく捉えているので、この人は南の大貴族の○○公で、その隣にいるこの人は西の芸術
家の○○師の若かりし姿だな、など、実在する人物と簡単にマッチングすることが出来た。
 愛人が気に入ったのだろう人物は、よりリアルに丁寧に描かれ、着色もされていた。
 その中に壮年期の蒼龍王を見つけ、苦笑する。・・・女性にもてる男は、総じてそういう男にももてる
ものだ。
「・・・こういうのなら、悪くないね。」
 少し楽しくなってさらにめくると、まだ文殊塾生であろう年頃の少年たちが描かれていた。赤い瞳
と赤い髪の少年と黒髪と黒い瞳の少年。ティアは浅黒い肌とややきつい印象を受ける赤い瞳の少年を
のぞき込み、首をかしげた。
「・・・もしかして、炎王殿、か?」
 成長期前の骨格がまだまだ細い少年なので面影は辿りにくいが、多分間違いない。
「・・・アシュレイが見たらきっと喜ぶよね」
 天主塔に誘い出す口実が出来たことにティアは笑った。そして今度は炎王の隣の黒髪の少年に視線
を移す。
 炎王の隣に立つ黒髪の少年は、ぬけるような白さの肌とやや大きめだがすっと通った鼻梁や、意志
の強さを感じられる形の良い太めの眉、そして黒曜石を削りだしたかのような瞳をしている。
やや厚めの唇を引き結んださまは ともすれば尊大さすら感じ取られ、それが少年の地位の高さを物
語っていた。 背は炎王より高い。
 ・・・なかなか押し出しの良い容貌の美少年である。 黒系統の色で品良く統一された長衣がよく似合
っている。
 ティアは首をかしげた。 王族の隣に並べられるとしたら、大貴族の子息が普通だが・・
(・・・・こんな風貌の人がいただろうか・・・?)
 役職上、大貴族とも顔を合わせる機会が多く、一度会ったすべての人の顔と名を合致させているほ
ど記憶力の良いティアだが、この人物に見覚えがなかった。
 そこにたまたま本を抱えてヨロヨロと進んでくる老司書と目があった。大貴族ならば蔵書室に訪れ
る機会も多い。この年代なら文殊塾で出された課題を解くために蔵書室に来ていた可能性もあるから、
もしかしたら勤続年数の長そうなこの老司書が知っているかもしれないとティアが彼を呼び止めて素
描を見せて尋ねてみた。
「おや、お懐かしいですな」
「知っているのか?」
 一目見てあっさりと解ったらしい老司書に、どこの大貴族か?と問うと、彼は一瞬きょとんとし、
嘆かわしげに首を振った。
「何を言われますか。 この方は貴方様がよくご存じのお方です」
「え?」
 きょとんとしたティアに、老司書は言った。
「貴方様の父君であらせられます、元服前の閻魔大王様ではありませんか」
 
 ・・・・・・・
 本を掴んだまま椅子ごと後ろに倒れて気絶した守護主天と、それに驚いて腰を抜かした拍子に壁に
頭を打ちつけて脳震盪を起こした老司書に、閲覧室は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
 ティアランディアはそのまま半日寝込み、夕方に駆けつけた南の太子に脳みそが飛び散るくらい頭
を揺すぶられてようやく目を覚ました。 しかしそれから3日間ほど放心状態が続き、付き添いの南
の太子を青ざめさせることになった。
 頭を打った老司書は、事の前後のあらましをすっかり忘れ果てていた。

「・・・・・」
 そしてナセル。 私室で気むずかしい顔をして彼が睨み付けているのは、机の上に鎮座している
今日の大騒ぎの原因になった本である。 あの時、騒ぎを利用して、ティアの手から本を抜き取って
おいたのだ。
(・・・天界最高の貴人にして天界最高の頭脳の持ち主である守護主天をショックで気絶させる程の
衝撃的な内容とは 一体・・・・・)
 おそらく一般人である自分が読めば一発で呪いが百ダースも降りかかってくるような恐ろしい事柄
が記されていたに違いない。
「・・・・・・書架で寝るか・・」
 置いておくのも恐ろしいが動かすのも恐ろしい、ましてや同じ部屋で一緒に寝ることなど出来るわ
けがないその本を目の前にして、ナセルは一日も早く守護主天がこの本を引き取ってくれるよう願っ
たのだった。


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