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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.75 (2007/01/24 22:42) title:一分小説 〜帰家抱薫〜
Name:花稀藍生 (p1112-dng26awa.osaka.ocn.ne.jp)


「・・・あなたときたら、また 人界から 」
 人界から帰ってきた柢王を東領の『家』で出迎えた桂花は、彼が結界に包んだマントを小わきに抱
えているのを見て呆れたようにため息をついた。
 彼は時折、禁じられているにもかかわらず土産と言って人界の物を自分の結界に包んだ状態で持ち
帰ってくる。他愛のない花や木の実、―――そして、桂花の内側に爪を立てるような、懐かしい愛し
い女の残した品物を一度だけ持ち帰った。
 それ以来、桂花は柢王が人界から物を持ち帰るたびに心の奥で一瞬身構える癖が出来てしまった。
「怒ンなよ。何もモノは持って帰ってやしないって」
「では、どうしてマントを結界で包んでいるのですか?」
 桂花のきついまなざしに肩をすくめながら扉を閉めた柢王は、マントを包んでいた結界を解くと、
桂花の前で広げて見せた。
「・・・な? 何にもないだろ?」
 確かに何もなかった。虚をつかれた桂花に笑ってマントを頭からかぶせると、そのまま抱き寄せた。
「・・あ・・ッ・?」
 途端押し寄せてきた香りに桂花は小さく声を立てた。
「今回の土産はコレ。今、人界にはティアみたいな趣味の奴らが多くてな。自分で自分の香りを作っ
てそれを服に焚きしめる遊びが流行ってんだよ。 コレが一番お前に似合いそうだったから、持ち主
の隙をついてこのマントに焚きしめといたんだ。」
 そして、香りが飛ばぬよう、結界で包んで持ち帰ってきたとのことだった。
 桂花の体温とそれを包む柢王の高い体温で、焚きしめられていた香は眠りから覚めるように香り立
ち始める。
「・・・・・・」
 人界の、この時代にはおそろしく高価な材料である香木・香料をふんだんに使って作られたのだろ
うそれは、かすかな甘みを含んだ、深く冴えわたる真冬の夜空を思わせる香だった。
「・・・どうせ、どこぞの高貴な姫君とやらの香でしょうが」
「いや、下ぶくれのモテモテ女たらしのヤローだった」
 柢王の言葉に桂花は吹き出した。
「モテモテの女たらしヤローの香だったら、どうしてあなたがこの香をまとわないんですか?」
「俺はいいんだよ。そういうの面倒だし。それに」
 小さく笑う桂花の額に自分の額を押し当てる。手を伸ばして自分を見上げる桂花の形のよい頭から
マントを押し下げて、長い白い髪に指を絡める。
「それに、どうせなら、お前から移してもらうほうが楽しいだろ」
 柢王は桂花の髪に顔を埋めた。
 ・・・持ち帰った香りのその奥に いつもの桂花の匂いがした―――。
 
 ―――――・・・・・
「・・・・香、飛んじまったな」
 花街の調香師の所に持ち込んでこれと同じ香りを作ってもらおうと思っていた柢王は、いささか呆
然と座り込んだ足下でぐしゃぐしゃになったマントを見おろした。
「・・・・・何を今さら・・・・・あなたのせいでしょうが」
 狭いマントの上で柢王と背中合わせに座り込んでいる桂花は、何度も柢王の手でかきあげられて乱
れに乱れた髪を手櫛で梳きながらあきれたように返す。
 ・・・彼らの下で即席シーツとなったマントは、彼らの重みと熱でもみくちゃにされて とっくの昔に
香りが飛んでしまっていた。
「・・・全くいきなり何なんですか あなたは  」
「・・・・・」
 もつれた髪と格闘しながら桂花が聞くのに、柢王は黙って頭をかいた。背中合わせに座っているため、原因を思い出して真っ赤になった顔色を覗かれなかったのは幸いだった。

 ・・・・・言えない。桂花の髪の匂いを嗅いだ瞬間、理性が吹っ飛んだなど。


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