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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.63 (2007/01/14 13:48) title:桂花の留学生活1
Name:秋美 (121-82-212-185.eonet.ne.jp)

「おい、おまえこっちこいよ」
 嫌な笑みをうかべた同じクラスの連中を、桂花は眼に力を込めて睨み返した。
ここで負けたら、このあとの学校生活でずっと弱者の側に分類されてしまうことが、
今までの経験から分かっている。
 腕力には覚えがないので、眼と口で勝つしか方法はないのだ。
「吾に用はありませんので」
 これ以上無いくらい冷ややかに返答して堂々と踵を返す。しかし、相手はしつこかった。
 ぐい、と肩を掴んで引き寄せられる。桂花の肌に鳥肌が立った。
「つれなくすんなよ」
「そうそう、俺らと遊ぼうぜ」
「さ、わらないで下さい!」
 転校そうそう、これである。泣きたかった。
 留学生である桂花は、大きな問題を起こしたら国に返されてしまう。
 喧嘩は御法度だというのに。
 助けを求めて周囲を見回したが、廊下に人影はなかった。
 もう放課後なので、チャイムは期待しても無駄だ。
 このままさらに人気のないところに連れ込まれたら、諦めるしかない。
 桂花は唇を噛みしめた。
 渾身の力を込めて、自分を拘束している腕を振り払った。
 怪我さえさせなければ証拠はない。後は逃げるだけだ。
 足には自信があった。
「待ちやがれ!」
 追いかけてくる二つの足音を背後に、桂花は長い廊下を全力疾走した。
しかし、焦るあまり前方に注意を向ける余裕がなかった。
 手加減なしに、前から歩いてきた生徒と衝突してしまったのだ。
 受け身を取る余裕もなくリノリウムの床に倒れてしまい、強かに腰を打ちつけた。
「っ……痛っ!」
 足音は見る間に近付いてくる。もう無理だ、逃げられない。
 諦めたとたん、身体から力が抜けていく。涙も出なかった。
 放心したように座り込んでいると、だらりと投げ出された腕を強く掴まれた。
「おい、大丈夫か?」
 追いかけてくるクラスメイトの声ではない。
 顔を上げると、そこには見知らぬ顔があった。
 空色の瞳が印象的な、精悍な少年。
 今自分がぶつかった相手なのだと認識した瞬間、強引に立たされる。
「まだ走れっか?」
 頷こうとしたが、足がおかしい。
 おかしな倒れ方をして捻挫でもしたのだろうか、力が入らない。
 桂花は首を横に振った。
「無理です……すみません、ぶつかってしまって。行って下さい。あなたまで巻きこまれる」
「馬鹿野郎。こんなとこで怪我人見捨てて逃げたら寝覚めが悪いだろーが」
 それに、もう奴らは目の前だ。
「そこで見物がてら、休んでろよ」
 桂花を背中に庇いながら、少年は三人を向こうに回して不敵に笑った。
「弱い者いじめは感心しねーな。おまえら、バレたら停学だぜ?」
「はっ、そんなマヌケなことすっかよ」
「そーそー、おまえも痛い目見たくなかったら、その生意気な男女おいて消えろよ」
「それとも、こっちにまざるか?」
 数で勝っているという余裕が端々に見られる。非常に不愉快だった。
ひとりでは何もできないくせに。
しかし、そんな連中に手も足も出せない自分のほうが、もっと惨めだった。
 唇を、切れるほどに噛みしめる。
 前に立っていた少年がちらりと振り返って桂花と視線を合わせ、
安心させるように片目を瞑ってみせた。
 それも一瞬で、すぐに前を向いてしまう。
「頭の悪い奴とつるむ趣味はねーな。ボコボコになって恥晒したくなかったら消えろよ」
 威勢の良い啖呵である。勝ちを確信した連中が、ここまで言われて黙って引き下がる道理もない。
 あっという間に乱闘になった。
 もう桂花にはどうすることもできない。
 ただ、人が来ないことと、巻きこんでしまった少年の怪我が軽く済むことを祈るだけだ。
 しかし、桂花の悲観的な予想は思いのほか早く外れた。
 時間にして数十秒、床に沈んだのは桂花を追い回していた三人組だったのだ。
 本当にあっという間だった。
 鮮やかとしか言いようのない手際の良さで、
少年は当然のように勝ちをおさめていた。
 一人目は股間を容赦なく蹴り上げられて悶絶、
続いて二人目は首の後ろに手刀を叩き込まれて意識を失い、
多少は武術の心得がありそうな三人目も、
一撃も少年に加えることができずに蹴り倒されていた。
 桂花があっけにとられていると、少年は人好きのする笑顔で手を差しのべてきた。
「よし、行くか」
「どこに、ですか?」
「とりあえず保健室だろ? その足、なんとかしてもらわねーと。
 そのまま職員室行って、あいつらの処分を決めてもらう」
「だ、」
「だ?」
「駄目です。吾が騒ぎを起こしたら……国に帰らされてしまう」
「だから、だよ」
 少年は真剣な顔で説明する。
「このまま黙ってたら、間違いなくあいつらはおまえにやられたって騒ぎ立てるぜ? 
 おまえひとりで反論したって、信じてもらえんのか? 
 あいつら、理事会に親だの親戚だのがいるんでやりたい放題してるって有名なんだ。
 先手を打たれて書類に判押されちまったらどうしようもない。
 良いから俺に任しとけって。幸い、今なら理事長が帰国してっからな」
 ほれ、っと背中を向けてしゃがまれ、桂花は困惑した。
「あの……?」
「歩くと痛むだろ。おぶってやっから」
 とっさに、桂花は後退った。
 初対面の相手に丸ごと身体を預けるなど、桂花にはできない。
「自分で歩きます。肩だけ貸して下されば」
 頑なな態度に、少年はあっさり諦めて立ち上がった。
 なんとか自力で起きた桂花の片手を肩に回し、ゆっくりした歩調に合わせて歩いてくれる。
じれったいほどの速度のはずだが、少年はいやがる素振りすら見せなかった。
 一階の隅にある保健室は、恐らく校内で図書館に並ぶほど静かな場所だ。
常時待機している保健医の一樹は、
腫れあがった桂花の足首を見るなり顔をしかめ、
原因を問いただす目を少年に向けた。
「例の三馬鹿トリオに絡まれて、逃げてる途中で俺と正面衝突。
 転んだんだよ」
「また彼らか。困ったものだね。きみ、大丈夫?」
 やわらかな声に問われて、こくりと首肯する。
「留学してきたところらしいんだけど、
 どうも一般の留学生とは扱いが違うらしいんで、
 報告がてら理事長に探りをいれてこようと思ってる。
 悪いけどその間、ここで預かっててくんねーかな。
 誰が来ても渡さないで欲しいんだ」
「かまわないよ」
「助かる。じゃあ、ちょっとここで休んでてくれ。
 あとで絶対に迎えにくるから。知らない奴についていったりするなよ」
 まるで幼児にするような注意を残して、少年は行ってしまった。
「災難だったね」
 手際よく足に湿布を貼りながら、一樹は一方的に話し続けている。
 少年が出て行ってから、桂花はまだ一言も発していない。
「あの連中には教師も手を焼いていてね。
 でも最近は少しやりすぎだね。
 泣き寝入りしてきた生徒も多いことだし、
 そろそろ上も動くと思うから、安心するといい」
「……」
「警戒しなくても、俺はきみに危害を加えたりはしないよ。
 名前だけでも、教えてもらえないかな?」
 この微笑みを前に警戒心を続けるのは難しい。
 いつの間にか心が弛んできている自分に、桂花は呆れた。
 異国の地で、これほど穏やかな気持ちで誰かと向かい合ったことなどなかったのに。
「桂花、と申します」
「きれいな名前だね。きみにぴったりだ」
「この国では、女性に付ける名と聞きましたが」
「俺は本人に似合っていればそれで良いと思うよ。
 それに、これだけ国際化が進んだ時代に名前云々であれこれ言うのはナンセンスだ」
「ありがとう、ございます」
 大好きな人にもらった名を褒められるのは、単純に嬉しいものだ。
 自然と桂花の顔は綻んでいた。
 解き放てば無差別に人に襲いかかる獣のような扱いで入国審査を受け、
何枚もの誓約書にサインするまで手足の拘束すら解かれなかった桂花の心は荒みきっていた。
敵対国からの留学生を見るこの国の人々の目は冷たかった。
つい数年前も大きな戦争があったところなのだ。
何万人もの人々が桂花の国によって命を奪われた。
もちろんその逆もあった。
 ようやく和平条約が結ばれたあとも、
国家間の関係が完全修復されたとは言い難い関係が続いている。
 そんな中での留学だった。
 この国の人間は桂花の国を蛮族の国と蔑み、
それを理由にいつまでたっても対等な立場で交渉のテーブルにつこうとはしない。
それならば、同じように理性と知性を持った人間であることを証明しようと、
国は桂花を差し出した。
容姿に優れ、頭脳明晰の天才と名高かった桂花は、
あらゆる物事に対して一切の抵抗を禁じられ、
ほとんど問答無用で敵国に送り込まれたのだ。
それで心安らかに過ごせるはずがない。
 監視付きのひとり住まいで、一時たりとも気の休まる時のなかった桂花の緊張が、
立て続けの刺激で一気に弛んだ。
 気付けば、頬に冷たい感触。
 それが自分の涙だと分かった時には、一樹の唇が頬に触れていた。
「辛かったね。でも、もう大丈夫。ここにいれば俺が守るし、柢王もいる」
「てい、おう?」
「ああ、きみをここに連れてきたさっきの子だよ。柢王というんだ」
「柢王……」
「彼が本気で動いたら、いくら彼らのバックに理事会がついていても無駄だからね」
「そう、なのですか?」
「彼はこの国の王族の直系だからね。
 それに、個人的に理事長とも懇意にしている。
 校長や教師との駆け引きも上手い。だから、安心しておいで」
「でも、それならなぜあいつらが手を出してきたんですか? 
 敵に回したくないでしょうに」
「柢王は自分の身分を表沙汰にはしていないからね。
 直系といっても末っ子で、継承権も三番目。
 王族として人前に出たことはまだないんだ」
 桂花は眼を見開いた。
「そ、んな……極秘事項を、吾になぜ」
「きみは秘密を守れる子だ。無闇に人に話したりはしないだろう?」
 桂花は、真っ直ぐ寄せられる信頼の眼差しから視線を逸らした。
 そんなに簡単に、信じたりしないで欲しかった。
「吾は、そんな人間ではありません」
「俺は自分の直感を信じてるんだ。
 きみなら、柢王の良い友達になってくれるような気がしてね」
「ともだち?」
「あの子も、なかなか自分の領域に人を受け入れないから、
 同年代の友人がほとんどいないんだ」
「だからといって……」
「もちろん、無理強いはしないよ。
 でも一緒にいて楽しいと思えたら、
 あの子の力になってやって欲しいんだ」
 そうまで言われて、頭から拒否するのも大人げなく思えた。
 この人には、なぜかイエスとしか言えない気がする桂花だった。 


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