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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.6 (2006/09/05 21:08) title:サマー・リーディング(2) 〜彼が邪道を読んだなら〜
Name:モリヤマ (i125-201-153-94.s02.a018.ap.plala.or.jp)


「もしかして、柢王って人気ないのか?」
「そんなことないだろ。あいつ、好きなキャラ『柢王』つってたしよ」
 突然真剣に、しかもむきになって言い合い始めた俺達に、カウンターの奥で開店準備をしていた卓也さんとテーブル席にいたはずの二葉が、驚いたようにこっちを見ながら互いに近寄りひそひそ話をはじめた。
 確かに、小沼から本を受け取ってからこっち、寝食そっちのけで俺が没頭してる本に興味を持った二葉に、読み終わったものから順に渡してって、ふたりで簡単な感想も話しあったりしたけど。
 卓也さんも読んだのか?(って言うか、小沼、読ませたのか?)
 
「だったら、」
 突然にっこりと、どこから現れたのか(もちろんドアからだけど)、いつのまにか一樹さんが俺達の横に立っていた。

「ふたりとも、なんで、柢王じゃなくて、ティアなわけ?」

「卓也は」
「二葉は」

「「つまみ食いなんて」」

「しないもんっ!」(by:小沼)
「しないよ!」(by:俺)

「…プッ、ははははは!」

 意図せず同時にハモった俺達の答えに、一樹さんは大爆笑だ。そして、
「信頼されてるねぇ、二人とも」
 卓也さんと二葉のほうに向き直ったかと思うと、
「…信頼、じゃなく、願望?」
 微笑で問いかける。
「信頼に決まってんだろ!」
「…そういうことだ」
 二葉の言葉に、厳かに卓也さんが同意する。

 …って。
 一樹さんもこのシリーズ知ってるんだ?
 意外な感じに少し驚きつつも、一樹さんなら、なにを知ってても不思議じゃないって思ってしまう。
 あ、もしかして、一樹さんも小沼経由とか…?

「でもさ、」
 俺が二葉達や一樹さんに気を取られてる間に小沼は考え込んでたようだ。
「二葉こそ、ティアっていうのは無理がないか?」
 確かに、髪の色が少し似てるくらいに思うのが普通なんだろうけど。
「…ティアってさ、ちょっと乙女入ってるだろ?」
「オトメ…って、あのオトメ!?」
 いや、あのオトメがどのオトメかはわかんないけど。
「字で書くと乙女座の乙女…なんだけど。…なんかこうティアって、アシュレイとのこといろいろ楽しく想像したり…夢見がちっていうの?」

『それは妄想だよ。忍』
 あとで聞いたんだけど、心で一樹さん、突っ込んでたとか。

「ああっ…あるあるっ! そうそう、二葉もそゆとこあるよね〜!!」
『…ありすぎなくらい、あるな』(by:一樹さんツッコミ)
 お腹を抱えて大うけしてる小沼に、俺は苦笑とともに頷く。
「でもそういうの、卓也はないからなぁ…」
「小沼…」
 乙女な卓也さん…は、俺もないとは思うけど。(ていうか、あったら…ちょっとこわい…かな?)
 でも、残念そうな、少し悔しそうな小沼に、俺は卓也さんも二葉とそんなに変わらないよって喉まで出かかったけど我慢した。それは、俺が言うことじゃないと思ったんだ。
 あとで聞いたら同じように一樹さんも思ったけど、やっぱり心にとどめておいたんだって。

『卓也も、人一倍嫉妬深くて、たぶん妄想家だよね』(by:一樹さん、心のツッコミ)

 そんなふうに束の間会話が途切れ、小沼になんて声をかけようか迷い始めたとき、
「そういえばティアも、アシュレイの前に使い女の皆さんや他多数の女性の方をつまんでたみたいだけど?」
 一樹さんが俺と小沼を試すように訊いてきた。
「過去は振り返らないから関係ないね!」
「少しは振り返れ」
 小沼の速攻レスに、双子のように卓也さんと二葉がハモり声が小さく響く。

「俺も…過去は気にしても仕方ないし、やっぱり大事なのは今だと思うから…」
 伊達に人生の半分付き合ってきたわけじゃない。
 気にしすぎて疑いだしたらキリがないし、過去どころか、今だってちょっとしたことで嫉妬することもあるくらいなのに。
 二葉は自分のほうが嫉妬深いって思ってるようだけど、そんなの俺だって変わらない。
 信じてたって、そういうのは別だよ。でもだから今を、目の前の現実を大切にしたい。それでいいって思うんだ。
「じゃあ、アレは気にならなかったんだ?」
「「アレ?」」
「過去のつまみ食いはいいとしても、『無限抱擁』でつまみ食い…って言っていいかどうかわからないけど、されてたよね彼、アウスレーゼ様に」
「…あんなのっ、ティアじゃない! ネフロニカって仙台市の奴に乗っ取られたからだもん!」
 …それを言うなら、先代守天だよ小沼。
 すぐに自分の覚えやすい言葉で記憶するんだから。
「ティア自身の意思で関係を継続することになったんだと思うけど?」
「う…うぅっ…忍ぅぅ…」
 意地悪な一樹さんの言葉に、小沼が助けを求めて俺を見る。
「あの行為は、アシュレイを守るためのものだから、そういう意味あいのものでとらえたくないって言うか…。あれが、あの方法だけがティアにできる、ティアの闘い方だったんじゃないかなって…」
「うう、そうだよねぇ忍!!」
「それに、俺の場合、自分の思い込みでティアの中にちょっとだけ二葉を見つけただけで…。イコールってわけじゃないし…」
「そそ、そうだよ!! 俺だって、ティアと卓也が全くおんなじだなんて思ってないもんっ」
「了解…。イコールでも全く同じでもないけど、邪道の中では、ティア系かなってだけなんだね。それに、アウスレーゼ様とのアレは、仙台市…じゃない、先代守天のネフロニカに乗っ取られてたせいで、ティアにはあれがアシュレイを守るための闘い方だったんだと」
「あったりまえじゃん! ティアも卓也もバリバリの攻め男なんだから!!」
 小沼……。
 なんだよ、そのバリバリ攻め男ってのは……。
「忍は?」
「え、あ、そ、そう…俺もそんな感じかな…?」
 ていうか、一樹さんのその冷静なまとめぶりがちょっとこわいんだけど…。
「ふーん、そうなんだ、バリバリなんだ。…ところでふたりとも、ノベルズは読んでないんだね?」
 一樹さんが意味深に問いかける。
「って、それって絶版だもん、当たり前じゃんっ」
「俺も読んでませんけど…」
 てことは、小沼経由じゃないんだ。
 いや、別にどうでもいいんだけど…。
 …やっぱりなんか、一樹さんって深い。
「…フフフフフ。そうか。あはははは」
「な、なに? なんだよ一樹!」
「いや、ふたりとも、彼氏がティア系だと思ってるんならそれでいいじゃないか。仲良くふたりともティア系で。…ふ、ふはははは」
「…やだよ、なんか。気持ち悪いよぉ」
「かか一樹さん、な、なにかあるんなら教えて下さい」
 心底楽しそうな一樹さんに、俺と小沼の不安度を示す値は急上昇だ。
「それじゃネタバレになっちゃうよ、忍。いやだろ? 読む前にネタバレは。…うーん、でもそうかぁ、それじゃあ、俺は、山凍あたりもらっとこうかなぁ。ちょっと無口っぽく見えるとこがうちの犬に似てる気もするし。他にも努力家とか勉強家とか独学家(?)とか共通項があるようだしなぁ。…でも、ティアか、そうかぁ。卓也と二葉がねぇ。…イコールでなく、忍的にオトメと思うなら、リバも問題ないだろうね。生粋のリバ。リバというより受けかも」

 …犬?
 リバ?
 一樹さんの、最後つぶやくような小さな声が、俺の耳に響いた。

 犬? 山凍に似てる犬?
 無口な犬って…あんまりじゃれたり吠えたりしない大人しい犬ってことかな?
 や、それより、俺的にリバは問題ないって、どういうことだろ。
 リバ…?
 略語?
 リバ…リバティとか?
 解放…? 自由?…ってことか?
 
「一樹さん、リバって…」
「駄目だよ、忍。俺はネタバレは絶対しないから、ね? そういえば、実は俺もティアに似てるって言われたことあるよ」
「一樹さんも?」
「そう、俺の知り合いにもそのシリーズ愛読してる子達がいてね」
 そう言って柔らかく微笑む一樹さんに、俺も最初はティアって一樹さんみたいだなぁって思いながら読んでたことを思い出す。
「俺も…俺も最初読んでてそう思いました」
 シリーズ中のティアの絵柄が一樹さんとちょっと似てるっていうのもあるかもだけど、実際見て知ってるわけでもないのに、ティアの毅然とした態度や優雅な物腰、優しい光りのような雰囲気に、一樹さんを思い描いてた。

『俺とティアが似てるっていう愛読者の彼女達の理由は、忍とは違うと思うけどね』
 俺の言葉に、まぶしいような微笑を返してくれた一樹さんの心の声は、当然ながら聞こえなかった。

「…リバって、リバって、受けってーーーーー!?」
 そんな俺達の横で、小沼が蒼白な顔でなにごとかぶつぶつつぶやいている。
「うわーんっっ、嘘だろーーーーーっっ!?」
「お、小沼…?」
 なにごとかと小沼に伸ばした手を、突然二葉に掴み取られる。
「ちょっといいか」
「え? あ、ちょっと待って二葉、いま小沼が」
「キョウは卓也にでも任せとけよ。それよりおまえ、俺がティアに似てるって言ったよな」
 二葉の真剣な様子に、小沼のことが気になりつつもとりあえず二葉の問いに答える。
「…似てるって言うか。どっちかって言ったらティア系かなって…」
「で、おまえの好きキャラは『柢王』なんだよな」
「好きって言うか、…まぁ、あの本の中では好きかなって…」
「俺がティア系だって言っておきながら、おまえの好きキャラは柢王なんだな!?」
 確認を求める声に、小沼に気を取られてた俺は、
「だから、そうだって言ってるじゃないか…っ」
 そう返して、自分の失態に気づいたときには遅かった。
「ふ、ふたば…?」
「…フッ。そうだよな。最初から俺、おまえのタイプじゃなかったみてぇだしよ。長かったもんなぁ、片思い期間。ああ、俺、ティアの気持ちがよく分かるよ。アシュレイをずっと思って(遠見鏡で)追っかけてさ…。そうか、俺ってティアなんだなぁ…」
 うなだれて、ぼそぼそひとりで話してる二葉がこわい…。
「ふふふたば…? ご、ごめん、そんなつもりじゃなくて…えっとなんていうか…俺、柢王は好きなキャラだけど、それはあくまで『お話』の中のことで、現実とは全く別問題だから…」
 あああ、うまい言い訳(自分で言い訳と認めてるあたり…)が思いつかない…。
「そ、そうだっ、それにっ、二葉だって邪道の中での好きキャラはアシュレイだって言ってたじゃないか! で、そのあとで『忍はどっちかってぇと桂花系だよな』って!!」
「…そそ、そんなこと、俺言ったっけ…?」
「言った。…俺も桂花は好きだけど、あのときちょっとショックだった…」
「…え、マジ!? 俺、言ったか!?」
 よーし、もう一息だ。
「…アシュレイって、ちょっと小沼みたいなとこ、あるよね」
 二葉から見て斜め30度にうつむき、伏目がちに小さな声で言ってみる。
「や、そりゃ違うって!! …そう、現実と本は違うって、さっきおまえも言ってたじゃん!! そ、そういうことだよ!! なっ!?」
 俺の両肩を掴んでがしがし揺さぶりながら、二葉が懸命に同意を求めてくる。
「…うん、そうだよね」
 ちょっと頭がクラクラしたけど、ゆっくり二葉を見上げて微笑んでみせる。
「俺、今夜は二葉の作ったゴマダレの冷やし中華が食べたいな」
「ゴマダレでもタマスダレでも、まかせとけっ!」
 感極まった二葉が突然抱きしめてくる。
 『石の余韻』でアシュレイに珍しく色仕掛けされてるティアを思い出した。
 …こういう単純なとこも、ティアに似てるって思ったんだよなぁ。
 俺は思わずこぼれそうになった笑いを飲み込んだ。
 ていうか、「冷やし中華で愛の証明!!」と変な具合に燃えてる二葉はそろそろ連れて帰ったほうがいいかも…。
 一樹さんの言葉や小沼のことも気にはなるけど。
 見れば、いまだプチ恐慌状態の小沼を挟んで卓也さんが一樹さんになにごとか訊いている。
 小沼のことを心配した卓也さんが、一樹さんにノベルズのこととかリバとか…そのへんのことを聞き出そうとしてるのかな。


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