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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.55 (2006/12/22 14:41) title:Colors 9 TOUCH and GO!
Name:しおみ (172.101.99.219.ap.yournet.ne.jp)

Touch・・・and Go,Together!

「きっと機内では気が張っていたんだね、桂花。でもよかったよ、無事で」
 知らせを受けてやって来たティアが、桂花と柢王の顔を見比べて微笑んだ。同じく、朝一番で来た柢王も、
「なんかあれこれ心配したけど、まあ終りよければってことだな。アシュレイはどうしてる?」
 ティアは微笑んでドアの方を差した。そちらを見ると、そろそろと開かれて行くドアのすき間からなにか白いものが見える。
「なにやってんだ、アシュレイ」
 いきなりドアを引かれたアシュレイは、わっと叫んで部屋に転がり込んできた。顔を上げると、
「お、俺は姉ちゃんに命令されたからっ、そいつが倒れたの、俺のせいだって言われたから、だから来たんだからなっ!」
 真赤な顔で叫ぶのに、ティアと柢王が噴出しそうな瞳を見交わす。その手の花束まで姉ちゃんの命令? だが、ふたりはそれには触れず、
「桂花ね、もう退院できるって。脳震盪だったし、どこにも異常ないからって」
「ほんとか」
 アシュレイはほっとした顔をしたが、すぐに赤くなった。心では礼を言っても本人に言うには深呼吸が必要だ。息を吸い込み、
「昨日は助かった・・・サンキュ」
 呟くようにそう言うとぷいと顔を反らす。耳まで真赤なその様子に、桂花は穏やかな声で、
「よけいな心配かけましたね」
「おまえが悪いんじゃない」
 アシュレイは視線は向けないままで花束を差し出した。もう少しで手が届かない桂花のために、柢王がそれを受け取り、桂花に渡す。白い薔薇とかすみ草に赤いリボン。桂花にも、アシュレイにもよく似合う色だ。
「ありがとうございます」
 桂花の礼に、アシュレイの頬に小さな小さな笑みが浮かんだ。が、ふいにその瞳がはっと見開かれ、
「でもおまえの不倫問題はまだ解決してないからなっ!」
 柢王があっ、と口を開くより早く、アシュレイはすごい勢いでティアを向き直り、
「おまえも知ってたんだろ、ティアっ。こいつが冥界航空の誰かとできてたのっ!」
「でっ、できてたっ?」
「そ、そりゃ何かわけがあるかもしれないけど、でも、話してくれなきゃ俺は仲間としてこいつのこと──」
「ちょっと待ってください」
 桂花の声が、あぜんとしたティアと赤い顔で続けようとしたアシュレイの会話を遮った。
「吾があのオーナーとできていたというのはどういう話なんですか」
 視線の先はピシリと柢王。−273.15℃の視線の体感は、他人なら奇跡。自分だと凍結。俺は信じてねーってと説明する前に破裂しそうな柢王は、即座に口を開いてアシュレイの話の顛末を語った。
「・・・ってことで、こいつはそれをおまえの不倫だと思った、と」
 説明したのに、桂花の視線はアブソリュート・ゼロのままだ。俺のせい? 
「だってそう思うしかないだろ。おまえのこと聞いた時に、ティアも何か隠してるみたいだったし、おまえとあの女だってその旦那のこと、おまえに執着してたって──」
「い、いや、アシュレイ、そうじゃなくてね」
 言いかけたティアを、桂花が遮る。
「いいですよ、オーナー。吾から説明しますから」
 ティアがすまなさそうな顔になったが、桂花は落ち着いて、
「これは天界航空に来る前にオーナーにはお話したことですが──もともと、冥界航空は李々の会社なんです。オーナーは婿養子で。吾は親がいなくて、たまたま同郷の李々と知り合って引き取って育ててもらったんです。吾がパイロットになったのもそういういきさつからなんですが」
 ちらりと柢王に向けた視線は自然温度──解凍された柢王が息をつく。ああ、寒かった。
「李々もオーナーも赤の他人の吾にとても親切で、不満は何もなかったんですが、ただ、オーナーは少し変わった趣味のある方で・・・・・・」
 桂花は、ある映画のタイトルを上げた。知っていますかと聞かれて、柢王が、
「なんか美にこだわる芸術家のじーさんが旅行先ですっげぇ美少年に出会って、ストーカーみたく物陰から眺めてつきまとってるうちに、島に流行ってた病に罹ってぽっくり逝くって話だろ」
「非常に情緒の欠落した解釈ですが、概ね正解です。オーナーもそう言う傾向が──悪い人ではないんですよ。ただ美しいものにとても執着心のある方で。自宅や社屋が美麗なのはもちろん、冥界航空のあの黒い翼もオーナーの発案ですし。吾も、まあ鑑賞されたりとか写真を部屋一面に貼られたりとかは別によかったんですが・・・遠くに言って欲しくないからと内勤に回されそうになるとさすがに・・・・・・」
「パッ、パイロットやめろって言ったのか、そいつっ」
「最初は国内線でどうかと。でもそのうち国内線の方が頻繁に出かけるからと」
「そんな奴は地獄に落とせっ! なんて奴だっ、パイロットにそんなこと言うなんて!」
 アシュレイは怒りのあまり真赤で──つまりはずっと真赤だ。ティアが困ったような顔をして言った。
「冥界航空の李々夫人とは以前からの知り合いでね。ある日電話があって、自分の会社のパイロットを雇って欲しいって言われたんだ。せっかく優秀なのにこのままじゃ飛べなくなるから、この子の翼を守ってやって欲しいって」
「李々は吾がパイロットを楽しんでいるのを知っていましたし、飛べない鳥は不幸だと知っていましたから」
「それでおまえは詳しい話を聞いて桂花を雇ったんだな、ティア?」
「うん。会ってみたらそのオーナーの気持ちもわかったよ。桂花はちょっと手の触れられない感じの美人だし」
 ちらと柢王を見て、
「パイロットとしても責任あるスタッフとしてもぜひうちに来て欲しかった。ただ、あんまり冥界航空のことが面に出ると向こうにも迷惑がかかるし、変な噂で桂花が傷つくのも嫌だったからおまえたちにも言わなかったけど」
「オーナーのご温情には感謝しています」
「何言ってるの。君がうちに来てくれて本当に助かってる。みんな君のこと信用してるし、私もそうだよ。色々と繋がりのある冥界航空を離れてとまどうことも多かっただろうにいつも冷静で。君を見ていると私ももっと強くなれると思えた。アシュレイ、柢王、桂花がうちに来たのはそういうわけだよ」
 意外なことの真相に、柢王は軽く肩をすくめた。アシュレイも呆然としていたが、
「じゃ、じゃあ俺が勘違いして・・・・・・」
「事情がわからなければ仕方ありません。社内にも多少の誤解はあったようですが、まあ、オーナーは存在自体が不可解な方ですから」
「有能な人なんだけどね。私も何度か会ったけどちょっと回路が変わっているっていうか・・・・・・まあそんな人」
 どんな人だ。が、二人は突っ込まなかった。たぶんその人は理解しない方がいい人だ。
「でも天界航空に来たのはよかったと思っています。飛ぶ場所は変わりませんが、スタンスは変わりましたから。飛ぶことの、重さというものがね」
 静かに言った桂花に、柢王は微笑んだ。アシュレイの瞳にはちょっと恥ずかしそうな色が浮かんだ。ティアはその、適えた夢の始まりに大事な事を学んだ親友と、他人を受け入れる気になったらしいクールなパイロットの顔とを見比べて微笑んだ。
 自分もこの会社の中で学んだことだ。それぞれが、それぞれとして鮮やかでいる、そのことも大事だけれど。
 そのカラーを活かしながらも、みんなで華やかにものびやかにも自由にも楽しげにも、キャンパスを彩る大きなひとつの絵を描くことも出来る。そんな風に、お互いを高めあうことも、助け合うことも出来る。
(それが、チーム、なんだよね──)

「ちょっとコーヒーでもって言ってくれるとこだよな、ここは」
 マンションのドアの前で、柢王が桂花の瞳を見据えてそう言った。桂花もそれに頷いて、
「送ってもらった礼くらいはしますよ」
 が、柢王ははっきりした口調で言った。
「礼じゃなくて詫び。おまえが倒れた時、心臓止まるかと思ったんだからな。言っとくけど──かわすつもりならいつまでかわしてくれたって構わないぜ。俺はいつまでだって追いかけるから」
「あなたは、たしかに諦めてくれなさそうですね」
「なんだよ、信用してないな? 俺は本気だぞ」
「そんなことは初めからわかっていますよ」
「わかってて完全無視か?」
「無視していたわけではありません」
「じゃ、もっと押して欲しかった?」
「それもないですね。そういう遊びはしないことにしていますから」
「遊びが嫌なら本気になれよ。おまえが本気になってくれたら、俺も全力でいけるから」
「あなたの本気はこわそうですね」
 それに、と桂花が囁く。見えない磁力に引かれるように、ドアの前、二人の距離が近くなる。
「吾の本気も、こわいですよ?」
 挑むようなまなざしに、柢王は微笑んだ。白い髪に指を滑らせ、
「こわい方がいい。優しくかわされるよりはずっといいよ。おまえの生身が欲しいんだ」
 青く光る瞳に真剣さが宿る。桂花はその瞳を見上げて、
「あなたの瞳・・・本当は何色なんです? 青にも灰色にも見えるけど」
 柢王は笑って、桂花の顎に指をかけた。
「もっと近くで見ればわかる──」

                       *

 そして、全ての事が治まった、と思ったとたんにまた新しいあれこれが起きる人生は、常にタッチ・アンド・ゴーの連続だ。
 またまた誰もが忙しく動き回る天界航空のビルでも──
「なあ、次の休みいつだ?」
「あなたのフライト中です」
「んじゃその次は?」
「それもあなたのフライト中」
「十日は俺の休みだけど」
「十日は吾がフライトですから」
「んじゃ問題解決のために来月から一緒に住むってことでどーだ?」
 営業部のドアの前、宣言した柢王に、桂花は顔を仰ぎ見て、
「今夜、寝ながら考えておきますよ」
 クールに答えてきびすを返す。柢王は眉を吊り上げ、
「今夜、電話するから出ろよ!」
 桂花は軽く手を上げるだけだ。時間がない柢王は大声で、
「絶対出ろよっ、出るまでかけるからっ!」
 細い指がひらひら揺れて、舌打ちした柢王が営業部のドアを開けた瞬間、
「柢王」
 振り向くと、こちらを見ている美人な機長が、打ちのめすような笑みを浮かべ、
「Good Luck」
 よい旅を。再び、きびすを返した背中に猛ダッシュで行くより先に部長の声が、
「柢王っ、なにやってんだ、もう時間ないぞっ!」
 歯軋りしたい機長は、悩殺美人の面影を振り払えないまま会議に連行──。
 機長VS機長の競い合いは、今日もホワイトカラーが優位の模様。それでも、このチェスボードの様相は常に、いつ逆転するかわからない緊迫戦だ。

 対して、もう一方の二人では、
「アシュレイ、君、合コン行ったんだってっ?」
 オーナールームに呼びつけられた赤毛の機長が、顔を真赤にして怒っている金髪美人との対決だ。
「ごっ合コンって俺はただおいしいものがありますよーって言うからついてっただけでっ」
「しかもCAに持ち帰られそうになったんだってっ?」
「たっただ腹一杯だから帰ろうと思ったらデザートがあるでしょって言うから、まだ行くのかと思ったら皆が出てきてなんか大事になって──」
『デザートはあたしのよっ』『何言ってんの、あたしのだったら!』。
 その場のCAたちが何を競っていたのか、デザート本人だけがわかってない。ただ、きれいな顔を強ばらせて怒っている親友をなだめたくて、
「も、持って帰ればよかったか? だ、だよな、おまえデザートとか好きだもんな。次は持って帰るから──」
「次っ? しかも持って帰るってCAをっ?」
「し、CAっ?」
 そんなデザートあるのか。とまどう機長は地上にはまだ目の行き届かないところもあるようで。そんな親友の顔を見てため息をつくオーナーも、幼馴染の大事な機長にはまだ告げきれないことも多いようで。
 赤と金とのミックスは、まじりきらずに不安定。それでもそのまばゆい輝きは、いつも華やかであたたかい。

 それぞれのカラーを持った存在は、空にいても陸にいても、それぞれの鮮やかさで共にひとつの絵を描く。
 その人生のフライトはまだ始まったばかりだ。
 なにはともあれ、よい旅を──。
                          


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