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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.46 (2006/12/04 15:04) title:心ゆらいで
Name: (p132020.ppp.dion.ne.jp)

 アシュレイの人指し指に小さいけれど深い傷あとがある。
 保護したばかりのうさぎに噛まれた時のものだ。
 彼にとって初めて自分で保護して塾に連れてきた動物。
 人馴れしてなかったうさぎは彼の指に噛みついたが、それを叱りもせずに根気よく世話を続けたアシュレイ。
 当時、自分とはあまり口をきいてくれない彼だったので、ティアがその傷が残ってしまっている事に気づいたのはかなり後になってからのことだった。
 親友と認めてもらえたあたりから何度か傷あとを消そうかと申し出たが「いい」とそっけない返事ばかり。
 どうやらアシュレイはその傷あとを見ては、もう亡くなってしまったうさぎのことを思い出しているらしいのだった。
 意外な一面を発見するたび、ますます彼に惹かれたティアだったが、彼の指に残る痕は解せなかった。
 その原因をはっきりと悟ったのは―――――。

 アシュレイが窓際の席で外に視線をやりながらその指をそっとさすって、無意識なのだろう、唇を押し当てたのを見た瞬間どうしようもない感情に突き動かされた。
 ティアは無言で彼の前へ行くと、その傷あとを手光で消してしまおうとしたのだ。
 いきなりの事に驚いたアシュレイがティアを突き飛ばし華奢な体が床に転がると、悲鳴をあげた女子がティアの元へと駆けつけた。
 思わず逃げ出した彼を追おうとしたが、自分に群がってくる女子に邪魔されて、彼女達の間から見送るだけとなってしまう。
 遠ざかる赤い髪を見つめたままティアは唇をかみしめた。
 ―――――――彼の体に一生残る傷あとを、私もつけたい。
 守護するために存在する自分が、何かを傷つけることなど出来ないのはじゅうぶん過ぎるほど承知している。
 しかし、うさぎにつけられた傷をあんな風に愛しそうに扱われたらたまらなくなってしまった。
 誰よりも大切にしたい存在だからこそ、誰よりも自分のものだけにしたいと思う自我にティアは愕然とした。
 人を想うという気持ちには・・・・こんな昏い、濁った感情もあるのかと。

「アシュレイが怪我っ!?」
 朝、ティアに会うなり柢王がアシュレイ情報を流してきた。
「昨日な。また魔族狩りに行ってたらしい、しばらく塾休むってよ」
「それで!?ケガってどんな?!」
「わかんね。俺も今朝早くに見舞いに行ったけど謝絶されたから会ってねンだ」
・・・・・どうしよう、自分があんな事を・・・・。
「行かなきゃ!」
「へっ?塾は?八紫仙に怒られんぞ」
「アシュレイの方が大事だよ!」
「・・・・・分かった」
 柢王は焦るティアをなだめて、文殊先生から天守塔の方へ連絡を入れて欲しいと頼んでくれた。
「ありがとう、柢王」
「そんな顔すんなよ、アシュレイなんて殺したって死にゃあしね―よ」
 ティアの、あまりの顔色の悪さに柢王はアシュレイよりこっちの方がヤベェんじゃないかと、気を揉んだ。
 しばらくして、天守塔から護衛の者がやってくると、柢王は「じゃあな、うまくあいつの機嫌直して来いよ」とウィンクをよこした。
「・・・・・やっぱり・・・ばれてる」
 最近アシュレイに避けられ続けている自分を気にしてくれていたに違いない。
 アシュレイに対するこの気持ちだって、柢王はきっと感づいている。
 謝絶されたと言っていたから、本当のところは柢王だって同行して見舞いたいはずだ。
 しかしどこまでも気のまわる親友は、自分にアシュレイと二人きりになるチャンスをくれたのだ。
 こんな時は本当に守護主天でよかったと思う。
 自分が行けば、謝絶されるどころか喜んで招き入れられるに違いない。
「待ってて、アシュレイ」

「なんだよ、思い出し笑いなんて気味悪ぃ」
「―――え?」
 手を切ってしまったアシュレイに、手光を当てながら懐かしいことを思い出していたティアは、声をかけられて我にかえる。
「ああ、ごめん・・・ちょっとね」
 こうして何度この手に手光を当ててきただろう。
 あのころ頑なに、うさぎの噛み傷を消すことを拒んでいたアシュレイだったが、彼が例のシュラムで瀕死状態となったとき、ドサクサにまぎれてとうとう傷あとを消してしまった。
 アシュレイは気づいていたようだが、何も言ってこなかったので、ティアも敢えて口にはしなかった。
「――――――そういやお前・・・この指の傷、消したな」
「・・・・き、傷?」
 まさにたった今、思い出していたことを指摘され少なからずうろたえてしまう。
「とぼけんな。お前、異様にここの傷あと消したがってたよな・・・そんなに傷あとあるの・・・・嫌か?」
 何か勘違いしているようにアシュレイはチラッとティアを見た。
 あれは・・・初めて嫉妬という感情を知った日だったのだ。
 まだまだ子供の自分に「嫉妬する気持ち」というのは取り扱いが難しく、なんという心の狭い情けない守護主天なのだと自己嫌悪に陥ったものだった。
 けれど、今なら甘えついでにかるく「嫉妬してる」と告白できるし、今でも我ながらあきれるくらい色んな物に(者にも)嫉妬し続けている。
「嫉妬だよ。うさぎの噛み傷に嫉妬してたんだ」
「へえぇ?」
 アシュレイが間の抜けた声をあげた。
「だって、私には君に傷あとを残すことなんてできないし、それを残して君に一生覚えててもらうことすら不可能だったんだもの」
「・・・なんだそりゃ?」
「でも、もういいんだ。だって・・・・大切な君に傷あとなんて残せるわけないよ。それに今ならこうして・・・」
 ティアは素早くアシュレイの首筋に吸いつくと、鉄拳が繰り出される前に凶暴な両手を掴んだ。
「この『あと』はすぐ消えてしまうけど、一生つけ続けるつもりでいるから・・・ね」

 何の目的で何をされたのか分からなかったアシュレイが、ハッと気づいた時にはすでにティアのベッドに移動された後だった。


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