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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.44 (2006/11/25 22:10) title:宝石旋律 〜嵐の雫〜(11)
Name:花稀藍生 (p1102-dng32awa.osaka.ocn.ne.jp)


 ・・・・・ ピシャン・・ ―――

 金に光り輝く黒き水が、また ひとしずく 暗い虚空へと立ちのぼっていった。
「・・・反応が悪いな。補助脳の一つもつけてやれば良かったか?」
 暗い水面に映し出される巨虫の姿を見据えながら、教主は手に持つ扇を音を立ててとじた。
 巨大化しすぎて神経系統に命令が行き届かないのか、動きが今ひとつ悪い。水面に映し出
される巨虫の動きを目で追いながらさらに言葉を継ぐ。
「動きの悪さはこちらで補ってやればいいのだが・・・」
 閻魔の助力を得て魔刻谷より運び出させた、魔族のカケラを埋め込んだ岩を基点に直径5
00メートルの円筒形状の結界を教主は展開させている。
 結界に満たされたのは、冥界の黒い水だ。
 冥界から力を通し、天界に巨大な水槽を展開させた教主は、水槽の底に沈んだ巨虫の姿を
苛立たしげに見つめた。
「さすがに結界内といえど、泳ぎ出すまでにはいたらぬか・・・」
 天界に力を渡し続けることは教主の力をもってしても、なかなか思い通りにはならなかっ
た。力を通すための『管』の役目として、力のある魔族を冥界の道をはじめ、魔風窟、そし
て魔刻谷には最強の兄妹を中継として置いてなお、困難だった。
 最大の障害は、結界で緩和されているとは言え、結界内に満たした黒き水と天界に満ちる
霊気とが、干渉、相殺し合って刻々と蒸散し続けていることだ。
 そのため、結界内部に満ちるのは、水と言うよりは濃霧に近い。それゆえに、黒き水の中
でこそ真価を発揮するはずである水棲の巨虫の動きに生彩がないのだ。
「・・・力が足りぬ」
 教主が時を置かず力を渡し続けているのはそのせいでもある。嘆息に混じる苛立ちに、
李々がわずかに肩を引いた。
「・・・シュラムは良かったな。」
 根の先から岩をも溶かす成分を分泌し、岩盤の内部に根を下ろす種目の植物を基にして作
らせた、水陸両用の植物系魔族。
「・・・それに比べれば、これらのものなど屑にすぎぬ」
 シュラムのように霊気を即座に察知して自ら攻撃し、意志のあるように動く何十本もの触
腕をもっているわけでもない。
 冥界の水を得なければ動くこともかなわない出来損ないたち。 巨虫達はシュラムが創り
出されるまで、創っては廃棄されてきた、いわば試作品だ。
「・・・結界内の濃度を上げぬ事には話にならぬな・・・」
 階から身を乗り出して、教主は水面に手をかざした。・・・新たに湖面に立つ波紋を見つめ、
李々はかすかに息を詰め、瞳を閉じた。
 
 
「南領および天主塔の各隊長、点呼ォ! 被害状況を報告しろ!」
 なおも吼え続けようとするアシュレイの頭を押さえつけ、柢王が空中にひとかたまりにな
っている兵士達に向かって言った。 その声は大きかったが決して鋭いものではなく独特の
深みのあるその若い声は、恐怖による恐慌状態の兵士達の目を覚まさせ、安堵の念を引き出
すのに十分なものだった。
 恐慌状態から抜け出せば、兵士達の行動は迅速だった。各隊長の指揮の下、隊列を組み直
した兵士達が空中にそろう。
「・・・・・」
 柢王の横で、アシュレイが小さく笑うような吐息をついた。
 ・・・あの状況下にもかかわらず、信じがたいことに全員がそろっていた。
 死者がなかったことが奇跡のようだ。
 おそらく狭い範囲でかたまって作業していた事が幸いしたのだろう。各自がとっさの判断
で、それぞれ手近の者を助けあげて空中に待避していたのだ。
「・・・兵士の一人が片足を喰われました。 それから、崩れ落ちた瓦礫に巻き込まれて骨折
した者数名、全身を強く打って意識がない者もいますが、これは救助済みです。あと、瓦礫
の破片で負傷した者多数です。
 ・・・その、足を喰われた兵士が、最初にあの化け物を見ておりますが・・」
「・・・その時の話を聞きたいが・・・話せるか?」
「はい・・・」
 膝上から下を無惨に喰われた兵士は、かろうじてまだ意識を保っていた。
 傷口から上の腿の部分を止血のために幅広の剣帯できつく締め上げられ、その痛みにうめ
きながら、血の気を失った唇をふるわせて必死になって語ろうとした。
「・・・さ・最初に瓦礫からアレが出てきた時は、もっと小さかったんです・・ ・・妖気が・・・
2メートルくらいのヤツで・・・  ・・水音が・・・  俺が警戒の声をあげたら・・・ みんなが
こっちを向いて・・・ そうしたら、見てる間にヤツが大きくなって ・・・水音が・・・ なりな
がら・・こっちに向かってきて・・ ―――俺の、俺の・・足を」
 血の気を失ってがたがた震えながら必死に語る負傷者に柢王は携帯していた小瓶の聖水
を1/3ほど飲ませる。
「残りは意識のない奴らに等分して含ませろ。口を湿らせる程度だぞ。飲ませようとはする
な、つまらせるからな。・・・負傷者達を天主塔に運べ!ゆっくりとだぞ、意識のない奴らは
特に慎重に運べ。」
 柢王がティアから受け取った書状を隊長格の男に押しつけるように渡し、矢継ぎ早に指示
を飛ばす。その的確さにアシュレイが目を丸くした。
「・・・うちの優秀な副官の真似事さ」
 小声で言って、柢王は片目を瞑って見せた。
「ま、悔しかったら、お前もメチャクチャ頭がよくて気がよく回って、自分に惚れてくれて
る、三国一の美人副官を捜すんだな」
 誰よりも頭がよくて、気が回って、自分に惚れてくれている天界一美人の上司ならいるの
だが・・・とそこまで考えて、アシュレイは我に返った。
「・・・何言ってやがんだぁぁ! 」
 真っ赤になって怒鳴るアシュレイをほっといて柢王は最終指示を飛ばした。
「ティ・・守天殿がこの状況をごらんになっておられれば、救援を寄越して下さっている。
さあ、怪我しているヤツは全員ここから離れろ。かすり傷のヤツもだ! 残りの兵士は半径
200メートル地点まで後退、上空で待機!
 ―――アシュレイ!待て!一人で行くなっての!」
 20名にも満たない無傷の兵士達が遠巻きに見守る中、アシュレイと柢王は地表近くに浮
かび上がった。 斬妖槍を構えたアシュレイと剣を構えた柢王は1メートルほど距離を取る
と互いに背を向けた。 つまり互いの背中を守るようにして戦闘に備えたのだ。
 土埃が立ちこめた地表は、奇妙に静かだった。 アシュレイが ふいに低く言った。
「昔に帰ったみたいだな。・・・魔風窟や魔界でさ、多勢に囲まれた時はいつもこうしてた」
「・・・ああ」
「柢王、・・・何か策はあるか?」
「あるわけ無いだろ、あんなデカブツ相手に。・・・けど、思ったよりも動きが早い。気をつ
けないと、かすっただけでも吹っ飛ばされるぞ」
「でも、シュラムほどでかくねーし、シュラムみたいに何十本って素早い動きをする触腕が
ついてるわけでもないし。・・・ま、いけるんじゃねえ?」
「行き当たりばったりってのはいつものことだしな」
 柢王が笑いながら言い、アシュレイに提案を持ちかける。
「あいつの頭に近い方が主戦権握るってのはどうだ? で、残った方がフォローと万が一の
ための結界を張る役に回る」
「フォローはともかく、何で結界?」
「あんなデカブツ、大技でぶっ飛ばす以外ないだろ?」
「・・・おまえ、もしかしてそのために兵士達をあんなに後退させたのか?」
 返事はなかったが、こちらを向いてニヤッと笑ったその表情で解る。
「ま、200メートルも離れてりゃ大丈夫だと思うがな。おい、アシュレイ、俺になら遠慮
はいらないぞ。ガンガンいけ」
 アシュレイがどれほどの大技を放とうと、柢王ならば闘いながらでも完全に防ぐ。
 だから安心して思いっきり闘え。・・・柢王はそう言ってくれているのだ。
「・・・やっぱ、そーこなくっちゃな」
 正面に向き直り、斬妖槍を一瞬強く握りしめ、アシュレイは肩をすくめて低く笑い声を立
てた。
 柢王も笑っている。 こんな状況で笑っていることを異常なことだとは二人とも思わない。
武者震いと同じようなものだからだ。
 ―――体の奥から、突き上げてくる震えがある。
 叫び出したいような、この衝動。
 ―――ぞくぞくするような この感じ。
 ここでしか、この状況でしか、味わえない。
 危険の中に身を置き、その中で己の命を見いだす。
 そうすることでしか、己の存在を確立できない―――。
(・・・・・餓えに餓えた獣だな。あいつの戦闘霊気ときたら)
 背を向けていても柢王はアシュレイの戦闘霊気が暴発寸前まで高まっているのを感じ取
ることが出来た。
 ・・・アシュレイの、飢えに似たその衝動を、一番近くで共に闘ってきた柢王はよく知って
いる。彼もまた同じような衝動を深いところに隠し持つ者だからだ。
「アシュレイ、おまえ、ここんとこ やりたりてないんだろ?」
「―――な! な、な、何 言って・・っ!」
 柢王の笑いを含んだ声に、何かを勘違いしたアシュレイが真っ赤になって振り向く。感情
の混乱ぶりに彼の戦闘霊気がボンッと音を立てて吹き出した。 突然の霊気放出に柢王も面
食らった。背中に押し寄せてきた熱気に何事かと振り向く。
 ―――この時、アシュレイは柢王の背後の瓦礫が弾きあげられるのを、柢王はアシュレイ
の背後の瓦礫が弾きあげられるのを見た。・・・そして かすかな水音を 聞いた。
「そこかあっ!」
 斬妖槍を構えたアシュレイが柢王の方へ完全に体を振り向けるのを、アシュレイの背後を
みていた柢王が叫んだ。
「ちがう! こっちは尾だ! ―――アシュレイ!後ろだ!来るぞ!」
 瞬間、大量の瓦礫をはじき上げて巨虫の頭部がアシュレイの背後に迫った。
「・・っ!」
 振り向いて頭部に炎を叩き込もうと狙いを定めたアシュレイが、わずか一瞬で眼前に迫っ
た一対の巨大な大顎に目を見開いた。
(加速した・・―――!?)
 横合いから来た衝撃にアシュレイは弾き飛ばされて地面に叩き付けられた。
「・・って・・」
 とっさに受け身すらとれなかった己の間抜けさを呪い殺せるものなら呪い殺したい。
 素早く身を起こし、周囲を見回し、上空を見上げる。
「―――柢王!」
 巨虫は長い巨体を地中から引きずり出して上空へ伸び上がっていた。
 柢王がいない。
「柢王!」
 とっさに横合いから自分を突き飛ばして巨虫の大顎から逃してくれた彼が。
「―――柢・・」
 上空に伸び上がった巨虫の周囲から降り落ちてきたものがアシュレイの頬に落ちる。
「う・・・」
 ぬぐい取った手についたものを見て、アシュレイは叫んだ。
「うわあぁぁぁぁっ!」
 叫びながら、凄まじい早さで巨虫の巨体の上を駆け上がる。
(嘘だ!)
 手についた、赤黒い液体―――・・・
(嘘だ!嘘だ!)
「柢王!」
 一気に巨虫の頭部を飛び越えて上空に飛んだアシュレイが、巨獣の口元を見て青ざめ、
言葉を失った。


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