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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.321 (2014/02/02 12:32) title:WINDING ROAD 1
Name:明希子 (119-230-137-48f1.osk3.eonet.ne.jp)

 疾風のように瞬く間に駆け抜けるフォーミュラカー―――
 体の奥底にまで響き渡るエキゾーストノート―――
 サーキット全体を熱くとりまく大歓声―――

モータースポーツの最高峰であるF1の世界を生まれて初めて目の当たりにしたアシュレイは、
圧倒的な音とスピードの迫力に、一瞬で魅了された。
これまで体感したことのない熱気に包まれて、大きな瞳をきらきら輝かせながら、
「うわぁ…! すげぇ…!」
と、言葉にならない感嘆の声を上げて、ただただ魅入っている。
興奮のあまり、頬までぷっくりと紅潮するほどだ。
そんなアシュレイの様子に、思いきって観戦に誘ってみたティアも胸が高鳴る。
「よかった、君ならきっと喜ぶと思ったんだ」
「おう、おまえンちがこんな面白いことやってるなんてな!」
まだ幼いアシュレイはよく知らなかったが、ティアの家は世界に名を馳せる自動車メーカーだ。
高級スポーツカーとレーシングカーのみを製造し、F1にも代々参戦し続けている。
ティアは、自社にとっての誇りともいえるF1の世界をアシュレイも気に入ってくれたことが
嬉しくてたまらない。
車とかレースにどこまで興味を持ってくれるかはわからなかったけれど、自分の大切なものを
大好きな相手と一緒に楽しめたらいいなと、今回はじめて観戦に誘ってみたのだった。
世界最速を競うサイド・バイ・サイドの凌ぎ合いに、アシュレイは一目で惹き込まれたようだ。
「はえーなぁ! かっけーなぁ!」
目の前で熱いバトルが繰り広げられるたび、大はしゃぎで体を揺らしている。
そんな幼なじみに、ティアはドキドキしながら尋ねてみた。
「ねぇ、どのチームのマシンが好き?」
ひそかに望む答えがあって、小さな手は祈るように胸に当てられている。
「う〜ん、どれもカッコイイけど…、おれはあの赤いのがいっとう好きだ!」
まさに願っていた通りの返事に、胸の鼓動がますます弾む。
「ほんとっ? あれ、ウチのチームなんだ。私もあのキレイな赤色がいちばん好きだよ!」
だって、君の髪や瞳みたいに鮮やかで…と、うっとり口の中でつぶやく。
同じものを好きと言ってくれたことに舞い上がっていると、
「よしっ、決めた! おれ、あの赤いのに乗って世界一になるっ」
力強く立ち上がって、アシュレイが宣言した。
突然の展開にティアはびっくりしたが、
「おまえンとこのチームでチャンピオンになって、わくわくさせまくってやる!」
その気持ちが嬉しくて、満面の笑顔でうなずき返す。
「うん、アシュレイなら誰より速くて強いレーサーになれるよ。それだったら私も、君の夢を
支えてあげられる最高のマシンを作って、いちばん近くで応援したい!」
たった今ひらめいたばかりの思いだが、ふたりとも天の啓示を受けたように心がときめいた。
一緒に夢を叶えるんだと、幼い手をぎゅっと握り合って約束を交わしたのだった。

                    *

あれから幾年―――
新シーズンの幕開けを迎える春先、とうとうF1ドライバーの証であるスーパーライセンスを
取得したアシュレイは、念願の赤いレーシングスーツを身にまとってサーキット入りした。
アシュレイが所属するチームは、名門中の名門であるスクーデリア・エメロード。
“レーシングドライバーであれば、誰しもがエメロードで走ることを夢みる”とまで謳われる
F1界を代表するチームだ。
本来であれば、それほどのトップチームがF1初参戦の新人ドライバーをいきなり起用する
など考えられないことだが、様々な要因が重なって、異例のデビューが決まったのだった。
まず一つに、アシュレイがエメロードの若手育成アカデミーの出身で、F1への登竜門である
下位カテゴリーのレースでも早くから頭角を現していた注目のホープであること。
粗削りではあるもののアグレッシブで怖いもの知らずな走りに、エメロードの熱狂的なファン
であるティフォシ達も将来的な期待をかけている。
次に、ここ数年はライバルチームの後塵を拝しており、改革が求められていること。
これまであまたのタイトルや記録を築いてきたが、近年は成績がふるわず低迷しがちだ。
勝てない時期が長引くと、ドライバーや幹部の更迭など不穏なお家騒動まで勃発してしまう。
このまま転落して取り返しのつかない事態になる前に、新しい人材を加えることにしたのだ。
ただ、各チームには2名ずつ正ドライバーが存在するが、一度に2名とも変えるのはリスクが
大きいため、1名は実力者である山凍、もう1名は勢いのあるルーキーを選ぶことにした。
実力も名声も兼ね備えた山凍がいるからこそ、もう1名は冒険できたともいえる。
それでも、F1での実績が何もない新人に、伝統あるエメロードのシートを与えることを渋る
意見が多いのも事実で、アシュレイは初戦から高い成績を求められることは必至だった。
そんな途方もない重圧がのしかかる状況でも、
(絶対にやってやる!)
アシュレイの闘志は燃え上がるばかりで、早く戦いたくてうずうずしていた。
今もまだ朝もやが漂うなか、待ちきれずに起きだしてきたのだ。
急ぎ足でチームの施設へと向かう。
マシンの置いてあるピットガレージに着くと、同じく朝一で来たらしいティアと遭遇した。
まだ他に人影もない静けさのなか、しめし合わせたわけでもないのに行動が重なったことに、
トクンと小さく鼓動がはねる。
ティアは、今期からアシュレイが乗る赤色の車体を、そっと愛おしそうに撫でていた。
そのマシンと同じカラーのレーシングスーツ姿に気づくと、瞳を細めてまぶしげに眺め、
「よく似合ってる…。私たちの夢への第一歩だね」
潤むように感激した表情で手を差し伸べてくる。
けれどアシュレイは、ついにこのときが来たと熱いものが込み上げる気持ちとはうらはらに、
「まだ走ってすらいねェんだから、格好くらいでいちいち騒ぐな」
照れ隠しと開幕戦への張りつめた緊張感で、思わず彼の手を突っぱねてしまう。
ほんとは、おまえの期待に応えられるようにがんばるからって伝えたいのに。
今だってこうして、誰より早く真紅の姿を見てもらえて嬉しいのに、うまく言葉にできない。
アシュレイの大抜擢の裏では、エメロード社の御曹司であるティアが必死になって陰で後押し
してくれたことも、噂で聞いて知っている。
そんなことティアは微塵も顔に出さないけど、まだ何も成し遂げていない自分の力をまっすぐ
信じていてくれることに、内心ではものすごく感謝しているのに。
バツが悪くてそっぽを向いてしまったアシュレイに優しく苦笑しながらも、
「夢への挑戦がいよいよ始まるね。良かったり悪かったり迷ったりするときもあるだろうけど、
君と一緒ならどんな険しい道も乗り越えていけるって信じてるよ」
そう言って、こわばっていた肩を抱いてくれるティアのぬくもりが、とても心強かった。
ひとりじゃないんだと感じられて、体じゅうに力がみなぎってくる。
「…おう、俺の走りを楽しみにしてやがれ」
「ふふ、じゃあ私は、アシュレイが思うままに操れるマシンを作らなくっちゃね」
「…なら俺は、そのマシンで世界一になって、おまえを最高にわくわくさせてやる」
幼い日の約束そのままに、肩を抱く手に手を重ねて誓い合う。
今、ふたりで夢への旅路を走りだす。


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