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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.315 (2012/02/17 11:48) title:夢幻寓話 / 上
Name: (p4155-ipbf2801marunouchi.tokyo.ocn.ne.jp)

(c114.142.131.098.c3-net.ne.jp)

「いらない、適当に捨ててくれ」
 アシュレイは手渡された袋の、送り主名を見たとたん、桂花に突き返した。
「封も開けずに捨てるんですか?」
「いいんだ。ロクなもんじゃねーよ」
「はぁ」
 桂花は頷いてアシュレイから受け取った袋を改めて見る。
 送り主は東にある店の、店主名であった。執務室の前で鉢合わせた使い女から預かったのだが、これは確認してから受けとるべきだった。
「なぁ・・蔵書室で、なんか面白そうなやつがあったら適当に何冊か借りてきてくんねーか」
「好みの本などわかりませんよ」
「テキトーだよ、テキトー。あと、ティアの会議が終わるまで蔵書室にいていいぞ。どうせ、ティアがこっちの書類片付けなきゃ、お前の仕事、進まないだろ」
 ヒラヒラと手を振るアシュレイに、背を向けてから微笑する。最近、ようやく分かってきた。彼のこういった気の遣い方を。
 今日、これからあの麒麟が、主からの届け物を持って、ここに来るらしいのだ。
 せっかくの気遣い――とアシュレイの申し出にのることにした桂花が扉に手をかけた時、とつぜん手にしていた袋が動き出した。
「!?」
 中で何かが暴れているように、袋がバタバタと動いている。
「なんだっ?何が入ってんだ?!」
 アシュレイが桂花から袋を取ろうとした瞬間、パンッと破裂音がひびき、二人はその場で重なるように倒れてしまった。

 外で遊んでいた冰玉が、窓から執務室へ入ると、扉の前で桂花とアシュレイが倒れているのが目に入った。
「どうしたの桂花っ?!」
 驚いて近づこうとしたとき、自分の姿が龍鳥ではなくなっていることに気づく。
「あれっ?なんでっ?」
 手が、足が、生えている。
「えーっ?!人型になってる!なんで?すごーい」
 自分の掌や足元を交互に見て、更に鏡の前へ行って顔を確認する。
「自分で言うのもなんだけど・・・・かなりイケてるよね。これなら桂花だって・・・」
 自分がこのまま成長し、柢王と、桂花を奪い合う・・・もしくは二人で桂花を愛する妄想をしながら、鮮やかな碧い髪をかきあげ満悦していた冰玉だったが、ハッと我に返る。
「違う!桂花っ」
 駆け寄ってアシュレイを無造作に転がすと、桂花の体を抱き起こしてやる。
「桂花?どうしたの、大丈夫?」
 軽く頬をたたくが小さな寝息をたてるばかりで反応はない。
「寝てるだけ?・・・なんでこんなところで、しかもコイツなんかと」
 隣で同じように寝息をたてているアシュレイの頭を、足の先でつついた冰玉の耳に聞き覚えのある魔族の声が突き刺さった。
「足癖のわるい小僧だ。もう一度やったら、付け根から切り落としてやる」
 とても恐ろしく、屈辱的な記憶がよみがえる。
 心拍数が跳ねあがるのを感じながら声の主を見やると、背のある魔族の男がじぶんを見下ろしていた。
 冷酷そうな顔に走る傷痕が、得体の知れなさを、より強調している。
 姿を見るのは初めてだが、間違いない。以前寝ているアシュレイに毛虫を落としてやろうとイタズラを仕掛けたときに、それを阻止した上、水鞭で襲ってきた奴だ。
 本気で殺されると思った、危険な相手。
「お、お前、なんで魔族のくせにコイツを庇うんだ」
 震える声で、反論する。
「庇う?ふん、とんだ見当違いだ。俺が俺の体でもあるそいつの体を守ろうとするのは当然のことだろう。別にそいつを庇っているわけじゃない」
 そうか。以前、この魔族に自分がやられたとき、桂花が守天と話していたのは、この魔族のことだったんだ。
 ようやく冰玉は合点がいった。
「魔族のくせにと言えば、お前の主も魔族のくせに天界にいるじゃないか。魔族が天界人に望んで飼われている。世も末だな」
「飼われてなんかない!桂花は、柢王が好きだからここにいるんだ!僕だって、桂花と柢王がいるからここにいるだけだ。桂花を侮辱するな!お前なんか天界人に寄生した魔族崩れのくせに!」
 カッとして口走った言葉は、じぶんの寿命を今日、この時まで。と決定づけるほど望ましくないものだったことを、氷暉の目を見た冰玉は知る。
「どうやら口のききかたを教えてやる必要があるようだな。幸い俺の宿主の意識もないことだ、特別に後悔の意味も教えてやろう」
 物騒な瞳に、冰玉の体は固まったまま動けない。氷漬けにでもされたようだ。
「どうした。達者な、減らず口はしまいか」
 長い腕の先でみるみるうちに鋭く尖った氷刃が育つのを、固唾をのんで見つめる冰玉は、瞬きすら許されない。
『敵と対峙したら、いち早く相手の技量を推し量るんだよ。もし見た目が自分よりも小さく、弱そうでも、油断してはいけない。それが命取りになるからね』
 桂花の言葉を思い出す。相手は小さくも弱そうでもなかった。それどころか、冷たく残忍な魔族だ。負けん気の強さが、仇となってしまった。
 でも、桂花のことを侮辱する奴は許せなかったのだ。
 氷刃が完全に仕上がり、的を絞るしぐさで冰玉に向けられると、その目は恐怖にあおられ更に見開く。
 二度と関わってはいけない相手だったと痛感する冰玉。両目に涙をためた彼に、うすく笑った氷暉が口を開く。
「その気持ちが『後悔』だ」
 言い終えた瞬間、氷刃が飛んでくる。
「っ!!」
 失神寸前の冰玉の目の前に、氷刃を止めた手。

「やり過ぎだ。アシュレイが許さない」

 突如、冰玉の前に現れた男の手の中で、早くも滴りはじめる氷刃。
「貴様・・・・」
 ただ見られているだけ。それだけなのに体中を刺すような刺激を受け氷暉はひざまずいてしまう。
 少年・・・いや、青年というべきか?どちらともとれるような微妙な容姿の男は、銀の髪の天辺にアシュレイのものより更に鋭く尖る角を持っていた。鱗鱗とした黒曜石のような装束は、重そうにも軽そうにも見える。
 天界人ではないが、魔族でもない。

(こいつは――――)


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