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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.306 (2011/10/26 20:50) title:喧嘩の行方 後
Name:真子 (kd113151204178.ppp-bb.dion.ne.jp)

アシュレイは湯の入ったポットを持って執務室の前にいた。
「怒鳴らない 普通にさりげなく」と偽分に言い聞かせるが、中に入って肩すかしをうけた。天敵がいない。
「柢王と桂花なら蔵書室から戻ってない」ティアはポットを受け取った。
「お茶を淹れるから座って。」
「おまえお茶なんか淹れたことあるのか。」
アシュレイはいつもの長椅子の端に腰かけるとテーブルを引き寄せた。左右の膝がテーブルと肘掛にあたる。
少々窮屈だがティアよけのバリケードだ。天敵が近くに居るのだ
みっともない事はしない。
「このお茶は大丈夫。」といいながらティアは持ち手のない湯呑に茶葉を入れ、お湯を注いだ。
「おまえ何やってんだよ、違うだろ。」
「こうやる物らしい。東の新製品だ。」ティアは湯呑に蓋をして「熱くて持てない。いいか」指を鳴らして湯呑をテーブルに運び自分も長椅子に腰かけた。

静かな時が流れる。
「俺 喧嘩売ったんじゃあない。ただ俺は」突然アシュレイが口を開く。意味もなく喧嘩ふっかけたと思われたくない。おまえには誤解されたくないと勝気な赤い瞳が訴える。
「シー」ティアが指を唇に当てる。「わかっている。静かに音を聞いて。」
ポコッと泡がはじける様な小さな音がする。
「何の音?」
「お茶の出来上がりの音。蓋を取ってみて、熱いから気を付けてね。」
言われるままに蓋を取ると、立ち上がる湯気と共に広がる甘い香り、湯呑にはオレンジの小さな花ば浮かんでいる。
「金木犀?」
「そう 湯を注ぐと花が開く、その時に音がする。音がしたら出来上がり。桂花茶だよ。」
「なんて悪趣味な名前だ。柢王のフンが作ったのか。」魔族の作った物など売れる訳ないと言葉にするほど人が悪くない。
「そっちの桂花ではなくて 金木犀の桂花だ。金木犀茶だと語呂が悪いから。」
「だからなんでけ‥なんだ」
「金木犀の別名が桂花なんだ。」
「えっあいつ金木犀なんか。」
「違うよ。桂花の名前は月に咲くという伝説の花。このお茶は金桂というもの。別物だけど、月の桂木は見たことないから、同じかもね。」
「わかんねー。」アシュレイはバッサリと切り捨てた。
「いいから飲んでみて。」
アシュレイは一口飲んでみた。香から想像するほど甘くない、さっぱりしていて飲みやすい。「結構いけるかも。」正直に口に出した。
「よかった。桂花茶だ。お茶の名前は桂花だ。」ティアの瞳が真っ直ぐにアシュレイをとらえる。「言ってみて、桂花茶だよ。」
「ケ イ カ茶」ギクシャクしながらも言葉にした。
「そう桂花だ。」
「桂花茶」
ゴクリとアシュレイのノドがなり、ティアははんなりと笑う。
その時ドアが開いた。
「タイミング悪かったか、お二人さん。」柢王が入ってきた。
「ですから、ノックぐらいしなさいといつも言っているでしょう。」続いて入ってきた桂花は大皿を持っていた。
「今 お茶にしていた所。柢王と桂花もお茶どうぞ。」
「何飲んでいたんだ。甘い香りだな。」柢王はアシュレイの隣に椅子を引き寄せた。ティアが答えてという様にアシュレイの膝を叩く。
「桂花だ。」
桂花の片方の眉が上がった。
「桂花茶だ。」あわててアシュレイが言い直す。
「料理長に頼まれてケーキを持って来たんだ。桂花、紅茶淹れてくれ。桂花茶にケーキはあいそうもないから。」
吾の淹れたお茶でいいんですか、と目で訴えるが黒髪の男は知らんぷり。断ると思ったアシュレイは妙に静かだ。
仕方なく紅茶とケーキを給仕した。
「真っ赤なケーキ。初めてだね。」ティアが嬉しそうに声を上げた。
「紅芋のケーキと言っていましたが、ここまで赤いとは思いませんでした。」とは桂花の言
「天守塔スペシャルとも言ってたな。確かに金粉がかかっていて、ティア おまえのイメージだな」とは柢王
「じゃあ 私とアシュレイのコラボケーキ。簪もさしてあるし、赤いジュレは君の瞳にそっくり。かわいいな。」
アシュレイはずっと我慢していた。なんせ 柢王とテーブル、ティアに囲まれている 身動きが取れない。天敵も普通の態度だ。ここは大人の対応をとるべきだ。
「なあ これ中は紫だぞ」見て楽しむ趣味はないとかぶりついた柢王の爆弾発言。
「本当だ。芋のムースが紫の濃淡になってる。もしかして 私とアシュレイと桂花のコラボケーキ。」ティアが油を注ぐ。
「いらねー」とうとう爆発した。
大口を開けて喚きだしたアシュレイに誰かがケーキを押し込んだ。
「俺だけ仲間はずれかよ」誰かがいじけてヤケ食いした。
「たかがケーキでしょうが。」と誰かがため息をついた。
「美味しいネ。みんなで食べると。」無理に誰かがまとめた。
なべて この世は事もなし、平和な天界のちょっと騒がしい一日でした。

ちなみに このとき調理場では消えたローストビーフに変わるメニューが作られ、蔵書室では避難訓練が行われていたとか。


No.305 (2011/10/26 20:49) title:喧嘩の行方 前
Name:真子 (kd113151204178.ppp-bb.dion.ne.jp)

軍の資料室では用が足りないからと桂花が柢王と共に天守塔にやって来たのは、セシリアの事件から程ない頃であった。
執務室のバルコニーから見えたのは 赤い髪。
「よう 柢王。け‥け‥」と言葉に詰まったアシュレイ。
「なんですか。『け‥け』とは。天界語を忘れたんですか?これだから‥」と返したのは、桂花。最後の‥にサルという単語がはいるのは、全員承知。アシュレイの顔が真っ赤になる。
「なんだと!柢王のフン ぶっ殺す。」
「柢王 桂花 何か急用?」素早くティアが割って入る。
柢王も桂花を引き寄せている。
「桂花が蔵書室を使いたいだってさ。俺はただの付き添い。」
「そう 好きに使ってくれてかまわない。柢王は待っている間にお茶にしない?こっちもアシュレイが訪ねてきてくれた所だから休憩しようと思ってた。
ねえ アシュレイ 料理長にお茶の支度頼んできてくれる?
桂花も用が済んだらお茶にしようね。」
天敵の二人の内 1人は乱暴な足音をひびかせ 一人はいとも丁寧にドアを閉めて出て行った。
「心臓に悪い。いつアシュレイが手を出すかと、毎回ヒヤヒヤする。」ティアは額に手をあててため息をつく。
「そっか 俺は二人の喧嘩 結構面白くて好きだな。犬っころがじゃれあっているみたいじゃん。」お気楽に笑いとばす柢王。
「そんな事いって。おまえは腕力で桂花を守れるから心配ないだろうけど、私は二人にもしもの事があったらと気が気じゃアない。」
「二人共本気じゃあないから、気にするなって。」
「アシュレイは本気だ。ウソの言える子じゃあない。」
「魔族が嫌いなのは本気だけど、桂花を殺しはしないさ。
だいたい アシュレイが本気になって桂花が勝てる訳ないだろう。
俺だって危ないのに、桂花なんて瞬殺だろうよ。それが今まで命の取り合いにまでなってないから、本気じゃあないさ。」
「じゃあ 桂花は?」
「桂花は喧嘩するだけ仲がいい、かな。桂花は東領じゃあ何言われても 何されても 口答え一つしない。
喧嘩の責任取るのは俺だからな。
売られた喧嘩を買うのは、アシュレイに対してだけだ。アシュレイは喧嘩の報復を俺にする奴じゃあない。安心して 喧嘩している訳だ。
無意識がろうが、桂花はアシュレイには遠慮しないで言いたいこと 言ってるんだ。」
「でもかなわない相手に向かっていくなんて、桂花らしくもない。」
「そう思うか。」と返した柢王の笑みはゾッとするものだった。
「気に入らない相手を消すのは、何も武力だけじゃあない。桂花が本気で抹殺しようとしたら、そいつに明日はない。」
ティアの背に冷たい汗が流れる。東領での不可解な死亡事件の数々が頭をよぎる、あれは‥。
「いいじゃん。両方とも本気ではないという事で。俺たちが止めるのも解ってやってるさ。」一瞬にしていつもの陽気な笑顔に戻った柢王は続けた。
「俺 奥さんの機嫌とりに行ってくる。おまえはアシュレイな。後でお茶ご馳走してくれ。」柢王はティアの肩をたたいて出て行った。
「怖いけど、おくさんと言い切れるなんて羨ましい。」という言葉は空に消えた。

アシュレイは怒りのオーラを出しながらズンズン歩く。使い女も文官も恐がって道を譲る。
「どいつも こいつも面白くない! 柢王のフンの奴 今度こそ許さない。」
怒りの中に後悔が見え隠れする。
「『け』の後は『いか』だったのに。」
セシリアの件では迷惑かけた自覚はある。ティアが柢王の好きなものは桂花だというから、せめて名前を呼ぼうとした。
さりげなく 名前を呼んで挨拶しようとしただけなのに。
それを 柢王のフンが台無しにしたんだ 「俺は悪くない。」言い切ろうとしたが 今一つ力が入らない。
そのまま 調理室のドアを開けると、いい匂いが漂ってくる。
「あっ アシュレイ様 おいでになったと聞きましたので、お茶の支度をしておきました。」いつもアシュレイの訪問を歓迎してくれる料理長は、今日も満面の笑みだ。
「今日は紅芋のケーキです。ご試食されますか。それともディナー用のローストビーフが出来ておりますから、サンドイッチにしましょうか」
とたんに腹の虫がなる。
「サンドイッチがいい。ケーキはティアと食べる。クレソンは苦いからイヤだ。」
「はい、承知しました。」
アシュレイの好みを知り尽くしている料理長はカラシたっぷりのサンドイッチに生の唐辛子がアクセントになったサラダを出した。
「うまい。」かじりつくなり声を上げたアシュレイ。
おいしいものを食べながら怒る人はいない という事を証明したとか。

所 変って蔵書室。
「お探しの本はこちらです。」両手にかかえた本をテーブルの上に置いたのは、ナセル蔵書室長。
「ありがとうございます。お手間を掛けました。」と礼をする桂花。
「ここで読んでいかれませんか。」ナセルは椅子を引いて勧めた。
「お邪魔ではありませんか」桂花はチラリと回りをみた。
つい先ほど軍の資料室で浴びた冷たい視線、聞えよがしな悪口がよみがえる。
「いえ、むしろここに居てください。」
「えっ ナセル蔵書室長どうして」
「アシュレイ様とやり合ったんでしょう。
ここは霊力を使えませんから、壁抜けはできません。出入り口は一つ。扉を閉めてしまえば、誰も入れません。安全です。大切な本もそれを読んでいるあなたも。」
頼もしく言い切ったナセルは「ごゆっくり」と言い残して立ち去った。
「安全ね」桂花は椅子に腰かけ 本を取り上げた。守天殿の守護のかかった本、壊れないし汚れない。永遠にきれいなままで保存される。
ナセルは吾を名前で呼ぶ。魔族としてひとくくりに切り捨てようとはしない。天界人としては珍しい。
「サル贔屓なのに。吾にも安全をくれるなんて、変わっている。変人の最たる者はこの男。」
視線を上げた先に柢王がいる。サルと仲よくしろとも言わないし、喧嘩を咎めもしない。
いつも少しあきれたような顔で仲裁に入る。特にどちらの肩を持つこともしない。吾をなだめるだけ。
「探していた本はそれか。借りていかないで、読んでいくのか?」柢王の右手が頬にかかる。僅かだがクチナシの香がする。
桂花は身を引いてティアの残り香をさけた。
「ナセル蔵書室長にここで読むようにと言われました。サルも入れないようにできるから、本も吾も安全だと。」
「へー まあナセルもせっかく整理した本をメチャクチャにされたくないだろうから、アシュレイ対策も考えるだろうけど、おまえも本扱いか。」
「別に大した意味はないかと思います。」
「いいや 意味はある。おまえが本なら 俺はずっと眺めている。いられる。それで手から離さない。ついでに誰にも触らせない。ナセルもそう考えている」
どうしてそんな話になるのかと、桂花は肩を落とした。
「バカですか。」いつものセリフが口をついて出る。
「そう俺は桂花バカなの」
嬉しそうに言い切った男の左手が白い髪をすくいあげる。今度はクチナシの香がしない。
柢王の右手には、たくさんの絆が握られていて、どれもこれも大切で捨てられない物なのだろう。ティアともアシュレイとも太い絆で結ばれている。
でも左手は?心臓を守る手といわれる手は、今だけだとしても吾に差し出されている。
桂花の中で澱のように沈んでいた思いが消えて行く。


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