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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.305 (2011/10/26 20:49) title:喧嘩の行方 前
Name:真子 (kd113151204178.ppp-bb.dion.ne.jp)

軍の資料室では用が足りないからと桂花が柢王と共に天守塔にやって来たのは、セシリアの事件から程ない頃であった。
執務室のバルコニーから見えたのは 赤い髪。
「よう 柢王。け‥け‥」と言葉に詰まったアシュレイ。
「なんですか。『け‥け』とは。天界語を忘れたんですか?これだから‥」と返したのは、桂花。最後の‥にサルという単語がはいるのは、全員承知。アシュレイの顔が真っ赤になる。
「なんだと!柢王のフン ぶっ殺す。」
「柢王 桂花 何か急用?」素早くティアが割って入る。
柢王も桂花を引き寄せている。
「桂花が蔵書室を使いたいだってさ。俺はただの付き添い。」
「そう 好きに使ってくれてかまわない。柢王は待っている間にお茶にしない?こっちもアシュレイが訪ねてきてくれた所だから休憩しようと思ってた。
ねえ アシュレイ 料理長にお茶の支度頼んできてくれる?
桂花も用が済んだらお茶にしようね。」
天敵の二人の内 1人は乱暴な足音をひびかせ 一人はいとも丁寧にドアを閉めて出て行った。
「心臓に悪い。いつアシュレイが手を出すかと、毎回ヒヤヒヤする。」ティアは額に手をあててため息をつく。
「そっか 俺は二人の喧嘩 結構面白くて好きだな。犬っころがじゃれあっているみたいじゃん。」お気楽に笑いとばす柢王。
「そんな事いって。おまえは腕力で桂花を守れるから心配ないだろうけど、私は二人にもしもの事があったらと気が気じゃアない。」
「二人共本気じゃあないから、気にするなって。」
「アシュレイは本気だ。ウソの言える子じゃあない。」
「魔族が嫌いなのは本気だけど、桂花を殺しはしないさ。
だいたい アシュレイが本気になって桂花が勝てる訳ないだろう。
俺だって危ないのに、桂花なんて瞬殺だろうよ。それが今まで命の取り合いにまでなってないから、本気じゃあないさ。」
「じゃあ 桂花は?」
「桂花は喧嘩するだけ仲がいい、かな。桂花は東領じゃあ何言われても 何されても 口答え一つしない。
喧嘩の責任取るのは俺だからな。
売られた喧嘩を買うのは、アシュレイに対してだけだ。アシュレイは喧嘩の報復を俺にする奴じゃあない。安心して 喧嘩している訳だ。
無意識がろうが、桂花はアシュレイには遠慮しないで言いたいこと 言ってるんだ。」
「でもかなわない相手に向かっていくなんて、桂花らしくもない。」
「そう思うか。」と返した柢王の笑みはゾッとするものだった。
「気に入らない相手を消すのは、何も武力だけじゃあない。桂花が本気で抹殺しようとしたら、そいつに明日はない。」
ティアの背に冷たい汗が流れる。東領での不可解な死亡事件の数々が頭をよぎる、あれは‥。
「いいじゃん。両方とも本気ではないという事で。俺たちが止めるのも解ってやってるさ。」一瞬にしていつもの陽気な笑顔に戻った柢王は続けた。
「俺 奥さんの機嫌とりに行ってくる。おまえはアシュレイな。後でお茶ご馳走してくれ。」柢王はティアの肩をたたいて出て行った。
「怖いけど、おくさんと言い切れるなんて羨ましい。」という言葉は空に消えた。

アシュレイは怒りのオーラを出しながらズンズン歩く。使い女も文官も恐がって道を譲る。
「どいつも こいつも面白くない! 柢王のフンの奴 今度こそ許さない。」
怒りの中に後悔が見え隠れする。
「『け』の後は『いか』だったのに。」
セシリアの件では迷惑かけた自覚はある。ティアが柢王の好きなものは桂花だというから、せめて名前を呼ぼうとした。
さりげなく 名前を呼んで挨拶しようとしただけなのに。
それを 柢王のフンが台無しにしたんだ 「俺は悪くない。」言い切ろうとしたが 今一つ力が入らない。
そのまま 調理室のドアを開けると、いい匂いが漂ってくる。
「あっ アシュレイ様 おいでになったと聞きましたので、お茶の支度をしておきました。」いつもアシュレイの訪問を歓迎してくれる料理長は、今日も満面の笑みだ。
「今日は紅芋のケーキです。ご試食されますか。それともディナー用のローストビーフが出来ておりますから、サンドイッチにしましょうか」
とたんに腹の虫がなる。
「サンドイッチがいい。ケーキはティアと食べる。クレソンは苦いからイヤだ。」
「はい、承知しました。」
アシュレイの好みを知り尽くしている料理長はカラシたっぷりのサンドイッチに生の唐辛子がアクセントになったサラダを出した。
「うまい。」かじりつくなり声を上げたアシュレイ。
おいしいものを食べながら怒る人はいない という事を証明したとか。

所 変って蔵書室。
「お探しの本はこちらです。」両手にかかえた本をテーブルの上に置いたのは、ナセル蔵書室長。
「ありがとうございます。お手間を掛けました。」と礼をする桂花。
「ここで読んでいかれませんか。」ナセルは椅子を引いて勧めた。
「お邪魔ではありませんか」桂花はチラリと回りをみた。
つい先ほど軍の資料室で浴びた冷たい視線、聞えよがしな悪口がよみがえる。
「いえ、むしろここに居てください。」
「えっ ナセル蔵書室長どうして」
「アシュレイ様とやり合ったんでしょう。
ここは霊力を使えませんから、壁抜けはできません。出入り口は一つ。扉を閉めてしまえば、誰も入れません。安全です。大切な本もそれを読んでいるあなたも。」
頼もしく言い切ったナセルは「ごゆっくり」と言い残して立ち去った。
「安全ね」桂花は椅子に腰かけ 本を取り上げた。守天殿の守護のかかった本、壊れないし汚れない。永遠にきれいなままで保存される。
ナセルは吾を名前で呼ぶ。魔族としてひとくくりに切り捨てようとはしない。天界人としては珍しい。
「サル贔屓なのに。吾にも安全をくれるなんて、変わっている。変人の最たる者はこの男。」
視線を上げた先に柢王がいる。サルと仲よくしろとも言わないし、喧嘩を咎めもしない。
いつも少しあきれたような顔で仲裁に入る。特にどちらの肩を持つこともしない。吾をなだめるだけ。
「探していた本はそれか。借りていかないで、読んでいくのか?」柢王の右手が頬にかかる。僅かだがクチナシの香がする。
桂花は身を引いてティアの残り香をさけた。
「ナセル蔵書室長にここで読むようにと言われました。サルも入れないようにできるから、本も吾も安全だと。」
「へー まあナセルもせっかく整理した本をメチャクチャにされたくないだろうから、アシュレイ対策も考えるだろうけど、おまえも本扱いか。」
「別に大した意味はないかと思います。」
「いいや 意味はある。おまえが本なら 俺はずっと眺めている。いられる。それで手から離さない。ついでに誰にも触らせない。ナセルもそう考えている」
どうしてそんな話になるのかと、桂花は肩を落とした。
「バカですか。」いつものセリフが口をついて出る。
「そう俺は桂花バカなの」
嬉しそうに言い切った男の左手が白い髪をすくいあげる。今度はクチナシの香がしない。
柢王の右手には、たくさんの絆が握られていて、どれもこれも大切で捨てられない物なのだろう。ティアともアシュレイとも太い絆で結ばれている。
でも左手は?心臓を守る手といわれる手は、今だけだとしても吾に差し出されている。
桂花の中で澱のように沈んでいた思いが消えて行く。


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