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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.30 (2006/10/22 17:19) title:店主等物語2 〜全ロン会への誘い〜  (2)
Name:モリヤマ (i219-167-175-155.s02.a018.ap.plala.or.jp)

 
 事務所は、センター建設中の敷地内の端、大きいけれどなんの変哲もないように見える、長方形で地味な三階建てのビルだった。
 桂花が入り口のインターホンで来訪を告げると、女の声で指示があった。
 その指示通りにオートロックが外された扉を開け中に入り、エレベータで3階に上がる。
 外見と同じく、中もコンクリートの無機質で殺風景な様子だったが、アシュレイはキョロキョロしっぱなしだ。
 エレベーターの扉が開くと、がらりと雰囲気が変わった。
 突然十メートルほどの板敷きの廊下が、眼前に現れたのだ。
 これにはアシュレイは言うに及ばず、桂花も目を見開いた。
 しかしそれも一瞬のこと、すぐに桂花は履物を脱ぐとエレベーターからひんやりとした板上に一歩を踏み出し、そのまままっすぐ廊下を進んだ。アシュレイも気を引き締め直して、桂花を追った。
 その先に、柢王は待っていると告げられていたのだ。
 
 
 
 無駄に広い監禁部屋(仮名)にたどり着いた桂花とアシュレイは、まず赤い髪の女にうながされて、柢王と怪しげな長髪の男との中間よりやや長髪の男側に座らされた。
 中間と言っても、お互いが五十畳敷きの中央あたりの柢王と長髪の男、結構距離がある。
 だが、さきほど桂花とアシュレイを映しだしていた大画面も、今ではただの真っ暗な壁と化し、障子の向こうにその姿を消している。防音設備もしっかりしているのだろう、外の音は一切聞こえてこない。
 そのため特別声を張り上げずとも、会話に不都合はなさそうだった。
「今日はお招きいただきまして」
「思わぬ付録もあって、なかなか賑やかでいい」
 桂花の言葉に、教主は笑いをこらえた声で言う。
 部屋に入った瞬間、緊縛スタイルの柢王に、悪口雑言の限りを尽くしたアシュレイに、教主はバカ受けしたのだった。
「確かこちらの前身は、町の小さな散髪屋さんだったとか」
 相手の出方を見るため、とりあえず世間話を桂花が振ると、秘書だと紹介された赤毛の李々という女が答えた。
「最初は理容専門の『バーバー★冥界』からスタートしましたが、現在は美容術全般を扱う『冥界美容室』として全国展開を果たし、老若男女すべてのお客様にご愛顧いただいております。また、冥主様は経営の傍ら今なお『カリスマ美容師』として君臨されております」
「かりすま…?」
「そう、カリスマ、です」
 アシュレイのつぶやきに、李々が誇らしげに答える。
「…それってカラスミみてーなもんか?」
「好みの問題もありますが、不特定多数の支持者を得ているという点では、同じでしょう」
 自問気味につぶやくアシュレイに、今度は隣の桂花が答えた。
(…同じかっ!?)
「やっばりな!」
(…やっぱりじゃねーよ)
 柢王の心の突っ込みも空しく、アシュレイは得意満面だ。
 監禁犯はといえば、ぶるぶる震えている。
 笑いをこらえてるのではなさそうだ。
「えー…と、カラスミとはちょっと違います」
 危険人物の斜め後ろから李々が焦ってフォローを入れる。
「そんなことどうでもよい。…改めて、桂花殿。我がセンターへの出店、悪い話ではないと思うが」
「せっかくですが、今の商店街を出るつもりはありませんので」
 桂花の答えに、一瞬アシュレイが目を瞠る。
「しかし、そなたの男は出店を勧めておるぞ」
「…男?」
「ははっ、俺、俺!」
「…そんなところでなにしてるんですか、あなたは」
「いやーなにしてるって言われてもなー。…つか、いつの間に仲良くなったんだ? おまえら」
 身動きできない緊縛男が、桂花とアシュレイを交互に顎でしゃくる。
 SMっぽく縛られていても口は達者だ。
「……仲良く見えますか」
「写真の中でも寝たまま楽しくやってたみたいだが、まだ寝ぼけてるようだなお前はっ!」
 アシュレイにしては珍しくおとなしい(それでも真っ赤な眸は明らかに怒りに燃えていたが)と思って軽口が過ぎた、と柢王が後悔しても遅かった。
 あっという間に柢王を拘束していたロープが消し炭と化す。
「…てめっ、熱いだろがっ! 玉の肌に火傷でもしたらどーすんだっ!」
「ちょっとは目が覚めたか、この色ボケが!」
「礼など言いたくありませんが」
 騒ぐ柢王を冷ややかに眺めて、桂花がアシュレイに目礼する。
「だいたい、女を餌に拉致られて商店街に迷惑かけるなんてっ…恥ずかしいと思え!」
「柢王にとって『女』は『生き餌』と同義語ですから」
「…最っ低!!」
「……やっぱりおまえら仲良いだろ」
 犬猿の仲のはずのふたりのあまりのコンビネーションのよさに、罵倒されつつ感心してしまう柢王だった。
「さて、仲間内の相談はついたか?」
「…相談してるように見えたのか?」
 疲れたように柢王が問う。
「冥主様はなんといってもカリスマですので、まず『話し合う』ということがありません。そちらのように額をつき合わせて話し合うということは、すなわち『相談』と取れるのです」
「は……。なるほど」
 返事を聞いて、尚更疲れた柢王だった。
「で、決心はついたか、桂花殿」
「何度聞かれようと、答えは変わりません」
「なぜだ。我がセンターには選りすぐりの各種名店が入る。交通の便もよく集客もそこらの商店街とは格段の差だ。利益も今の比ではないぞ?」
「そういう問題ではありません」
「では、なにが問題だと」
「吾も商店街にこだわってるわけではありません。別に流しの薬屋でもいいのです。ただ、」
「ただ?」
「吾は、あそこに腰を落ち着けて、はじめて情けというものを知りました」
「…なさけ? そなたには不似合いな言葉ではないか?」
「そうです。それまではひとりでもよかった。ひとりのほうが気楽だし、毎年全国を回ってればなじみの客もいた」
 独り言のように少し遠くを見る目で桂花がつぶやく。
「流しの薬屋で、はじめてあの商店街で商売をしたとき、本当に喜ばれました。商店街に薬局がなかったのもありますが、あそこは昔からの土地で今もお年寄りが多い。こちらのセンターの客層はどちらかといえば新興住宅の若夫婦たちでしょう? 吾は、そんなどこででも買い物に行けるような客層に興味はないんです。流しのときからずっと、吾のお客様は吾が決めてきました。吾の客は、吾の薬を心から必要としてくれる人たちです。吾の薬を待っていてくれる人たちです」
「そうは言っても、流しをやめたらそれまでの客は放置ではないか」
「桂花は今でも流しに行ってるぜ」
「…そういえば、月の半分はいないってティアが」
 柢王とアシュレイの言葉に頷き、
「今までのようには行きませんが、常備薬のお届けは毎年行っています。…商店街の皆さんは、吾の勝手な営業にも文句ひとつ言わず、かえって吾の身体を気遣ってくれます」
 桂花は改めて教主の目を見て言った。
「冥界センターのようなところで、そんな営業ができますか? 吾は、自分のスタイルを変えるつもりも、自分の意思を曲げるつもりも毛頭ないんです」
 桂花の言葉に満足そうな柢王とは裏腹に、アシュレイは密かに動揺を隠す。
「……というか。どうして、吾なんですか? 薬屋なら、他にもいるでしょう?」
 吾ほど腕がたつかは別として、と心で思った桂花だったが口には出さない。すると、
 シュルルルルルル…………。
 いきなり教主の手元から、A5サイズのファイルが畳の上を回転しながら桂花たちのもとに届く。
「出店が決定している店舗の内訳だ」
 拝見しても? と目で訊くと、教主はゆったりと頷いて返す。
 畳の上のファイルを手にとり、まず一枚、そして一枚、また一枚、と桂花がページを繰る。各店舗の詳細・広さやセンター内での配置図・代表者名とセンター内での責任者の履歴と顔写真等々……。
「これが、なにか…?」
 横からアシュレイも覗いて見る。
「どれどれ」
 拘束を解かれてもそのままあぐらをかいて桂花達の話を聞いていた柢王も、そばに行ってみようと立ち上がる。
「なーんか、みんなだらしねぇな」
「は?」
「だって、なんかチャラチャラしてねぇか? 服もだけど、ほら、こいつなんか、頭ぐりんぐりんで、そっちの奴なんか塗り絵みたいな頭でさ。おっ、見ろよ、これなんか鳴門巻きみてぇだぜ!」
 アシュレイの言葉に、近寄りファイルを見ようという気は綺麗に柢王から失せ、再びその場に腰を下ろす。
(だからまだ空き店舗があったのか…)
 徹底したロン毛へのこだわりぶりに、おぞ気とともに脱力感を感じる柢王だった。
「ぐりんぐりん、って、綺麗にセットされてますよ。こちらも、色合いが見事だと思いますし、こちらは染色した髪を縦に巻いたものでは…」
「綺麗ー!? ウザいだけだろ、こんなんじゃ仕事しててもなんにしても! どこの店のヤローもチャラチャラ髪の毛伸ばしやがって」
 そんなアシュレイの髪も長いのだが。
 難癖をつけながらページを繰るアシュレイの言葉に、しかし偶然なのか、全員髪の毛が長いことに桂花の目が留まる。
「ふふ……」
 微笑とともに教主方面から、今度は例の全ロン会の名刺が桂花の目の前の畳につき刺さる。
 当然のことながら、名刺を見ても不思議顔の桂花とアシュレイに、教主はさきほど柢王にしたのと同じ説明をする。
 加えて、入会特典など会の概要などを説明し、桂花とアシュレイに入会を勧めた。
「なかなか我の目にかなう美髪な薬屋が見つからなんだが、これで一安心。センターとしても全ロン会としても、探し続けた甲斐があったというもの」
 すでに教主の中では、桂花の入会とで店は決定事項らしい。
「それにしても、アシュレイ殿がこれほど美しい赤を持っているとはの。怪我の功名とはこのこと」
 ほほほ…と笑う教主に、
「怪我の功名って、違うよな? 使い方、間違ってるよな、あいつ」
 アシュレイが、小声で桂花に確認する。
 普段なら自分から話しかけたりはしないのに、小声で話すには柢王は離れすぎている。だが、さっきから教主方面から発信中の、この粘りつくような視線の気持ち悪い感触に耐えるのは、ひとりではきつかった。
「怪我の功名とは『間違ってしたことや何気なくしたことから、偶然に好結果が生まれること。(by:ネット辞典)』とあります。桂花殿を呼び寄せるため、なにげに柢王殿に来ていただきましたが、その結果、赤ロン毛までゲットのチャンスに恵まれたのですから、冥主様的にはその言葉、間違いではございません」
『赤ロン毛ゲットって…………!!!』
 突然、大音声が百畳の部屋に響いた。
「…ティア?」
「守天殿が心配されて、これを」
 たぶんこんなことになるだろうと、間一髪耳をふさいでいた桂花が右手を差し出し、指輪を見せる。
「吾は盗聴器の類かとも思ってましたが、やはり話も出来るようですね」
『アシュレイ、アシュレイ、ねぇ、大丈夫なの!? いやだ、どうしよう、そんな髪の毛フェチな変態にアシュレイが狙われているなんて…っ!!』
 たぶん、身悶えしながら錯乱しているのだろう。
 ときどき、ガタッ! とか、ドカッ! とか物にあたる音が聞こえる。
「守天殿、落ち着いて下さい」
『だって…だって…桂花…っ!!』
「大丈夫ですから」
「バカ!! なに心配してんだっ! 変態に負けるような俺じゃない!!」
 ただの変態ならまだしも、その人はたぶんホンモノだぜ…。
 守天をこれ以上追い込まないためにも、柢王は心の中でそっとつぶやいた。
『…う。桂花、アシュレイを頼むよ。アシュレイ、気をつけてね』
「天主塔ベッドの若主人か。彼も昔はロン毛だったとか。…惜しいの」
 しみじみつぶやく教主に、
「てめぇ、ティアに手ぇ出したら承知しねぇぞ!!」
『ア、アシュレイ…』
 感動してるのだろう。
 指輪を通して守天の声が聞こえたが、青痣作りながら自分の世界に浸ってそうな守天に、桂花はとりあえずスルーを決めこむ。
「ほほ、こわい、こわい」
 楽しそうに笑う教主に、アシュレイは怒りで顔まで真っ赤だ。


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