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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.29 (2006/10/22 11:46) title:店主等物語2 〜全ロン会への誘い〜 (1)
Name:モリヤマ (i60-35-152-191.s02.a018.ap.plala.or.jp)

 発端は薬屋『夢竜』に投げ入れられた一通の封書だった。
 中には、オープンを間近に控えた郊外のショッピングセンター、通称『冥界センター』から出店勧誘を綴った文書と、数枚の写真。
 
 ―――――― 追伸
 ―――――― お身内の方、こちらを大変気に入られたご様子。
 ―――――― 店主殿も一度参られたし。
 
 朝一番で新規の客に薬を届けに出たはずの柢王だったが、昼近くになっても姿が見えない。てっきりまたどこかで道草でも食ってるのだろうと思っていた。
「………はぁぁ」
 我知らず、ため息がもれる。
 面倒ごとを持ち込むようで気は進まないが、ことは自店だけの問題ではない。黙っているわけにもいかないだろう。
 店を閉め扉に『本日閉店しました』の札を下げると、桂花は自治会長を務める守天の店『天主塔ベッド』へと急いだ。
 そして、桂花に手渡された封書の中身を改めた守天によって、商店街の店主・またその代理たちが緊急招集されたのだった。

 
 

「…あンの、くそバカヤロウがーーーーーーーっっっっっ!!!」
 アシュレイの全身から怒声とともにうっすらと白い煙が立ち昇る。
 鮮魚店『阿修羅』は今日も店主代理のアシュレイが燃えに燃えている。
「桂花殿の店が引き抜かれるとなると…」
「商店街としてはつらいですな…」
 アシュレイほどではないが、そこここでざわめきが起きている。
「……桂花っ」
 桂花の服の袖口をツンとひっぱってカイシャンが不安げに呼びかける。
「大丈夫ですから」
 安心させるように優しく微笑む桂花に、不謹慎ながらカイシャンの頬は真っ赤になる。
「柢王だって、悪気があってのことじゃないんだし…」
「悪気があるなしの問題じゃねえ! 簡単にとっ捕まるようなバカさ加減に呆れて、はらわた煮えくりかえってるだけだっ!」
 守天の幼馴染へのフォローの言葉も、もうひとりの幼馴染には全く効力がない。
「商店街が足並み揃えて頑張っていかなきゃいけねーってときに、あンの色ボケ野郎一人のせいで薬屋が引き抜かれでもしたらっ…近所の腹痛のガキや、腰痛や関節痛のじいちゃんやばあちゃんたちゃ不便で仕方ねーじゃねーかっ!」
「うんうん、君の言うとおりだよね」
 相変わらず「商店街・命」、「隠れご近所の星」であるアシュレイの真っ赤な眼(まなこ)を潤ませての気合の入った熱弁は情にあふれている。
 守天の熱いまなざしとは別に、アシュレイの心意気に老店主達はありがたがって拝みだす。
「とにかく、」
 突然召集された商店街のおもだった面々は、いっせいに桂花のほうに向き直り、生唾飲み込みつつ次の言葉を待った。
「柢王は、吾が引き取りに行ってきます」
 薬屋の店主の手の中で、紙切れがぐしゃりと音をたてて握りつぶされる。
「あちらの好き勝手にはさせません。柢王と一緒に、必ずここに戻ってきます」
 桂花の一言に、老店主たちが沸き立った。
 ひとりアシュレイだけが小さく舌打ちしたが、誰の耳にも届かなかった。
 
 
 
 
 使いの帰りだった。
 柢王が道端にうずくまって苦しんでる妙齢の娘を見つけたのは。
「どうした、娘さん」
「…急に差し込みが」
 お約束だなぁ、と思いながらも都合よく目の前に建ってる宿に連れ込んだ……まではよかったのだが、そこからの記憶がない。
(どこだ、ここは。つか、なんで俺は縛られてんだ?)
 皆目検討がつかない。
 五十畳ほどの和室のほぼ真ん中あたり、ご丁寧にも座布団の上にあぐらをかくような格好で両腕を天井からロープで一くくりに縛られて寝こけていた自分。
 ロープもどうやら特殊性らしい。ちょっと力を入れてみたが尚更腕に食い込んでくる。
 一瞬そういうプレイかとも思ったが、…たぶん違う。いや、きっと。
(部屋に通されて…そうだ、なんだかいい香りがするなぁと思ったら…急に眠気がして……)
 桂花に知れたら冷たい目で見られんだろなー、ま、死んでも言わねぇけど、などと思ってると、
「お目覚めか」
 突然目の前のふすまがスパッと真ん中から両側に開いて、これまた五十畳ほどの広さの和室が眼前に現れた。
 その中央より幾分こちらよりに、脇息にもたれ無駄に長そうに見える黒髪を畳に散らした男が、着流しみたいな着物でゆったりと座している。
「…暑苦しぃ」
「なにか言ったか?」
「や、なんにも」
 にこっと人好きのする笑みで答える柢王に、男は楽しそうに微笑み返す。
「もうすぐそなたの主人が来る」
「へ?」
「あれほどの美形に囲われながら、それでもこんなちゃちな手にひっかかるとは…くくくくく」
「………………」
 こんなちゃちぃ手にひっかかった、美形の囲われもの。
(――なるほど)
 なんとなく、自分の立場が見えてきた。
「主人が来たら、勧めてくれぬか? 冥界センターへの出店を」
「出店…?」
(そういえば――――)
 確か今度新しくできるショッピングセンターのオーナーの名前が冥界教主、そしてその名を取ってセンターの通称は冥界センター、だが、オープン間近のセンター内に未だ空き店舗がいくつかあるらしい…などなど、そんな話を前に商店街の寄り合いで小耳に挟んでいた。
 ついでにそのオーナー、三メートルはあろうかという長髪だとかで、「いったいトイレのときどうしてんだ!?」と話題が集中してたのを思い出す。
 三メートルなんてありえねぇし、人様のトイレ事情なんてどうでもいいだろ、と思ってた柢王だったが、
(マジ、トイレのタイル掃除しながら用足ししてんじゃねぇか?)
 と、どうでもいいことを考えた瞬間。
「…ああ返事の前に、これを」
 ピッ…と男の手から大判サイズの紙切れが一枚飛んできた。
「…………なんじゃ、こりゃーーーーーー!!!」
「くくくくく、若いということは難儀なことよの。ちゃんと引きのばして送っておいたぞ」
 縛られて頭だけ突き出す格好の柢王にも、綺麗に細部まで見てとれるほど鮮明な、素敵に合成されたエロ生写真。
 モデルは先ほどの差し込み娘と、囲われもの。
 囲われものの主人は、こんなものに騙されるほどバカじゃないし、こんなことで嫉妬を見せてくれるほど単純でもない。だが、しかし……。
「はぁーーー」
 柢王は深く溜息をつくと、男に訊いた。
「出店だけか?」
「いまのところはの」
「…はぁぁぁ!?」
「おまえの主人の髪、」
「髪?」
「なかなかよいの」
(…………はっ?)
 寒気を覚えながら、勇気を出して突っ込んで訊いてみる。
「それはそのー…どういった意味、で…?」
「意味とは? よいからよいと言ったまで」
 難問だ。
 しかし、この男、どうやらホンモノ(の危ない人)らしい。
「冥主様、もう少し詳しく教えてさしあげないと、変なレッテル貼られてますわ」
 男の斜め後ろに控えていた赤毛の女が口を挟む。
 柢王の目は明らかに変質者をうかがうそれだった。
「ほほ。参ったな。…これを」
 ピッ…と名刺が飛んでくる。
 柢王の目の前の畳に突き刺さったそれには『全国ロン毛協会 名誉会長 冥界教主』とある。
(ロン毛…?)
「…って、そっちの勧誘かーっ!? つか、なんだよそのロン毛協会つーのは!!」
「読んで字の如く、ロン毛のロン毛によるロン毛のための協会、略して『全ロン会』。会員同士シャンプーやトリートメントの話はもちろん、ヘアーエステなどなど、髪にまつわる全ての話で盛り上がる。…フフ、楽しいぞ?」
「…うっ…」
「どうした?」
 は、吐き気が…。
 とは言えないので、ぐっと我慢。
「桂花殿の髪、編んでみたい。昼間はきつく、夜はゆるめに……」
 ふ…ふふ………ほほほほほ……と教主の静かな笑い声が不気味にこだまする。
 桂花(の髪)はホンモノ中のホンモノのおめがねにかなったらしい。
(……最悪だ。だが、そうと分かれば長居は無用)
 柢王が(一応建物内であることを考慮して)ロープが切れるくらいの微力な雷光を試そうとしたとき。
「この建物には避雷針が、そしてこの階には低圧避雷器が取り付けてある。雷使いとの噂を聞いていたので最新設備でお出迎えしてみた。自由になるくらいの小さな力は使えぬはず。さりとて、建物内で大きな力は尚更使えまい?」
(……このトイレ磨き野郎!!)
 全くその通りな教主の言葉に、柢王は心で盛大に悪態をつく。
 来るんじゃねーぞ桂花、と念じつつも、来るんだろうなーと厄介ごとの種を自らまいてしまった自分にトホホな気分の柢王だった。
 
 
 
 そんな柢王の念も空しく、商店街ではいよいよ桂花が『天主塔ベッド』を出て冥界センターへと向かうところだった。
「桂花、ひとりは危ないよ。…そうだ、山凍殿! 山凍殿に一緒に行ってもらってはどうだろう」
「私でお役に立つなら」
 守天の提案に、肉屋『毘沙門天』の主人・山凍が一歩前に進み出る。
「お気遣いありがとうございます。ですが、向こうの指定も吾ひとりですし」
「でも桂花…」
 なにかといつも気にかけてくれる自治会長の守天の心配げな様子に、桂花は心が温かくなる。
「もしなにかあれば冰玉を飛ばしますから。守天殿も山凍殿も…」
 桂花は、心配気に守天と桂花のやり取りを見守っていた周りに目を向ける。
「皆さんも、そのときは柢王をお願いします」
 微笑む桂花にそれ以上は言えず、守天は桂花の手を取り「気をつけて…」と皆とともに送り出した。
 
 
「桂花、これっ」
 商店街のアーケードを出たところで、やっとで桂花に追いついたカイシャンが息せき切って握りこぶしを差し出してきた。
「元気玉。もしつかれたらこれなめて。おじいさまに頼んで俺がこねさせてもらった奴なんだ。…ちょっと不恰好だけど、絶対元気になるから」
「わかりました」
 安心させるように優しい声音でしっかりと飴玉を受け取る。
「戻ったら『モンゴル亭』にお茶しに行きます。お茶受けは任せます。用意して待ってて下さい」
「うん…!」
 まだ整わぬ息の子の頭を撫でて、桂花は敵地へと足を進めた。
 
 
「…で? どうしてあなたがついてくるんですか」
「・・・・・・・」
「…まあ、想像はつきますが」
 守天のためだろう。
 もちろん、柢王とは幼馴染で今でも親友らしいが、それよりなにより守天の心配事を自分が解決してやりたいとでも思っているに違いない。
「邪魔ですから、ついてこないで下さい」
「…………」
「聞こえませんでしたか?」
「俺の行く前をおまえが歩いてんだろっ!」
「…はあ?」
「おっ、俺は、別におまえの後をつけてるわけじゃない!」
「偶然ですか」
「そ、そうだ! 偶然たまたまだっ!!」
「…そしてたまたま柢王のとこまで来ちゃった、と」
 桂花はため息をつくと、右の拳を握りこんだ。
「そ、そうだ。文句あるかっ」
(文句もなにも……)
 すでにふたりは封書で「参られたし」と指定されたショッピングセンター内の事務所前、つまり柢王監禁ポイントに到着していた。
 
 その上階では、教主ご自慢のホームシアターシステムにより壁一面に桂花とアシュレイの様子が映し出されている。
(この画面のデカさって……)
 違法じゃねーのかっ!?、と心の中で訴えてみた柢王だったが、自分の置かれている状況自体犯罪のはず。
(この手合いに法律なんざ関係ねーか)
「これはこれは…」
 
 ――― ロン毛がひとり、ロン毛がふたり…。
 
 うなずきながら目じりを下げ口角を上げたの笑みの下、桂花とアシュレイを数える教主の声なき声が聞こえた気がして、柢王は身震いした。
 
 


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