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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.292 (2011/05/06 23:16) title: 天界ライダー!
Name:モリヤマ (i220-221-13-8.s02.a018.ap.plala.or.jp)

=============================
 
 ガンバレ、ライダー!
   負けるな、ライダー!
  天界世界を、マゾから守って!!
 
 ・・・そんな幾千幾万の声に支えられて・・・
  ・・彼らは戦い続けているのです・・
 
 
『天界世界の平和は、ボランティアによって守られています』
  (喫茶『天主塔』のボランティア募集ポスターより)
 
=============================
 
 
********* act.1 喫茶『天主塔』 *********
 
 
「中央公園にマジョッカーだ!」
 
 そろそろ日も暮れようかという頃。
 遊んでいた子供達も友達に別れを告げ帰途に着こうとする矢先だった。
 それまで沈黙を保っていた遠見鏡の闇色の画面がきらりと光り、突如として出現した怪しい泥人間達が遊具や砂場で遊ぶ子供達に襲いかかる光景を映し出した。逃げ惑い泣き叫ぶ子供達の姿に、喫茶『天主塔』のマスター・ティアランディアが厳しい声を上げた。
 
「柢王、出動だ!」
「任せとけ!」
 
 マスターの指令が飛ぶや否や、柢王はスツールから腰を上げ指笛で相棒の名を呼ぶ。
 
 
「……――――冰玉!」
「クェーーーーーー!!」
 
 柢王がドアから飛び出るのとほとんど同時に、『天主塔』を覆うくらいの巨大な龍鳥が上空から主の下へと急降下してくる。
 
「柢王、気をつけてっ」
「ああ」
 
 窓から顔を出してティアが声をかける。
 上司兼親友の声に頷くと、柢王は冰玉の背に飛び乗り急ぎ現場へと向かった。
 
 
「君の出番もそのうちあるから」
 出動した親友を見送り店内に目を戻すと、カウンター席のアシュレイがうつむいてテーブルの一点を睨みつけるようにして黙っていた。
「…んなこと言って、いっつもアイツじゃねーか」
「だって、君んとこのギリは使用許可がまだおりないし」
「…くしょーーーーー!! あの頑固親父ーーーーー!!」
 テーブルに両拳を打ちつけ悔しがるその背中が小刻みに震えて悔しさを押し殺す。
 
 喫茶『天主塔』とは仮の姿(?)。
 実は悪の組織『マジョッカー』から天界世界を守るために組織された正義のボランティア集団『ライダーズ』の天界中央本部で、マスター・ティアランディアこそ、ライダーズの司令官なのだ。
 ボランティア集団であるがゆえ、ライダー要員は主に自己申告による。
 自己申告とは、ライダーの必須条件が理由だ。
 ライダーの条件とは、ただひとつ、戦闘獣を所持していること。
 もちろんライダー自身が強いことは言わずもがなの大前提で、あえて条件としては明記されていない。なんと言っても悪と戦う、正義に命をかけたライダーなのだ。代々の司令官の特技である「手光」(変な宗教ではなく、本当に手かざしで傷が治る)があるとは言え、腕に自信がなければ命がけのボランティアに立候補はできない。
 そして現在のエース的存在が、柢王だった。
 偶然、冰玉とともに喫茶『天主塔』のバイト募集に応募してきた柢王をティアがライダーにスカウトし、今に至る。
 元服と同時に家を出、「さすらいの柢王」の異名を持つ彼は、あちらこちらで武勇伝をたて、それまでひとつところに1週間いた試しがなかったそうだが(by:風の噂)、なぜかティアと気が合い、アシュレイとも意気投合し、『天主塔』で住み込みのバイトをしながらボランティアに参加している。
 アシュレイも、ギリという戦闘獣を所持してはいるが、アシュレイの家にしてみればギリはただのペットではない存在らしい。天地がひっくり返っても、父から許しが出ることはないだろう。…とティアは既に諦めている。
 
 
 
 
********* act.2 公園 *********
 
 
 公園に着いた柢王と冰玉は絶賛戦闘中だった。
 
「柢王パーンチ!」
「柢王チョーーップ!」
「冰玉、羽根針だっ!」
 
「うきー♪」
「うきー♪」
「うきー♪」
 
 まずは速攻で拉致られた子供を奪い返し逃げるように指示する。そうして心置きなく敵に向かっていったのだが……攻撃を決めるたび、どこからともなくわらわら湧いて出てくる泥人形のような下っ端どもは、倒れるどころか歓喜の叫びを上げまくる。
 
(いつものことだが、これほどやりがいのない攻撃もねぇな……)
 
『柢王、凄くやりがいがなくてむなしいだろうけど、ドロンズたちも一応それなりにダメージは受けてるはずだから。どんなに喜ばれても、諦めないでやっつけて!』
 
 ティアの声が心に直接響いてくる。
 確かに今までの戦闘経験から、そんなことは柢王だって分かっているのだ。
 ドロンズ(泥人間)は一撃ニ撃程度では倒れない。
 蹴ったり殴ったり雷攻撃したり(主に柢王)、羽根針で突き刺したり風圧で飛ばしたり足で掴んでグニャリとしたりたまにくちばしで租借してみたり(主に冰玉)。そんなふうに、柢王と冰玉は多勢に無勢であろうとも一人一人に対して腐らず懇切丁寧に戦っている。だがそんな一生懸命な自分達に失礼ではなかろうかと思うほど、敵はなかなか倒れない。倒れないどころか嬉しくてついつい声が出ちゃったみたいに「うきー♪」と鳴く。こちらを戦意喪失させる意図があるのかと最初こそ疑ったものだが、真実彼らはいたぶられるのが好きみたいなのだ。ただ、好きだがダメージはあるようでそれが蓄積されると突然ドロッ…とその形を崩して融ける。なので、やる気を失わず、地道に戦うしかない。
 分かってはいるが、なんとなく、全てが気持ちが悪い……。
 
「柢王雷光パーンチ!」
「柢王スペシャルチョーーップ!」
「冰玉、百文キックだっ!」
 
「うきー♪」
「うきー♪」
「うきー♪」
 
 ドロッ…
 ドロッ…
 ドロッ…
 
「…やっとあと二人か。今日は多かったなー」
 
 泥だらけになりながら、ようやくゴールの見えてきた本日のボランティア活動に柢王もホッとする。
 そこへ、
「…マゾっ気のあるドロンズを泥に戻るまでいたぶるとは。ただのボランティアと侮っていたが、ライダー、おまえ相当のドSのようだな」
「誰がドSだっっっ!」
 どこからともなく嫌悪を含んだ声がした。
 吐き気を抑えて頑張った戦闘を、まるでSM仲間の馴れ合いみたいに言われて、ただでさえ気持ち悪かった戦いが、なんだか底抜けに気持ち悪くなってきて、思わず柢王は口元を手でおさえる。
「…フン。根気強いのは認めるが、精神的に弱いようだな」
 そんな柢王に、声は無情に言い放つ。
「…ンだとぉ。てめぇっ、どこの誰だかしらねぇが、俺を誰だと、」
「状況判断も苦手なようだな。吾はおまえ達が『マジョッカー』と呼ぶ敵だ」
「…って、じょ、じょおう…さま?」
「は?」
 いつのまにか眼前に迫った声の主が、柢王のボケた問いに怪訝な顔で聞き返す。
 色素の抜けた白い髪にひとすじ赤褐色の尾髪。紫微色の肌に露出過多な黒ラメのハイレグコスチューム。黒ラメの長手袋、黒ラメのロングブーツ、加えて右手に鞭という姿は、マニア受け間違いなしな女王様ルックにしか見えない。
「…おまえが……『マジョッカー』…か?」
 声の主に、柢王は目を見開いて問うた。
「正確には吾は『マジョッカー』様ではない。おまえ達が呼ぶ『マジョッカー』とは、敬愛すべき我らが総司令であり組織の名称だ。吾はマジョッカー様の手であり足であり、」
「あんたもマゾなのかっ!?」
「………………は?」
「いや、俺は別にSとかMとかには興味はないんだが、な。あんたがいじめられるのが好きってんなら俺は努力を惜しむつもりはねぇぜ。…んー、こっからだと一番近いのは『ホテル・パラダイス』だな。あんた、時間ある? つか、あんた名前は…ぐぇっ…っ!!」
「桂花だ。…ドロンズもやられてしまったし、今日のところは引き下がろう。だが次は、おまえの首をもらう」
 紫水晶の瞳が冷たく言い放つ。
「俺もあんたの全てをいただくぜ」
 桂花の強烈な左アッパーを食らい真っ赤に晴れ上がった顎をさすりながらの柢王に、桂花はジト目で数秒目をやっただけで二人のドロンズを連れて消え去った。
 
「…すっげぇ、鞭の似合う美人だったな〜」
「クェーーーーー!!」
「お、なんだ、おまえもそう思うか、冰玉」
 
 桂花の残り香(いい匂いとは言いがたい)を思いっきり吸い込みながらそう呟くと、柢王は同意を表した冰玉が摺り寄せてきた首を思いっきり撫でてやった。
 
 
 
 
********* act.3 再び、喫茶『天主塔』 *********
 
 
 そんな柢王の全てをティアは遠見鏡で見ていた。 そして思った。
 
 確かに美人だったけど、ドロンズのマゾっ気は感染するんだろうか、と。
 だったら、万一アシュレイの父上が折れても絶対アシュレイを出動させるわけにはいかないな、と。
 ……でも、
 
「…いじめて」
 
 って言うアシュレイも見てみたいかも……
 と思ったところで、ティアもアシュレイに頭をはたかれた。
 
「痛いよアシュレイ…。いきなりひどいな」
「おまえ、なんか今すっげースケベそうなツラしてたぞっ」
 ああ気持ち悪っっ!!と言いながら寒そうに自分で自分を抱きしめて真剣にティアを気持ち悪がる。
「……悪かったね、スケベそうな顔で」
「にしても柢王の奴、なに考えてんだっ。マジョッカーの女にたぶらかされやがって! あんな奴にライダーを任せちゃおけねーっっ! そう思うだろっ、なっ、ティア! よーし、明日っからこの俺がライダーだっ!!」
 アシュレイに言われるまでもなく、柢王がマジョッカーの手先に本気で本気なのかは問いたださなくてはならない。
 但し、それでいきなりアシュレイがライダーにはなりえない。
 アシュレイ父の問題もあるが、柢王はあれで責任感の強い男だとティアは知っている。
 たぶん、なにか考えがあるはず。
 
(…というか、あってほしい)
 
『任務完了。今から帰還!』
 そんなティアの心を知ってか知らずか、突然遠見鏡から柢王の声が聞こえた。
「柢王…」
「なにが任務完了だっっ、敵の女にいいようにやられやがって!」
(ご苦労様。待ってるよ。…聞きたいこともあるしね)
 テンション上昇維持中のアシュレイを横に、ティアは心話で直接柢王に話しかける。 
と、遠見鏡を通して敬礼の真似をした柢王がウインクしたのが見えた。
「なにふざけてんだ、アイツはっ!」
 柢王の様子にアシュレイは怒鳴り返したが、ティアは少しほっとしていた。
「いつもの柢王じゃないか。…大丈夫だよ、アシュレイ」
 そう言って綺麗に微笑むティアに、「パ…バッカじゃねーのっ!」とどもりながらストロベリーブロンドの髪が飛ぶように店から飛び出して行く。
 
 
「いまアシュレイがすんげー勢いで飛んでったけど。声かけたんだけどなぁ…。なんかしたのか、おまえ。アイツ真っ赤んなってたぜ〜?」
 入れ違いで帰ってきた柢王が、ニヤニヤ笑いながら言った。
「別になにも。ところで柢王、」
「へいへい」
 言われる前に柢王が「閉店しました」の札を入り口にかけに行く。
 ……今日の反省と今後の対策(他)を話し合うために。
 
 
 こうして喫茶『天主塔』の一日が終わり、ライダーズ天界中央本部として、『天主塔』の真の一日が始まるのだった。
 
 
(おわり)
 
 


No.291 (2011/05/06 23:14) title: 続・蒼天の伝言(下)
Name:モリヤマ (i220-221-13-8.s02.a018.ap.plala.or.jp)

 
。 。 。 。 。
 
 
 アシュレイに抱っこされて帰る途中。
『アノ お堂の神様。…チョットダケ あしゅれいポカッタカモー』
 ふと思い出して言うと、抱っこしていたアシュレイの腕がわずかに震えた気がした。
『あしゅれい…?』
「ん? …ああ、そうか? そうだったか?」
 気になって名を呼んだがいつもの彼だったので、そのとき感じた事をもうひとつ伝えた。
『ウン! アー、デモ、あしゅれいノ方ガ オッキカッタカモー』
「……ああ、そうだったな。今の俺のほうが、大きくなってるよな」
『? イマ ノ……?』
 アシュレイの言葉になにか引っかかるような気がしたデンゴン君だったが、
『アアッ! 大変、あしゅれい!』
「ど、どうしたんだ、いきなり」
 突然大声をあげてアシュレイを驚かせた。
『挨拶シテクルノ忘レチャッタ!』
「挨拶…って、誰に」
『誰…ッテ言ウカ。ヨク分カンナイケドォ・・・』
「バッカだなー。なに言ってんだよ」
 デンゴン君自身にも理解できず、だからうまくは言えないけれど。
『エットネ、あしゅれいガ、会イタイ人ニ マタ会エルヨウニッテ…』
「……へ?」
『「マタナ」ッテ、誰ニ 言ッテ来レバ良カッタノカナァ…。あしゅれいガ 会イタイ誰カニ会エルヨウニネー。ソシタラ、ドコニイテモ、マタ会エルヨ! 約束ノ言葉ダモン。ナ、あしゅうれい?』
 
 
。 。 。 。 。
 
 
『ソノ後デネ……ぽつんテ キタノ』
 ココニ、とデンゴン君は自分の手の甲をアウスレーゼに見せた。
「ぽつん……?」
『あうすれーぜ…。我、あしゅれいヲ 泣カセチャッタノカナァ。ドウシヨウ、あうすれーぜぇぇ。我、ナニカシチャッタノカナー…?』
 突然今にも泣きださんばかりの悲しげな人形を、アウスレーゼはそっと両手でテーブルから抱き上げ膝に乗せた。
「アシュレイは武将だからな、泣いたりなどしない。デンゴン君は抱っこされていたのだろう? アシュレイが泣くのを見たわけではないだろう? ましてやデンゴン君はアシュレイが好きで、アシュレイもそれを知っている。案ずるな。なんでもない」
『まじデー…?』
 不安げなデンゴン君にアウスレーゼは優しく笑った。
「マジで、だ。年長者の言うことは信じなさい」
 選挙が終わって最上界に帰ったあと、アウスレーゼはデンゴン君にねだられて天主塔で会った者達のたわいもない日常を話して聞かせた。
 だがその内容にいつしか桂花と柢王だけが登場しなくなったことに気づいたデンゴン君に二人の事を問われ、アウスレーゼは「あのふたりは人間界にいる」とだけ答えた。
 それ以上は理由もなにも、どんなに尋ねられても語らず、とうとう『人間界ニ行ッテ見テクル!』とデンゴン君が言えば、止めるでもなくモンゴル宮廷まで送りだしたのだった。
 帰りはアシュレイに蒼弓の門の前まで送ってもらえるように手配もした。
 ……そのあと門前までアウスレーゼが迎えにきてくれるのなら、しかも門を通って帰るわけでもないのだから、わざわざアシュレイの手をわずらわすことはないだろうに。
 ナンデ ソンナトコデ待チ合ワセ?とデンゴン君が問うと、天界と人界の境界で目印にちょうどよいと思うてな、と笑ったアウスレーゼが、わざわざアシュレイと会えるように計らってくれた事くらい、デンゴン君だって気づいていた。
『・・・マ、無駄ニ 長生キダシナー』
「………フ」
 急浮上したデンゴン君に苦笑しながらも、人の数万倍超長生きで、人間界はおろか天界だってお見通しなアウスレーゼは、
「あまりなんでもかんでも話すわけにはいかぬのだがな」
 と、デンゴン君にいつもなら決してしてくれないだろう事を珍しく語ってくれた。
 それはアシュレイが前にもその地を訪れ、人間界で転生したアシュレイの元・副官と鍛冶師に邂逅したという話だった。
 
「――あとで転生したふたりにかかわった事がティアランディアにバレて、
 ちょっと…かなり大変でもあったようだがな……。
 それでも、アシュレイは後悔などしなかったろう。
 生きる世界も時間も、すべてが違っても、いい。
 あの二人が人間界で生きてるというだけで、アシュレイは嬉しかったのだと思う。
 その後、ティアランディアがふたりが創った像のことを話した。
 もちろん、あの子はその像を見たいと思ったろう。
 ふたりの残した形を、確かめたいと思ったろう。
 ティアランディアが、あの二人がアシュレイと出会ったあとに創作したものだと教えたから、なおさらだったに違いない。
 ふたりが天界での事を、アシュレイの事を覚えておらぬことなど承知だったろうが…。
 けれど、その形に宿る思いを確かめられたら、なにか感じられたらと。
 アシュレイは、そう思っていたのではないだろうか」
 
 ……そして、なにかを感じたのだろうとアウスレーゼは思った。
 永遠にも感じるつかの間の時間、移り変わる日々のなか、この掌の上で変わらぬものなどなかった。
 だから、信じたいと願うのかもしれない。
 人形にさえ思慕の念を抱かせる彼らなら……。
 仮に一度の生を終えたとしても、たとえ何度転生を果たそうとも、変わらないものがある、と。
 魂に刻まれるほどの絆がある、と―――。
 
「ただ、なかなか出向く決心が着かなかったようだがな」
『ナンデ…?』
「なんでだろうな」
『ッテ、我ガ聞イテンダッテバ!』
「ははは。言ったではないか。我が知るのは、表面だけだ。ただ見ているだけであり、知っているだけ。それゆえ我の話には事実の部分もあるが、アシュレイの気持ちは我の推測に過ぎぬ」
『ナンカ、ぼったくりノ オヤジミタイナンダケドォ』
 デンゴン君が不満気に呟くと、
「それでもアシュレイは、行ってよかったのだ。…あの子はきっとなにかを得たのだと思うよ」
『ソウカナァ…』
「デンゴン君。ひとつ聞いていいか」
『ナニー』
「アシュレイは、そなたと別れるとき笑っておったか?」
『ウン!』
「そうか」
『アノネ、我ニ「元気デナ」ッテ。』
「うむ」
『「ジャ、マタナ」ッテ♪』
 桜のはなびらのような薄紅が銀色の人形の頬に浮かぶ。
 アウスレーゼはその日一番の安堵の息を吐き、「よかったな」と微笑んだ。
 
 
 
 終。
 
 


No.290 (2011/05/06 23:13) title: 続・蒼天の伝言(上)
Name:モリヤマ (i220-221-13-8.s02.a018.ap.plala.or.jp)

【注:↓以下はNo.109「蒼天の伝言」の続編であり、槐様のNo.160「降臨」の勝手に続編…でもあります;; (※参照:NO.98〜NO.99「蒼天の行方」、No.103〜117「統一地方選挙」)】 
 
 
 
 蒼弓の門の前でアシュレイと別れ、迎えに来てくれたアウスレーゼと最上界に戻ったデンゴン君は、早速アウスレーゼから広寒宮でのお茶に誘われ、促されるままモンゴルの宮廷での事を話した。
「そうか、桂花たちは共におったか。仲良く暮らしておったか」
『ウン! ネーネー、あうすれーぜ。ヒトツ 聞イテモ イ?』
「我に答えられることならばな」
『ナンデ、つんつんノ相方、チッチャク ナッテタノ?』
 ゆったりと椅子に腰をかけたアウスレーゼを前に、デンゴン君はテーブルに立ったままで疑問を投げかけた。
「……む」
『ナンカネー、我ノ事モ、忘レチャッテタミタイデサー。ナンカ、冷タクナーイ?』
「……忘れたわけではないと思うぞ。小さくなったゆえ…うむ、いろいろと容量が足りなくなったのではないか?」
『フーン…? ジャ、マタ、オッキクナルー?』
「ああ」
『オッキクナッタラ、我ノ事、思イ出スカナー?』
「そうだな」
『フフッ。ソシタラ、マタ、会イニ行ッテモ イーイ?』
「……そうだな」
 アウスレーゼは無難に答えると、小さく息をつき物憂げな笑みを浮かべた。
『ワーイ♪』
「――で?」
『デ?? ナニガ、「デ?」』
 小首を傾げたデンゴン君のボケに眉間にしわを寄せたアウスレーゼだったが、それも一瞬だった。基本、アウスレーゼはデンゴン君の良き理解者なのだ。
「モンゴルの宮廷で子猿と待ち合わせたあと、どうしたのだと聞いている」
『ドウシタノダ、ッテ、ドーユー意味?』
「どういう意味、とは?」
『ダッテ、あうすれーぜ、ナンデモ 知ッテルシー。天界ダッテ人界ダッテ ほんとハ 我ニ 訊カナクテモ オ見通シダモーン?』
「我が知るのは、表面だけだ。ただ見ているだけであり、知っているだけ。我はデンゴン君が感じた事を聞きたいのだが?」
 アウスレーゼの言葉にデンゴン君はフーン…?と呟いた。
『オネガイー?』
 アウスレーゼが「お願いだ」と神妙に頷くと、大仰に反り繰り返ったデンゴン君は、コホンとひとつ咳払いをしてその後の事を話しだした。
 
『エット、ネー』
 
 
。 。 。 。 。
 
 
 アウスレーゼ経由で人界パトロール中のアシュレイと待ち合わせを果たしモンゴルの宮廷を去ったあと。
 すぐにアシュレイが「人間界でどっか行ってみたいとこ、あるか?」と聞いてくれた。
 デンゴン君の人間界での用は済んでいたので、アシュレイが行きたいところに行ってみたいと答えた。
 アシュレイは少し考えてから「ちょっと飛ばすからしっかり捕まってろよ」と笑って言った。
 任セロ!と答えた声がアシュレイに届いたかどうか。
『キャー♪♪』
 既にその身は天を駆けていた。
 
 
 そうして着いたのは、薄紅色の小さな花弁が温かな風に舞う美しい国。
 アシュレイに抱っこされ宙に浮いたままだったので、ゆるやかな風にひらひらと舞う薄紅が地面の上を泳ぐように見える。
『青ト、緑ト、茶色ト、ぴんくー』
「?」
『アノネー、』とデンゴン君は空と木と土と花を指さして、もう一度同じ言葉を伝えた。
『ナンカ、イイトコカモー』
「そうだな」
 アシュレイが優しく微笑んでそう言ったから、嬉しくてもっと周りを見回すと、いくつか建物が見えた。
『あしゅれい、オ参リ…?』
「あ? ああ、うん…。そっか、おまえ、お寺って知ってんだ?」
『あうすれーぜ ガ 言ッテタ。一般教養ダカラッテ。人間界ッテ イロンナ オ寺ガアルンダッテー。オ寺ハネー、オ願イスルトコロナノー。正解ー?』
「まあ、そんな感じかなー」
 笑いながらアシュレイはひとつのお堂に目をやると、周囲に人影がない事を確認し、変化してからその前に降り立った。抱っこされていたデンゴン君もそっとアシュレイの懐に身をひそめた。
 開いてる扉から中をうかがうと、中にはいくつもの像があった。
 立っているものや、座しているもの。大きなものや、わりと小さなもの。
『アレ、我ト 同ジ…?』
 硬質な印象の像が、自分と同じ人形の類に見えたのだろう。着物の合わせ目から覗いていたデンゴン君が顔をのぞかせて尋ねた。
「あ? ああ、違うよ。あれは…なんつーか、人間の神様だ」
『神様? 我モ、神ナリ。同ジジャ ナイノ?』
「あれは人間が作った神様だから。…俺にはうまく言えないけど、おまえとは違う」
『…ウン、ナンカ違ウカモ。ナンカネー、アノ人タチ、顔コワイシー』
 と言いつつ、ふと…最上界でひとりコワイ顔の人がいたなーと、アウスレーゼの許婚者を思い浮かべたデンゴン君だった。
「そっか、こわいか!」
 だが、そう言ってデンゴン君の言葉に思わず笑みをこぼしたアシュレイの目が、ある一点で止まる。
 アシュレイの視線を追うと、その先にはそれほど大きくない立像があった。
『ウン…ア! アノ人ハ コワクナイカモー♪』
 その像を指さしてデンゴン君がアシュレイを見上げた。
『ネ、あしゅ・・れ・・・』
 だが真剣に像に見入るアシュレイに、なんだか邪魔してはいけない気がして、デンゴン君も黙って人間の神様を見た。
 どれくらいそうしていただろうか。
 遠くで人の声と足音が聞こえた。
「……帰るか、チビ」
『モウ、イイノ?』
「ああ」
『あしゅれい、モシカシテ誰カニ 会イタカッタンジャナイノ…?』
「…どうしてそう思う?」
 デンゴン君の思いがけない問いに、アシュレイはちょっとだけ目を見開いた。
『ウーン、ナントナクー? 我ミタク、待チ合ワセ? 誰カ 待ッテルノカナーッテ』
 デンゴン君の答えに、アシュレイは少し戸惑ったように見えたが、すぐにひとつ息をついて自嘲するように笑った。
「会おうと思って会える奴らじゃないからな」
 ……つーか、会っちゃいけねぇし。
 アシュレイの小さな呟きは、かろうじてデンゴン君に届いていた。
『会エナクテモ、あしゅれいハ、ココニ 来タカッタノ?』
 言葉の代わりにアシュレイはゆっくりと頷いた。
『…ズット、来タイノ 我慢シテタノ?』
「我慢…じゃないんだ。……ていうか、来たかった、ていうのも違うかな」
『意味不明ー』
「ハハ、そーだよな。意味わかんねぇよな。なんつーか、今みたいに、フラッとついでみたいに寄ってみたかった。だから……」
『ウワッ…!』
 一瞬で変化を解いたアシュレイは言葉を継ぐ前にデンゴン君を抱き、地面を蹴っていた。
 
 
。 。 。 。 。
 
 
「なるほど。桂花たちに会い、アシュレイとお寺デートか。楽しかったようでなにより」
『……』
「どうしたのだ? 楽しかったのではないのか?」
 うつむき黙りこんでしまったデンゴン君に、アウスレーゼは少し心配そうに声をかけた。
『……ナンカ…』
「どうした、なにかあったのか?」
 腰かけた椅子から前のめりになったアウスレーゼに優しい声音で問われたので、デンゴン君は帰り道での事を話した。
 
 
。 。 。 。 。
 
 


No.289 (2011/04/19 19:54) title:TENDRE  POISONTENDRE  POISON ──The Addition of Colors :La Dolce Vita ──
Name:しおみ (l198059.ppp.asahi-net.or.jp)

花びらが、光を含んで降り注ぐ。
肌を満たす甘い陽気。下草の上に敷いた麻の大きな布の上、寝転がって見上げれば、視界はやわらかな光沢を帯びた白の渦。
大きく広がる枝いっぱいに、たわわにゆれる手まりのような花々。その向こうに覗く空は、あざやかな青。ひらひらと、降り注ぐ
花の雨を受けて、これ以上ないくらい贅沢な春の休日だ。

四月のとある平日の昼下がり──今年は春先まで気温の低い日が続いたせいか、いまになってようやく桜の花が満開になる頃合い。
花降らしの雨も時期が少しずれていたようで、あちこちで豪華に開いた花は例年よりも華やかなくらいだった。
『な、せっかく、休みだし、天気もいいし。ちょっと外で花見でもしねぇ?』
と、柢王が同居中の恋人である桂花に提案したのは、昨夜遅くに近距離往復便で戻ってきた桂花が、ようやくベッドから起き出してきた時刻。
パイロットの生活は、不規則を絵に描いたようなもので、それは万事にきちんとした桂花でも同じこと。基本、不規則に暮らしながら、
そこにリズムを作って自己管理しなさいよ、というのがパイロットという職業だ。四連休の三日目で時差ボケから解放されて
すっきり顔の柢王と、一応きちんと身支度は整えているものの、まだどこか夢うつつな桂花の体内時間や疲労度が異なるのは
当然のことで、久しぶりに休みが合ったからと言って、無条件にはしゃいでいられるわけでもない。
だが、目覚めの紅茶のカップに口をつけていた桂花はその提案に、かすかに笑って、
『意外と、あれこれイベント好きな人ですね。ふだんは花なんて興味がないんじゃないんですか』
からかうようなまなざしで柢王を見上げる。いつもはクールな人だが、紫色の瞳はまだどこか眠たげで、寝起き間もない声も
かすかにかすれているのが、色っぽい。
それこそ、同居中の恋人でない限り見聞きできないその姿に、笑みを深めた柢王はいたずらっぽく、
『そりゃ、ふだんはどんな花より見惚れる顔がうちにあるから。つか、シーズン限定のもんを、おまえと見るっつーのがキモなんだって。
あ、眠たかったら、俺が膝枕してやってもいいけど』
桂花の瞳を覗き込む。と、間近な瞳がくすりと笑みを宿し、
『ずいぶんと、堅そうな枕ですけど──まあ、誉めてももらったようですし、行きますか』
と、わざとクールな口調で答えたのに、柢王も笑って、すなおじゃねえよなぁ、と桂花の額に額を押しつけた。

対岸に、満開の桜が淡い紅色の雲のようにさんざめく河川敷。
それを夢のように眺めるこちら側の、ひときわ大きな木は他と違って、光を含んだような白い桜だ。柢王はその下に敷布を広げて、席を作った。
木漏れ日が、花の形で布の上に影を踊らせる。昼下がりで地熱も高く、平日だから人気もほとんどない、ほぼふたりだけの空間に、
用意してきた毛布と枕を放り出し、
『ほい、お昼寝タイムな』
自分はそのままごろんと横になって、隣の敷布を叩くと、桂花は苦笑して、
『外で昼寝なんてしたことがありませんけど』
基本、人前では寝ないと評判の人だ。眠りもそう深い方ではなく、実際、今朝も、柢王が起き上がると、桂花はうっすら目を開けた。
が、柢王は気軽そうな顔で、
『そりゃ、初体験でよかったじゃん。あんまり人いないし、とりあえず横になってても体の疲れは取れるだろ? 誰かおまえの
顔覗きに来たら、俺が責任もって追い返しとくから心配すんなって』
ほら、と毛布を広げて見せた。桂花はそれに小さく肩はすくめはしたが、それ以上は言わずに、柢王の隣にそっと体を横たえた。
柢王はその上に毛布を広げ、風にゆれる花影から桂花の髪にこぼれる花びらを拾い上げるそぶりで、その髪を撫で、
『んじゃ、お休みってことで』
桂花の方に体を向けつつ、空を仰ぐ。
遠いきれいな青い空。そして、ゆらゆらと揺れ動く白い花々。午前一杯太陽に温められた下草からぬくもりが体にじんわりと伝わってくる。
ふたりは、しばらくそうしてゆらめく白い輝きを見ていたが──……
「──やっぱ、いまがピークだよなぁ……」
桂花の耳には聞こえない声でそう呟いて、柢王はそっと体の向きを変えた。やわらかな枕に、きれいな顔をなかばこちらに向けるようにして、桂花は眠っていた。
睡眠不足はパイロットの職業病みたいなもので、個人差はありはするが、こういうシフトならだいたいこの辺りで眠くなる、というデータは大抵同じ。
柢王の経験から言って、桂花が再び眠くなるのは今頃だろうと推測した時刻だったが、どうやら当たっていたらしい。ぽかぽか陽気も手伝ってか、
長いまつげを伏せて、安らかな寝息を立てている。
無防備な、その顔に、柢王は着ていた革の上着を脱いで、桂花の首筋を護るように、そして、その心なしか自分の方を向いているきれいな寝顔が、
通りすがる誰からも見られないように、そっと桂花の肩から顔にかけてフードのように着せかけた。
きっと、自分がいるから安心して寝てくれている、と思うのは自惚れではないだろう。
花影がゆれるそのきれいな顔は、出会った頃よりずっと、いろいろな表情を見せるようになってきてくれている。
それを──
「見ていいのは、俺だけ──」
白い髪の上に惜しげもなく降り注ぐ花びらから、視線を上に戻しながら、ひそやかな声でそう呟く。

白い桜には、他の桜とは少し違う趣がある。
対岸の、そして視線を少し横に移せば見られる桜の色は、あでやかな春の盛りの物狂おしいようななまめかしさと豪華さを感じさせるけれど。
白い桜は、優美で、どこか清冽で──色づく花の美しさに酔いしれて見惚れるのとはまた違う、見る者の思惑など埒外に、
惜しげもなく降らせるその花びらを、思わず目で追ってしまうような、しっかりと見つめていないとすり抜けていくような感覚に、思わず
抱きしめたくなるような、ふしぎな気持ちにさせられるのだ。
柢王が、この木のそばで思わず足をとめたのはそのせいだ。
決して狎れない、優しい美しさ。
それが、自分のもの、と確かに言えるけれど、まだ知らないことも多くて、いつもどこかでじれったいような、もどかしいような、
だけど、それが嬉しいような、言葉にできない気持ちにさせてくれる恋人と、似ているような気がしたから。
成り行き任せに、勢いだけで、距離を縮めていたらきっと見えなかった生活。緊迫感がふとしたことも刺激に変える、そのことは、
クールで時に誰より男前な恋人との生活のなかでしか、きっと理解できなかったものだ。
だからこそ、
(そーゆー特権は俺だけのもん)
他の誰にも話さないこと、見せない姿、こんな無防備な寝顔も。積み重ねていく信頼も、愛情も、本当はなにもかも──自分だけに
与えて欲しいと願う気持ちの強さを日々噛みしめている。
揃って休みの前だからと言って、一緒に眠っても、シフトが違えば眠り方も違う。こちらが目覚めて動くたび、目をさまさせて
しまうのはすまなくて、それならいっそ、独り寝をすればいいのだが、
(それはやだ──)
仕事で会えない日があるのは仕方ない。それに柢王だって仕事のさなかは桂花のことを考えてないことがほとんどだ。
でも、家にいるときは、そして可能なときはその分全部、その顔を、声を、存在を、確かめるように側にいたい。自分以外の
誰にも何にも、渡さないで、自分のことだけ見ていて欲しい。
「……なぁんて、カッコ悪くてぜってぇ言えねぇよなぁ──」
と、無防備な恋人の寝顔を見つめて、柢王はため息をつく。
こっちだって、キャリアも上な恋人に、見せたい弱さと囲っておきたい弱さは違うと、なし崩しにならないわけの残り半分は、とうから承知のはずなのに……・。
と、反らした喉に花が舞い落ちる。
見上げれば、視界に広がる白さはやわらかに、やさしくゆれながら心を包み込んでいく。他のものもみているつもりなのに、気がつけば、
その白いやさしいざわめきだけが網膜を支配している。
それはまるで優しい毒のように──気づかぬうちに、心も体も浸食されて、こちらの全てを染め変えられるようだ。
と、桂花が小さく、ん…と呟いた。
ハッとそちらに顔を戻すと、ちょうど瞳を開いた桂花は柢王の姿に、小さな笑みを見せ、
「……寝ていましたね」
ちょっと自分で驚いたというような、だが、それを面白がるような声だ。それから、柢王が被せていた上着に気づいたようで、
「そんなに寒くありませんよ。あなたこそ、寒いんじゃないの?」
それを外そうとするのを、柢王は止めた。
あれこれと、独占欲とか執着だとかなんだかんだといままで意識しなかったものを、思い知らせてくれる人ではあるけれど……──。
自分だけに見せてくれるその表情の優しさ、そして笑顔。それを見た瞬間に、自動的に胸が熱く満たされる。
それは他の誰にも感じたことのない魔法のように──胸が満たされ、そして、もっと満たして欲しくなってくる。
それが毒の効果だというなら、自分はけっこう重症だ──と、心の中で笑いながら、柢王は、フードにした上着を、桂花の顔が完全に
自分だけに見える角度でかけ直しながら、
「ま、防犯対策を兼ねて──こういうとこで変なストーカーとかに目つけられたら困るし」
真顔で言うのに、桂花が笑う。
「バカなことを……」
柢王はその髪に降りつもる花びらを優しく払いのけながら、声に出さずに囁いた。
(なあ、言っとくけど──おまえが毒なら、俺は皿までだって食う覚悟はあるんだぜ?)

そう、その覚悟はとっくにできてる。
この先も、どんなに侵されても、何を染め変えられてもきっと変わらない。
甘く優しい毒の誘惑。
それさえが、ただ、自分ひとりのものであると、いうのなら──


No.288 (2011/04/13 12:59) title:えんまちゃんのゆーうつ
Name:まりゅ (jalpx.mobile-p.jp)

えんまちゃんは、今日も元気に霊界を出発します。
まずは、天主塔の父上の所へ、朝の挨拶に向かいます。
 えんまちゃんが、父上のお部屋の前に行くと、扉の中から父上の悲鳴が聞こえます。
「父上?!大丈夫ですか!!」
 えんまちゃんは、ドンドンと壊れんばかりに扉を叩きます。
 しばらくすると、「お入り」という、父上の声がしました。
 えんまちゃんは、急いで中へ入ると、父上が寝台に半身を起こし、気だるげにくるみ色の長い巻き毛をかきあげていました
「毎朝、律儀に挨拶に来なくても良いと言ってるのに」
「でも、父上にお会いしたくて…。さっきの悲鳴はなんだったのです?ご無事なのですか?」
「ふふふ…、心配することはないのだよ。おまえが元服したら教えてあげる。早く大人にお成り」
 いつも父上はこうです。何を聞いても、必ず「元服したらね」と仰います。
 はだけた簡衣から見える、散在する赤い小さな痣も、ご病気ではないのかしらと気になりますが、きっとこれも「元服したら」なのでしょう。
 父上はネフロニカと言うお名前なのに、人々が何故か「いんま」と呼んでるのも気になっています。
自分が「えんま」だから、父上は「いんま」なのかしら。じゃあ、母上は「うんま」だったのかしらと、一度父上に聞いてみたいのですが、これも「元服したら」と言われてしまうと思い、まだ聞けていません。
 父上への挨拶が済んだので、これから塾へ行かないといけません。でも、塾へ行くのはちょっぴりゆーうつなのです。年少組に、阿修羅君という乱暴な男の子が入学してきたからです。
「今日はいじめられないと良いなあ」
 えんまちゃんは、ドキドキしながら塾へ向かいます。
「阿修羅君が大きくなって、南の王になった時、父上が苦労しないといいけど…」
 阿修羅君は、えんまちゃんより、うんと年下なのですが、既に塾では一目置かれる存在になりつつあるのです。今から心配です。
「ボクは父上と同じように、大人しい性格だけど、阿修羅君の父上はどんな方なのかしら。やっぱり乱暴な方なのかしら。じゃあ、阿修羅君の子供も、やっぱり乱暴者なのかしら。ボクの子供はきっとボクに似て大人しいだろうから、いじめられないと良いなあ」
 更には、将来の自分の子供のことまで心配してゆーうつになる始末です。
 でも、大丈夫。ネフロニカv.s.阿修羅はともかく、子供たちはとっても仲良くなることでしょう。つか、てめーだ!てめーが諸悪の根源だーっ!というのは、後のおはなし♪とっぴんぱらりのぷう

※閻魔大王にも個人名はあるんですよねえ?ネフィー様がつけるんだから、バイオレットちゃんとか(似合わない…)。あ、阿修羅王も役職名なんですよねえ…。


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