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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.277 (2010/11/21 13:32) title:秘技 まなざし落とし
Name:まりゅ (p2166-ipbf7402marunouchi.tokyo.ocn.ne.jp)

新書版よりー

「てめぇが恋人を作らないから、男共は皆悲惨な目にあってんだぞ!」
今日も、いつものように「守天に彼女をとられた」という先輩の文句を聞かされたアシュレイ。
俺だって好きな子をとられた、と答えたら、じゃあ何でそれでもティアと一緒にいるのかと返された。
−ティアは綺麗で優しくて頭が良くて、自分達とはぜんぜん違う。女子が好きになって当たり前じゃないか。それで親友をやめたりしない。
だけど、そんな彼女たちより、自分を優先してくれることも、恋人ができたらなくなっちゃうのかな…。

ティアに恋人が出来たら、自分達は今までみたいにずっと一緒にいられるんだろうかという不安もあり、先輩たちに文句を言われ続けるのも煩わしいのもあり、先ほどの言葉が飛び出してしまった。

恋人なんか要らないーそんな返事を期待してたのかもしれない。でも、全く違う答えがさらりと返ってきた。
「じゃあ、おまえが恋人になってよ」
想像だにしてなかった返事だった。
ふざけてんじゃねえ!と答えようとしたが、ティアの真剣な顔を見たら軽い言葉なんて出せなかった。
(俺、どう答えればいいんだ?!)
そして昼寝時にされる行為も思い出してしまい、もう涙目である。
ティアは溜息を一つつくと、助け舟を出した。
「大体、そういう話は先に柢王にしてよ。柢王にふられたって子達が、私に泣きついてくるのだから」
みるみる生気を取り戻したアシュレイは「柢王だな、よし!」と柢王のところへすっとんで行った。
ティアはその姿を見送りながら、もう一つ深い溜息をついた。

実は、「強い男が好き」という古来の本能を持った女子もいたのである。
が、可愛いアシュレイに色目を使いそうな女子は、全てティアがまなざし落としで洗脳していたのだ。
後に柢王にばれて「恋人には狭く、独占欲の塊」といわしめる所以である。
本命に使わないのは、術で心を縛るようなことはしたくないのか、鈍すぎて術がかかり難いと思っているのか..。
そして今日も気安く女子に声をかけ、「恋愛相談」という情報収集に余念のないティアであった。


No.276 (2010/11/21 13:31) title:転生
Name:まりゅ (p2166-ipbf7402marunouchi.tokyo.ocn.ne.jp)

公園を通る学生服の2人。幼馴染の親友同士だ。
「俺さー、すげー夢見ちゃった。自分が天界の武将ってやつでさ、空をびゅんびゅん飛んで、槍とか剣とか振り回してんの。
でさ、お前も出てくんの。すごい偉い人の役で、おまえとおんなじで女にモテまくりでやんの」
(その2人が恋人同士だなんて、ぜってーいえねーけど..)
「君も見たの?!私もその夢は良く見るんだ!」
「うそー!マジ?!俺、赤い髪?」
「うん。私は金色の髪で、ティアと呼ばれてた」
「!マジ、おんなじ夢だ…」
「私たちの前世じゃないかと思う」
「前世?!だけど何で俺たちだけ?」
「もう一度、君に恋をする為に」
「…わりぃ!!俺、そんな風におまえを見れない!..だけど、親友は失いたくない…」
「うん、そういうと思った」
「なんだよ、それ。俺をからかってたのか?」
「違うよ、君はそのままで良いってことさ」
「そうだよな、前世だとしても、そんなものに振り回される必要ないもんな!おまえも目を覚ませ!」
「だけど、私も諦めないから」
「へ?」
「君を好きにさせてみせるさ」
「バ、バーカ!言ってろ!!」

目が覚めると、そこは天主塔の自室だった。
あれは夢。本当の自分の夢。守護守天ではなくただの普通の男として、アシュレイに出会いたかった夢。
御印付きの体は転生しない。意識は中庭に残せるかもしれないけれど..。
アシュレイも氷暉を抱えたままでは転生できない。
だが、氷暉の願いを叶えられれば、アシュレイは転生できるかもしれない。
アシュレイが死ねば、自分も生きてはいない。
そうしたら自分は、先輩たちと同じように後輩の体を乗っ取り、遠見鏡で転生した彼をストーカーするんだろうか。

もしも、転生することができたなら…。

何度でも君に恋をするよ…アシュレイ…。


No.275 (2010/10/29 22:47) title:ティアの治療♪
Name:まりゅ (jalpx.mobile-p.jp)

コミックスバージョン。アウ様が去る前夜の話…。

「なっ、なにしやがんだ!!」
「治療だよ。さっきと同じだ。君の霊力はひどく落ちている。私の口から霊力を直接吹き込むことで回復が早くなる」
「も、もう治った!」
ティアはアシュレイをぎゅっと抱きしめ、おでこをぶつける。
「!」
赤くなって動けなくなるアシュレイ。
「ほら、熱も高いし、顔も赤い。体も震えてるじゃないか。ちっとも治ってないよ。ちゃんと治療を受けて!」
「~~~~~~~~」
言葉の出ないアシュレイにさっさと「治療」を施すティア。

何度目かの治療を、恥じらいながらもいやがらずに受けたアシュレイは、ふと、下を向いてぼそっと話し始めた。
「あの..さ..」
「何?」
「その…昔..おまえさ….」
「昔?」
「…俺が昼寝してたら、同じことしただろ…。あれって…」
「昼に眠くなるってことは、霊力がそれだけ落ちてるってことでしょ。疲れてるみたいだったから、つい「治療」しちゃった。勝手にごめんね?」
「..そっ…か…」
治療だったのかと、明らかに気落ちした感じの風情のアシュレイにティアは密かに舞い上がっていた。
「気付いてたんだ」
「武将だぞ!体に触れられたら寝てても気付くだろ!」
「でも、そのまま受け入れてくれた」
「!」
再び真っ赤になって蒸気を出さんばかりのアシュレイ。
「ね、寝てたから!害がなければ起きないんだ!あ、あれだ。寝てるときにリスとかが体の上を走ったりするのと同じ?」
焦る余り、だんだん訳のわからないことを言い始める。
「じゃあ、害がないから、これからも寝てるときに触れて良いのだね♪私のことはリスだと思って♪」
「!!!」
とんでもないせりふに、反応ができず固まってしまったアシュレイだが、逆に不信感を覚える。
ちょっと待てよ、なんか話がおかしいぞ。大体、2回に1回は触れるだけで、霊力なんか吹き込まれてなかったような..。
見るからに頭の中がぐるぐるしてパニック状態のアシュレイに、思わず抱きついてしまうティア。
「可愛い!!」
その瞬間、アシュレイの平手が炸裂。
「テメェ!治療なんて嘘だな!」
「あはは…」
やっぱり嘘だったんだ!怒りと、何度も受け入れてしまった恥ずかしさと、ちょっぴり治療なんかじゃなかったんだという嬉しさが入り混じり、いたたまれず飛び去っていくアシュレイを、ティアは頬をなでながら見送った。
愛しい人に叩かれたこの痛み、手光をあてずこころゆくまで楽しもうと、変態への道を歩みだしているティアであった。


No.274 (2010/07/07 19:32) title:レーゾン・デートル  ─UNISON─
Name:しおみ (l198059.ppp.asahi-net.or.jp)


七夕の夜に降る雨を洒涙雨というらしい。
天の川の両端に、引き裂かれた恋人たちが流す涙が雨になるのだと──

「──っていうか、それ以前に、年に一度しか会えねぇって時点で泣きたくなるよなぁ」
と、敷布にこぼれた桂花の髪を弄びながら、柢王が言った。
いつものように予告なしで、突然、人間界から戻って来た柢王が、ようやく肌の熱は引いたものの、まだ眠るのではない
暗がりのなかで話してくれた人間界の行事は、桂花にも聞き覚えのあるものだった。
天帝の娘である職女と牽牛という夫婦が、天帝の怒りに触れて天の川の両端に住まわることを強制された。
ふたりが互いに触れ合えるのは年に一度の七夕の夜だけ。かささぎが架ける橋を渡って、恋人に会いに行くのだ。
ところが、雨が降ると河の水が増して橋を架けることができなくなる。
だから、七夕の雨は引き裂かれた恋人たちの涙を誘う雨なのだと──。
およそふだんはロマンティックなことなど、軽くけり飛ばして飯だの剣だの現実的なことの方を選ぶ男が、なぜだかいつも、
戻ってくると人間界のささやかな行事だとか、有りようだとかを口にしたがるのはどういうわけなのか。
長い間、李々を探して人間界をあてもなくさまよっていた桂花も、人間の事情には通じている。
その七夕と呼ばれる行事のことも、知るにはもちろん知っていたが、そのころは別段、人間にも興味がなく、
(相手の居所がわかっているのに、年に一度会うだけでいいなんて悠長な話だな──)
皮肉でもなくそう聞き流したのは、自分が居所どころか生死もわからぬ人を探し求めていたからなのか。いずれにしても、
その頃の桂花は李々を探す自分の気持ちの切実さも痛みも、極力見ないふりで平静を装っていたから、それがどういう気持ち
だったのかなど考えてもみなかったのだが──。
「な、おまえが年に一回しか俺に会えなくなったらどうする?」
と、暗がりのなか、瞳にいたずらっぽい色を浮かべて、柢王が桂花の顔を覗き込む。弄んでいる髪の先を、自分の指に巻き
つけながら、
「もちろん、こーゆーことも年に一回。ストレス溜まるよなぁ?」
と、重なり合う裸の胸を指してにやにやと笑うのに、
「ま、あなたの場合、いろんなとこでストレス解消するから平気でしょうけれどね」
桂花は仰向けのまま、その男の顔に軽く顎を突き出して見せた。
柢王は、突然、人間界から戻ってはくるけれど、それは少しの間だけ。夜を過ごしたら大抵、次の朝にはまた出て行って、
桂花は残される。その人間界の行事だって、明日の朝、かれが人間界に向かえば、向こうがその時期だという話だ。
それが、かれの役割で、それを妨げる自分でいたくないのも真実だけれど、その無神経な笑顔は癇に障る。
と、冷たく答えた桂花に、柢王は慌てたように声を大きくして、
「んなことないって!  つか、おまえだけだっていつも言ってんだろっ!」
言うだけならいつも──と、言ってどうなるものでもない。桂花はどうでもいいように、そうでした、と答えた。と、柢王は続けて、
「つか、俺なら年に一回なんて絶対我慢できねぇ。そんなに長く、おまえと会えないなんて考えたくもない」
それでも、あなたは出かけて行くんでしょう?  と、心のなかの声に蓋をして、桂花は微笑む。
心がどこにあっても、それがやるべきことなら柢王はためらわずに出かけて行く。いま、そこにあるもの、必要とされていること。
それが柢王の優先順位だし、かれの生き方だ。自分がかれの世界のすべてでないことぐらい、桂花はとうにわかっている。
それでも、リスクを冒し、全力で、求めてくれたのもかれだけだ。地位も身分もすべてを捨てて、自分を求めてくれた男は
きっと、何度同じことがあっても同じ道を選ぶだろう。そう確信している。そのことも嘘じゃない。
愛しているということは、言葉ではなくあり方だ。柢王は誰よりそれを示してくれている。自分を選ぶというやり方で。
だから……いや、だからこそ。
消えない苦しさは胸に抑える。かれの生き方、かれの在り方、信じているという気持ち。妨げたくない、これ以上。それでも、
(吾の側にいて──)
気持ちだけでなく存在も。他の何にも目をくれないで、側にいて。自分の世界がかれだけのように、
(吾だけのものでいて欲しい──)
矛盾した、そんな思いをかき消す術が見つからなくて、
「まぁ、そんな話はどうでもいいけど……」
桂花は、柢王の首に腕を回すと引き寄せた。
一緒にいられる時間は短い。だから、と──
熱に溺れる時間のなかで、感じるものだけをすべてにする。たしかなもの、いまここにあるもの。その真実をさまたげる
すべての思いに蓋をかぶせて──。
 

 
藍色の空には、銀の粒を撒き散らしたような星空が広がっている。
七夕、と人間たちが呼ぶ日の夜。
柢王は人里を離れた場所から、夜空を眺めていた。
今夜は、幸いにして雨は降らず、薄い弓なりの月の光が遮らない上空では、あざやかな光の帯のような銀河が流れているのが
地上からでもよくわかる。伝説によれば、恋人たちはいまが逢瀬の真っただ中、というわけだ。
「ま、他人事だけどよかった、ってことだな──」
と、呟いて、肩をすくめた後、ふと視線を落とした柢王の口元に苦笑いに似た笑みが浮かんだ。低く、
「けど、おまえがいないと、さみしいよな──」
言ったかれは、再び視線を上げた。
頭上にきらめく満天の星たち。手を伸ばせばこぼれおちそうなその雄大で、崇高な輝き。それを、
「おまえと見たいって、いつも、思ってんだけどなぁ……」
と、柢王は呟いて、苦笑いを深めた。
天界に行ってから、桂花は星空を見ていない。柢王だって、人間界に降りなければ同じだ。人間界に来なければ、あんな話を
わざわざ桂花に聞かせることもないのだが──
人間界を守るのは天界人の役目。元帥として、武人として、任務に当たるのは柢王の務めだ。
だが、それだけでなく、本能に似た感情で天界人は地上と繋がっている。武人としてのプライド。そして、王族の正しい誇り。
いろいろなものが混じり合っていて、だから人間のために地上に降りることを、渋々だとは、柢王にもとても言えない。桂花にも
きっとそれはわかっている。
桂花を天界に連れて来たのは自分で、任務だからと置いて行くのも自分で、それは仕方のないことと言い訳はできても、
(きっと、俺のわがまま──)
側にいてやりたい、そして自分も側にいたい。そう思いながらも好きなようにふるまってしまうのは、きっと、甘えなのだと
わかっているのだが。
それでも──
天界で、自分が見てきたもののことを話すのは、桂花にそれを知らせたいからだ。
この、こぼれおちそうな満天の星。人間界の、壊れやすい、繊細な自然の美しさ。美しいものも、優しいものも、清らかなものも。
心を奪われるものは、全て、桂花とふたりでわかちあい、桂花とふたりで感じたい。
そんな風に、何かを、瞬間にいとおしむ気持ち。美しいものに、足をとめさせ、視線をとめるようになったのは──
「おまえがいるから、なんだぜ……──」
宝石も飾り物も、自分ひとりなら興味がない。桂花のその美しい姿に映えるから。その美しさを胸に抱いて、呼吸の間に間に、
思い出せるように。
網膜の奥にではなく、魂の奥に、刻みつけられるように──。
きっと、思う以上のさみしさを与えている。気丈なふりで、胸に抱えた気持ちすべてを吐き出させてやれる器量も器用さもまだ
持ち合わせてもいなくて。
苦しい思いをかわす苦しさを、どうしてやることもできていないけれど……。
(でも、知っててくれよな)
自分が見たもの、触れたもの。それは桂花と共有したいと望んだものだ。自分が伝えたいと話すことは、すべて桂花とわかちあい
たかったものだ。そのことを、わかってくれるといいと願う。
側にいない時、そこで思うどんな気持ちも、形はなくて、証立てることはできないけれど──
「おまえがいないと、俺だってさみしいんだぜ……」

おまえと同じ、そのさみしさを、俺も共有しているから──


No.273 (2010/07/04 11:34) title: 鮮やかに悟る心情
Name: (cr4-172-014.seaple.icc.ne.jp)

 窓の外はこんなにいい天気なのに。
 アシュレイは雲ひとつない空を見あげ、それとは対照的などんより淀んだ室内で、しきりに背後を気にしていた。 
ティアが訪れてから、どのくらい経っただろう?
氷暉に忠告されたばかりだ。ティアがなにに対して苛立っているかくらい見当がつく。だから、家の中には入れたくなかったのに・・・。
「やあ、帰ってたんだ?私が待っててって言ったのに、いなかったから心配したよ」
 棒読みのような口調が怖くて、一瞬ひるんだアシュレイを押して「お邪魔するよ」とティアは強引にあがり込んで来たのだ。

 掃除当番だったアシュレイに「私も用事を済ませてくるね。もしかしたら、私の方が遅くなるかもしれないけど、待ってて」と言ったティア。
 分かったと応えたけれど、掃除が終わって昇降口に行ってもティアの姿はなかったので、その間に氷暉に断りを入れておこうとアシュレイは室内プールへ向かった。
 そこで、自分が来る少し前に、ティアが氷暉にくぎを刺しに来ていたことを知り、彼の勝手な振るまいにムッとして、一人で帰宅してしまった結果が―――これだ。

「君さ・・・あの男のこと、好きなの?」
 くぐもった声でティアが切り出す。
 それまでの沈黙の方が気まずかったアシュレイは、一呼吸おいてからふり向き、思わず後ずさってしまう。真後ろまでティアが接近していたのだ。
「あ、あの男?」
「・・・私にあいつの名前を言わせるつもり?ずいぶん意地悪だねアシュレイ」
「氷暉・・・のことか?」
「やめてよ、君の口からあいつの名なんて聞きたくない」
「〜〜〜どうしろってンだ。言っとくけど俺はお前に責められるようなことは何もしてないぞ」
 氷暉が溺れていたと勘違いしただけだとか、人工呼吸になっていなかったとか、そんなことは置いといて。誰がなんと言おうとアシュレイにとっては人命救助以外のなにものでもなかったのだから、きっぱりと言い放つ。
「そうだよね・・・何もしてないよ、私には。あいつには君からしたっていうのにね」
「だからあれは人命救助だったって―――」
「・・・・本当にしたんだね・・・ひどいショックだよ。なんだって君からあんな奴に・・永遠に沈ませておけばいいものを!!・・・クッ」
 アシュレイのベッドに顔を突っ伏したティアの背中を恐る恐る叩くと、ガバッと起き上がった彼に体をつかまれ、組み敷かれてしまう。
「なにすんだよ!」
 またか?また、よからぬことをしようと?!アシュレイが睨みつけても、ティアは動じない。アシュレイに負ず劣らず強い瞳でまっすぐ見つめ返してくる。
「アシュレイ。確かに君が怒るのも無理はない。大勢がいる教室であんなことをして、君のプライドを傷つけて、退路も断った。それは悪かったと思ってる」
 それなら・・・と、口を開きかけたアシュレイの言葉を阻止してティアは続ける。
「私の気持ちを受け止める気がないのなら、全力で逃げて」
「え?」
「本気なんだよ。君が軽く受けとっている私の気持ちより、ずっとずっと本気なんだアシュレイ。君が好きなんだよ・・・もう、自分でもどうにもできないくらい」
 ごくりとティアの白い喉が動いて、彼の真剣さが伝わってくる。
「他の誰かに渡したくないんだ。無茶なこと言ってる自覚はある・・でも、我慢できない」
 浮かされたように、君を愛しているんだと何度もつぶやく唇が、髪から耳へと移動してそれを食む。
「ぅあ」
 くすぐったくて首をすくめると、今度は首筋におりてきた。余計にゾクゾクして暴れだしたアシュレイに、ティアは隙間がないほど密着して動かなくなった。
 互いの胸の鼓動が共鳴したかのようにはげしく打ちつけ合う。このままでは、ティアのペースに流されてしまう、とアシュレイは口火を切った。
「お前の気持ちはちゃんと分かってるつもりだ、でも、ちょっと、こういうのは俺・・」
「分かってないよ。分かってたら下心ある私をこんな簡単に部屋へあげたりするものか」
「し、下心ってお前・・・だいたいお前が勝手に上がってきただけだろーが!」
「ベッドがある部屋に・・・そんなことで信用されても私は嬉しくないからね。君って人は無防備にもほどがある。だからあんな奴に付け込まれるんだ・・・・逃げないの?」
 赤い髪を優しく払いながら、現れた額に唇をよせる。
「つけこむとか言うな、氷暉はそんなことしねぇよ」
「どうだか。ねぇ、あいつにこんなふうにされたら、とっくに殴り飛ばしてない?私が相手だから・・嫌じゃないから、戸惑うんじゃないの?」
 切羽詰まっていた声が、だんだん甘さを含み始めていることに、アシュレイは気づかない。
「うるさい、殴っていいなら殴るぞ。もうどけよ、重いんだよっ」
「じゃあ・・・私がアシュレイ以外の人に、こんなことしているところを見たらどう思う?君は何ともないの?」
「・・・・・・・」
 体をぴったり重ねあって、額に唇を押しつけたりして。
 端正な顔が、すぐそばで甘い言葉を囁きつづけ、繊細な指がやさしく髪を梳く。

―――――それを、自分以外の・・他のやつに・・・?

「そんな事しやがったら二度と口きかねーぞっ、この色欲魔!サッサと出てけっ!」
 容赦のない蹴りを入れ、悲鳴をあげてひっくり返ったティアの腕をひっつかむと、部屋の外へ追い出し、ドアを閉めた。
「アシュレイ!ごめん、例え話だよ!開けてアシュレイ、誤解だってば。こんなに君一筋だって言ってる私が、そんなことするわけがないよ!」
 ドンドン叩くティアに、耳を貸さず「帰れ!しばらくその面、見せんな」と冷たい言葉を浴びせたアシュレイは、とうとうドアを開けてはくれなかった。
 しかたなく家に帰ることにしたティアだったが、その顔は落ちこむどころか締りのない二ヤけた表情をしていた。

「アシュレイってば、自分で気づいていないんだ・・・あんな焼きもち妬いちゃって。フ、氷暉なんか目じゃないかも。フフフ・・・フフ・・・」

 道行く人に怪訝な顔で見られても、自信を持てたティアにとっては、どうでもよいことなのであった。


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