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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.266 (2010/02/14 16:52) title:季節の贈り物
Name:ぽち (i118-18-73-48.s10.a022.ap.plala.or.jp)

 甘い香りが微かに鼻に届く。そして人の気配。
 数日続いた重い会議、そして書類の山。横で手伝ってくれている桂花も心配するほどの疲労がたまっていたらしい。いつもより長く寝すぎたのと桂花から報告で、使い女達が気を利かせて甘い飲み物を用意してきたのかとティアは一瞬思った。
 しかし十重二十重と張り巡らされた結界、誰一人入れるはずがない。自分が許可しているのは…自分の部屋に自由に入れるのはたった一人だけだ。
「そこにいるの…アシュレイ?」
「あっ!! ゴメン…起こしちまったか?」
「ううん大丈夫。もう起きる時間だったし、少し余分に寝ちゃってたかもって思ってたから」
 身体を半分起こし、寝台の上から声のするほうへ視線を向ける。
 アシュレイも、まだ早いからもう少し寝ていろと甘い香りのするマグカップをベッドサイドのテーブルに運び、チョコンと寝台縁に腰を下ろす。
「ね、何かあったの? こんな早い時間に君がここにいるなんて…。人界で……」
「いや、毎日深夜までの会議でおまえが疲れ切ってるって──────お前の秘書から連絡を受けてっ…」
 酸欠の金魚のように口をパクパクさせて、しどろもどろに桂花から連絡を受けてこちらに様子を見に来たことを報告するアシュレイに、ティアはにっこりと笑みを浮かべて、両手を広げ自分のところに来るように仕向ける。
 が、頬を真っ赤にして視線を外し、サイドテーブルに置いてあったマグカップを物も言わずアシュレイはティアの方へ渡す。
「え? 何?」
「いいから飲め」
 濃く甘い香りが寝台中に広がる。ティアはゆっくりとカップを受け取り一口、口に含む。
「甘いね」
「そーか、お前用に作ったって言ってたから甘いんじゃねぇのか?」
 熱くなかったか? と、猫舌なのを知っているので心配しつつも口に含めたことで少しは冷めたのかなと安心し、桂花から『薬だ』と聞いてきたので苦いのではないかとハラハラしていたが、ティアの一言でホッとしながらアシュレイはティアの方を向く。
 ティアの方も用意してくれたのは桂花なのだなの言葉から取れるが、アシュレイに何も言わない。二人が自分のために気を使ってくれていることがありありと伝わってくる。
「で、アシュレイ。今日は一日ここにいてくれるの?」
 霊力でカップをテーブルに戻し、そのままアシュレイを寝台へ引きずり込み、ぎゅうぅぅぅっとアシュレイの感触を全身で感じ取るように抱き締める。
 アシュレイも抵抗することなくティアにされるがままになっているが、無情な一言がティアの耳に届く。  
「悪ぃな、直ぐに戻んねぇと。黙って来ちまったからな」
 部下を放り出してきちまったし、今回はお前の顔だけ見に来ただけだ と、苦笑いを浮かべるアシュレイにティアは、離すつもりはありませんとばかりに更に力を込めて抱きつく。
「な、あんまし無理すんなよ。お前…守護主天は1人しかいねぇんだし、代わりは誰もできねぇんだから」
 ティアの髪を優しく撫でるアシュレイにうっとりするが、抱き締める腕の力は緩むことはなかった。
「ほら、お終いだって」
 ポンポンッとティアの肩を叩き無理やり引き剥がすと、アシュレイはいつもの如く窓から出て行ってしまった。

「ありがとう、君のお陰で嬉しかった」
「そうですか? それは良かったですね」
「それにしても、あの甘い飲み物はなんだったの? 桂花」
「ホットチョコですよ、セミスイートチョコ」
 ニヤッと笑う桂花に、ティアは一瞬考えを廻らし今日が何の日か思い出す。
「本当にありがとう、きっとアシュレイは気付かなかったと思うよ。──柢王にも用意したの?」
「もちろん、特別なものをね」
 今日の書類はこれです と、机につっと山積みの書類を渡し、午後の会議前に片づけるべくサラサラとティアはサインをし始めた。


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