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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.261 (2009/07/26 22:36) title:Je t‘aime,moi non plus──The addition of Colors──
Name:しおみ (l198059.ppp.asahi-net.or.jp)

 奇妙なお食事会がお開きになったのは一時間後。終始一貫でたらめ盾に新婚ごっこを続けたオーナーはだいぶ機嫌が直ったが、
赤毛機長はげっそりしていた。
「いいか、ティア、俺は明日待機だからなっ、家までは送るけどそれ以上は知らないからなっ!!」
 本当はもう家にかけ戻って布団にもぐりこみ、今日のことは蜃気楼かオーロラだったと自己暗示かけたいアシュレイが叫ぶのに、
ティアも渋々頷いて、
「わかってるったら。でも、柢王、ほんとに大丈夫? なんだったら酔いが醒めた頃にうちから迎えを寄越そうか?」
 ティアが浮かれている間、低気圧に老酒あおっていた柢王は、すぐにタクシーに乗ったら吐きそう、というレベル。いつもなら
酔っ払うことはあっても賑やかな柢王の酩酊ぶりに、さすがにティアも心配になって尋ねたが、本人は苦笑して、
「へーきへーき。この辺なら休むとこあるしさ。だから心配しなくていいからな」
 その傍らに立つ桂花もうなずいて、
「おふたりとも明日は仕事でしょう。心配はいりませんから気をつけて帰ってください」
 揃ってのその言葉に、ティアも頷くしかなかったが、
「じゃ、桂花、なにかあったら遠慮しないでいつでも電話してね」
 念を押すと、アシュレイとふたり、タクシーに乗りこんだ。

「──大丈夫ですか、柢王?」
 親友たちが消えた瞬間、げっそりした顔で膝の間で頭を抱えた男に、桂花が尋ねる。その男はその姿勢のままくぐもったような声で低く、
「大丈夫じゃない──つか、まじで気持ち悪い」
「あんなにハイペースで飲むからですよ。どこかで吐いてきますか?」
 桂花は尋ねたが、柢王は首を振り、
「いや、平気──つか、ぐらぐらする。なんか船酔いみたいな感じ」
「単に酩酊状態なだけです。冷たい飲み物でも買ってきてあげますから、ここにいてください」
 桂花は冷静に言うと、立ち去ろうとした。と、柢王がその手首をぐっと掴んで、
「だめ。どこにも行くな」
 駄々っ子みたいに唇を尖らせる。桂花があきれた顔でその顔を見返して、
「子供みたいなことを言っても、この場合はかわいくありませんね。朝までこのままでいるつもりなの?」
 柢王はそれにいーやーと首を振って、
「うわ、ぐらっとくるぐらっと」
 回る酔いにふらふらしながらも、桂花の手は掴んだままで、
「うちに帰る。そんで、話の続きをする」
「──まだ忘れてないですか」
 言った桂花の手首を掴んだ手にぎゅっと力を入れて、
「って、忘れられない光景だろ? 長旅から帰ってきたらさ、目の前で恋人が親友と手つないでさぁ──それ追求しなくて
なにするんだ?」
 再びグレイの瞳して鋭く──据わった目では最大限に鋭く、だが──見上げた柢王に、桂花は、
「手をつなぐのと腕を掴まれるのはまったく違いますよ」
「えーっ──んじゃさ、俺のことだけ愛してるって言って、ここで」
 とまだ瞳据わった男はわがままを垂れる。どこまでがわがままで、どこまでが本気か──測れない鋭さが宿るその顔に、
「愛してる、ですか──?」
「そ。俺のこと、愛してんだろ?」
「……さあ、どうですか──」
 答えた機長に、柢王が、はあっ?と目を見張る。勢い込んで立ち上がりかけるその顔の前に、ふいに、クールな機長が身をかがめると、ささやくように、
「吾からも聞きますけど、あなたが家に帰ってしたいことは、本当に、そんなつまらないことですか──?」
 耳朶に吹きかけるようなその声に、柢王が目を見開く。ごく間近にある恋人のものすごくものすごく美人な顔を見つめること三秒、
「いやっ、もっと大事なことあるよなっ、つか、かなり大事なこととか大事なこととかさっ!」
 いきなり瞳きらきらさせてしゃきっと正気に戻った男に、クールな機長は、
「それなら、帰りますよ」
 差し出された手に、
「うん帰ろう! つか、いますぐ帰ろうっ!」
 さっとつかまって立ち上がる柢王の姿はほとんどちぎれんばかりに尾を振りはしゃぐ犬のよう。さっきまでの酔いも
青い炎もすっかり忘れ、恋人と手をつないだまま意気揚々とタクシーを止めると自宅に直行便。
ある意味、ものすごく幸せな人たちだ。
 
 と、そんなカップルのそんなカップル振りを知らないタクシーのなかでは、
「桂花、大丈夫かなぁ。やっぱりうちから誰か迎えに寄越そうかなぁ」
 後部座席でティアが心配そうにきれいな顔をしかめていた。柢王が飲みすぎた理由はわかっているし、本人はパイロットで
限度がわかっているにしても、別れた場所は繁華街だし、
「桂花を残しておくのも心配だしなぁ……」
 悪い男が来ても桂花は相手にしないだろうが、でも気がかりだ。思わず、後ろを振り返ったティアに、
「あいつなら心配いらない」
 アシュレイのきっぱりした声が言った。えっ、と尋ねたティアに、真っ直ぐな瞳を向けて、
「あいつなら何とかする。それにどうでもダメなら電話してくるだろ、俺たちがいるんだから」
 はっきりと言い切ったアシュレイに、ティアは瞳を瞬かせる。
 心のなかの半分は感動している。
(君だって心配してるくせに、そんなに信用してるんだね!)
 が、残りの半分はその感動があるだけに、めらっとした焔がちらついて、
「君って、桂花のことよくわかるようになったよねぇ」
 なんだか意地の悪い声で聞いてしまうと、アシュレイはとたんに真っ赤になって、
「あいつは柢王が好きな奴だから──だからしっかりしてるに決まってるだろっ」
 そして、パイロットとしてはとっても信用している。ティアは心でつけ加え、そしてひそかにため息をつく。
(君って、本当に君、なんだよね──)
 『大きくなったら俺がおまえを乗せて飛んでやるからな!』──子供のときにアシュレイが言ってくれた言葉はいまもティアの
耳の奥に残っている。老舗会社を若造が背負うのは決して平坦な道ではなく、泣き言を言いたいこともあった。そんなときに
その言葉がどれだけ勇気と目標意識を与えてくれたか知れない。
 同じ場所にいられなくても、心はきっと側にいる。
『今度は俺が、世界一のパイロットになって、おまえを乗せて飛んでやるからな!』
 クリスタル・アイランドの砂浜で、瞳を輝かせて誇らしげにそう言ってくれたアシュレイの顔を思い出すと、アシュレイに
とっても自分は特別で大事な存在なんだと、嬉しくて、胸が熱くなる──熱くなり過ぎ、理性が焼き切れたのがいまのティアだが。
 いまも、アシュレイが桂花のことを信頼しているのを、嬉しいと思う気持ちと、自分のことだけ考えていて、と、ちょっと面白くないような気持ちと。
 どちらもあるけれど、でも、本心は、たぶん、嬉しい。そんな自分の気持ちがちょっと悔しくて、
「ね、泊まってって」
 ねだるようにそう尋ねると、アシュレイは、
「明日仕事だって言っただろうっ」
「うん、だから、間に合う時間に君の家まで送らせるから。だって君とゆっくり話す機会はあんまりないし、最近は私も君の便に思うように乗れてないし」
 月に一度が「しか」なのか「も」なのかは本人規準だ。
「私たちは柢王たちと違って、同じ家に帰るわけじゃないんだもん。もっと君と過ごしたいよ」
 文の前半はカップルじゃないから当然に違いないが、恋は盲目のオーナーは自分の発言でも前半は無視して後半に力を込めて訴えた。
 と、赤毛機長はちょっと驚いたような顔をしたが、
「お、俺だって、おまえと会いたいと思ってるぞ」
 今度こそ、照れたように窓の外に目を向ける。瞳がちょっとうろうろして、基本、ふだんのティアは大好きなアシュレイにとっては照れはするが本心だろう。
 が、その言葉にさくっ、と理性跳ね飛ばしたオーナーは瞳輝かせて、
「ほんとっ? じゃ泊まってくれる?」
「えっ、でも、あの──」
「私のこと考えてくれてるなら泊まってってくれるよねっ?」
「そ、それはっ…だけど、もしフライトになったら……」
「そんなに夜更かしなんてしないよ。それにまだ時間は遅くないし」
 宵の口と言ってもいいはずだ。
 アシュレイがその言葉にうーんと考えこむ。ちらと腕時計を見たところを見ると、万が一フライトだった時の体調管理が
万全かどうか測っているらしい。
(あとひと押し!)
 ティアはにわかに活気づく。アシュレイが泊まってくれるなんて久しぶりだ。かわいい寝顔を堪能しながらちょっといたずら
なんてしちゃおうかなぁぁぁ、など妄想が勝手に膨らんで、つい力んでもう一歩、
「ね、私のこと、愛してるなら泊まって」
 うっとりするような笑顔で誘ったところ、赤毛機長は首筋まで赤くなり──そしてわなわな震え出した。照れてるのかなぁと、
オーナーはときめいたが、ついに堪忍袋切れたアシュレイは握り拳固めると大声で、
「愛してるわけあるかーーーーっ!! 運ちゃん、このまま俺の家に直行だーーーーーっ!!」
「ええええええーーーーーーーっっっ!!!」
 
 
 後日──
 一面の窓から離発着の機体を望める天界航空本社ビルの最上階では、
「そうか。そうだよねぇ、やっぱり、アシュレイにだって心の準備が必要だもんねぇ──」
『そーそー、やっぱおまえ、押して押してちょっとは引くぐらいじゃないとだめだって』
 キレた赤毛機長に自宅に逃げられ、ひとり寂しく夜を過ごしたオーナーは、電話でステイ先の親友に恋愛相談。
 こちらは違って恋人とステキな夜を過ごした親友は嫉妬のこととか自分は過去押せ押せ押せしかなかったこととか、そんな
ことはすべて忘れた上機嫌な無責任さでうんうんうなずき、
『ってことで、ま、回こなせばなんとかなるって。俺、そろそろ出るから切るわ。ま、がんばれよ』
「うん、ありがとう、柢王。また相談するねっ」
 と、こういうときには当てにしてはならない親友の助言に礼を言ったオーナーは、よしと机を向き直る。
 そこにあるのは青い海と空が白い砂浜の向こうに無限に広がるクリスタル・アイランドのリゾート写真。じっとそれを見つめ、
「そっか。タイミングと押しだよね。うん、負けないでがんばろうっ!!」
 きらびやかな笑顔でうなずくオーナーが、そのパンフの下にあるクリスタル王室からの手紙を見るにはまだ時間がかかりそう。
「そうだ、明日のフライトに間に合うように、アシュレイに差し入れ買ってこよう!」
 と、足取りも軽く売店に急ぐオーナーの気持ちを赤毛機長が本当に知るのはいつのことになるのか──。
 ともあれ、ある意味では、ものすごく平和な人たちの物語だ──。


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