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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.257 (2009/06/22 15:29) title:速やかに癒される想い
Name: (fl1-118-109-173-217.kng.mesh.ad.jp)

 コポ・・コポ・・・・。
 口からこぼれていく小さな球体が、踊りながら水面に向かってのぼっていく。
 学校の屋内プールには空がない。
 歪みの向こうを水底から見ていた氷暉は、ゆっくり視界を閉じた。
 こうしていればまた、どこかのそそっかしい奴が、溺れていると勘違いして自分に向かって飛び込んでくる・・そんな気がして。

 騒がしいのはきらいだ。めんどうな人付き合いもごめんだ。
 すべてのノイズをシャットアウトして一人きり―――・・・・そんな孤立した世界に突如現れた赤い髪。
 初夏の屋外プールで、ろくに話もしない間に彼に惹かれ、珍しく自ら行動をおこしていた。
あれから、なかなか合わない時間を調整しながら、プールで待ち合わせをして特訓した。
 練習回数が少ないわりに、アシュレイは上達が早く、秋には完全に犬かきは姿を消し、誰もが認めるみごとなクロールをマスターしていた。
 しかしこのまま手放すつもりなどなかった氷暉は、背泳ぎや平泳ぎも教えてやると言いだし、今につづいている。
 そんな風に、充実した日々を送っていた彼の耳に先日、非常に不快なニュースがとびこんできた。
 以来、氷暉の胸に黒い染みがにじんで消えない。          
 水面をパシャパシャたたかれ水中から顔を出すと、氷暉の胸に『黒い染み』をつくった張本人が立っていた。
「氷暉・・・って、あなたですか」
「そうだ」
「アシュレイがいつもお世話になってます―――けど、もう結構ですよ。じゅうぶん泳げるようになったし、これからは私が教えますので」
「・・・・」
「今日はもう、先に帰しましたから。彼を待っていても時間のムダになってしまうと思い、私が代わりに」
 挑発的な瞳。
 整った顔というのは、表情を固めると、こうも冷たい印象を与えるものなのか。
「アイツがそれでいいなら異論はない」
 あのアシュレイが、一度はじめたことを中途半端にできるタイプではないということぐらい察しがつく。だからこそ、氷暉は顔色もかえずに頷いた。
「そうですか。話の分かる人で良かった。既にご存知かと思いますが『彼は私の恋人』なので」
 強調された、譲れない言葉につい反応して、氷暉の瞳が細くなる。
「――――あんたの、教室でのパフォーマンスには、アイツもかなり怒っていた。恋人?・・・笑わせる」
「笑われても。本当のことですから」
 勝利の旗を背後に掲げ見下ろすティアランディアに、怯みもせず余裕の態度で応える氷暉。
「笑うさ。俺の時みたいに、“ あいつの方から ”してきたっていうなら分かるけどな」
「!?」
「ウソだと思うならコイビトに訊いたらどうだ?」
 口角をあげた氷暉を、殺すいきおいで睨み、踵をかえすとティアは姿を消した。
 ほんの少しだけ溜飲が下がった氷暉はそのまま水をかきわけて泳ぎだす。

 俺もいい加減、おとな気ない――――。でも、これでいい、宣戦布告だ。

「氷暉」
 呼ばれた気がして止まると、赤い髪がこちらを見ていた。
 胸がざわつくのを感じながら、彼のいるプールサイドへと向かう。
「どうした、帰ったんじゃなかったのか」
「氷暉ごめん。オレ泳ぐのやめる」
「・・・・」
「でも、ちょっとの間だけだ。まだ平泳ぎ完璧にマスターしてないし」
「・・・そうか」
 ザバッと水から上がり、渡されたタオルを手にとると、頭を拭きながら赤い髪に手を伸ばす。
「――――伸びたな」
「だろ?めんどくせーけど約束だからな」
 ニッと笑うその白い歯に引き寄せられて顔を近づけたが、我にかえりとどまる。
 ここでティアランディアと同じことをしても警戒されるだけだ。自分はあの男ほど信頼があついわけじゃない。
「なんだよ」
 赤い髪に手を差しこんだまま動かない氷暉に、怪訝な顔をするアシュレイ。
「いや。それじゃあ俺も帰るとするか」
「わりぃな」
「気にするな」
 クシャと柔らかな髪を軽くつかんで離した氷暉は、シャワー室に歩いていきながら、優しい声色でささやく。
「ひとりで悩んで結論を急ぐな。お前にはオレがついてる」
「氷暉・・・」
「泳ぎたくなったら言え、待ってる・・・・あぁ、そういえば、さっきお前の恋人だと言いはる男がきたぞ」
「ティアが?!なんでっ、あいつお前になんか言ったのかっ」
 何となく察しがついているのだろう、顔が赤い。
「フン。お前に近づくな、ってことだろ」
「あのヤロ〜・・・変なカン違いしやがって。悪かったな氷暉、気にしないでくれ」
「・・・・・あのこと奴に言ったからな」
「あのこと?」
「お前が俺に施した人工呼吸モドキ」
「え゛」
「そういう訳だから、しばらくは奴に近づくなよ。ムリヤリ喰われるぞ」
 自分でライバルを扇動しておきながら、アシュレイには「気をつけろ」と言う。
 その矛盾した行為に苦笑しながら、トンと細い背中を押して、シャワー室から彼を追いだしドアを閉める。
「べ、別にティアに知られても、どうってことないからな!おれは人命救助しただけだっ」
「あれがか。ただ唇をぶつけてきただけだろう、人工呼吸というよりは、むしろ不慣れなキ・・――」

ドンッ!!

 ドアを蹴り上げる音と同時に怒号が響き、思ったとおりの展開に氷暉はわらう。
 鏡に映った顔。
 アシュレイといるだけで機嫌がいい自分、というのも滑稽だったが、かまわない。やっと自分を変えてくれる相手に出会えたのだ。なりふりかまってなどいられない。

「覚悟しろよ・・・・アシュレイ」

静かになったドアの向こうを振りかえり、氷暉は一人つぶやいた。


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