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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.251 (2009/03/17 03:32) title:桜模様
Name: (114-44-102-161.dynamic.hinet.net)

桜模様

天気が暖かくなってきて、花粉も飛んでる。
中央区にある貿易会社の「ブラック&ハーツ」でも、
春が、やってきた気分が。

「ハ、ハ、ハクシュン!」
花粉症に苦しめられて続けて、ノードパソコンに向けてる江端は耐えなくてくしゃみを出した。
夏はまだ早いのに、昼の日差しは窓から差し込んで、全室でなんとなく暑そうな雰囲気が漂っている。
「あっちー。こんなとこなんてやめろっつうのかよ!」
健は気だるくてソファーに足を投げ出して目をつぶったままで小言が漏らした。もともと、暑さが苦手だよ。
こんな文句なんてもう慣れたし、江端は聴いても聴こえないふりに仕事を続いてる。どのぐらい時間を過ごしたんだろうか。微かにエアコンの運転の音とキーボード打ちの音しか聴こえなくなった。
「取引先の社長さんのとこへ行くじゃねーか?さっさと準備しねーとな、健。」
と言ったら、ソファーに転んでる人影から返事が来なかった。
もう一度呼んでみても同じで、仕方なく江端は立ち上がって、ソファーへ近づいていくと、少しだけの穏やかな寝息が耳にした。
そんなに暑いじゃねーか、と思いながら、
ネクタイ崩して、シャツのボタンは一つしか繋いでない健を見つめる。
ドッキン!とあの瞬間の心臓の動きが鼓膜まで裂きそうに響いてた。シャツの裾から見えるその細い腰のボディラインが陽光を反射するように色っぽくて妖艶な光が輝いてる。喉が急に渇くなった。健を起こすことも覚えずに逃げるように早く自分のデスクに戻ろうと思ってる江端の手首が、きゅっとつかまれた。
「………行くな…」
起きたのか、と思ってもっと近く見たら、目を閉じたままだ。
「…おまえのこと……ひとり…じめしてぇ、よ。」
寝言か、慎吾と間違えたかな。その手を取りしようと、
えばた…とため息みたいな声が聞く気がする。
自分は聴き間違えたかもしれない。それでもその寝息を邪魔しないように手をつかまれたままで床に腰をおろした。眠りは浅い彼だから、こんな程度の動きで、普段なら、起こされるけど、今はまだ眠りの中で。
昨夜、徹夜で飲んだのか、女を抱いたのか、一夜中遊んでたんだろう。
まだ仕事がある日でも朝帰りして、会社で思い切り寝ちゃったこの専務に、
社長として言うまでもなく責めるはずだけど、アイツは「向井健」だけで何をしても許される男だ。なんとなく許すことになった。
日差しをかざすように額に当たってる手の下で隠してる顔を、江端は溺愛に見て目を細まった。
目を閉じると、厳しい瞳の印象が消えて、意外と可愛くなるこの寝顔は、もう何年ぶりだろうか。
この腕に初めてこの仕草で倒れこんだのは、今と同じ桜が咲く頃だと、江端は思い出した。

あの時が遠くて、そして近くて。桜の花を見てなくて、そのかわりに雨が降ってきた。雨は二人を。いや、この寝顔かもしれない。
この歳まで生きれるのを思ってなかった。こんなふうに会社を興して、一緒に働くことなんて、夢でも考えたことがなかった。
ダークな日々が堕落すぎて、明日のことを想像だけでバカらしい。
それでも目を覚めれば、この寝顔がそばにいた六畳の狭い部屋がなんとなく懐かしくなる。
あの時は自分が出ればいいんだよ。と何度も自分に問いかけて悔しくて後悔した。助けることもできない自分を恨んでた。
しかし、自分が出て、健はそのままに就職に行かせるなら、自分達はあれからはぐれるのか?
時にはこんなにわがままな考えが頭に浮かんだこともある。
甘すぎた過ちを、一生で償うなら足りるのか?

悠遠な意識に沈んでる時、突然に鼻の何の不快感で現実へ引っ張られちゃって、くしゃみが出そうな予感が迫り来る。
「ハ…ハ…ン!」
せっかく声を我慢してたけど、手を繋いでるから体の動きが健を揺らせた。閉じたまぶたはそっと震えて、目覚める寸前でこの静かを切り裂いた歌がどこから流した。

『♪さくら さくら さくら 夢模様  はてしなき空はまぶしくて♪』

合図のようにこの音で健は目を覚ました。つかまれてる手を離され、その長い指は江端の後ろに伸ばして、テーブルに置いた携帯を取って、歌も止めた。
「はい、メールを拝読しました。いいえ、こちらこそ、わかりました」
着信メロか、なんで健はそんな歌を使ってるんだろう。奴と違和感があるが、今の季節とぴったりだな。と思いながら、会話を終わった健にそう言った。
「遅刻だろうか。取引先を待たせるじゃ失礼だな」
「もう待ち合わせの時間を変更したぜ。間に合うかな。」まだ眠そうに寝ぼけな顔で健は腕時計に視線を落とした。
「そんな着信メロを使ってんか。おめぇらしくねー。なんの歌か?」
「しらんねーよ。ロックが好きな知り合いから送った。外で着信音がいつもかぶって聞きにくいから変えてぇが、ダウンロードなんか面倒くせぇだ。送ったら使う。そんだけ。どっかのロックバンドかな。詳しくねーぜ。」
言いながら、振り向いた健は眉をあげて、床を座ってる江端を見る。
「っていうか、なんでてめぇはそんなとこに座ってんだよ?」
「人の手をつかんだのはおまえだ。」
誰か掴むかって怒鳴り返すかと予想を裏切って、その口角がそっとあげて、微笑をもらした。
挑発でも、ハンターの鋭さでもない、それは心から咲いた笑みだ。目を細まったその笑顔はまるで春に咲いた桜のように、その薄い唇がまぶしすぎる。
「俺、夢をみたぜ。」
「どんなの。」
「まーな。」
笑って続けてる健はその後を何も言ってなかった。
ただ、高校時代だぜ、とそっと呟いた。
江端も思わずに笑った。
「俺も出掛けだ。さっさと行け」
健はボタンを繋いだシャツにスーツの上着を着いて、口にくわえた煙草を火をついた。

タバコをくわえる健と一緒にビルを出たとたん、強い風が容赦なくて吹いてきた。目を開けれないほど風を、健は思わずに手を上げて顔の前に当たってた。風に巻き込まれた桜の花びらはその手のひらに残された。
「綺麗だな。でも儚いんだ。」
自分の手のひらを見つめて、そのハート形のものに健はそっと呟いたと、
江端は大量の花粉で立派なくしゃみが出ちゃった。
「ハクション!」
「わりぃ、何を言ったんだ?」
「いいや、別に」
ゴミ箱で煙草を消して、健はバイクを乗った。ヘルメットをかぶって、エンジンを発動してる後ろ影は急に振り向いて、こっちへ何を投げてきた。
「使え!後で洗って返せばいい。」
捕えたのは、ヒョウ柄のマスクだった。
使えるかよ、と言おうと顔を上げて、その後ろ影はもう、風に乱れてる桜とともに道の果てへ消えてしまう。
時の流れに花開き、そして散り行く春の景色。
自分に笑ってくれるじゃなくてもいい、どうしてもその笑顔を守ってやりたい。
この気持ち、一生伝わなくてもいい、ただ、
咲いたその笑顔が、風に散らさないように消えないように見守っていい。

江端は見えなくなるまでじっとその後ろ影を見送りしてた。


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