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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.234 (2008/09/28 13:16) title:爽秋遊宴
Name:碧玉 (33.158.12.61.ap.gmo-access.jp)

「へえええーーー」 
 午前三時の『イエロー・パープル』。バイトの子たちを帰し、閉店の看板をさげた一樹はお気に入りのウィスキーを手に大仰に相槌を打つ桔梗の隣に滑り込んだ。
店に残ったのは知己のみ。
 その中には柢王、アシュレイの顔もあった。ここ数年『イエロー・パープル』に訪れる彼等は、今や客でなく友として迎え入れられている。
「なんの話し?」
「柢王のとこの(故郷)歌合戦」
「歌合戦? そりゃ、またレトロな」
「国ごとで競うんだ」
「国?」
「あ、地区な」
 アシュレイの返答に、柢王がやんわり訂正を入れる。
「地区?・・・自治会ってこと?」
「ジジ?」
 桔梗の疑問に、柢王とアシュレイも疑問で返す。
 二つの疑問をしっかり掴んでいる忍は隣の二葉にグラスを預け、コースターの裏に『自治』の文字を書いて見せた。
「ああ。それそれ」
 頷く柢王の横でアシュレイは
「ヒートするのはジジ(爺)どもだ!!」
 と憎々しげに吐き捨てた。
「爺どもっ!! そりゃ言えてるっ!! ウワッハッハ!! 」
 笑い崩れる柢王を尻目に、アシュレイは一気にグラスを開ける。中身は度数の高いウォッカ。外見とは裏腹にアシュレイは大男でもむせる強い酒が好みなのだ。
 その見事な飲みっぷりに感心しつつ、忍が「ジジ(爺)」のニュアンスを問うと
「俺のオヤジもコイツのオヤジも昔から長でさ。 その自治会ってのに当てはめりゃ、さしずめ会長ってヤツだな」
 今だ笑いを引きずった柢王がケラケラと答えた。
「わかる、わかる。 俺ンとこも、ずぅぅーーーーっと同じオジサンが会長やってるもん」
 桔梗は大きく頷き、空になったアシュレイのグラスにキンキンに冷えたウォッカを注ぐぎニッコリ笑い「そう言えば、ここんとこカラオケ行ってないね」と続けた。
「カラオケっておまえ、いくつだよ」
「年なんていいだろっ!カラオケは国民的道楽なんだからっ」
 呆れたような二葉に桔梗はフンと返し
「ねぇぇぇ、一樹ぃ〜」
 打って変わった猫なで声で兄の方へと誘いをかける。
「ふふふ俺はいつでも付き合うよ。 時間がとれないのは桔梗、おまえの方じゃないの?」
 一樹の言葉に即、携帯を開いた桔梗は
「―――うっ、うっええええええ〜〜〜んっ」
 真黒に埋まったスケジュール画面をそのままに、ドカンとテーブルに泣き伏した。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 沈黙の数十秒。
桔梗十八番の嘘泣きパフォーマンスとわかっていても、動いてしまうのは忍。
「・・・わかった・・・なんとか調整してみるよ」
 咄嗟に忍の両目をふさいだ二葉の防御の甲斐もなく、ため息まじりに呟いた。
 予想通りの展開にすぐさま泣き顔を引っ込めた桔梗は身を乗り出して忍に抱きついた。
「公私混同はやめたんじゃねーのかよ!!」
 と呟く二葉の言葉はもはや敗者でしかない。
「二葉も行きたいんでしょう♪ カ・ラ・オ・ケ。 仕方ないなぁ〜仲間に入れてあげよっかぁ!?」
「結構だっ!! 俺は毎晩、子守唄変わりにバラード歌ってっから。 愛する恋人の為にな」
「フン、寝ぼけた忍にしか歌えないくせにっ」
「ヘン、唄ってもらえないくせにっ」
「――うっ・・・・たっ、たっ、たくやぁぁぁぁー」
 又しても泣き伏す桔梗。
 だが今度の涙は本物。 
 本物だけれど不純物。 
 悔し涙だ。
「忍も調整してくれるっていうし、歌合戦もどきカラオケ大会でもしようか。久しぶりにおまえの歌も聞きたいし」
 名指しされた卓也に桔梗を宥める気などあるはずもなく、やれやれと一樹が収拾にかかる。
「ならアイツも誘え」
 援護のつもりだろう。ダンマリの卓也がボソリと告げる。
 伏した顔を上げかけた桔梗に、間髪いれず「鷲尾さんだよ」と一樹がアイツの正体を明かす。
 すると案の定、桔梗はピョンと飛び上がり 
「鷲尾さんって、あの絹一さんの!!!」
 期待百パーセントの視線で問いかける。常連客である絹一も鷲尾も桔梗は大好きなのだ。
「うわぁぁぁ、頑張らなくっちゃ」
 泣いたカラスがナントヤラ。
 過度な興奮に座ってなどいられず、とうとう桔梗は立ち上がってしまった。
 そんな桔梗に皆の笑みがこぼれる。
 酒宴はこれから。
 秋の夜はまだまだ続く。
 笑いが渦巻く中、卓也だけは『まずは耳栓』と今後の対策を仏頂面で練りながらピッチをあげグラスを傾けた。


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