[戻る]

投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

ここは、みなさんからの投稿小説を紹介するページです。
以前の投稿(妄想)小説のログはこちらから。
感想は、投稿小説ページ専用の掲示板へお願いします。

名前:

小説タイトル:

小説:

  名前をブラウザに記憶させる
※ 名前と小説は必須です。文章は全角5000文字まで。適度に改行をいれながら投稿してください。HTMLタグは使えません。


総小説数:1010件  [新規書込]
[全小説] [最新5小説] No.〜No.

[←No.228〜232] [No.233〜233] [No.234〜238→]

No.233 (2008/09/05 14:42) title:子猫の子守唄
Name:薫夜 (51.143.138.210.bf.2iij.net)

「本気なら疲れない、疲れてもさわやかだそうですよ」
鷲尾の家のソファーに座った絹一が、有名な書家の言葉を引用するのに、エプロン姿で立つ鷲尾はちょっと眉をあげた。
「それで?」
「…」
説得に失敗したと絹一は顔に書いて、他の言い訳を考えているようだ。
「だからと言って、食事をしなくても大丈夫だなんて、言ってないよな?」
夏の間、何度か繰り返された攻防。残業続きで夏バテをして食欲のない絹一と、ちゃんとした食事をさせようとする鷲尾。
今日もギルバート命令で早く帰らされた絹一に、夕食は何が食べたいかと聞いたのだが。
「…サラダそうめん」
「却下」
「な、なんでですか?」
「昨日と同じだからだ。食欲がないんだな?何か、胃に優しい物を作ってやる」
キッチンへ向かう鷲尾の耳に「鷲尾さんが食べたい物を聞いたのにね」と、小さな声が聞こえた。
振り返ると、絹一が隣に寝ていたミルクのやわらかい体に、頬を寄せながら、愚痴を聞かせている。ミルクのふわふわした尻尾が絹一の頭を撫でて、まるで慰めているようで、鷲尾の表情が思わずやわらいだ。
苦笑して、食欲がなくても食べられるメニューを考える。
ふと、「娘が夏バテで食べないの」と、言っていた人を思い出した。「けれど、水炊きだけは食べるのよ。つわりがひどい時に、水炊きなら私も食べられたからかしら」と。親子の不思議だと思ったものである。
レベッカは何を食べていたのだろうか?と考えたところで、想像できないなと、鷲尾は苦笑の色を濃くして、頭を振った。

料理は盛り付けをするだけとなったが、絹一が静かだと鷲尾は思った。先程まで、猫達を寝室に連れて行ったり、食器を出したり、料理をする鷲尾に話しかけたりしていたのに。
もしやと思いながらリビングに行くと、絹一はソファーの上ですやすやと寝息を立てていた。
疲れているのだろう、鷲尾が近づいても目を覚まさなかった。横を向いて眠る絹一の顔にかかった髪をよけ、また細くなったなと顎を優しくなぞる。その鷲尾の手に、絹一は夢うつつに顔をすりよせてきた。
この大きな猫を起こして食事をさせようか、ベッドまで運ぼうか。
際限なく、甘やかしたくなる自分に鷲尾は声を立てずに笑った。


[←No.228〜232] [No.233〜233] [No.234〜238→]

小説削除:No.  管理パスワード:

Powered by T-Note Ver.3.21