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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.225 (2008/06/12 00:12) title:担当編集者殿の憂鬱
Name:えり (wknfb-05p1-122.ppp11.odn.ad.jp)

 日曜日の午後。せっかく晴れなんだしどっか行こうぜ〜とだだをこねる夫にはかまわず、桂花は黙々と書類の整理をしていた。
 もうすぐお中元の時期。
 新婚夫婦には初めてのお中元、桂花の事前準備のおかげで慌てるほどのことはなかったが、礼を失することがないよう慎重に確認はしておかねば。
 住所の書かれたお中元の送り先リストを手に、桂花は柢王を振り返った。
「冥界教主さんって、あなたが担当している作家さんですよね。『配送』に○が付いてますけど、いいんですか?」
「ああ……いや、いいんだ」
 そうですか、と答えながらも桂花は何となく釈然としない。
 叔父夫妻には二人揃って手渡しで届けることになるだろうから、そのときに先方の都合次第では挨拶がてら直接届けることも出来るのに。
 だが、まあいい。柢王にも都合があるのだろう。
 とりあえずリストは整理できたし、あとは品物の手配だけだ。早期割引の適用されるうちに行ってこなくては。
「それじゃ、吾は来週にでもデパートへ行ってきますね」
「んだよ、一人で行く気か?」
 告げると、柢王は不満げにダイニングテーブルで住所録を整理していた桂花を後ろから抱きしめてくる。
「せっかくなんだから、ついでに二人でゆっくりデートしようぜ」
「……今月はもう無駄遣いできませんからね」
 一緒に出かけると『似合うから』と桂花の物をあれこれ買いたがる夫にクギを刺しつつ、甘えるように力を抜いてもたれ掛かる。柢王の指が優しく髪に絡むのを感じながら、桂花はその心地よさに目を閉じた。

「それでさ、お隣の奥さんってうちの母さんと女学校時代の同級生なんだけど綺麗な人なんだよな〜」
 まあ母さんも相当美人だけどな! と照れたように笑うアシュレイ。
 翌日、ご近所さんから頂いたお菓子をおすそわけするため、桂花は磯○家を訪れていた。
 アシュレイの母・ネフィーは確かに美人だが、そのネフィーを見慣れているアシュレイが褒めるのだから綺麗な人なのだろう。だからどうということでもない。それなのにどこか心の中で引っかかったのは……。
「……確か、お隣さんは柢王の担当する……」
「そう、冥界教主さんち。あいつ、しょっちゅう原稿が上がらないからってうちで昼寝していくんだよな。ったく、だらしねえ!」
 桂花のお裾分けしたどら焼きにかじりつきながらアシュレイがぼやく。
「……そんなに綺麗な方なんですか?」
「ああ、李々さん? お前は会ったことなかったっけ?」
 綺麗だし強いしすごい人だぞ〜と笑うアシュレイの言葉の後半は意味がよくわからないが、ますます引っかかる。
 そんなわけがないとはわかってはいても。
(柢王が渋っていたのはもしかしてその人と関係があるのかも、だなんて)
 邪推だとはわかっていても、どうしてもその李々さんとやらに会ってみたいという気持ちが抑えられなくなっていた。

(吾は一体何をやっているんだろう)
 我ながら馬鹿らしい。
 そうは思いながらも足が止まらなかった。
 磯○家を辞したあと、桂花は一人公園にいた。それとなくアシュレイに聞いてみたところ、李々さんは買い物帰りのネフィーさんと公園近くで立ち話をすることがあるらしい。
 今日会えるかどうかはわからない。でも、ひと目顔を見れば気が済む。多分。
 植え込みと木々に身を隠すように公園内を伺っていると、
「桂花さん、そんなとこで何やってるんですか?」
 呆れ気味に声を掛けてきたのは、小脇にテニスラケットを抱えた美少女高校生・水城。冥界教主さんご自慢の一人娘だ。
「……ちょっとね」
 一瞬言葉につまった桂花だが、すぐに冷静さを取り戻す。
 彼女とは磯○家を訪れた際に近所で何度か遭遇しており、既知の間柄。
 犬の散歩中の兄・氷暉にも会ったことがあるのだが、冥界教主さんご夫妻にはまだお目にかかったことがない。
 ふーんと不思議そうに答えた水城だが、砂場の辺りを氷暉とお隣のアシュレイさんが仲良く歩いているのを見つけて唇を引き結ぶ。
「兄さん、またアシュレイさんと……!」
 どうやら浪人生の氷暉は気分転換に犬の散歩に出てきたらしい。そこに買い物途中のアシュレイが遭遇し、一緒にやってきたというところか。
 アシュレイにはお互いベタ惚れの夫・ティアがいるのだから氷暉との間に問題など起ころうはずもないのだが、超ブラコンの水城には耐え難いらしい。桂花の目から見てもアシュレイと氷暉は気が合うらしく仲が良さそうだと見えるのだから、嫉妬するのも仕方のないことかもしれないが。
(……そうか)
 人の振り見て我が振り直せ、ということか。
 いくら柢王が女好きでも、まさか担当作家の奥さんに熱を上げるなんて事はあるはずもないし、何より桂花には彼に心底惚れられているという自負がある。
 ただの邪推で最愛の夫を疑うなんて、我ながらどうかしている。
 自嘲気味に薄く笑った桂花にかまわず水城が大声を上げる。
「あっ、母さん、ちょうどいいところに! 兄さんがまた勉強せずにアシュレイさんと遊んでるっ!」
「まあ水城。そんな大声を出して、はしたないわよ」
 困ったように涼やかに笑う声。
 桂花が顔を上げると、そこには見事な赤毛の美女が婉然と微笑んでいた。

 その夜、柢王が仕事を終えて帰ると、自宅には夕食のいい香りが充満していた。
「おかえりなさい」
「今日は魚の煮付けか〜、美味そうだな」
 ネクタイをゆるめながら鍋の蓋を開けた柢王は、漬け物を切っている桂花に近づくとつまみ食いをしようと手をのばす。と、ぺちんと手の甲をはたかれた。
「駄目です。先に手洗いとうがい」
 ぴしゃりと言いながらも、桂花は笑顔でご機嫌だ。
「なんだ? なんかいいことでもあったのか?」
 妻が笑顔でいるのは夫にも嬉しいこと。思わず柢王も笑顔で訪ねる。
「ええ。ねえ、李々さんっていい方ですね」
「会ったのか?」
「公園で偶然。ご挨拶したらぜひと誘ってくださって、お宅でお茶をごちそうになりました」
「……それだけか?」
「ああ、旦那様にもご挨拶してきましたよ。お似合いのご夫婦ですよね」
「……なんか言われなかったか?」
「別に何も?」
「あのな。あの人と二人きりはぜーったいにやめとけよ!」
 眉間に皺を寄せ、両手で桂花の肩をつかんで真面目くさった顔で柢王が言う。
 いきなりどうしたんです、なんか変ですよと訳のわからない柢王の言葉に不思議そうに訪ね返す桂花だった。一体、李々さんと二人きりになることになんの問題があると?

「そなたの嫁は噂通りの美人だな」
 優美な指先で原稿用紙をめくりながら、着流しを着崩した冥界教主は柢王に流し目をくれる。その凄絶な色気に惑わされる編集者が跡を絶たないという噂の作家だが、作家と編集者としての信頼関係を確立している柢王にはその色香も通用しない。
 そもそも、桂花に出会ったあとではどんな美女だろうが美形だろうが、自分には色あせて見えてしまうというもの。
「先生、ありゃ俺の嫁ですから」
 手出しは無用ですよ、と笑う柢王だが、目は真剣そのもの。
「ほう。原稿がいらんとみえる」
「ご冗談を。脅しても駄目です」
 からかいの色をにじませる笑みにきっぱりとクギを刺す。この程度の煽りに乗っては冥界教主を増長させてしまうだけだ。
(我慢だ、我慢……)
 彼は作家としては尊敬に値する人物なのだが、男女問わず美しい者に目がないのが玉に瑕。
 付き合いが長いだけに好みのタイプも把握している柢王が、桂花をなるべく冥界教主に会わせないよう裏であれこれ画策していた事など当の桂花は知るよしもない。
「ふん、まあよい。今月分の原稿だ、持って行け」
「ありがとうございます。…………確かに」
 丁重に原稿を受け取り、確認をすませた柢王は社に戻るため冥界教主宅を辞した。
 やっぱり、帰ったらもう一度妻に念を押さなくては。
(桂花は俺のもんだ、手ェだされてたまるかっ!)

「あなた、お茶が入りましたよ」
 柢王と入れ替わりに書斎に入ってきた李々。
 温めの玉露を机に置き、にこりと微笑む。
「あまりお若い方をいじめるものではありませんわ。それに……」
 見事な赤毛の美女は、夫をちらりと見やった。
「桂花殿は私の友人でもあります」
 この意味がおわかりよね、と微笑んだ妻に冥界教主も笑む。
 今日もこのあと李々を訪ねて桂花がやってくる予定になっている。自家製の梅酒と梅干しの作り方を教える約束をしているのだ。
「だが、妻の客人に夫の私が挨拶しないわけにもいくまい?」
「あら、お忙しいのだから無理はなさらないで」
 お互い満面の笑みを浮かべる夫婦。
 しかしその笑顔とは対照的に、二人の間には目に見えない火花が飛び散っている。

「……懲りない夫婦だな」
「わかっててやってるもん、ただのコミュニケーションだよ」
 開けっ放しの書斎のドアから見える光景に呆れ気味の兄妹。
「ねえ、父さんたちのことは放っておいておやつ食べようよ。兄さんのためにシフォンケーキ焼いたんだ」
 腕に抱きついて笑顔で見上げてくる妹に優しい目を向け、氷暉は水城を促しリビングに向かった。犬の散歩も、お隣のアシュレイさんにちょっかいを出すのも、勉強の合間の気分転換にはもってこい。しかし氷暉にとっては、妹の明るい笑顔が何よりの気分転換なのだった。


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