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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.220 (2008/06/03 20:33) title:ひまわり(下)
Name: (15.153.12.61.ap.gmo-access.jp)

 家庭訪問4日目。
 中島家の次が磯野家という順番だったため、ティアはアランと一緒に磯野家へ向かおうと玄関で靴をはいていた。
 アシュレイの家までの道のりを知っているアランは、案内してくれなくても大丈夫だよ。と断ったのだが、アシュレイに用があるから一緒に行きます!とティアは聞かなかったのだ。
(ちょうどいい。行ってしまえば、ダメだとは言われないだろう)
 ティアは週に数回、アシュレイの勉強を見ているが、ここ数週間はティアのうちでばかりやっていた。
 自分の家でやると、祖父のアウスレーゼが用もないのになにかと部屋をのぞきに来るため気が散ってしかたない。
 たまにはアシュレイのうちでやろうよ、と提案するのだが、なぜか却下され続けていたのだ。
(久しぶりのアシュレイの家だ)
 彼の部屋に入るときの喜びは、いつも新鮮で色あせない。
 ここで寝起きして宿題したりマンガ読んだり、遊んだりしてるんだ・・・そんなことを感じるだけでたまらなくなる。
(いっそあの部屋に住みつきたいくらいだっ)
 軽快に玄関を出ると、目の前に当のアシュレイが立っていた。
「アシュレイッ?」
「あれ?迎えにきてくれたのかな?」
 ティアとアランが同時に口をひらくと、アシュレイがぶっきらぼうに呟く。
「ティアは来なくていい」
「えっ!?」
 固まるティアをそのままに、アランの手を引いて歩き出してしまうアシュレイ。
「姉さんがお茶菓子用意して待ってる。うちが最後だろ?母さんがゆっくりしてってくれって言ってた」
「そう?それは嬉しいなぁ」
 今にもスキップしそうな勢いで浮かれているアランと手をつないだ状態のままスタスタ歩いて行くアシュレイ。ティアは完全に蚊帳の外だ。
「ま、待ってよ!私も行くよ、いいでしょう?昨日は勉強会できなかったし、最近アシュレイの家でやってなかったから久しぶりにお邪魔させてっ?!」
 慌てて後を追うティアを無視して、アシュレイは足を止めない。
 不穏な様子に気づいたアランが、心配そうに自分を振り返ったことで、くじけそうな心に火がついた。
(このまま置いて行かれてたまるか!)
 アシュレイがなぜ自分を拒否するのかわからず、泣きたいのを堪えて、ティアは二人の後を追った。    
 家についたアシュレイはそのまま客間にアランを通し、台所へ行く。
 ティアは遠慮がちに彼の後へつづき、隅のほうで立っていた。
「あちーな、ジュースでも飲むか」
 二人分のりんごジュースを注ぐと、氷がカランとかるい音をたて、その音を楽しむかのようにアシュレイはグラスを回す。しかし口元はヘの字にしたままだった。
 奥からアランの笑い声が聞こえてくる。
「君・・・さっきからなに怒ってるの、言ってくれなきゃわからないよ」
「なにも怒ってない」
「私が来たの、迷惑だった?」
「別に。でもいま来たって家庭訪問中なんだから姉さんに会えないだろ」
「・・え?」
 あきらかにイラついているアシュレイの怒りの原因がわからず、ティアは心底こまってしまう。
(こんなときはしつこくしない方がいいかもしれない。話しても埒があかないし、飲み終わったら帰ろう)
 なるべく急いでジュースを飲み干し、シンクにそれを置いてからアシュレイをふりかえる。
「なんか、ごめんね。やっぱり帰るから」
「・・・・・ほらみろ。お前うちの姉さんが目当てなんだろ、うちに来てもいつだって姉さんの後ばっか追ってっ」
「えぇっ!?」
 突拍子もないことを言われ驚くティアにアシュレイの口は止まらない。
「『お姉さんはいつ見てもお若くて可愛くてとても子持ちには見えません。とか、お姉さんのような人と結婚できたら幸せだろうな』とか、他にも姉さんの手伝いを買ってでたりっ!お前、俺と遊んだり勉強したりするのは姉さんに会うためだろっ、俺を利用すんな!」
 顔をゆがめたアシュレイの腕をティアがとっさにつかむ。
 ぱたぱたっと床に落ちた涙。
 ティアの中で急速にふくらんでいく期待。
 これはもしかして、嫉妬ではないだろうか。
「どうして泣くの、私のせい?」
「お、お前が俺を、利用する、からっ」
「利用なんてしてない!そんなことするわけがないっ!」
 強く否定してその腕を引きよせたティアは、抗わないアシュレイをそっと自分の胸に閉じこめた。
「私が君のお姉さんに気を使うのは、彼女が君のお姉さんだからだよ」
「・・・なんだそれ、意味わかんねぇ」
「君と仲良くしていたいから、君のご家族に嫌われないようにふるまってるってこと」
「そんなことしなくたって・・・誰もお前を嫌ったりしねーよっ」
「そうだといいけど」
 ぴん、ぴん、とあちこちでハネている柔らかなくせっ毛を手櫛で梳きながらティアは話を戻す。
「君は私の意識が、自分よりお姉さんの方へ向いていると思って、それが気に入らなかったのかな」
「俺と・・・いるんだから、姉さんの方にわざわざ行ったり、話しかけたりすんな」
 ティアの全身が熱くなってくる。
 こんなことをサラッと言って。
 聞かされたこちらがどう思うかなんて考えもしないのだ、この子は。
「ごめんね、これからは気をつけるよ。君といる時は君のことだけ考えてればいい?」
「ん・・・」
 なんという独占欲――――そう思いたいけれど、ブレーキをかける。
 これは友人としての幼い独占欲だ。まちがえちゃいけない。
「じゃあ、機嫌なおして?今日は算数から始めようか」
「わかった」
 勉強ギライのアシュレイだけど、ティアが根気よく教えてくれるから、最近は逃げたりしない。少しでもティアに応えたいという気持ちが芽生えてきたのだ。
「あ、でもセシリアが友だちンとこから帰ってくるまでな?あいつ帰ってきたら一緒に風呂入ってやらなきゃなんねーから」
「・・・・・」
 危うく鼻から赤いモノを出しそうになったティアは必死にうえを向いて堪える。
 2つ下の妹を、アシュレイは猫かわいがりしているのだ。彼女がうらやましい。
「私も一緒に入りたいなぁー・・・・・なんてウソッ、ウソだよっ!?」
 アシュレイの冷たい視線に気づき、あわてて撤回するティア。
「冗談でも笑えないぞ。セシリアは女の子なんだからなっ」
 セシリアじゃなくて君と入りたいです!――――などと、怖くて言えないティアは、1分でも遅くセシリアが帰宅することを願うしかなかった。
 ウンウン唸りながら問題を解いているアシュレイを、頬杖ついてぼんやりと見ているティア。
 さっきの甘い胸のうずきを反芻し、余韻に浸る。
 今は深い意味のない独占欲でもかまわない。でもいつかそれが特別なものになると信じたい。
(だから・・・だから君のそばにいさせてね)
 無意識に伸ばした手が赤い髪に触れると、下を向いていたアシュレイが「できた!」と顔をあげた。
 「うん・・・合ってる。すごいね、アシュレイ」
 ティアに褒められと、アシュレイは照れくさそうに笑った。
 その笑顔が、魔法のように自分を向上させてくれることを彼は知らない。
もしも、この想いが成就したら・・・・そのときは言わせて。
 
いつだって君は、私のひまわり。


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