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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.221 (2008/06/05 22:37) title:天使という宝物 1
Name:砂夜 (p4251-ipbf1407funabasi.chiba.ocn.ne.jp)

「ティア!」
夕方待ち合わせた商店街。
ティアは会社を出るとき、帰るコールのメール済み。
「ただいま。待たせちゃったね。」
「いいや。今着いたばかり。買い物しながら帰ろうぜ?」
毎日顔を合わせているくせに、また会えて嬉しい2人。
「はい。」
ティアが並んで腕を組むように差出すと、
アシュレイは照れながらもちゃんと組む。
なんだか周りが目のやりどころに困るものの、
新婚さんだからね〜、とそっと見守ってくれるのは、優しい人情町の証拠だからで。
それでも、あのおてんば娘が結婚!?
相手はどんな物好きかと思えば、予想外にやさしげで綺麗な男性。
しかも、元気で明るい笑顔に惹かれたらしいとくれば、好印象間違いなく。
今ではご近所の奥様方の、ファン倶楽部があるとか無いだとか。。
そして新婚さん2人が、つかの間のデートのごとく買出しをしていたら、
商店街のみんなが気になるのも、仕方の無い事なのだ。

ぽてっ!
先ほどから走りまわっていた、小さな男の子。
ティアの足元で転んでしまい、アシュレイが慌てて抱き起こす。
痛いか?大丈夫か?と聞けば、
目を潤ませながらも歯を食いしばって、首を横に振り大丈夫だという。
「強いぞ!さすが男の子♪」
えらいえらいと、頭を撫でれば、有難うと嬉しげに近くで見守っていた家族の所に走っていく。
その様子を見ていたティアは。
「アシュレイ。そろそろ僕達にも、新しい家族が欲しいよね。」
さっきの風景があまりにも良くて、思わず出てしまった言葉。
「え?何?」
慌てて聞くが、さすがに意味が分かるから、顔を赤くする。
傍から見れば、ラブラブモード全開あっつ熱!
「もしもね、私達にも子供が出来たら・・どんな名前にしようか?
あ。その前に男の子と女の子、どちらがいいかな?」
真っ赤になったシュレイが可愛くてたまらない。
当分2人きりでも良かったけれど。
大家族で生活することがあまりにも楽しくて、いつかは・・と思っていた。
「まままま・まだじゃん!で・でも・・」
うん。いつかは・・・と段々声を小さくして、うつむきながら答える。
「私はね。。君そっくりの可愛い子なら、どちらでも良いけれど?」
アシュレイが2人なんて夢の世界!そして思いっきり可愛がって育てたい!
「俺はティアそっくりの子が欲しいけどな?でも、元気に産まれてきてくれれば、どっちでも良いよな!」
照れながらも、自分の希望も言ってみる。

なんだかますますいい雰囲気で、早くも産まれた後の状態を考えている2人だが。
忘れてはいけない、ここはまだ商店街。
聞こえていた会話に商店街の人達は、あの会話はなんだろう?と耳をすませていたりして。
というよりこの2人。
今は顔なじみの三河屋さんの前で、会話をしているが、終始ラブラブモードで周りの様子を気にしていない。
ー(え?今なんて言っていた?)店番をしていたナセル。
ひそかに想いを寄せていたアシュレイの姿が見えたから、
一声かけようとしたら横には旦那様が一緒にいる。
声をかけ損ねていたら、聞こえた会話がおめでた話!?
あまりのショックで硬直し
「アシュレイさんがおめでた!?」と、ぶつぶつ繰り返し言い続けている。
そう。この会話。2人は気がついていないが、思いっきーり周りに筒抜けなのだ。

ー「ちょっとちょっと!アシュレイさんおめでたらしいよ!?」
ー「え?まっさかぁ?あのアシュレイだぞ?いつ言ってたんだよ?」
ー「それがたった今!男の子と女の子、どっちがいいかなと旦那さんと話していたよ!」
ー「じゃぁ 間違いないね!?でも磯野さん家からは、何も聞かされていないしなぁ。。」
ー「もしかしてまだ報告していないんじゃないの?」
ー「そりゃぁ 照れくさいかもなぁ!でもめでたい話じゃないか!
   ご両親から話を聞くまではそっとしとこうな!?」
ーヒソヒソヒソ。。どこがひっそり、そっとしとうというのか疑問だが。。
本当に、人情厚いというかなんと言うのか、そのまさかのタイミング。
当の家族が聞いているとは、どうして思うだろう?
ここは小さな商店街。光通信なんのその。
ものすごーいスピードで噂が広がっていくのである。

そして、ほぼ同時刻の商店街の隅。
「ああああ・アシュレイに子供ー!?」
やはり会社帰りの父・炎王。持っていた鞄をボトリと落とす。
ついこの間、お嫁にいった娘は縁あって只今同居中。
幸せそうにしているから、ほっと胸をなでおろしていたら、商店街の人々の会話にびっくり仰天!
ちょーっと複雑な心境ながらも嬉しいのも父心。
(おじいちゃーん)と空耳が聞こえてくる。

「ああああ・アシュレイに子供ー!?」
場所は違ってもやはり同じ商店街。
夕飯のおかずの買い出し中の母・グラインダース。
あらあらあらあら♪。まだ先でしょうと思っていたのに、商店街の人々の会話に以下同文。
こういうことは早く報告してくれないと!色々準備が大変なのだし。
それでも嬉しいのも母心。
(おばあちゃーん)と空耳が聞こえてくる。

なんだかんだで非常に良く似た夫婦。
思うことは同じなわけで、早くも初孫誕生に期待するのだけれど。
2人から報告されるまで、知らぬ振りをしようと思うのだが。


さて、一家が揃って夕飯を食べ終えた磯野家では。
両親が、落ち着かない様子で、アシュレイ夫婦を見守っていた。
そんな事とは知らないアシュレイは、今日も元気にご飯をお代わりしている。
今夜は好きなおかずが出ていたから、食べ過ぎて少々胸焼け気味。
そして2人からは、いまだに何も言ってこないので、両親ちょびーっとしびれを切らしていた。

「アシュレイ?何かお父さんとお母さんに、言うべき事はないのかね?」
新聞を逆さに持ちにがら、隅からちらりと顔を見て返事を待つ・炎王。
「あら。そういうことは、自然に話してくれるのを待つべきですわ。」
食後のお茶を出しながら、やはり耳は返事を待っている・グラインダース。
「?」なんだろう?不思議でしょうがないので考えてみたけれど
結婚してからは特に何も問題はおきていなしなぁ。。
やっぱり思いあたらないので、ティアに顔を向けてみる。
ティアも思い当たる事がなくて、顔を見合わせたまま首を横に振るのだが。

「こんばんは♪お邪魔します。」勝手知ったる親戚の家。
廊下からお茶の間に顔を出したのは、アシュレイのいとこ・柢王。
「どうしたんだ?随分珍しい時間に来たじゃんか」
・・なんだか今日は変な日だなぁ。いそいそお茶菓子を用意に行くアシュレイ。
ついでに場所もあけておく。
「いや。ここまで来る間の商店街で噂を聞いてな。事の真相を聞こうかと思ってさ。隣に行ったついでに寄ってみた。」
噂の主はお前さん達夫婦だしな。で?どうなんだ?
「噂?さっきは親父に言うことは?と言われるし・・お前まで何なんだよ?」
台所から持ってきたお菓子を差し出しすけれど、やっぱり分からないアシュレイと同じ思いのティア。
うーん。噂だけ1人走りしているのかな?と思うものの、気になるからずばり言ってみる。
「お前らに子供が出来たらしいという、噂があるんだが?」
「ぶっ!!」横でお茶を飲んでいたティアは思わずむせるが、ぱっとアシュレイに顔を向ける。
帰り道にいつかは〜とは話していたけ、どもしかして!?期待してみたりする!
もちろん両親もアシュレイに期待を向けるのだが。

「な・・なんだって〜!!」(そんなわけ無いじゃん!!)
瞬間湯沸かし器のごとく、全身真っ赤っ赤!
その様子を見たカルミアは、頭にやかん(ケトル)を乗せていたら
一瞬で水が沸いて『ピーッ』っと鳴っていたんじゃないだろうか?
のんきにシャーウッドに言ってみたけれど、
当の姉はそれどころではないわけで。。。
あまりにも頭に一気に血が上り、興奮しすぎたアシュレイは
そのままぶっ倒れて気を失ってしまうのだ。

「・・・うーん?」
あの騒ぎのあと。一旦起きはしたものの、食べ過ぎて胸焼けがすると言ったら
ティアが苦笑しながら水を飲ませてくれた。
それでもなんだか眠くてしょうがなかったから、そのままおとなしく眠りにつく。


No.220 (2008/06/03 20:33) title:ひまわり(下)
Name: (15.153.12.61.ap.gmo-access.jp)

 家庭訪問4日目。
 中島家の次が磯野家という順番だったため、ティアはアランと一緒に磯野家へ向かおうと玄関で靴をはいていた。
 アシュレイの家までの道のりを知っているアランは、案内してくれなくても大丈夫だよ。と断ったのだが、アシュレイに用があるから一緒に行きます!とティアは聞かなかったのだ。
(ちょうどいい。行ってしまえば、ダメだとは言われないだろう)
 ティアは週に数回、アシュレイの勉強を見ているが、ここ数週間はティアのうちでばかりやっていた。
 自分の家でやると、祖父のアウスレーゼが用もないのになにかと部屋をのぞきに来るため気が散ってしかたない。
 たまにはアシュレイのうちでやろうよ、と提案するのだが、なぜか却下され続けていたのだ。
(久しぶりのアシュレイの家だ)
 彼の部屋に入るときの喜びは、いつも新鮮で色あせない。
 ここで寝起きして宿題したりマンガ読んだり、遊んだりしてるんだ・・・そんなことを感じるだけでたまらなくなる。
(いっそあの部屋に住みつきたいくらいだっ)
 軽快に玄関を出ると、目の前に当のアシュレイが立っていた。
「アシュレイッ?」
「あれ?迎えにきてくれたのかな?」
 ティアとアランが同時に口をひらくと、アシュレイがぶっきらぼうに呟く。
「ティアは来なくていい」
「えっ!?」
 固まるティアをそのままに、アランの手を引いて歩き出してしまうアシュレイ。
「姉さんがお茶菓子用意して待ってる。うちが最後だろ?母さんがゆっくりしてってくれって言ってた」
「そう?それは嬉しいなぁ」
 今にもスキップしそうな勢いで浮かれているアランと手をつないだ状態のままスタスタ歩いて行くアシュレイ。ティアは完全に蚊帳の外だ。
「ま、待ってよ!私も行くよ、いいでしょう?昨日は勉強会できなかったし、最近アシュレイの家でやってなかったから久しぶりにお邪魔させてっ?!」
 慌てて後を追うティアを無視して、アシュレイは足を止めない。
 不穏な様子に気づいたアランが、心配そうに自分を振り返ったことで、くじけそうな心に火がついた。
(このまま置いて行かれてたまるか!)
 アシュレイがなぜ自分を拒否するのかわからず、泣きたいのを堪えて、ティアは二人の後を追った。    
 家についたアシュレイはそのまま客間にアランを通し、台所へ行く。
 ティアは遠慮がちに彼の後へつづき、隅のほうで立っていた。
「あちーな、ジュースでも飲むか」
 二人分のりんごジュースを注ぐと、氷がカランとかるい音をたて、その音を楽しむかのようにアシュレイはグラスを回す。しかし口元はヘの字にしたままだった。
 奥からアランの笑い声が聞こえてくる。
「君・・・さっきからなに怒ってるの、言ってくれなきゃわからないよ」
「なにも怒ってない」
「私が来たの、迷惑だった?」
「別に。でもいま来たって家庭訪問中なんだから姉さんに会えないだろ」
「・・え?」
 あきらかにイラついているアシュレイの怒りの原因がわからず、ティアは心底こまってしまう。
(こんなときはしつこくしない方がいいかもしれない。話しても埒があかないし、飲み終わったら帰ろう)
 なるべく急いでジュースを飲み干し、シンクにそれを置いてからアシュレイをふりかえる。
「なんか、ごめんね。やっぱり帰るから」
「・・・・・ほらみろ。お前うちの姉さんが目当てなんだろ、うちに来てもいつだって姉さんの後ばっか追ってっ」
「えぇっ!?」
 突拍子もないことを言われ驚くティアにアシュレイの口は止まらない。
「『お姉さんはいつ見てもお若くて可愛くてとても子持ちには見えません。とか、お姉さんのような人と結婚できたら幸せだろうな』とか、他にも姉さんの手伝いを買ってでたりっ!お前、俺と遊んだり勉強したりするのは姉さんに会うためだろっ、俺を利用すんな!」
 顔をゆがめたアシュレイの腕をティアがとっさにつかむ。
 ぱたぱたっと床に落ちた涙。
 ティアの中で急速にふくらんでいく期待。
 これはもしかして、嫉妬ではないだろうか。
「どうして泣くの、私のせい?」
「お、お前が俺を、利用する、からっ」
「利用なんてしてない!そんなことするわけがないっ!」
 強く否定してその腕を引きよせたティアは、抗わないアシュレイをそっと自分の胸に閉じこめた。
「私が君のお姉さんに気を使うのは、彼女が君のお姉さんだからだよ」
「・・・なんだそれ、意味わかんねぇ」
「君と仲良くしていたいから、君のご家族に嫌われないようにふるまってるってこと」
「そんなことしなくたって・・・誰もお前を嫌ったりしねーよっ」
「そうだといいけど」
 ぴん、ぴん、とあちこちでハネている柔らかなくせっ毛を手櫛で梳きながらティアは話を戻す。
「君は私の意識が、自分よりお姉さんの方へ向いていると思って、それが気に入らなかったのかな」
「俺と・・・いるんだから、姉さんの方にわざわざ行ったり、話しかけたりすんな」
 ティアの全身が熱くなってくる。
 こんなことをサラッと言って。
 聞かされたこちらがどう思うかなんて考えもしないのだ、この子は。
「ごめんね、これからは気をつけるよ。君といる時は君のことだけ考えてればいい?」
「ん・・・」
 なんという独占欲――――そう思いたいけれど、ブレーキをかける。
 これは友人としての幼い独占欲だ。まちがえちゃいけない。
「じゃあ、機嫌なおして?今日は算数から始めようか」
「わかった」
 勉強ギライのアシュレイだけど、ティアが根気よく教えてくれるから、最近は逃げたりしない。少しでもティアに応えたいという気持ちが芽生えてきたのだ。
「あ、でもセシリアが友だちンとこから帰ってくるまでな?あいつ帰ってきたら一緒に風呂入ってやらなきゃなんねーから」
「・・・・・」
 危うく鼻から赤いモノを出しそうになったティアは必死にうえを向いて堪える。
 2つ下の妹を、アシュレイは猫かわいがりしているのだ。彼女がうらやましい。
「私も一緒に入りたいなぁー・・・・・なんてウソッ、ウソだよっ!?」
 アシュレイの冷たい視線に気づき、あわてて撤回するティア。
「冗談でも笑えないぞ。セシリアは女の子なんだからなっ」
 セシリアじゃなくて君と入りたいです!――――などと、怖くて言えないティアは、1分でも遅くセシリアが帰宅することを願うしかなかった。
 ウンウン唸りながら問題を解いているアシュレイを、頬杖ついてぼんやりと見ているティア。
 さっきの甘い胸のうずきを反芻し、余韻に浸る。
 今は深い意味のない独占欲でもかまわない。でもいつかそれが特別なものになると信じたい。
(だから・・・だから君のそばにいさせてね)
 無意識に伸ばした手が赤い髪に触れると、下を向いていたアシュレイが「できた!」と顔をあげた。
 「うん・・・合ってる。すごいね、アシュレイ」
 ティアに褒められと、アシュレイは照れくさそうに笑った。
 その笑顔が、魔法のように自分を向上させてくれることを彼は知らない。
もしも、この想いが成就したら・・・・そのときは言わせて。
 
いつだって君は、私のひまわり。


No.219 (2008/06/03 20:33) title:ひまわり(上)
Name: (15.153.12.61.ap.gmo-access.jp)

 名残の花というにはまだ早い桜が、風に吹かれて児童のあいだを縫うように舞い落ちる。
 アシュレイはこの春で小学5年生になった。今日は進級して初の登校日だ。
 毎年クラス替えのある近隣の小学校とちがい、ここ文殊小学校は2年に1度のクラス替えなので、これから2年間同じメンバー、同じ担任となる。
 それが、3,4年生のころも担任だったアランだとわかり、飛び上がって喜んだのはアシュレイだけではなかった。
(まだ終わんね―のかよぉ〜)
 校長先生の話は長い。担任の発表が先だったため、すでに緊張感がなくなった生徒たちは、足元の砂をけずったり靴を片方ぬいだりと暇をもてあましている。
 最前列でアシュレイが大きなあくびをひとつもらすと、前に立っていたアランと目が合った。
(やべぇ)
 あわてて口をとじたアシュレイに、彼は「メッ」という顔をしたが、その口角はあがっていたので悪びれず笑いかえす。
 と、そのとき後方で生徒がざわざわと騒ぎだした。
「なに?なんだ?なにがあった!?」
 ぴょんぴょん跳んで後ろのようすをうかがうアシュレイの目に飛びこんできたのは、学年トップクラスの才女、大空桂花の肩を借り、生徒の間から出てきた橋本柢王の姿だった。
「柢王!?」
 具合がわるそうに口元をおさえて歩くようすに、なんども目をこするアシュレイ。
(俺と同じくらい頑丈な奴が?うそだろ?)
 ヨタヨタ歩いていく後姿を信じられない気持ちで見送っていると、校長が話を中断し、新しく就任した先生の紹介がはじまった。
 その後スムーズに進行された朝会が終わると、アシュレイは足早に昇降口に向かい、保健室へと急ぐ。
 そっと引き戸を開け中をのぞくと、桂花の後姿があった。保健の先生はいないようだ。
 アシュレイが近づくと、桂花が場所をあけてくれたので小声でその名を呼んだ。
「柢王・・・?」
 背をむけている肩が、わずかにふるえている。
「―――――てめぇ・・・」
 アシュレイが唸ると、柢王はふりかえりニヤリと笑った。
「お前やっぱ、仮病かっ!おどろかせやがって」
「朝会、早く終わっただろ?」
「なに言ってやがる、このバカ」
「バカだと〜?俺の大芝居に感謝してほしいぜ」
「ったく、おかしいと思ったんだ、お前が保健室なんて・・・桂花もグルか」 
「要領を得ない長話は大嫌いです」
 桂花の辛辣な発言に二人は「確かに」と声をたてて笑った。
「俺は2時間目までここで寝てるから、よろしく」
「わかった、じゃあ後でな」
 アシュレイが桂花と保険室を出て行こうとすると、ちょうど引き戸が開きもう一人の親友、中島ティアランディアが現れた。
「病人が声を立てて笑ってるなんて、先生に聞こえたら大目玉だよ」
「おまえも来たのか」
「アランが君を呼んでこいって。桂花が付いてるのに君まで行くことはないって」
「ゲ、なんでここにいるって分かったんだ。さすがアランだな」
 感心して見せたアシュレイにムッとして、ティアは唇をとがらせる。
「そんなの、先生じゃなくてもわかるよ。私だって君のことなら・・・」
 ぼやくティアはこれからの2年間、アシュレイとまた同じクラスになれたことはとても嬉しいが、担任が引きつづきアランだというのが気に入らない。
 だいたい、教師のくせに教え子の姉に夢中だなんて・・・確かにアシュレイの姉は彼とそっくりで可愛らしい人だが、既婚の子持ちだ。非常識にもほどがある。
 眉間にシワをよせているティアに気づかず、走って階段を上っていくアシュレイはあまりにも無邪気すぎて、桂花はティアの隣りで苦笑をもらした。

「えーっ、家庭訪問〜?」
 配られたプリントを見て、アシュレイが声をあげる。
「そうです、再来週から始まるから、おうちの方に都合の良い日を記入してもらうこと。みんな、木曜日までだよ」
「うちなんかもう2回も来てんだから今年はこなくてもいいじゃん」
 ピラピラとプリントを振りながらアシュレイが言うと、「君のお宅には必ず伺います」と、アランは満面の笑みを見せた。
 なんでだよー、と言いながらも嬉しそうなアシュレイの遠い横顔に、ティアは唇をかむ。
 アシュレイは年上の男性に弱い。
 彼は実兄がいないせいか(兄のような姉はいるが)やたら年上の男に懐くのだ。
 一方的に懐くだけならいいが、相手もアシュレイを気に入ってしまうパターンが多い。
 彼の義兄を筆頭に、ティアの祖父アウスレーゼにも、兄のパウセルグリンにも、とても可愛がられている。
 商店街を歩けば、金物屋のハンタービノ、ハーディン親子や酒屋の氷暉など、アシュレイに声をかけるものは後を絶たない。しかもみんな男ばかりだ。
(なんで男にばかりもてるんだ、君は――――・・・は〜な〜ざ〜わぁぁ〜・・#)
 元気にしゃべるアシュレイを、彼の隣の席でうっとりとほほ笑みながら見つめているのは、花沢ナセル。
 ティア、桂花とトップを争う才媛であり、アシュレイの大ファンでもある。
 何かというとアシュレイに向かって「私の将来の旦那サマだし」発言をし、ティアの人相を悪くする存在だ。
 今のところナセルがいちばん手強い恋のライバルと言っていいだろう。
 まあ、それにしても。
 小学生のうちに運命の相手と出会えたのはラッキーだった。
 これからも、アシュレイに勉強を教え、中学までには彼の成績を自分に近いレベルまで引き上げてみせる。同じ大学へ行くために。
 アシュレイの今の成績は中の上。勉強嫌いで塾に通うこともしない彼がこの成績を保っているのは、ひとえにティアランディアの努力のたまものだった。
(私は勝手だな。自分の欲のために君が好まない勉強をさせるなんて――――でも・・・)
 開いたままのノートに書き列ねていく名前。
1 花沢ナセル
2 三河屋の氷暉
3 担任のアラン
4 金物屋のハーディン
番外  磯野セシリア
(セシリアは血の繋がった妹だから、まぁいいとして・・・要注意人物の4人は気を許せないな。特に花沢ナセル、あれはなんとかしなければ)
 しょっちゅうアシュレイのそばをうろつき、世話を焼きまくる姿は非常に目障りだ。
 席替えのクジで見事アシュレイの隣の席を引き当てた運の強さも腹立たしい。
(アシュレイは私のものなのにっ)
 彼と出会ったその瞬間、確かな想いが胸の中に息づいて、今では揺るぎないものとして自分を支配している。
 アシュレイの些細な言動のひとつひとつが雫であり、それが大きな波紋をつくりティアのあらゆる感情を呼びさましたのだ。
 こんな豊かな気持ちを与えてくれた彼を、誰かに奪われるなんて我慢できない。
(――――嫉妬なんて感情は・・・・あまり知りたくなかったけどね)
 エゴだと分かっていても、引き返すつもりなど毛頭ないティアランディアであった。


No.218 (2008/06/02 01:19) title:出会い☆過去編 その9
Name:砂夜 (p4251-ipbf1407funabasi.chiba.ocn.ne.jp)

ーーパタパタパタ。。パタン!
必死に逃げる赤い影。。一番奥の部屋。他に逃げ場がなくて仕方がないから入るのだけれど。
どこかに隠れようと探すが目に付いたのは大きな窓の前の白いカーテン。
ここであいつが通り過ぎたらそのままこの家から出て行けばいい。
シャッ。お願い。。どうか気づかれませんように。。

カチャ。。。パタン。。
   
遠慮がちに開かれたドアに、アシュレイはカーテンの中、息を潜めて目をつぶる。
今夜は満月。
月の光に照らされて、薄い布越しに浮かびあがる、愛しい人のシルエットを見つめ、
ティアはそっとドアを閉めた。
そんな隠れ方ではすぐに分かるというものだが、きっとこの子はそんなことは計算していないのだろう。

  ティア   『アシュレイ? どうして逃げるの? いつものように怒っていいから』
ティアは、ゆっくりと三歩近づいた。足音はアシュレイにも聞こえているはずだ。
あと少し。手を伸ばせば確実に触れることのできる距離。
でも、こんなに近くにいるのに心は遠い。
カツン。ティアは歩みを止めて、わずかに掠れた声で呼んだ。

  ティア    『アシュレイ・・・お願い、私から逃げないで』


・・・ドキ、ドキ、ドキ・・少しずつ大きくなる鼓動。息が苦しい。。何故こんなに胸が痛いんだ?
   ティア    『アシュレイ・・・』ささやくように言われて。ドキンッ!息が止まる。気づかれた!? 恐くて目を開けられない。。
初めて経験する激しい鼓動。。まともに体が動かない。自分の心がこんなに自由にならないなんて。。
苦しくて苦しくて。。こんなに苦しいのならこのまま自分は死ぬような気がしてならない。
   アー     (そんなの嫌だ!あいつに会えなくなるじゃないかっ!。。。。って、なんて思ったんだ今!)呆然として。。
ようやく。。そうようやく、やっと自分の思いが何であるのかを自覚するのである。。。

あまりにも長い沈黙がお互いを身動きできないままにさせていた。
わずかに開いた窓の隙間からふわりと流れる優しい風。
ひらりと動いたカーテンが彼女の姿をティアの前に現せる。隠れることが出来なくなったアシュレイの目の前にはティアがいる。
ひと目見ただけで嬉しくてただそれだけで流れる涙。
俺はこいつが好きなんだ。。どうしよう?もう動けない。逃げられない。。
からまる視線。近づく人影。堪えきれなくなったアシュレイはそのまま座り込んむがそれでも目は離せない。
  ティア    『・・愛してるよ・・』両手で彼女を抱きしめる。(やっとつかまえた。)
動けないアシュレイ。止まらない涙。もう何も分からない考えることもできない。
ただ分かるのは自分がティアに抱きしめられている。ただそれだけ。。
今宵お互いのぬくもりに酔いしれながら、2人の長い夜が始まる。


No.217 (2008/06/01 15:12) title:お月さまも笑ってる3
Name:薫夜 (160.155.12.61.ap.gmo-access.jp)

「い〜しやぁ〜きぃも〜おいも!美味しいよ!!」
アウスレーゼの代わりに残りの焼き芋を売る事を課せられて、初めはやけくそだったアシュレイだが、マイクで叫ぶと、奥様達が走って来て飛ぶように売れるので面白くなってきた。
「楽しそうだね。アシュレイ」
隣でゆっくり車を走らせているティアは楽しそうなアシュレイを見ているだけで幸せだ。悔しいけれど…アウスレーゼ様の着せたフリルのエプロンはアシュレイによく似合っていて、可愛いすぎる。
「やってみると、楽しいぞ。いらっしゃ…」
「今から伺うところだったのですが、どうして焼き芋を売っているのですか?」
磯野さんちでの夕食会に向かう途中の桂花に、苦笑するティアと仏頂面のアシュレイが車から降りて来る。
「いろいろあって」
「お前には関係ないだろっ!」
「アシュレイ。今日の夕食は桂花のすき焼きがいいって言ったのは君でしょ」
ティアの取り成しに、ふんと横を向くアシュレイ。そこに、呑気な様子で柢王がやってきた。
「焼き芋かぁ。うまそうな匂いだな。なな、桂花買ってくれよ」
「ご飯前に…」
「いいだろ!一つくらい」
「仕方ありませんね」
「よっし、半分こにしようぜ!」
柢王は半分に割った焼き芋をかじって、美味いっ!と残りの半分を桂花に差し出す。
「夕食が食べられなくなるから、結構です」
「そう言わずに上手いから食えって、ほら、あーん」
「んんっ…強引な…あぁ、美味しいですね」
「だろ!落ち葉で焼いても上手いけど、やっぱ一味違うぜ」
「柢王、口の横に焼き芋が付いていますよ」
「ん?」
いい事思いついたと柢王は笑って、桂花に口元を指し示す。
「子供ですか?あんたは…」
柢王の笑顔に負けて、桂花は顔を寄せる。
「こうしての食べるともっと上手いだろ?」
「まったく、あなたって人は…」
なんて、羨ましい。あれくらいしてくれないかなとティアがアシュレイを見ると、どこからか現れたアウスレーゼ様と戯れていた。
「やった!最後の一個が売れた!!…終わったぞ!!」
「それは、よかった。あぁ、疲れた」
肩をたたく素振りのアウスレーゼに、アシュレイはくってかかる。
「何もしてないだろ!俺とティアがほとんど売ったんだぞ!!」
「…アウスレーゼ様。初めからアシュレイに手伝わせるつもりでしたね?」
この人が、アシュレイの払い忘れに気付かないはずがない。それにティアは焼き芋屋が来た事にも気付かなかったのだ。アシュレイがギリギリ間に合う位置でわざと売っていたとしても不思議ではない。
「どうだろうね。最初は楽しかったんだけどねぇ」
退屈したとアウスレーゼ様は宣って。あきれ顔のティアと怒るアシュレイだ。
「…アウスレーゼ様」
「な、何だと!」
「終わりよければ、すべてよしと言うではないか。アシュレイのエプロン姿は可愛いぞ」
アシュレイの姿を眺めてご満悦のアウスレーゼに、アシュレイはわなわなと怒りに震えた。
「謀ったな!」
「財布を忘れたそなたが悪いのだよ」
我には、好都合だったがとアウスレーゼ。
「うっ…」
「なんだ、また財布を忘れたのか?」
もはや天才的だなと柢王が言えば、桂花も財布を忘れるなんてあり得ないとあきれ顔だ。
「学習力なしだな」
「なんだと!」
アシュレイの関心が桂花に向いたところで、アウスレーゼの悪魔の囁きがティアの耳に入った。
「子猿が着ているエプロンはプレゼントするぞ。あれは普通に着ても可愛いが、…エプロン試してごらん。」
 
その夜、アシュレイがエプロンでティアに泣かされたとか、なかったとか…ただ確かな事は、その時のエプロンがティアの秘密の宝物となった事だけ。
 
 
…あの時のエプロンだ!思い出しただけで、恥ずかしくて顔から火が出そうなアシュレイだ。
「今度こそ捨てるからな!」
「それは駄目っ!」
捨てられては困るティアは必死な顔ですがりつく。
「だって、それは大切な僕とアシュレイの思い出のエプロンなんだよ。アシュレイが見たくないなら、見えないところに隠すから!」
「絶対、捨てるっ!!」
ティアの記憶も消したいくらいなのにと、エプロンを破る勢いで握りしめるアシュレイだ。
「じゃあ、またしてくれる?あれから、一度もしてくれなかったじゃない」
「しないっ!」
「なら、これは僕の宝物にしてもいいよね?それとも…してくれるの?」
どっちがいいの?と甘く囁くティアに、なぜ窮地に立たされているのかわからないアシュレイだった。
 
 
次の日の氷暉の日記には、アシュレイ姉さんは朝起きてこられなかったが、ティア義兄さんは上機嫌で小遣いをくれた。
作戦は成功して水城にいつもは食べられない100円のアイスを買ってあげられた。
この手は使える。
エプロンは柢王おじさんがティア義兄さんにこっそり頼まれて保管する事になったらしいと書かれた。


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