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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.214 (2008/06/01 15:09) title:「月のウサギ 〜BlueMoon・RoseMoon〜」2
Name:きなこもち (160.155.12.61.ap.gmo-access.jp)

「…なんだかなあ。母さんも水臭いよな。」ぼやくアシュレイに、いいじゃない、とティアが答える。(結局君たち親子は似た者同士なんだよね)
「あーこんな時間にゴロゴロするのって久し振りだなー。」そう言って、ティアは本当に畳の上をゴロゴロ転がる。
「あ、ティア、コーヒーでも飲むか?」返事を待たずにアシュレイは台所の方へ立ち上がった。
アシュレイにとっても昼間に二人っきりというのは久し振りな気がして、なんだか気恥ずかしくなってしまう。
それでも二人だけで過ごせるのはやっぱり嬉しくて、浮き浮きしてしまうアシュレイだった。
まだ結婚したばかりの頃に戻ったように、ティアとアシュレイはまったりのんびりくつろいでその日を過ごしていった。

ふと気がつくと毛布が掛けられているのに気がつく。どうやらティアはうたた寝してしまったらしい。
「アシュレイ?」部屋の中は薄暗く、思わず妻の名を呼んでしまう。
「起きてたか?」ひょいっとアシュレイの赤い髪が襖の陰から覗いた。「ごめんな、俺向こうで洗濯物畳んでたから気がつかなかった。」
「いや、今起きたんだ。私は眠ってしまったの?」
「うん。気持ち良さそうに眠ってた。」毛布を片付けながらアシュレイはクスッと笑った。
「そうか…。せっかくの休みだったのに。」残念そうにティアがつぶやく。
「いーじゃん、別に。それよりもうご飯にすっか?風呂ももうすぐ沸くぞ。」
「あ、ねえ、たまには外に食べに行こうか。今からでも間に合うよ。」二人だけのシチュエーションに浮かれ気分のまま、ティアはアシュレイに提案してみる。
しかしすぐ誘いに乗ってくれると思っていた奥さんは、浮かない顔で断ってきた。
「ごめん、ティア。実はカルミアたちがいると思っておかず用意してたんだ。だからそれ喰っちゃわないと…」ショボンとしてアシュレイが答える。
「そうか、そうだったね。じゃあ今夜は君の手料理が食べられるというわけだ。」少しからかうようにティアは言った。
「ああそうだよ。待ってろよ、俺の愛情たっぷりの手料理用意すっからな!」怒ったような口調で誤魔化しながら、アシュレイは部屋を出て行った。

風呂から上がったティアは、茶の間に用意された夕御飯にポカンとしていた。
「こ、これが今日の晩御飯だ!さあ喰え!」なぜか顔を赤らめて怒鳴る新妻である。
そこには大きな皿の上に(少し焦げた)ハンバーグと(あちこちほころびてる)オムライスと(キツネ色を通り越した)エビフライがバランス良く乗っかっていた。
「あいつらにはかわいそうだったかなーと思って、晩御飯はあいつらの好きな物にしようと決めてたんだ。けど…」だんだん尻すぼみに声が小さくなるアシュレイ。
ティアはサッと座ると、早速ハンバーグを一口頬張る。
「うん、上手い!」
「ほんとか!?」連られてアシュレイもハンバーグを口にする。「あ、ほんとだ。」
「ね?味は大丈夫だよ。」そう言うとティアは今度はオムライスを食べ始めた。
「うん、こっちも中の卵は柔らかい。」
ホッとしたアシュレイは、用意していたワインをティアのグラスに注いだ。
「今日は洋食だからこっちのほうがいいだろ。」それはティアの好きなワインだった。
「やっぱり外食しなくて良かった…」
「ふぇっ、なんか言っはか?」大きなエビフライを丸ごと頬張りながら、アシュレイが聞く。
「ううん、何でもないよ。」ワイングラスに口をつけながらティアは答えた。

後片付けも終わりアシュレイが風呂から上がると、ティアは縁側に佇んでいた。
後ろから近づいたアシュレイに、ティアが上の方を見るように促す。
「綺麗だよね。」そこには見事に円を描いた金色の月が輝いていた。
「ほんと、まん丸だな。」アシュレイのストレートな感想に、ティアは吹き出す。
「父さんたちも見てるかな」続けて言った言葉に、ティアはアシュレイの横顔を見つめながら言った。
「きっと見てるよ。」そしてアシュレイの肩を抱き寄せると、一緒に空を見上げる。
「俺、お前と付き合うまで、満月を見て寂しいと思ったこと無かった。」
ティアは黙ってアシュレイの言葉に耳を傾けていた。
「昔は友達と別れた後も満月見てたら、また明日会えるんだって思ったし、元気になれた。でもお前と会った後満月見てたら、なんだか急に寂しくなったんだよなー。」
「私は逆だったな。君に出会うまでは、夜空を見ていてもなんとも思わなかった。でもさ、君と付き合いだしてからはデートした帰り道で月を見ていたら、君も家に帰って見てるかな、と思ったりしたよ。そうしたらなんだか部屋に帰っても一人じゃないんだ、って思えた。」
喋りながらティアは思い出していた。
物心ついた時から、ティアにとって月は一人で見ても誰かと一緒に見ても、ただ綺麗な存在でしかなかった。
それがアシュレイと出会ってからは、月にも色んな顔があるのだと知った。
そして、愛する人と同じ時を共有していると思えたことが最初は嬉しかったのに、いつの頃からかだんだん寂しく思えてしかたなかった。
なぜここにアシュレイがいないのだろう、そればかりを思うようになっていった。
時間を共有するなら空間も共有したい、そう思ったら居ても立ってもいられなくなって、すぐにアシュレイに結婚を申し込んだのだった。
そんな物思いに耽る夫の横顔を見つめていたら、「…綺麗だな」と思わずつぶやいてしまい、慌ててアシュレイはティアの腕にしがみつく。
急に腕にしがみつかれたティアは何を思ったのかふいに、「大丈夫だよ」とアシュレイに答えた。
「月にはウサギが住んでるんだから。」アシュレイの目を見ながら続ける。「君みたいにかわいいウサギがね。」
顔を真っ赤にしたアシュレイは、「オ、俺はウサギじゃない!」とつい叫んでしまった。
「そう?私にはウサギにしか見えないけどな。」と、とぼけるティア。
「俺がウサギならお前はなんだよ、子リスか?それとも孔雀だとでも言うのかよ。」小バカにしたようにアシュレイが言う。
「ばかだな〜決まってるじゃない。」ティアは赤い髪に優しくくちづける。
「アシュレイ、場所を変えて月見しようか。」そう言うと、ティアはアシュレイの肩をぐいぐい引っ張って行った。
その時になってやっと気づいたアシュレイは心の中で叫ぶ。(そうだ、こいつは狼だった!それも夜になると豹変する狼男だ〜〜〜!!)
しかしそう思った時にはもう遅く、ウサギはとっくに狼の餌食にされていたのだった。

翌日には、冷やかし半分心配半分で遊びに来た柢王・桂花夫妻に、言葉通りお土産をいっぱい抱えて旅行から帰って来た父母弟妹と、磯○家はまたいつもの賑やかさを取り戻していた。

@@@おまけ@@@
その約10ヵ月後、ティアにはまた1つ宝物が増えた。
が、碧い髪の色をしたその宝物が永遠の好敵手(ライバル)になろうとは、まだ想像すらつかないティアだった―――。


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