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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.213 (2008/06/01 15:08) title:「月のウサギ 〜BlueMoon・RoseMoon〜」1
Name:きなこもち (160.155.12.61.ap.gmo-access.jp)

ガランガランガラン!!
商店街に鐘が鳴り響く。
「おめでとうございまーす!1等賞が出ましたーーー!」
(えぇぇぇぇーーー!)
「1等賞は伊豆温泉1泊2日の旅でーす!奥さん、おめでとうございます!」
「あ、ありがと・・・」アシュレイはとまどいつつも商店街会長から目録を受取った。

それはとある平日。
新婚ホヤホヤの若旦那と父親を会社へ、幼い弟妹を学校へ送り出した後、新米奥さんは母親と一緒に後片付け・掃除・洗濯に勤しんでいた。
一段落着きふと時計を見ると針はもう10時を回っている。
「あ、やべ!」慌てたアシュレイは急いで買い物カゴを抱えると「母さん、俺買物行ってくる!」と断って出て行こうとした。
「あ、ちょっと待ってアシュレイ。」母親の李々が呼び止める。
「?」振り向いたアシュレイに李々が引出しから紙を渡した。
「この前ナセルがくれたのよ。磯○さん家はいつも注文してくれるからって。はい、いってらっしゃい。」それが商店街の福引券だった。

「よかったですね、アシュレイさん。」三河屋のナセルがアシュレイの肩に手を置いて、にっこり微笑んだ。
「おまえ、次は2等賞が来るって言ってたじゃないか!」アシュレイは恨めしそうにナセルを見る。
「すいません、どうも読み違えてしまったみたいです。でも1等ですよ、スゴイじゃないですか。」
どうも言葉ほどには恐縮しているようには思えなかったが、単純なアシュレイはおだてられて少しその気になった。
「そうだな、俺クジ運いいのかも。あーでも2等賞欲しかったなー。」
「まあまあ、次の商店街福引セールの時にまた当てたらいいじゃないですか。ね。」ナセルはそう言うと、アシュレイの肩をポンポンとたたいた。
「わかった、じゃあまたな、ナセル。」カゴいっぱいの荷物を軽々と抱えながら、アシュレイは元気にナセルに手を振って別れた。

「――それでな、そこで俺が思いっきりハンドル回したら金色の玉がコロンって飛び出したんだ!」
心持ち頬を紅潮させながら、目をキラキラ輝かせて話すアシュレイに、ニコニコしながらティアは相槌を打つ。
「スゴイね!やっぱり君には強運がついてるんだよ。」
仕事から帰ってくるといつも玄関まで出迎えてくれる新妻だが、今日はやけに元気が良かったのでティアが何かあったのかと尋ねようとしたら、さっそくその理由をアシュレイは話してくれたのだ。
(ふふ、ナセルのやつ。案外健気な男だな。)
1等賞は温泉旅行の宿泊券だが、2等賞はお米1年分だった。娘夫婦が同居するようになった磯○家では、お米の消費量はバカにならない。
だからアシュレイは2等賞を狙おうとナセルに助言してもらったのだが、それがなぜか1等賞を引いてしまったというわけだった。
だがティアにはナセルの意図がすぐわかった。
もし1年間分ものお米を当てられたら、それだけ三河屋への配達依頼が減るということだ。
そしてそれだけナセルがアシュレイに会う機会が減るということでもある。
ティアもナセルは知っている。少し話しただけでお互い博識で、頭の良さを認め合うことができた。
それに磯○家のご近所の主婦の方たちは、ティアに必要以上に愛想良く親切にしてくれる。
その主婦の方たちが頬を染めながらティアに話した噂話によると、ナセルは某有名大学で博士号を取った秀才だが、たまたま立ち寄ったこの町が気に入った為、店員募集をしていた三河屋に就職したのだという。
しかし実は、どうもここに住んでいる女性に一目惚れしたからじゃないか、というのが奥様たちの結論だった。
ナセルもティアほどではないがなかなかの男前なので、三河屋への配達依頼は多いらしい。
その上ナセルは頭の良さをひけらかすようなことはせず愛想がいいので、旦那さま方にも評判は上々だった。
ティアはたまたま定時に仕事が終わって帰った日、家の近くでアシュレイとナセルが立ち話をしているのを見たことがあった。
同じ気持ちを持つ者同士、ピンとくるものがある。それ以来ティアはナセルに対して不安と親近感の入り混じった複雑な感情を抱くようになった。
そんな亭主の気持ちなど全然気がつかないアシュレイは、当てた宿泊券について説明し始める。
「でな、ティア。これなんだけど、行けるのが2人だけなんだ。だから…」
その時ガラッとアシュレイたちの部屋の戸が開いた。
「ずるい、姉さん!二人だけで行こうとしているんですね!?」いきなり襖戸を開けたのはアシュレイの弟カルミアだった。
「僕だってティア兄様と温泉に行きたいです!!」
(だからどうしてそこで<ティア兄様>が出てくるんだ、こいつはーーー!)ムカアッとくるアシュレイだった。
「馬鹿かお前は!なんでお前とティアが二人だけで行かなきゃなんないんだよ?行くなら俺だろ!」
「姉さんはいつも一緒の部屋なんだからいいじゃないですか。そうだ、たまには僕と一緒に寝ませんか?ティア兄様。」カルミアはティアの腕を引っ張って、今すぐ自分の部屋に連れて行こうとした。
弟の言葉に思わず顔を赤らめながらも、アシュレイは弟の手をティアから引き離す。「まったくしょうがないやつだな。ティアが困ってるだろ。」
苦笑しているティアを見てカルミアは「ごめんなさい、兄様」と謝った。
「いいよ。それよりカルミア、アシュレイは別に私と一緒に行きたいわけじゃないんだよ。」
「え?」きょとんとするカルミア。
「人の話は最後まで聞け。」アシュレイはコツンとカルミアの頭を叩いた。「これは父さんと母さんにあげるんだ。」
「…そうなんだ。」思わず姉の顔を見る弟だった。
「そうなんだ。でもよく俺の言いたいことわかったな、ティア。」ティアに振り向くアシュレイ。
「そりゃあ、君の夫だからね。」アシュレイに微笑むティア。目と目を見交わす二人をみてカルミアはギュッと胸が絞られる気がした。
「わかりました。それなら僕は文句ありません。」すごすごと部屋に戻ろうとするカルミアを、ティアが呼び止める。
「待って、カルミア。今度みんなでドライブに行こう。」
「本当ですか?ティア兄様!約束ですよ!」
「ああ、今月はちょっと難しいけど、来月になったら仕事も落ち着くから大丈夫。どこに行きたいか考えておいで。」
義兄の言葉に今まで落ち込んでいたのはどこへやら、急に元気になって部屋を飛び出した弟を見て、アシュレイはあっけにとられる。
「…わかり易いやつ。」
「かわいいじゃない。」
「ごめん、ティア。気ぃ遣わせちまった。」毎日仕事で忙しいんだから、本当は休みの日くらいゆっくりさせてあげたい。
なのに自分と結婚したばっかりに同居している家族にまで気を遣っている夫に、申し訳ない気持ちでいっぱいになるアシュレイだった。
そんな妻の気持ちなどお見通しのティアは、アシュレイの頭を抱きしめながら言う。
「ばかだな君は。私はそうしたいからしているだけだよ。君の家族は私の家族でもあるんだからね。」
「ん。」アシュレイは大人しくティアの肩にもたれながら、優しい夫の言葉に心が満たされていくのだった。

その日の夜、子供たちからのプレゼントとして李々母さんと炎王父さんに宿泊券を渡した。
初めはティアと二人で行かせようとしていた李々だったが、アシュレイたちの気持ちを素直に受け取ることに決めた。
そうして10月も中旬を過ぎた頃、久し振りにティアも休みが取れ、子供たちも学校が休みだという週末に、炎王と李々は旅行に行くことにした。
土曜日の朝早く、この日の為に買ったワンピースにいそいそと着替えている李々は、間違いなく5歳は若返って見える。
その妻の様子を見ている炎王も、平然としつつどこか照れくさそう。
そんな両親を見たアシュレイは、やっぱりチケットをあげて良かったと心から思っていた。
「家のことは心配しないで、のんびり風呂に入ってこいよ。」
「そう言われてもなあ。本当にお前、大丈夫なのか。」元気で頑張り屋なところは認めるが、同時に慌てん坊の娘が心配な父・炎王である。
「そう?そうね、あなたも最近やっと家事に慣れたみたいだし…。まあ分かんないことがあったら桂花に聞くといいわ。」その点李々のほうが落ち着いていた。
アシュレイには近所に住む柢王という従兄がいる。
桂花はその柢王の奥さんだが、我が娘とは正反対で家事全般見事にこなす、怜悧な美貌の持ち主である。
一時期柢王が磯○家に下宿していたので、結婚する前からちょくちょく恋人を連れて遊びに来ていた。
そのおかげでアシュレイも李々も桂花と仲良くなったのだが、むしろ柢王とアシュレイには桂花のほうが李々に懐いて見えるくらいだった。
そんな桂花を、李々も我が娘のようにかわいがっていた。
「うん、そうする。それよりほら、早く行かないと電車乗り遅れるぜ。」のんびり玄関に佇んでいる父母をアシュレイが急かす。
「ちょっと待って。遅いわねえ。」廊下の奥を見ながら呟いた母親の言葉に「誰が?」と聞き返そうとした時、
「ごめんなさい母様、やっと準備出来ました。」カルミアたちが小さな旅行鞄を持ちながら現れた。
「え?何してんの、お前?」わけがわからずアシュレイが弟に尋ねる。
「この姿を見てわかりませんか?僕らも父様たちと一緒に旅行に行くんですよ。」しれっとした顔でカルミアはアシュレイに答える。
「へ?」まだ状況が把握しきれていない妻に代わって、夫の方が返事をした。
「わかりました、お義父さんお義母さん。留守は僕らがしっかり預かりますから、楽しんできて下さい。」
「ありがとう、ティア。後は宜しくね。お土産いっぱい買ってくるから。」頭の回転の速い義理の息子に、義母は満足げである。
そしてあっという間に二人きりになった磯○家だった。


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