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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.205 (2008/05/21 14:19) title:アシュレイと幸福の白いエプロン 1
Name:碧玉 (43.174.150.220.ap.yournet.ne.jp)

「ううーーーむ」
 昼下がりアシュレイは卓袱台にひじをつき唸っていた。
 つけっぱなしのテレビも、かじりかけの煎餅もそのままで。
と言うのも昼過ぎにきたティアの『今日は定時で帰ります』メールのせいだ。
二人はめでたく結ばれたものの上司エンマの妬みから、早出、残業あたりまえ、休日返上とティアの過酷労働が続いている。定時帰宅など結婚以来初めてのことだ。
「今朝はいつになく白い顔してたな。 貧血かも・・・よぉし今夜はいっちょ俺が腕をふるって」
 意気込んだのも束の間、イザ献立を考えると何も浮かばない。
 間の悪いことに頼みの母は、お隣さんから譲り受けた宿泊券で家族と共に温泉旅行。
「食材見て決めるか」
 今更ながら時間の無駄を悟ったアシュレイはヨッシャと立ち上がると台所にむかった。
 いつもどおりにエプロンに手を伸ばし、今朝洗ったことを思い出す。
 エプロンなくとも家事はできるのだが、割烹着を主婦の制服と着こなす母を見て育ったアシュレイには外せないアイテムだ。
「参ったな・・・そういえば柢王にもらったヤツがあったような」
 思い出すと同時に押入れに直行。ゴソゴソとそれらしき箱を引きずり出す。
「これだ」
 満足気に呟き箱を開けると、うっすら見覚えある白いエプロンがあらわれる。
 ティアと一緒になった祝いにと有名デザイナーにかけあい柢王がプレゼントしてくれた逸品だ。
「やたらビラビラが・・・。 けど動きやすいし、ま、いっか」
 一般のものよりフリルが多く、丈は短い。けれど動きに支障がないのでアシュレイはサッサとそれを身につけた。
 あの時鏡を見れば!!後々アシュレイは後悔することになるのだが、その時はまだ何も気づかない。
 光りの加減によって現れる『Eat Me』のロゴと誘うようなウィンクいちご柄を。

「ちわー、三河屋でぇすっ」
 勝手口からの聞きなれた声にアシュレイは台所にひきかえした。
 御用伺いの空也だ。
 空也は現れたアシュレイを見るなりカチンと固まった。
「ちょっと待ってくれ」
 空也を見ずにストック確認を始めたアシュレイは彼の奇異な様子に気付かない。
「んーーー、母さん出かけてるから何が切れてるのか・・おっと醤油がねーな、いつもの濃い口醤油一升・・・と」
「――――奥さんお留守なんですか?」
 復活進行形の空也がシドロモドロつぶやく。
「そ、隣から温泉旅館の宿泊券もらって家族総出で出かけたんだ。俺も行くつもりだったんだけどティアが休みがとれなくてさ。アイツひとり置いてくわけいかねーだろ」
「なるほど。・・・それで・・・」
 (今日はふたりきりなんですね)空也は言葉を飲み込んで、したり顔で頷く。
「醤油は玄関先に置いておきますね」
彼なりの気遣いを見せ「まいどー」の声をかけると空也は急いで立ち去った。
「なんでぇっ、アイツ」
 逃げるような空也に眉をひそめ、アシュレイは冷蔵庫を開けた。
 賢明な母はアシュレイが料理をするなど思いもしなかったのだろう。中は見事にスッカラカン。
「チッ!!よおしっ、まずは買い物、買い物っ」
 舌打ちしながら買い物籠を引き寄せると、白いエプロンをはためかせ、アシュレイは外へ飛び出した。

「レバニラ、餃子に焼肉、ドジョウにうなぎ」
 慌てて出てきたものの献立は何も決まってない。思いつくまま精のつく料理を口にし歩いていると、馴染みの本屋にさしかかる。
 毎度買い物の際、立ち寄る場所だ。だが今日は、と通り過ぎようとし立ち止まる。
「その手があるな」
 閃きを感じポンと手を打ちアシュレイは、意気揚々と本屋へと入っていった。

「ううーーーーむ」
「何かお探しですか?」
 本屋ナセルがアイュレイの背後から声をかける。
「今晩の献立」
 料理本に顔をつっこんだまま、アシュレイはぶっきらぼうに答える。
 そんなアシュレイの態度にもナセルは終始笑っている。
 立ち読みにうるさいと評判のナセルだが、心酔しているアシュレイは何時何時でもフリーパス。茶や菓子まで出る特別待遇だ。
「なにか要望でも?」
「バテバテの家のモンにスタミナつけてやろうと思って、何か精のつくものをっ・・・・駄目だ!!難しすぎる!!」
 パタンと本を閉じアシュレイは、クルッとナセルに向き直る。
 途端ナセルはピキンと固まった。
原因はもちろん『Eat Me』とウィンクいちご。
(アシュレイ様っ、なんて情熱的な!!そりゃバテるでしょう若旦那)byナセル
「やっぱレバニラかな〜」
 ナセルの脳内思考など知るよしもなくアシュレイはブツブツつぶやく。
「レ、レバニラ!!駄目ですっ!!そっ、そりゃ精はつきそうですが・・・」
「あん? おまえレバニラ嫌い? じゃあ餃子はどうだ?」
「いえ、餃子はっ・・・」
「えーーーっ!!なんだよっ、じゃあ焼肉っ」
「焼肉っ!! そんな、あからさまなっ!!」
「もういいっ!!」
 何を言っても否定するナセルにアシュレイは怒って外へと飛び出した。

「ナセルの奴、俺が料理のひとつもできねーと思ってやがるっ」
 悪態を吐きドスドス歩いていると八百屋にさしかかる。
 色とりどりの野菜や果物に引き寄せられ、アシュレイは立ち止まった。
 店に踏み込みグルリと見回すと、何故かニンニクが目についた。
 直感を感じ手を伸ばしかけたアシュレイだったが、目眩を感じしゃがみこむ。
突如襲った強烈なニンニク臭のせいだ。
 臭いは更に強くなる。
 それもそのはず、臭いの元がアシュレイの隣にいるのだから。
 いつの間にアシュレイの横にいたのは、全身紫でコーディネートしているヨボヨボ老人。
 その奇抜な装いは、まるで変わったオブジェのようだ。
 老人は異臭でへたり込んでる人々にはお構いなしに、ヨロヨロ押してきた歩行器の上によじ登り、ニンニクの山に狙いを定めるとピョンと一気にダイブした。
 息を呑む外野は何のその、両手いっぱいニンニクを抱え、アシュレイ同様しゃがみこんでいる店主にニンニク臭の浸みこんだ貨幣を渡すと、慣れた様子で歩行器の荷台に詰め込んだ。
 そして勇ましく拳をふりあげると「ニンニクパワーぢゃ!!」と雄叫びを揚げ、くの字に曲がった身体には信じられないスピードで歩行器(ニンニク)と共に去って行った。
 アシュレイが立ち上がれるようになった時には、もはや一欠けらのニンニクも残ってはいず。
「ちっくしょーーーう!!」 
 別段ニンニクが必要というわけでもないのだが、なけりゃ欲しくなるのは人の常。
 主旨のズレには気付かずに、今やニンニク獲得を使命にアシュレイは白いエプロンをはためかせ全力で駆け出していった。


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