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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.2 (2006/09/01 14:06) title:空蝉恋歌〜焦がれて候〜           
Name: (p149032.ppp.dion.ne.jp)

鈍色の空から透明な針がふりそそぐ。
心に突き刺さった痛みを形にしたならば、それはまさしく針の山。
大切に見守ってきた愛しい人は、どうやら他の男のものになってしまったらしい・・・・・・。
触れたいと思っていた唇から今しがた告げられた事実。
口をすべらせたしくじりに、あの人は頬を赤く染めた。
それ以上見ていられなくて外へでては来たものの・・・・・・。
針はやがて棘となり、消えて無くなるどころか日増しに大きく育っていくだろう。
―――――と、雨音が急に大きくなる。
見ればアシュレイが自分に向かって傘を差しかけてくれていた。
「アシュレイさん・・・・」
「なにやってんだお前。いきなり出て行ったかと思えばこんな家のまん前でずぶ濡れになって」
「ちょっと・・・・・頭を冷やしてました」
頭だけじゃ済まねーだろ、とナセルの手を引き家の中へ入り、手ぬぐいで彼の顔や頭を拭いてやった。
黙ってされるがままナセルはアシュレイを見ている。
ジッと見つめられて居心地が悪くなり、少し乱暴に仕上げて手ぬぐいを彼の肩に掛けた。
「アシュレイさん、俺・・・・・」
「・・・・・なんだよ」
仰ぎ見るアシュレイをやはり沈黙のまま見つめて、ナセルはぎこちなく笑った。
「すみません、なんでもないです」
「なんでもないって事あるかよ、お前・・・・・・っ、待てよっ」
踵をかえし奥へ行こうとしたナセルにアシュレイが背中から飛び付いて引き止めた。
「途中で言うの止めんなっ!気になるだろっ!」
「・・・・・言っていいんですか・・・・」
「言え!」
密着したナセルの背中が濡れていて、染みてきた着物が生暖かい。
アシュレイは彼の体にまわしていた手を離す。
途端ひんやりと冷たくなった胸や腹に震えると、背を向けていたナセルが振りかえりアシュレイの体を力一杯抱きしめてきた。
「?!」
「・・・・・こんなこと言ってもあなたを苦しめるだけだと分かってるけど・・・・誰にも渡したくない」
「!」
「・・・ただあなたを想っているだけでも許されませんか?」
「ナセ―――」
「アシュレイさんが好きだ。ずっと前から」
両頬を抑えられ、至近距離から視線を捕えられ、身動きがとれない。
「俺だけの人になって欲しかった・・・・・」
覆いかぶさるように近づいてきたナセルの唇を受けるつもりはなかったが、アシュレイは動けずにいた。驚きのあまり固まっていたのだ。
あとわずかで触れる、というところで顔に雫が落ちてきて、アシュレイはハッと我にかえった。
「よせ!」
必死に反らした顎をナセルが追う。
そらす。
追う。
「止め―――・・・・」
奪われた唇は、言うべき言葉を飲み込こんでしまった。
大きな手のひらがアシュレイの後頭部を包むようにおさえていて、逃亡を許さない。
圧倒的な力と共にナセルの切なる想いが流れ込んでくる。
「〜〜〜〜」
アシュレイの目に涙が浮かんだ時、やっと解放されて大きく息を吸った。
「・・・・・・・謝りませんよ。俺だってあの人に負けないくらいあなたを想ってる。身分も・・・・体も劣るけど、この気持ちは決して負けはしない」
静かに―――――怒りを堪えているように語るナセルに、今の行為を反省させる気分にはなれなかった。何より彼の方がずっと傷ついているように見えたのだ。
「お前の気持ちは分かった・・・・・謝れとも言わない。でも俺はティアが―――」
言いかけたアシュレイの口を右手で覆うとナセルは首をふった。
「それ以上言わないで。後生ですから・・・・・」
辛そうに笑いかけられてアシュレイは黙る。
「・・・・・・・・帰る」
「気をつけて」
いつもなら見送ってくれるのに、ナセルは悲しげな笑みを浮かべたまますぐに戸を閉めてしまった。
アシュレイは泣きたくなって傘もささずに家路をたどる。
・・・・・いつからだったんだろう?自分を好いてくれていたなんて。
けど、そう言われると思い当たることが次々と出てくるのだ。
「・・・・ごめんナセル・・・・・・」
いつの間にか頭の中はナセルでいっぱいになっていた。

「こんなもんかな」
着替えながらさっき触れたばかりの唇を思い出す。
柔らかくて暖かくて・・・・・想像以上の甘さに興奮してしまった。 
よく止まれたものだと己に感心してしまう。
「アシュレイさんのあの様子・・・・・。俺を気づかってしばらくはあの男と進展することはないだろうな」
したたかな笑みを浮かべて、アシュレイが使った湯呑みに唇を寄せる。
「黙って盗られるのを見ているほど、お人好しじゃないんでね」
ナセルはまだ暖かい湯呑みを頬に当てると、打倒ティアを心に誓った。


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