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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.191 (2008/05/01 16:17) title:あしたもいい天気(上)
Name: (flh1abh067.kng.mesh.ad.jp)

「待てぇぇぇ―――っ!」
 聞き覚えのある声が近づいてくる。
「この泥棒ドラネコ〜ッ」
 どんどんその声が近くなり、角の所で赤い髪が見えたと思った瞬間 、ギニャッと短い悲鳴(?)が聞こえ、太ったネコが塀のうえから桂花の足元に落ちてきた。
「バカめ。性懲りもなく俺の魚を盗んだりするからだ、天誅!!」
 カカカと高笑いを決めたのは、桂花の義従妹であるアシュレイ。
「まったく・・・・あなたという人は。たかがネコ相手にどこまで走ってきてるんですか」
「あれ、桂花?ン、どこだ?ここ」
「ハァ・・また迷子になってる。だいたいこのネコに物をとられるの何度目ですか?」
「いちいち数えてねーけど、ぜんぶ取り返してるぜっ」
 胸をはるアシュレイに、『取り返すよりも盗られないようにする方が先ではないか』と心中でつぶやく。声に出さないところが桂花の聡いところだ。
「人をナメやがってムカツク猫だぜ」
 敵にぶつけた買い物かごを拾い、ブリブリ怒っているアシュレイの横で、伸びているネコのカラーを桂花が確かめる。
「名前と住所が彫ってあります・・・エンマ?これの名でしょうか。こう度々の泥棒はこまりますね。いちど飼い主の方に忠告すべきなのでは?」
「う〜ん」
「この住所からすると、ここからそう遠くはないですね、吾もつき合いますよ」
「ホントかっ?」
 嬉しそうに笑ったアシュレイは、買い物かごから出したビニール袋にネコをぶち込んで、歩き出した。                  

「A・NA・GO・・・アナゴ・・って、まさか・・・」
 怪訝な顔をしたアシュレイをよそに桂花が呼び鈴をならす。
『・・・だぁれー?せっかくいいトコだったのにィ』
 その声は、問うたくせに訪問相手の確認もせず、門を解除した。
 自動に開いたそれをぬけ、玄関へと足をすすめる。
 ド派手なバイオレットの外観、ポーチへ続くスミレの群落。扉の手前、左右対に置かれたダビデ像。窓から見える必要以上にフリルをあしらった薄紫のレースカーテン。インターホン越しのあの対応。
「・・・・・・・」
 引き返したい気持ちが二人の中でじわじわと広がる。
 桂花がアシュレイに向かって「やはり帰りましょう」と言おうとした時、玄関の扉があいてしまった。
「なぁに?誰?私に用?」
 すけすけのネグリジェから見えるバイオレットの下穿はブーメランのような際どさ。
 長い髪には、やはりバイオレットのカーラーがいくつも付いている。
 前に、紫色を好む人は欲求不満だと聞いたことがあるが、それが正しければ目の前の人物はかなりの不満なのだろう。不満が服を着て歩いているだけかもしれない。
 桂花が冷静に観察するあいだ、アシュレイは口をぽかんとあけたまま。
「あ、突然おじゃましてすみません。吾は波野桂花と申します・・・このネコ、お宅の飼い猫ですよね?」
 アシュレイの代わりに桂花が前に出ると、相手はネコの入ったビニール袋を一瞥したが、それを無視して桂花に向きなおる。
「桂花。いい名だね・・・私は穴子ネフロニカ。ネフィー様とお呼び」
 高飛車に言い放つと、ネフィーは不躾な視線で桂花の全身をなめまわしてきた。
 そのあけすけな態度に、不快な表情をストレートに出す桂花だったが、相手はまったく動じない。
「ねぇ・・・・後ろの小猿は外にほっぽっといて、私と楽しいことしない?」
 ネフィーの細い指先が、ゆっくりといやらしく桂花の頬をすべる。
 唇にその指がきたら噛み切ってやる。と思ったが、寸前でそれは離れていった。
「やだ〜こわい。怖いけど・・いい目だね・・・・なんと言っても色がいい。涙で濡らしてやりたい」
 ギリ、と歯をかみしめた桂花の後ろからいきなり、ビニールを破ったネコが飼い主に向かって飛びついた。
「っ!!」
 否応なしにそれを受け止めることとなり、しりもちをついたネフィーが悲鳴をあげた途端、すごい勢いで廊下を走ってきたのは、おそらくこの家の主人だろう。
 その男を見て、呆けていたアシュレイが「アッ!」と口をおさえた。
「ネフィー様、どうなされたのです?!」
「山凍〜痛いよぉ」
「お前たち、何者だ」
 山凍と呼ばれた大きな男がウソ泣きをしているネフィーを抱き上げながら桂花とアシュレイに目をやると、先ほどのアシュレイ同様、「あ」と口をひらいた。ただし、声は出していない。
 アシュレイと山凍がたがいに硬直しているのを見て、なんとなく事情を察した桂花が、説明に入る。
「お宅のネコが、こちらの『フグ田アシュレイ』さんの物をたびたび盗んでいくのです。それで――――」
「なぁんだ、バッカみたい。ネコに盗まれるなんてどんだけトロイのさ」
「ト、トロイだとっ、お前のネコの仕業なんだぞっ開き直るな!」
「だからどーしろっての?うちのエンマに鎖でもつけとけっての?・・・・・くさり・・・いいかも」
 桂花に流し目を送り、「ムフフ」と笑ったネフィーに背筋が寒くなったアシュレイは、義従姉の肩を抱いてにげるように玄関をとび出した。
「桂花、見ただろ桂花、お前二度とこの辺うろつくなよ?アレは危険だ、変態だっ」
 そしてその『変態』の夫が・・・・あろうことか家にも何度か来たことがある、ティアの同僚の『穴子さん』だったとは。
 恐妻家だとは聞いていたが・・・・・ちょっと・・・いや、かなりチガウ意味だと思う。
「穴子山凍・・・・一体どういう趣味してンだ・・」

 桂花の家に立ち寄り、数冊の雑誌と母(李々)に渡すよう頼まれたローズマリーを受けとったアシュレイは、公園のベンチで風呂敷を結び直していた。
「 この買い物かご小っさいな、ろくに入りゃしねぇ。今度ティアにもっと大きいのを買ってもらお 」
 風呂敷と買い物かごをそろえて、ふと顔をあげたとき、公園の前を行く酒屋の御用聞きを見つけた。
「おいっ!三河屋の氷暉っ、ここんとこご無沙汰じゃねーか」
 突然呼びとめられた氷暉はアシュレイに気づいて足を止める。
「代わりに教主の旦那が行ってるだろう」
「なんかあったのか?教主の旦那に訊いてもなんでもないの一点張りで教えてくんないし」
「・・・そんなに俺のことが気になるのか」
「え?なんだって?」
「ただの二日酔いだ」
「二日酔いって・・・おまえ呑めないはずだろ?」
「まぁな」
 氷暉はこちらへ歩いてくるとベンチに横になり、アシュレイのヒザに、勝手に頭をのせた。
「よせよっ、誰かに見られたら変な誤解されるだろっ!」
「動くな、頭が痛む」
 どこまでも自己中な言い分にムッとしたアシュレイだったが、本当に具合が悪いのだろう、顔色の冴えない氷暉を見たら、立ち上がることができなかった。
「なんで飲めもしない酒なんか飲んだんだ?教主の旦那、よくそんな理由で休むの許してくれるな」
 許すもなにも、当の雇い主が言い出したのだ。
『酒屋の従業員が下戸では話にならぬ。たしなみ程度、呑めるようになるまで特訓せよ』と。
 この命令は、氷暉にとって渡りに船だったため、逆らわずに特訓を開始したのだ。
「・・・この前、お前が言ったんだろう。俺が酒を飲めるようになったら二人で一杯やろうと」
「ハァ〜?人のせいにすんなよ」
「飲みたかっただけだ・・・お前と」
「へ?」
「ニブイ。わかりやすく言ってやる。おまえ、俺とつき合え。俺とつきあえば御用聞きのたびにお前の好きな酒を持って行ってやる」
「バッ、バカな冗談はよせっ!」
「俺は冗談など言わん」
「そんなのドロボーだろっ」
「・・・・・・そっちか。安心しろ、給料天引きだ・・・じゃなくて、冗談抜きでお前が欲しい。俺とつき合え」
 たしかに冗談を言っている顔ではない。でも、それならなおさら冗談じゃない。
「誰がつきあうかっ!!」
 慌てて立ち上がったアシュレイに、頭をおさえる氷暉。
「だいたい俺はティアと結婚してんだぞっ、分かってンだろっ!」
「それがどうした。そんなもの、俺にとっては障害にもならん」
「こここの不道徳男っ、お前は明日からうちに出入り禁止だ!わかったな!」
 アシュレイが唾を飛ばしながら叫ぶのを薄笑いで見ていた氷暉は、その怒った顔に近づいて言い放つ。    
「せいぜい俺に隙を見せないようがんばるんだな、若奥さん」
 ツンと頬をつつかれて、口をパクパクするだけで言葉にならないアシュレイを尻目に、彼は公園から去って行った。
「・・・・俺はなにも聞いてねぇ。聞こえてねぇ・・・聞かなかったことにする・・」
 青い顔をして耳をおさえ、呪文のように繰り返しながら、アシュレイは早足で帰途についた。


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