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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.190 (2008/04/27 09:42) title:店主等物語4 〜スイート・アンサーデー〜 (4)
Name:モリヤマ (i60-41-185-182.s02.a018.ap.plala.or.jp)

 
「これ…返さなくてもいいだろ…?」
 フビライが出て行くと、カイシャンは小さな声で尋ねた。
「なんなんですか、それは」
「言ったら、返さなくてもいいか?」
「…カイシャン様、」
「言っても言わなくても返さないといけないなら、言わない!」
 呼びかけに否定の意を感じ取り、カイシャンは桂花の言葉をさえぎった。
「わかりました。じゃあ、言わなくてもいいですから、返してください」
 いつも素直な子供の頑固さに、桂花もつい突き放したような言い方で答えてしまう。
 言いすぎたかもしれないと思ったときには遅かった。
 いっぱいに目を見開いた子供が、可哀想なくらい情けない表情で自分を見ている。
「桂、花…」
 呼ばれてもなにも返せず、桂花は思わず顔をそむけてしまった。
「けい…か?」
 もともと子供は苦手だった。
 うるさくて自分勝手で我を通すことしか知らない、我慢することを知らない、泣けばいいと思っている、大人が譲るのが当然だと思っている、この世で一番図々しい生き物、できれば一生近づきたくない、かかわりたくない生き物。
(言ってもわからないんだから、少しくらいきつく言ったって………)
「…………けぃ…か…っ!」
 涙のからんだような声に、そむけたばかりの目線をつい戻してしまう。
 無意識に自分の中に言い訳を探していた桂花の目にカイシャンが映る。
 涙がこぼれないのが不思議なくらい瞳を潤ませ、それでも自分から目を離さない子供の顔が……。
「…けぃ……っ」
(――――――― ああ……)
 唐突に、目の前の子供には折れるしかない自分を桂花は痛感した。
「………………柢王が、」
 そして心で苦笑しながら、慎重に言葉を選んでカイシャンに告げる。
「……そうですね……柢王が、あなたにあげたものですから。吾が返せというのは筋違いですね」
「……桂花、怒ったのか…!? でも、でも、俺っ…!」
 だが選んだつもりの言葉は、思いのほか素っ気無い響きで当の子供に届いてしまったらしい。
「男が、『でも』なんて言うもんじゃありません。……吾は怒ってませんし、」
 桂花はひとつ息を吐いて、続けた。
「吾のほうこそ、すみませんでした。あの人を疑りすぎてたようですね。あなたがそれほど気に入るものを選んでくるなんて…」
「…………うん」
「ところで、」
 改まって続けられた桂花の言葉に、思わずカイシャンは身構える。
「その…柢王からのものとは別に、吾からのお返しも受け取っていただけますか?」
「えっ!?」
「よかったら、次からはご一緒に」
 そう言ってカイシャンの大好きな優しい笑みとともに渡されたのは、何の変哲もない普通の茶色の事務用封筒だった。
「開けてもいいか?」
 どうぞと、桂花が頷いたのを見てカイシャンは軽く留められただけの封を剥がす。

「……あ、」
(しろ、だ……!)

 中から出てきた二つ折りの白い厚紙。
 それは、手作りの『プライベートお茶会』への招待状だった。
 しかも桂花の仕事が手空きであれば、カイシャンが望むときにいつでも何回でも薬屋『夢竜』でお茶をご馳走してくれるという、無期限無制限のフリーパス。
「…俺、だけか?」
「どういう意味ですか?」
「アイツも、いるのか…?」
「あなたが望まないものを、呼んだりしませんよ」
 近くをうろついているかもしれませんが、とは心の中でだけ付け加えておく。
「………友達も、呼んでもいいか?」
「あなたが望むなら、どうぞ」
「あ…ありがとう!」
 思いきり大好きな人に抱きついて、自分がどんなに嬉しいかを伝える。
「俺も…っ、俺もお茶請け作って持ってくから、一緒に食べてくれるかっ?」
「お待ちしてます」
「うんっ!」
 毎日だって桂花に会いたい。でも、忙しい桂花の邪魔はしたくない。
 カイシャンは子供なりにそう考えて、近所の薬屋に行きたいのを我慢していた。
 招待状をもらったからって、桂花が忙しくなくなるわけじゃない。だから今まで通り、頻繁には訪ねられないだろう。
 それでも嬉しかった。桂花の気持ちが、カイシャンには泣きたいほど嬉しかった。
「桂花、桂花っ……ありがとう!!」
「はいはい」
 小さな子供をあやすように桂花がカイシャンの頭を撫でる。
 桂花にされる子供扱いだけは悔しいと感じるカイシャンも、今日ばかりは嬉しくてたまらない。
「もうすぐ春ですから、桜のお茶はどうですか」
「うんっ。だったら俺、おじいさまに教わって…下手だけど…桜餅作ってみる!」
「期待してますよ」
「うんっ…あ、でもその前に、」

 ――― おじいさまが戻ったら最初に「ありがとう」って言おう。
 ――― それから「今度は、桜餅の作り方を教えて下さい」って頼むんだ。
 ――― カルミアにも、明日塾に行ったら一番に「ありがとう」って言おう。

 ――― それから……

「どうしたんですか?」
 突然黙ってしまったカイシャンに、桂花が問う。
「ううん、なんでもない。桂花と俺と、俺の友達と……。楽しみだなぁって考えてただけだ」
 ニッコリ笑って答えたカイシャンに、桂花も穏やかな笑みを返す。
「吾も楽しみです」
 
 
 ――― それから、
 ――― 一緒に桂花のお茶会に行こうって、カルミアを誘うんだ!
 
 
 
 終。
 
 
 
 
余談(1)-------------------------------------------

 カイシャンと桂花を残し、フビライが訪れたのは近所の茶飲み友達『水晶宮』だった。

「どうじゃ、うちのカイシャンの元気玉は。甘くてまろやかで美味この上なしとは思わぬか」
「ふむ…いつもと同じと思うが。だがうちのカルミアもコレが好きで、よく余の部屋にねだりに来おる。『父上、喉が痛いのでいつもの飴を下さいませんか』と。下から見上げるようなおねだりが、それはもうかわゆうてのぉ…」
「それでいつも持って歩いておるのか」
「でなくては、あの子のおねだりにすぐに応えてやれぬではないか。ああ、だが前に、失敗したことがあった。あの子にねだられた時、飴と一緒にトロイゼンが特別に夢竜で調合させたという薬を出してしまっての」
「トロイゼン殿は、どうしてもそなたに後添えをと考えとるようじゃの」
「余はもう誰も娶るつもりはない。だが、トロイゼンは諦めきれんようで、『旦那様はまだまだお若こうございますれば、いざというときにはぜひこれを。元気すぎるほどお元気になるそうでございます』とな…。まあそんな話はさておき。飴玉とその薬を一緒に出してしまった折り、あの子がカワイイ声で、それはなあに、それも甘いのですか? と訊くので、そばにいたトロイゼンが『これはお父上様の、苦〜いお薬でございます。坊ちゃまが飲んだら守天様に聖水を頂かなくてはならなくなりますぞ』と脅しての。…あのときのあの子もまたかわゆかったぞ…フォッフォッ」
「おぬしの親バカは、たぶん死んでも治らんのだろうの」
「そなたの曾孫バカ以上と自負しておる」

 そんなジジバカ談義で盛り上がる幸せなふたりだった。
 
 
 
 
余談(2)-------------------------------------------

「俺がせっかくお返ししといてやったのに」
「…………どうしてあなたが」
「チビ、喜んでたろ〜?」
 ニヤニヤ笑いの柢王に、やはりなにか変なものを贈ったのではないかと桂花の心中は穏やかでなくなる。
「って、おい! どこ行くんだよ!?」
「モンゴル亭です。カイシャン様に言って、やはりあなたからのものは返してもらってきます」
「はーーーっ!? やめとけって。俺が大枚はたいて作らせたんだぞ!? うち持ってきたって意味ねえし、」
「意味!?」
「…や、意味、つーか…なんつーか」
「……まさかと思いますけど、爆弾とか…」
「そんな危ねえもん、俺が作らせるわけねえだろっ」
「だったら…」
 まだまだ不審げな桂花に、仕方なく当たり障りない程度に意味を話す。
「あれはな、おまえに似せて作らせた人形なんだ。あのチビ、生意気にもおまえに惚れてんだろ。だから、さ…」
「人形……」
 それも自分に似た……。
 だから…?
 だからあの子は、あんなに一所懸命だったのだろうか、中身のことを訊かれて赤くなったのだろうか……。
「な? もういいだろ、ガキんちょの話は」
「ええ……」
「んじゃ、もう寝るか」
「…まだ早いですよ」
「俺への返しももらわねーとなっ」
「なに言ってるんですか。だいたい、あなたからはなにもいただいてませんよ」
「やったじゃん。2月14日の晩から翌日にかけて、たっぷりと俺の愛を、おまえに」
 そう言ってニッコリ笑った柢王に、反論する隙もなく桂花は寝室へと拉致られた。

 ――― ガキは人形で我慢しな
 ――― 本物は絶対手に入らねんだから
 ――― つか、俺が絶対手放さないし、放してやる気もねえからな

 柢王の心の声は、誰にも聞こえなかった。
 
 
 
 
余談(3)-------------------------------------------

 その夜のカルミアは……。
 カルミアのチリチョコに非常に感激したらしい守天から、白くはないがお返しに七色の輝くマシュマロを頂いた。残念ながら白くはないが、敬愛する守天からのお返しと、なにより自分の手作りのチョコを喜んでくれたというのが嬉しい。
 カルミアは自室のベッドに正座すると、そっとマシュマロをひとつ口に運んだ。

「・・・・・・・・・・・・・っっっっっ!!!!!!!!」

 ………死ぬ思い、というものを、カルミアは生まれて初めて味わった。

「ティ……ア、兄…様っ………」
 焼けつく喉をおさえ、はいつくばってテーブルの水差しから直接水を一気する。
 ようやく人心地ついて、気がついた。
 ベッドの上においたマシュマロの箱の中に、小さなメモが入っている。
 手に取ってみればティアの直筆で、マシュマロには異国から取り寄せた唐辛子の20倍辛いと言われる激辛粉末を使用したと書いてある。そして最後に「この前のチョコ、本当に嬉しかったよ。一緒に友人と頂いたのだけど彼が凄く気に入ってね。お礼に特別注文したものだけど、気に入ってくれると嬉しいな」とある。
 一緒に食べたという友人のことが少し気にはなったが…。
「こんなにすごいものがお好きなんだったら、僕の作ったものなんて、まだまだ子供騙しだったんだろうな…」
 箱の中のマシュマロを見ながら、カルミアは心で敗北感を感じていた。
「よーーーーし!」
 そして、すっくと立ち上がり、カルミアは心に誓った。

 ――― 来年は、もっと辛いものに挑戦だ!!
 
 
 
 
余談(4)-------------------------------------------

 カルミアが誓いを立てていた頃・・・

「どうしたんだ?」
「いや…なんだか急に寒気がして…」
「って、どこ触ってんだっ!」
「いやだから…温めてもらおうかなと」
「寒いんなら、これでも食ってろ!」

「!!!!!!!」
 
 
 無理やり口に詰め込まれたものに、ティアは生まれて初めて目から火が出る思いを味わっていた。
 
 
 
(完)


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