[戻る]

投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

ここは、みなさんからの投稿小説を紹介するページです。
以前の投稿(妄想)小説のログはこちらから。
感想は、投稿小説ページ専用の掲示板へお願いします。

名前:

小説タイトル:

小説:

  名前をブラウザに記憶させる
※ 名前と小説は必須です。文章は全角5000文字まで。適度に改行をいれながら投稿してください。HTMLタグは使えません。


総小説数:1010件  [新規書込]
[全小説] [最新5小説] No.〜No.

[←No.172〜176] [No.177〜177] [No.178〜182→]

No.177 (2008/01/30 20:07) title:PECULIAR WING 12 ─A  Intermezzo of Colors─
Name:しおみ (l198059.ppp.asahi-net.or.jp)

PATORIOT

『320、366応答せよ!!』
官制の声が緊迫を帯びる。ガリガリと機体が軋むような音が無線の交信を妨げる。
「入って下さい!」
 鋭い声に振り向けば、ゲートが開いて、隊長が天界航空一同を待っている。驚きに硬直していた一同は慌ててその後に続いた。
長いエレベーターを昇るなか、軍の人たちは誰も口を開かない。厳しい顔で無言。天界航空一同も黙り込む。
 がくん、とエレベーターが止まって、扉が開く。軍の人たちが早足に廊下を行くのを天界航空一同も追いかける。コンピューターで制御された先は
対空通信室、いわゆる『航空官制管理塔』だ。
 ドアが開いてわらわらとなだれ込んだ一同の耳に飛び込むドンッ!!と、金属のぶつかる音。なにかが破裂するような爆音。四方ぐるりと
ガラス張りの窓の下、正面のデスクでパネル式のモニターを覗きこんでいた管制官が立ち上がり、
「アクシデント! 320が366の尾翼に接触した!」
 えっ、と、部屋の中の空気が張りつめる。軍でも官制は複数いて、それぞれ担当の機を見張っている。ちらとこちらを見たものの自分のデスクを
離れないその人たちと、デスクにかけつける人たち。来たばかりの隊長たちは後者で、ゆえに、天界航空一同もその後へ続いた。
(あ……)
 ぎゅうぎゅう込みあった人の間から、嵌めこみ式のパネルモニターを幾つも抱えたデスクを垣間見たアシュレイは思わず息を呑む。
意外なようでもパイロットが管制塔に入ることはほとんどない。おそらく民間の数倍先行く最新システムの画像は広域レーダー、
機体を中心にしたレーダー図、ウェザー・レーダーに風速気圧モニター、そして──
(カメラが……)
 官制の前、右手の側で画像が激しくぶれているのはおそらく偵察機の見ている画面だ。偵察機とは戦闘機ではあるが偵察が一番の目的で飛ぶ機だから、
カメラが載ることもあるとどこかで聞いたことがある。
 が、そんなことに感心できたのはそこまでだ。目の前ではパイロットと官制がノイズのなかで、
『コントロール! 320右エンジン炎上! 錐揉み失速!』
「320! 聞えるか、離脱しろッ!!」
「風速220! 366、持ち応えろ!!」
 ガーーーッと耳に突き刺さる音と共にレーダー上の機体がひとつ左後方へ流されるように押しやられていく。マーキングされた
それはCAF320──クリスタル・エア・フォース320。対して画面上部はCAF366と、アンノウンとマークされている
ふたつの機影が、カメラの画像にいま映る世界がぶれにぶれて青と計器パネルの色の万華鏡のように変る上空の風の強さを表すように、漂っている。
「ヘリをスタンバイしろ! 」
「海軍の巡視艇に打電を打て! 沖合いPポイントより2q南下した辺りだ!」
 救助の指示が飛ぶなかで、隊長が、画像上、赤くタービュランスの文字が光るモニターを見ながら、隣りにいた将校に聞いた。
「向こうは持ち応えているな」
「引く気配はまだないようですね」
 と、将校も冷静な声で答える。隊長が一度、険しい顔をして、
「Cチームをエプロンへ……」
 言いかけた声を遮るように、
「四時方向にオーロラっ!!」
 官制が鋭い声を出してモニターを指した。
 見えない壁を築くように、揺れるレーダー上で対峙する3機の右下から、一直線に上昇していく白いライン。
 そして、ようやく見え始めた、小刻みに焦点を変える計器だらけのコクピット、その虹を映す風防の向こうに見える丸い青空。
彼方に、鋭い翼を鈍色に光らせ旋廻している戦闘機の姿。
 その眺めを切り裂くように──
 七色の光が視界を過ぎる。瞬時、きらめく銀の翼。遅れて、雷鳴のような轟音が、偵察機の無線越しにドォォォン…と、コントロール・ルームに
響き渡った。
『──氷暉か…!』
 驚いたようなパイロットの声と、張り詰めていたコントロールにハッとつかれた安堵の息。
 いつのまにか視界のはるか先、偵察機と相手機の微妙な間合いを遮るように、鋭く旋廻した銀の機体から、あの醒めた声が無線越しに低く、
『コントロール、366に帰還命令を出せ。左翼後方に裂傷、これ以上は無理だ』
 思わず、アシュレイは拳を握りしめた。
「風速216!」
 官制の声と同時に無線からもコクピットに響くブザーの音が聞こえて来る。一定以上の風圧がかかると警告が響くのは旅客機でも変わらない。
ガガガガと、画面とノイズに機体にかかる風圧がわかるそのなかで、
『チェックは済ませた! まだ飛べる。向こうが落ちてないのにこちらが戻れるか!』
 叫び返すパイロットの声と、それに答えた、
『ゴミを相手に死にたいなら好きにしろ──』
 あの、どうでもいいといいたげな無感動な響き。
 風速が210を越えて、パイロットの視界がまたぶれ始める。対峙しているといっても飛行機のことだ、相手も自分も飛んでいるのだが、
視界にちらちら見え隠れする鈍いブロンズの翼たちは、その風のなかでも編隊を組んで、ぴたりとバランスを崩さない。
 それに対して、こちらの機体は、680が366の視界の前方を旋廻し、まるでそこが第一の防空エリアであるかのよう。接触した機体が
本当に危ないのならパイロットはかならず降りて来る。それでも、ダメージを負った機体の耐久は通常と異なってあたりまえだし、
ましてやタービュランスの炸裂する中だ。旅客機のパイロットならとっくに逃げ出している。
 それを、ファイターたちはうろたえもせず、
『氷暉、向こうは引く気がないぞ。本気で来るか』
『それなら墜とせばいいだけだ』
 正体不明機の目的が単なる篭手調べであろうと宣戦布告ためであろうと、それを黙って見過ごす選択肢はかれらにはない。ファイターは
国を護る第一線の翼だ。地上の誰かが傷つくよりはるかに前に、自分を護る命があったと知られないまま消えていくかもしれない
役割を背負った、翼なのだ。
 その張りつめた世界にいるあのパイロットの気持ちがどんなものかなどアシュレイにはわからない。
 ただ、
(あいつ……音速で乱気流に突っ込んだ──)
 あの銀にきらめく機体が視界を切り裂いた瞬間、見えたオーロラは、音速をはるかに越えた極限の速度でしか生み出されない気流の流れだ。
そのあとに響いたソニック・ブーム──雷に似た衝撃波の強さもまた、それが最高速度をマークした証のようなものだ。
 瞬時といえ、風速125mの風がいつどの方向から来るかわからない空域……事実、仲間が錐揉みになってコントロールを失ったその空域に──
「隊長、Cチームを上げますか」
 官僚が管制官のすぐ側にいる隊長に尋ねた。
 と、隊長はマイクを取り、
「氷暉、聞えるか。いまCチームをスタンバイさせている。上げるかどうか、おまえが判断しろ。いますぐだ」
 言った隊長に、アシュレイたちのみならず管制官たちもギョッとした顔をしたが、無線の向こうの声は低く、
『必要ありませんよ。じゃまなハエは追い払えば済むことだ』
 その言葉にティアがさらにギョッとした顔をしたが、隊長は、
「ならそうしろ。ただしエリア外で墜とすなよ」
 と、パイロットは、めんどくさそうに、了解、と答えたあと、
『墜ちるのは向こうの勝手ですから──』
 マジでっ? 叫びそうだったティアの手を、とっさにアシュレイは握りしめた。ティアがハッとしたようにこちらを向く。
アシュレイはその手を強く握ると、小さく頷いて見せた。
 慣れない場面にうろたえそうなのはティアだけではない。アシュレイも、誰かのフライトがこんなにこわいと思ったことはない。
 でも、ティアはいつでもこんな思いで自分たちのフライトの様子を見守っているのだ。初めて飛んだ時も、機長になって最初のフライトの時も……。
(地上でできることは願うだけなんだ……)
 自分のやることをやって、後は願うしかない。パイロットがその役割を完全に果たすことを。無事に、自分たちのところに戻って来ることを。
それは戦闘機でも旅客機でも変らない。その目的は全く異なっても──
(この場所で、望めることはひとつだけだ……)
 機長になりたい、そう願った自分の夢を、共に望み、励まし続けてくれた親友の、その心にある不安や重さ。そうしたものを、
自分はいままで本当に考えてみたことがなかったと、この場所にいて初めてわかる。
 だからこそ──
(俺は──……)
 握り返すティアの手のぬくもりに、アシュレイがまなざしを強くしている間にも、上空のパイロットたちは的確に判断を下していく。
『コントロール、相手機を分散させて追い上げる』
「ラジャー、680。366、無理はするなよ」
『こいつをひとりにする方がよほど危ない。俺が後方の奴につく』
『了解』
 言うやいなや、ふいにレーダー画面上の二機が二手に分かれて広がった。一機は相手機体の後方へ。そして、もう一機はその並んだ機の
ど真ん中に突っ込むように加速していく。コクピットの外壁が軋むような音。エンジン音が鋭く聞え、
「速度2M──あいつ最大速で行く気だぞっ!」
 叫んだ官制の声に、隣りで風を見ていた管制官が、
「ウィンドシアー、ダウンバースト!!」
 重ねるようにマイクに向って叫んだ。
 とたん、偵察機の画像が大きく乱れる。その先で、映っていた銀の翼がすさまじい勢いで下に押し付けられる。木の葉のように
揺らされる機体がくるくる錐揉みになる。
「氷暉ッ!」
 みんなが体をデスクに乗り出した。無線から聞える警告音。ガリガリ歪む機体の音。画面の上で680のマークがあらぬ方向に流され、
偵察機のパイロットが、
『氷暉っ!』
「墜ちるなっ!!」
 アシュレイが思わずその旋廻する機影に叫んだ瞬間──
 ドオーンと音がして、偵察機のゆれる視界に銀の機体が飛び込んできた。同じ下向きに叩きつける風のなか、ゆれながらバランスを保って
飛んでいた相手機のそのわずかな隙間に割って入るように、真下から、垂直の角度で。
 煽られたように、相手の機体が離れる。バランスを崩してふらつくそれへ、あの醒めた低い声が告げる。
『F16、機首を返せ──これが最後の警告だ』
 はぁぁ、と、コントロールに漏らされた複数の息。アシュレイの体からも力が抜けていく。
 画面の上では急展開に、二手に分かれた相手機体をこちらの二機が追い上げていく。偵察機の画面の前には鈍金に塗装された機体の後姿。
そのはるか前方では、明らかに逃げていく相手の後ろから追い上げる銀の機体が、急げと言わんばかりにギリギリのラインを飛んでいる。
 それでも、二手にわかれた相手も粘り強いのか意地があるのか、エリアギリギリを逃げまわっていたが──
『これ以上警告はしない。墜とすぞ』
 苛立ったより確実な意思を感じさせる無感動な声が無線越しそう告げ、コンピューターのピピピ…と照準を合わせる音と共に、
『ロック・オン──』
 告げられた瞬間、ギューンと、二機が揃ってアキュート・ターンでこちらの視界を離れる。翼を揃え、一直線、防空エリアから
離れていくのに、コントロールの人たちがため息をついた。
 官制が空の上のふたりに向って言う。
『ご苦労だった。ふたりとも帰還しろ』
 と、それへ、
『先に戻ってろ』
 言い残すとふいに680が高度を下げる。えっ、といまほっとしたばかりの一同が目を見張る。
『366帰還しろ。680、なにする気だ!』
 官制の声に返事はなく、機体は画面を西に高度を下げていく。アシュレイは思わず、隊長の顔を見た。何もがあっても動じないようなその横顔。
命令に従い戻る366と裏腹、機体が海上ギリギリの高度まで降りて、しばらく、
『コントロール、Pポイントから南西12qだ』
 入った通信に、アシュレイたちは一瞬、きょとんとしたが、軍の人たちはハッと顔を上げ、
「コントロールより救助ヘリ、320パイロットはPポイント南西沖合い12qだ!」
 ハッとしたティアの顔越し、やはりごく落着き払った隊長の横顔を──アシュレイは瞳を見開いて見つめるだけだ。


[←No.172〜176] [No.177〜177] [No.178〜182→]

小説削除:No.  管理パスワード:

Powered by T-Note Ver.3.21